上 下
106 / 259
デザート・ストーム

シャマル#2

しおりを挟む
────ククリ(人狼ルガルガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー)


 私は、孵化したリザードマンの生体データを調査していた。
 リザードマンの開発者はアルデバランだ。

 アルデバランはノスフェラトゥの生体データを採取していたので、ゼディーやルークもリザードマンの生体についてはかなりの注意を払ってきた。

 ルフィリアから発声軸のばらつきが異常と聞いていたが、実際にデータをみてみると、別の種族といってもいいくらい、かけ離れている子もいる。

 リザードマンの固有言語は、見直すべきかもしれないな……。



「ククリ、邪魔する。今大丈夫か?」

「ウルさん、珍しいですね。どうされました?」

「生命の基礎法術は、お前以外、どれくらいの数の人狼ルガルが使える?
 戦士育てるなら、ある程度、想定しておかないとな」

「お師匠様からはシルバーリングでも発声できるのは10%、そのなかでも使いこなせるのはさらに1%に満たないって伺っています。人材が育っていないからもっと減っている可能性が高いですけど。私が筆頭神官やってたときは、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員にとても詳しい人材が5名くらい、発声できるだけで研究員は、20名くらいって感じです」

「遺伝や素質は関係ねぇってはなしだけど、お前、どうやって身につけたんだ?
 あのクソじじか?」

「ええ、そうですね。お師匠様に引き取られて最初の3000千年くらいまでは、ひたすら彼を殺すことばかり考えて、彼の知覚を捉えることに必死だったのですよ。
 私の方が知覚の帯域、軸数、感度など全て彼より上だという自信はあったのですが、彼の知覚の流れでどうしても捉えきれない領域があったので、それを捉えられないと、絶対に彼を殺すことはできないと感じていました。
 そのころは技術資料も読めるようになっていたから、ヒントがないか調べまくりました。ただ、医学書しかアクセスできなかったので、知覚、体組成、法術、生命の根源体の関係だとかが中心でしたね。そのうち、生命の基礎法術に関する情報に辿り着いて、最初はまるでわからなかったけど、根気よく調査したのです。
 理解するのに必要な資料はすぐ見つかったのですが、それも難しすぎて本当に苦労しましたよ。実際に発声できないと先に進めないし、発声を知覚できないとあってるかどうかもわからないので、知覚をさらに強化する訓練をしました。
 最初に自分の生命の位相軸に水面みなもを奏でられたときはほんとうに嬉しかったですよ。でも、すでにそのときは、お師匠様を殺すことより、もっと先に進みたくて、勉強と訓練をつづけていましたね」

「……お前、あれを自力で身につけたのか?」

「違いますよ。参照できる資料が勝手に増えていったのです。私のレベルに合わせて。しかもお師匠様は私の知覚を刺激してくれていましたから、うまく導いていただいたのですよ」

「クソジジイらしい面倒なやりかただな。お前も知覚の刺激ってのはできるのか?」

「ええ、できます。ただし、発声できない相手には無意味です。知覚が未発達で共鳴しないから。とにかく発声できることが第一歩なのですよ」

「なるほどな。そっから先も長そうだな」

「そうですね」

水底みなそこ月影つきかげ一葉ひとは。できねえにしても、最低でもこれくらいは知覚して対応できねえと話にならんな」

「たしかに、使い手に出くわしたら危険ですね」

「ルーノは発声できそうなやつはいるか?」

「一番期待している娘も、まだ発声はできないようです。生命の基礎法術は、法術理論でもいちばん習得が困難な領域ですから、苦手意識が邪魔をしているのかもしれませんね」

「苦手とかいってたら、殺されちまうだろうが。見込みのありそうなのは、見分けがつかねえんだよな?」

「素質は全員一緒です。強いていうなら、とにかく知覚を磨いて、特殊発声も特殊言語も使いこなせることってくらいですかね。理論も実践も両方バランスよく身につけて。私の上級シャーマンの育成方法はそれだけです」

「あとで上級シャーマンが、どのレベルか見せてくれ」

「ルフィリアが監督してますからいつでも彼女にいってください」

「お前が期待してるのってルフィリアか?」

「その一人ですね」

「たしかに、いいセンスしてる。
 だがあれで、まだ発声できねえのか?
 どれだけ鍛えりゃいいんだよ」

「すでに準備はできています。十分すぎますよ。産声をあげられないだけです、ほんとうにそれだけ」

「お前の観測データとって調べられないのか?」

「自分で何度もやってます。進捗は芳しくありません。
 でも、コツはあるはずね、きっと。
 お師匠様の研究記録も未完でしたから、その記憶を頼りに引き継いでみたのですが、ほんと大変です。
 生命の根源体がもつ生命の位相軸が重要な要素になっているらしいのですが、その領域は、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員だって、把握しきれていない領域でしたからね。
 ただ、生命の位相軸と、特殊発声の関係性がわかってきたら、もしかしたら解決の糸口が見えてくるかもしれません。お師匠様はそんな観点から研究されていました。

 しかし、もうそんなレベルまで理解なされたのですか? さすがですね」

「俺が理解しても、クソガキどもに身につけさせねえと話にならねぇよ。
 それが悩みの種だ。特殊発声すらできねえのだから。
 ルーノのシャーマンで特殊発声ができるのはどれくらいいる?」

「上級シャーマンは全員。下級シャーマンでも8割以上はできますよ」

「すげーな、みんなクソガキどもより若い娘ばかりだろ? それだけいるならだれか貸してくれ。クソガキどもの心を折りてえ」

「なら、丁度いいのが3人います。発声の指導もしっかりできますよ。
 種族の方言は、自力で調整できますから大丈夫です」

「いいのか? そんな優秀なの借りても」

「もちろんですよ。ロデリクの社会に放り込んで刺激を受けさせたかったから、むしろ有り難いくらいです。殺戮の本能を叩き込んでやってください」

「そういうことか。それなら、まかせろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...