上 下
125 / 259
イサナミの書

一刃(ひとは)#2

しおりを挟む
────ルカティア(人狼ルガルルーノ種、呪詛の湖フヴェルゲルミル守人もりと、ニダヴェリール宮廷第三補佐官)


 ククリさんの不毛の大地ノド行きの申請が受理され、私とルフィ姉が、ククリさんとリエル姉のお目付役として随行ずいこうすることになった。

 当初はルフィ姉ではなく、ルナ姉が随行するはずだったが、ルフィ姉がどうしても随行したかったらしく、長女権限をつかって公用をルナ姉に全て任せ、お目付役になったのだ。

 ミユキ、ハルカ、ユキヒロの3名の同行も許可された。
 ロクシーさまと、ティフォーニアは、時間の都合をつけて頻繁に訪問することになっている。


 不毛の大地ノドは、空と浮遊都市はとても美しかったが、大地が死んでいた。
 ここまで、酷く死んでしまった大地を見たのは、生まれて初めてだった。

 兵器の実験でこうなったそうだが、大地の守護を司るルーノ族としては、見るに耐えない大地だった。
 回復させるには何十万年も必要らしい。
 
 ロデリクの一行と一緒に不毛の大地ノドに入ったので、すぐにククリさんとリエル姉は別行動になり、私は、ミユキ、ハルカ、ユキヒロをつれて、ロデリクのロングシップに乗り込んだ。

 戦闘準備にはいったロデリクの殺気と集中力は凄まじく、普段とはまるで別人のようになる。

 ロングシップごと飲み込まれそうな巨大なアースワームの群れに斧と盾を持って平然と突撃してゆく様は、まさに狂戦士だった。

 不毛の大地ノドの大地にはいろいろな場所に多様な生物が生息して居た。
 その全てが、初めて見る生物だった。
 ギアとは、生態系が大幅に異なるようだ。

 極一部ではあるが、緑化が進んでいる区域もあり、そこには、綺麗な泉が湧き出し、様々な生命がつどっていた。
 樹木には果実が実り、皆で分けて、その味覚を堪能した。

 
 不毛の大地ノドの死んだ大地に徐々に広がる緑地をロングシップから眺めていたら、イサナミ自治区をおもいだした。イサナミ自治区に根付いた死んだ社会に対峙するイサナミの民は、まさに、不毛の大地ノドの緑地そのものだ。

 不毛の大地ノドの緑地のように、何万年、何十万年とかけてでも、諦めることなく着実に緑地を広げてほしいと願った。

 
 ……


 浮遊都市に戻ると、紫色のホムンクルスバンシーが女王イーリスの宮殿に案内してくれた。
 個室が用意されており、それぞれの個室で、一息ついた。
 紫色のホムンクルスバンシーが大浴場のことを話していたのを思い出し、お酒をもって、大浴場にむかった。

 ククリさんと、リエル姉がいて、お酒を飲みながら談笑していた。

「リエル姉、そんなに飲んで大丈夫なの?」
 リエル姉は全身真っ赤だった。

「真っ赤になるのは体質だから、大丈夫だよ」
 リエル姉はブレスレッドの端末を開き、生体データを見せてくれた。
 
「ほんとに大丈夫だ。すごいわね。ほんとに真っ赤よね」

「アルビーノはみんなそうだよ」

「ほかの娘はどうしたの?」
 ククリさんが質問した。

「ルフィ姉に連れて行かれた」

「あー、組合の会合か。それでついてきたのか。気をつけないと巻き込まれるな」
 ククリさんが呆れていた。

「危険なのは夜だけど、ロクシーさまとティフォーニアが来るのでしょ?」

「うん。ルカティア以外は安全だね。あはは」

「私は、大丈夫よ。かわすの得意だし」

「そうなの? なにかコツあるの? 弟子入りさせてよ!」

「え? ククリさんが私の弟子?」

「ルナとルカは普通だから、何かコツがあるのかとおもってて昔から聞いて見たかったんだよね」

「おれも知りたい、弟子にしてよ!」
 リエル姉まで興味をもったようだ。

「普通に無視すればいいだけよ。コツなんていらないわよ?
 相手にするから、可能性があると思ってしつこくされるのよ。
 二人とも、押しが弱いってルフィ姉がいってたから、ターゲットにされてるのでしょ?」

「ルフィリアを無視すると後が怖い気がするけど?」

「うん。怖いけど。最初だけ我慢すれば諦めるわよ」

「俺、無理かも……」

「じゃ、あきらめて組合にはいれば?
 ユキヒロはもう組合員らしいわよ?」

「あらら、ついに落ちたのかー。
 最近すこしだけ様子が変わったと思ったんだよね。そういうことか」
 ククリさんは、同情したような表情でつぶやいた。

「腐敗を広げるのはニダヴェリールだけにしてくださいよ」
 リエル姉が心配そうに言った。

「アストレアのヒューマノイドもかなりのものだと聞いてるけど?
 ハルカの薄い本の売り上げが徐々に増えているらしいわ」

「ほんとに? ティフォーニア大丈夫かな? 今晩聞いてみよう……」
 リエル姉がさらに心配そうにつぶやいた。

「アストレアには組合があるの? 全てルフィリアの傘下?」
 ククリさんが質問した。

「さすがにそこまでは知らない。ハルカの友達の女の子はルフィ姉の組合にはいってるみたいよ」

「アストレアで、集会してるのか」

「たまに宮廷付きの女の子たちがヒューマノイドのところに面会にいくでしょ?
 そのときにルフィ姉も同行して、面会後に集会を開いているみたい。作家先生もいるから、かなりの数の女性があつまるらしいわよ。サイン会とか握手会もやってるって」

「リエル。アストレアは籠絡ろうらく済みだってさ」

「……ティフォーニア、大丈夫だよね」
 リエルがまた心配そうにつぶやいた。

「リエル、ちょっと腕出して」
 ククリさんが、リエル姉のブレスレッドをみて、生体データを確認した。

「正常域だけど、ティフォーニアに何か言われそうなレベルだね。そろそろでたほうがいいよ」

「確かにそうですね。お先に失礼します」
 リエル姉は浴場を後にした。

「リエル姉の体調悪いの?」

「健康だよ。さっき見たでしょ? ティフォーニアが厳しすぎるだけ」

「すごい箱入り娘ね」

「私もそうだから、同情しかできないよ」

「最近はリエル姉のことが可愛くて仕方がない感じだよね、ククリさんは」

「似た境遇にいるから同情してるのかも。彼女の相談にのれそうなのも私くらいだしね」

「それもそうか」

「あと、イサナミや言語体系の再整備に興味があるっていってくれたから、えこひいきすることにしたの。ルルルには振られたからねー」

「私は勉強してるわよ?」

「本当に?」

「うん」

「じゃ、手伝ってくれる?」

「うん。ルシオーヌも誘うといいわよ。喜んで飛びついて来るとおもう」

「!」
 ククリさんが、なぜか、感極まっている。

「どうしたの?」

「いい子ばかりだね……。嬉しくて。じゃ、申請出しておいてね、いつでもいいからおいでって言っておいて」

「うん。そんなに喜ぶほどのことなの?」

「そうだよ、ルルは完全に逃げたからね!」

「あの二人はそうかもね……」

「で、ルーインさんに、やさしくできた?」

「それがね。とても難しいのよ。普段と違う接し方しないといけないから、おねだりされていると勘違いされちゃうの」

「そこまで、信用がないのかルルルは!」

「私も、おどろいちゃった。そこまでの反応されるとは思わなかった」

「あはは。で、お小遣いもらえたの?」

「うん。なぜかいつもより多めにくれた」

「もらっちゃだめだよ。それを普通にしないと。しかし、ルーインさんも、大概だな。娘に甘すぎるね。私からも言っておこう。ウルさんからも言ってもらおう」

「でも、この世界だと本当にルガルの気流の見え方が違うわね。少しだけはっきり見える」

「そうだね、さっきリエルで色々実験してたんだ。想像以上に研究が進みそうな感じだよ」

「そうなんだ、わたしも協力するからいつでも言ってね」

「ありがとね、ルカもえこひいき確定だね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流れ者のソウタ

緋野 真人
ファンタジー
神々が99番目に創ったとされる世界――ツクモ。 "和"な文化と思想、感性が浸透したその異世界には、脈々と語り継がれている、一つの伝承があった。 『――世、乱れる時、光の刀持ちて、現れる者、有り。 その者、人々は刀聖と呼び、刀聖、振るう刀は、乱れを鎮め、邪を滅し、この地を照らす、道しるべを示さん――』 ――その、伝承の一節にある、光の刀を持つ旅の青年、ソウタ。 彼が、ひょんなコトから関わったある出来事は、世界を乱す、大戦乱への発端となる事件だった。 ※『小説家になろう』さんにて、2016年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんでも転載連載中。 ――尚、作者構想上ですら、未だ完結には至っていない大長編となっておりますので、もしも感想を頂けるのでしたら、完結を待ってではなく、章単位や話単位で下さります様、お願い申し上げます。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...