上 下
19 / 259
悪政のレヴナント

ユミルの胎動#7

しおりを挟む
────リエル(人狼ルガルアルビオン・ルーノ種、ウルザブン=マノ=ティウス)


 今、俺は、どうなっている?

 見覚えのない寝室のベッドで目覚めた俺は、今の状況を全く飲み込めなかった。

 さっき、俺のこと「気持ち悪い」とかいって飛び出していった女は、どこへいった?
 ククリとかいうやつを呼びに行ったようだが……。

「!?」

 誰か、近づいてくる気配がした。

 俺は、気配を消してベッドの影に隠れた。


「!?」

 相手も気配を消した?

 ちょっとまて、俺の索敵法術式ソナーから逃れられるやつなんて今まで会ったことないぞ?

 しかたない、確実にとらえるか……。
 俺は、索敵波ピンを放った。

 
 反応がない?
 
「そこまで、できるなら、大丈夫そうだね」

「!」

 俺の頭の真後ろで、いきなり女の声がした。
 完全に背後を取られている。
 相手にその気があれば確実に死んでいた。

「でも、重症患者は、安静にしておこうね!」

「え?」

 俺の体は宙に打ち上げられ、弧を描いて、ベッドに仰向けに倒された。

 なにも、できなかった……。

 見た感じすこし年上の若いの女性が、上から覗き込んで来た。
 でも、種族がわからないから、見た目だけで年齢は判断できない。

 最初の女とは声も気配もちがうので、彼女がククリなのだろう。

「あんた、どこの種族の人狼ルガルだ?」

「それは難しい問題だ」

「あんた、ルガルだよな?」

「うん。ルガルだよ」

「じゃぁ、なぜ種族を言えない?」

「君は、自分の種族を聞かれたらなんて答えるの?」

「おれは……元アルビオン・ルーノ族だ」
 
「えらいなー。元とはいえ追放された種族を名乗れるのは見上げたものだ」

「あんたも、追放された口か?」

「私は……、移籍させられた口かな」

「移籍?」

「うん、ガルダーガからルーノに移籍したんだ」
 
「ルーノ!」

「まーまー、怒らないで。大丈夫。こちらは君を敵ではないと思っている。味方かどうかは君が判断してね」 

「移籍なんて聞いたことないぞ!」

「まー、特例中の特例だからね」

「どうせ、天下あまくだりで長老メトセラ待遇とかなんだろ?」

「確かに長老メトセラの席にいるね」

「やっぱりか、ルーノのお偉いさんが俺になんのようだ?」

「とりあえず、起き上がろうか?」

 上半身を起こすと、ベッドの前に男と女が1人ずつ立っていた。
 こいつらはルガルじゃない……この感覚は……。

「誰かは知らんが、世界龍オーヴァーロードさまが二人も揃って、何の用だ?」

 さすがに、こんな態度じゃ、即死かもな……。

「申し分けない」
 
「ごめんなさい」
 
「え?」
 世界龍オーヴァーロードが、俺に頭を下げてる?
   
「ここまで酷い仕打ちをしたんだ、許してもらおうとはおもわない。でも、聞いて欲しい。これは、娘と君を守るために考えた末にとった手段だったんだ」
 と男の世界龍オーヴァーロードが言った。

「わけがわからない。ちゃんと説明してくれ。それに娘ってだれだ?」

ククリが横から覗き込んで来た。

「とりあえず、敵意を抑えてもらえる? 今の君には何をはなしても伝わらないよ? 心の整理にしばらくかかりそうなら、時間をあけようか? こちらは、君への謝罪をしたいだけなのだから。君の都合に合わせるよ」

「俺への謝罪? なんであんたらが謝罪をするんだ? あんたらが黒幕ってことなのか?」

「それを話すために、いまみんながここにいる。気持ちの整理に、時間をあけるかい?」

 おれは、自分の体をみた。
 身体中に手当のあとが見られる。
 切断されたはずの左腕も、問題なく動いている。
 呪詛も完全に消えている。
 体に痛みもない。

「……わかった、黙って聞くよ」

「よろしい」

ククリは、すべての警戒をといて、俺の隣に腰掛けた。

「この二人は、アイオニアン=ゼディーとリディアン=ルーテシア。ミクソリディアン=ティフォーニアの両親だ」

「……え?」

「まぁ、普通、世界龍オーヴァーロードの親は公表されないから、驚くのはしかたないね。二人は、君に関する事件にとても心を痛めている。娘さんのことだけじゃないよ? 君についてもだよ? この二人はそういう人柄の世界龍オーヴァーロードだ」

「結局、俺は何の罪を犯したんだ?」

「うーん。強いていうなら……世界龍オーヴァーロードの逆鱗に触れた?」

「全く記憶がないぞ! そもそも、ティフォーニア以外の世界龍オーヴァーロードにはあったことがない。なら、おれは、ティフォーニアを怒らせたってことか!?」

「ちがうよ、その逆」

「逆?」

ククリは、語りはじめた。

「とある小さな国に、お姫様が生まれました。
 お姫様は、生まれて間も無く、大きな王国の女王さまに取り上げられてしまいます。大きな国の女王さまは、お姫様を、自分の考え方に従うように厳しく教育しました。
 あるとき、新しい領地が増えました。
 大きな国の女王さまは、そのお姫様にその国を与え、その国の女王にしました。
 でも、小さな国のお姫様の従者は、すべて、大きな国の女王さまに従うように教育され、大きな国からの監視役もたくさん派遣されました。
 そうです、小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまの操り人形にされたのです。

 小さな国のお姫様は、なかなか結果を出せませんでした。小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまに、いつもしかられてばかりいました。小さな国のお姫様は、夜な夜な月を見上げ泣いていました。

 そんな時です! その国の平民の男の子と出会ったのは!

 男の子は、従者見習いで、宮殿に住んでました。男の子は、木登りが大好きで、宮殿の大きな木に毎晩のぼって、月を眺めるのが日課でした。そんなある日、宮殿の窓辺で、悲しそうに泣いている、小さな国のお姫様を見かけたのです。

 それが、二人の最初の出会いでした。

……で、いろいろあって、

 小さな国のお姫様にとって、その男の子は、唯一の味方となり心の支えになりました。小さな国のお姫様が、男の子に、特別な好意と信頼をいだくようになるのには、それほど時間はかかりませんでした。

 しかし、お姫様の心境の変化は、周囲に気づかれてしまいます。

 そのことを知った大きな国の女王さまは、高貴な身分ではない、平民の男の子を疎ましくおもいました。

 そのあとは、もうわかるよね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...