上 下
129 / 259
イサナミの書

一刃(ひとは)#5

しおりを挟む
────ルフィリア(人狼ルガルルーノ種、ルーノ族・長老メトセラ英知の湖ミーミル守人もりと、ニダヴェリール宮廷第一補佐官)


 不毛の大地ノドから帰還して半年ほど経った頃、ロクシー様の勅命により、ニダヴェリール宮廷の人事に大きな変更がなされました。

 ルカが補佐官の職から解任され、新たな役職である特務機関の長官に任じられたのです。
 これにより、外界任務などの職務はルカが受け持つことになりました。
 
 また、私は、ルーノ族の長老メトセラに選出され、近々、第一補佐官をルナに譲ることになったのです。
 ルナに引き継ぎが済むまでは、第一補佐官と長老メトセラを兼務することになりました。

 同時に、アストレア宮廷では、リエルが筆頭秘書官に任じられ、これまで、しかたなく私が請け負ってきたアストレアの宮廷執務を引き継ぐことが決まったのです。
 

 左遷でしょうか?
 私は何かやらかしてしまったのでしょうか?

「ルフィリアさん、お手伝いしましょうか?」

 リエルですか……。
 最近は、いろいろと吹っ切れたのか、貴重な俺っ娘を卒業してしまいました。
 一刃会ひとはかいを通じて、女性社会に溶け込んでしまったというのも一つの理由でしょう。
 すでに母親になる準備も万全で、妊娠したいオーラが出まくりです。

「ありがたいけど、重要書類が混ざっているのでだめですね」

「そうですか、私にできることがあったら、いつでもおっしゃってください」

 最近のリエルは、私を尊敬の眼差しで見ています。
 組合でもいつも私のそばにいて、雑務を肩代わりしてくれます。しかもかなり有能です。詳しく話をきいたら、ティフォーニアの元で、ロクシーさまにとっての私のような存在に、なりたいのだとか。

 確かに、今のリエルにとっては宮廷勤めを極める方が、お姫様や奥さんとして箱入り娘扱いされずに、能力を十分に発揮できて、ティフォーニアの力にもなれて、アストレアの弱点も補強できるというとても美味しい技能なのでしょう。
 リエルにしては、よく考えてましたね。おそらくククリさんのアドバイスなのでしょう。

 アストレアは、宮廷を取り仕切る人材が絶望的に欠如しているため、ティフォーニアの負担が減りません。しかも、ティフォーニアはいい感じで手を抜くことを覚えてしまったため、そのしわ寄せが私のところに来ている状況でした。
 ククリさんは、リエルにはいろいろと上手いことだけ言っていたようですが、私の負担を減らすこともねらっていたのでしょう。アストレアの宮廷業務は酷い状況ですからね。ニダヴェリールまかせで済んでいるのでアストレアで気にする人は1人もいない状況ですしね……。

 リエルについて、ロクシーさまとティフォーニアを交えて相談したところ、外界同士では異例ともいえる宮廷第一補佐官付きの秘書として、彼女をしばらく預かるべきか検討することになりました。

 今は、本来アストレアが行うべき業務内容を、切り分けてリエルに流す準備をしています。まぁ、すぐに退かねばならない立場なので、私1人でそこまで対応するわけにもいかず、ルナに丸投げしていますが……。

 リエルをティフォーニア付きの秘書管に育てられれば、ニダヴェリールの負担も減り、アストレアに大きな貸しをつくれることになるので、ロクシーさまもかなり前向きなようです。

 近いうちにリエルは、美人秘書として、上司のティフォーニアから、いろいろとエッチなことをされちゃうのでしょうか?

 たしかに、見てみたいですね。面白そうですね。イジリがいもありますし。


 ククリさんは、本当にいろいろと気の回る方ですね。
 まだまだ学ばないといけないことがたくさんあるので、突き放さないでほしいです。

 ロクシー様からは、早急に長老メトセラの職務に専念するよう言われていますが、長老メトセラの職務って集まってお茶を飲みながら世間話するだけな気がして、左遷されている感が半端ないのですよね……。

 まぁ、読書に専念できそうですし、それもありかもしれませんね。


 ……


 やはり、考えが甘かったようです……。

 忙殺されていた第一補佐官を卒業し、読書三昧の日々を過ごせるかとおもっていたら、さらに大変な環境に放り込まれたことに気付かされました。

 老害、伏魔殿、常識汚染、そんな世界がニダヴェリールに根付いていたとは。
 ククリさんは、よくルーノの長老メトセラ会を仕切ってましたね……。

 ルナへの引き継ぎが終わった直後、ロクシー様から私に下された勅命は、ルーノの長老メトセラ会の抜本的な改革でした。

 ロデリクとの合同長老メトセラ会は、ウルさんがいらっしゃるので、円滑に進行されますが、ククリさんが抜けたルーノの長老メトセラ会は、屋台骨が抜けた崩壊寸前の機関でした。

 最近は、族長である父と、仕事について話し合うことが増えました。
 初めて、父の仕事の大変さを思い知りました。
 私の父って優秀だったのですね……びっくりです。


 ククリさんの部屋に相談にいくと、お茶を入れてくれました。

「ククリさんはルーノの長老メトセラ会を見限ったのでしょうか?」

「まさか、そんなわけないでしょ?」

「どうすれば改革できるとおもいます?」

「ほんとにそれ必要?」

「ロクシー様の勅命ですからね」

「もう一度ルシーニアと相談してみたら?」

「私自身が、なにも思い描けないから相談できる状況ではありませんね……」

「私は、自分に必要なことを議題にあげて、好き勝手に進行していただけだよ?
 特に問題なかったしね」

「他の長老メトセラことは放置です?」

長老メトセラ会だよ? 子供の集まりじゃないのだからね。
 やりたいこと、議論したことがあったら、能動的に動ける人の集まりでしょ?
 もし、それができない人がいたら、その人には長老メトセラの席は不要だと思うけど」

「実績や経験が評価されて、引退ムードで役職手当を貰っている人の集まりだと思ってました……」

「そういう人は、引退して年金暮らしをすれば良いのでは?
 すくなくとも宮廷には不要だよね?」

「お偉いさんの席が気持ち良いのですよ。それを奪い取ると、ルーノ内部の勢力が分裂するかもしれませんし……」

「ルシーニアの勅命が、そんなやからのご機嫌伺いなの?」

「ウルさんにも同じことを言われました。
 でも、末席の新米の私に何ができるのでしょうか……?」

長老メトセラに上下関係はなかったはずだよね?
 新設されたの?」

「いえ、皆、同列です……」

「じゃ、ルフィリアがやりやすいように動けばよいのでは?
 文句を言われたら、それこそルシーニアの勅命に反している行為だと思うけどね
 ロデリクの長老メトセラ会を見学したのでしょ?」

「ええ、活気がありました。私もあちらに参加したいですね」

「おなじようにすればよいのでは?」

「できればそうしたいです。父ともその話ばかりしています」

「ルーインさんに後始末を任せればよいでしょ? 族長なのだし。
 このままだと、ルシーニア、ロデリクを第一眷属にしちゃうかもね。
 長老メトセラに課せられた使命を理解できているのは、
 現状、ロデリクの長老メトセラ会だけだしね」

「……。
 父も同じことを言っていました。
 ロデリクより寿命が短い分、世代交代を急ぎたいって言ってました」

「最初の1人目がルフィリアでしょ?
 ルーインさんだけじゃなく、ウルさんも期待してるらしいよ。
 自宅でルーインさん扱うように、他の長老メトセラを扱えば済むだけでしょ?」

「それ、ルーノが分裂しちゃうかもです……」

「あはは。そこまで酷いことをルーインさんにしていた自覚があったの?」

「いえ、うちでは普通です!」

「では、その普通を長老メトセラ会でも是非!」

「たのしそうですね、ククリさんのくせに……セクハラする気にもなれません」

「ならないでいいよ!」

「ところで、ククリさんは、長老メトセラで無能な人がいると思います?」

「有能無能は使う人次第できまるのでは?」

「私が使っても良いものでしょうかね?」

「使えるものは使わないと公費の無駄でしょ?
 第一補佐官に叱られちゃうよ」

「ルナに叱られるのは気に入りませんね……。
 ククリさんはルナに告げ口したのですか?」

「まだだけど?」

「告げ口する気満々ですね」

「だって、数字に現れてきたら指摘するしかないでしょ?」

「ククリさんが参加していた時はとても優秀でしたよね……」

「ルシーニアの判断対象は、それになると思ったほうが良いね」

「当然そうなるでしょうね。ほんと、第一補佐官の仕事ってイージーモードですよね……」

「だから、自宅のように振る舞えれば、長老メトセラ会もイージーモードだとおもうよ」

「とりあえず、長老メトセラの身辺調査でも始めましょうか」

「いきなり、穏やかじゃなくなったね」

「私もいい加減、いらいらしてましたからね。
 後任がいそうな方は、裏からプレッシャーかけちゃいましょう。
 後任がいなさそうな方は、後任候補を送り込んでしまいましょう。
 議事内容と成果を定量化して、合同長老メトセラ会で公開してやりましょう。
 長老メトセラの役職手当を削減して、やる気のない人は引退しやすいようにしましょう。
 文句をいってきたらルーノ族を第二眷属に降格する申請を出しましょう。
 
 でも、干されて一家が路頭に迷ったら、ククリさんが養ってくださいね。
 私は読書三昧の日々を送りますのでよろしくです」

「あはは、楽しみだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 ~ティーガー戦車異世界戦記~【挿絵あり】

ニセ梶原康弘
ファンタジー
――この力を、弱き者を救う為に捧げたい   異世界リアルリバーへ現れたチート勇者達の暴虐によって魔族は迫害され、今まさに滅びようとしていた。そんな彼等を救ったのは、ひとりの少年と重戦車「キングタイガー」だった。 少年を仲間に迎え入れた魔物達は王姫アリスティアに導かれ新天地を求め西へと旅立つが、魔族を追うチート勇者達は執拗に一行をつけ狙う。そして、それらを冷ややかに見つめる謎の魔少女…… 幾度も迫る危機、流される血と涙。明かされる異世界の真実……果たして最後の楽園は見つかるのか?異世界チートの暴虐を蹴散らす怒りの砲声と共に少年は叫ぶ、「戦車前へ!」 これは異世界で悪を捨てた魔族が求めた希望と救済と、そして小さな愛の物語

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光
ファンタジー
 俺は5歳の時に異世界に転生した事を自覚した。  そこから始まる様々な出会いと別れ、苦労と努力の生き様がここから始まった。  佐藤翔太は日本人として生まれ育ち病死して眠りについた。  しかし、気がつくと異世界の神殿で"祝福"と言うステータスを貰うための儀式の時に完全に前世の記憶を取り戻した。さらには、転生した翔太=今世ではフィデリオ(愛称:リオ)は、突然のことで異世界転生した事実を受け入れることが出来なかった。  自身が神様によって転生させられた存在なのか  それとも世界の理の元、異世界に転生しただけの存在なのか  誰も説明されず、突然の何一つ理解できない状況にフィデリオは、混乱の末に現実逃避してしまった。  しかし、現実を少しずつ認識し異世界で過ごしていく内に、【世界中を旅して回りたいと言う好奇心】や【今世偉大な両親や祖父達と同じような冒険をする冒険者に憧れ】を持つようになる。  そして地道な修業と下積み、異世界の価値観の違いに悩まされながら成長して冒険していく物語である。 *初のオリジナル投稿小説です。 *少しでも面白いと思って頂けましたら、評価ポイント・ブックマーク・一言でもよろしいので感想・レビューを頂けましたらより嬉しく幸いでございます。 *無断転載は禁止しております。ご理解よろしくお願いします。 *小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最強の騎士団~1番強いのは団長ではなく料理人らしいです~

TTT
ファンタジー
 ある王国に最強といわれる騎士団がいた。  ある人が聞いた 「やはり1番強いのは団長ですか?」と  しかし返ってきた言葉は予想と違った 「いいえ、料理人ですよ。」 小説家になろう様と重複投稿させていただいております。 更新遅いです。 感想を書いて下さると嬉しいです

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...