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悪政のレヴナント
ユミルの胎動#7
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────リエル(人狼アルビオン・ルーノ種、ウルザブン=マノ=ティウス)
今、俺は、どうなっている?
見覚えのない寝室のベッドで目覚めた俺は、今の状況を全く飲み込めなかった。
さっき、俺のこと「気持ち悪い」とかいって飛び出していった女は、どこへいった?
ククリとかいうやつを呼びに行ったようだが……。
「!?」
誰か、近づいてくる気配がした。
俺は、気配を消してベッドの影に隠れた。
「!?」
相手も気配を消した?
ちょっとまて、俺の索敵法術式から逃れられるやつなんて今まで会ったことないぞ?
しかたない、確実に捉えるか……。
俺は、索敵波を放った。
反応がない?
「そこまで、できるなら、大丈夫そうだね」
「!」
俺の頭の真後ろで、いきなり女の声がした。
完全に背後を取られている。
相手にその気があれば確実に死んでいた。
「でも、重症患者は、安静にしておこうね!」
「え?」
俺の体は宙に打ち上げられ、弧を描いて、ベッドに仰向けに倒された。
なにも、できなかった……。
見た感じすこし年上の若いの女性が、上から覗き込んで来た。
でも、種族がわからないから、見た目だけで年齢は判断できない。
最初の女とは声も気配もちがうので、彼女がククリなのだろう。
「あんた、どこの種族の人狼だ?」
「それは難しい問題だ」
「あんた、ルガルだよな?」
「うん。ルガルだよ」
「じゃぁ、なぜ種族を言えない?」
「君は、自分の種族を聞かれたらなんて答えるの?」
「おれは……元アルビオン・ルーノ族だ」
「えらいなー。元とはいえ追放された種族を名乗れるのは見上げたものだ」
「あんたも、追放された口か?」
「私は……、移籍させられた口かな」
「移籍?」
「うん、ガルダーガからルーノに移籍したんだ」
「ルーノ!」
「まーまー、怒らないで。大丈夫。こちらは君を敵ではないと思っている。味方かどうかは君が判断してね」
「移籍なんて聞いたことないぞ!」
「まー、特例中の特例だからね」
「どうせ、天下りで長老待遇とかなんだろ?」
「確かに長老の席にいるね」
「やっぱりか、ルーノのお偉いさんが俺になんのようだ?」
「とりあえず、起き上がろうか?」
上半身を起こすと、ベッドの前に男と女が1人ずつ立っていた。
こいつらはルガルじゃない……この感覚は……。
「誰かは知らんが、世界龍さまが二人も揃って、何の用だ?」
さすがに、こんな態度じゃ、即死かもな……。
「申し分けない」
「ごめんなさい」
「え?」
世界龍が、俺に頭を下げてる?
「ここまで酷い仕打ちをしたんだ、許してもらおうとはおもわない。でも、聞いて欲しい。これは、娘と君を守るために考えた末にとった手段だったんだ」
と男の世界龍が言った。
「わけがわからない。ちゃんと説明してくれ。それに娘ってだれだ?」
ククリが横から覗き込んで来た。
「とりあえず、敵意を抑えてもらえる? 今の君には何をはなしても伝わらないよ? 心の整理にしばらくかかりそうなら、時間をあけようか? こちらは、君への謝罪をしたいだけなのだから。君の都合に合わせるよ」
「俺への謝罪? なんであんたらが謝罪をするんだ? あんたらが黒幕ってことなのか?」
「それを話すために、いまみんながここにいる。気持ちの整理に、時間をあけるかい?」
おれは、自分の体をみた。
身体中に手当の跡が見られる。
切断されたはずの左腕も、問題なく動いている。
呪詛も完全に消えている。
体に痛みもない。
「……わかった、黙って聞くよ」
「よろしい」
ククリは、すべての警戒をといて、俺の隣に腰掛けた。
「この二人は、アイオニアン=ゼディーとリディアン=ルーテシア。ミクソリディアン=ティフォーニアの両親だ」
「……え?」
「まぁ、普通、世界龍の親は公表されないから、驚くのはしかたないね。二人は、君に関する事件にとても心を痛めている。娘さんのことだけじゃないよ? 君についてもだよ? この二人はそういう人柄の世界龍だ」
「結局、俺は何の罪を犯したんだ?」
「うーん。強いていうなら……世界龍の逆鱗に触れた?」
「全く記憶がないぞ! そもそも、ティフォーニア以外の世界龍にはあったことがない。なら、おれは、ティフォーニアを怒らせたってことか!?」
「ちがうよ、その逆」
「逆?」
ククリは、語りはじめた。
「とある小さな国に、お姫様が生まれました。
お姫様は、生まれて間も無く、大きな王国の女王さまに取り上げられてしまいます。大きな国の女王さまは、お姫様を、自分の考え方に従うように厳しく教育しました。
あるとき、新しい領地が増えました。
大きな国の女王さまは、そのお姫様にその国を与え、その国の女王にしました。
でも、小さな国のお姫様の従者は、すべて、大きな国の女王さまに従うように教育され、大きな国からの監視役もたくさん派遣されました。
そうです、小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまの操り人形にされたのです。
小さな国のお姫様は、なかなか結果を出せませんでした。小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまに、いつも叱られてばかりいました。小さな国のお姫様は、夜な夜な月を見上げ泣いていました。
そんな時です! その国の平民の男の子と出会ったのは!
男の子は、従者見習いで、宮殿に住んでました。男の子は、木登りが大好きで、宮殿の大きな木に毎晩のぼって、月を眺めるのが日課でした。そんなある日、宮殿の窓辺で、悲しそうに泣いている、小さな国のお姫様を見かけたのです。
それが、二人の最初の出会いでした。
……で、いろいろあって、
小さな国のお姫様にとって、その男の子は、唯一の味方となり心の支えになりました。小さな国のお姫様が、男の子に、特別な好意と信頼をいだくようになるのには、それほど時間はかかりませんでした。
しかし、お姫様の心境の変化は、周囲に気づかれてしまいます。
そのことを知った大きな国の女王さまは、高貴な身分ではない、平民の男の子を疎ましくおもいました。
そのあとは、もうわかるよね?」
今、俺は、どうなっている?
見覚えのない寝室のベッドで目覚めた俺は、今の状況を全く飲み込めなかった。
さっき、俺のこと「気持ち悪い」とかいって飛び出していった女は、どこへいった?
ククリとかいうやつを呼びに行ったようだが……。
「!?」
誰か、近づいてくる気配がした。
俺は、気配を消してベッドの影に隠れた。
「!?」
相手も気配を消した?
ちょっとまて、俺の索敵法術式から逃れられるやつなんて今まで会ったことないぞ?
しかたない、確実に捉えるか……。
俺は、索敵波を放った。
反応がない?
「そこまで、できるなら、大丈夫そうだね」
「!」
俺の頭の真後ろで、いきなり女の声がした。
完全に背後を取られている。
相手にその気があれば確実に死んでいた。
「でも、重症患者は、安静にしておこうね!」
「え?」
俺の体は宙に打ち上げられ、弧を描いて、ベッドに仰向けに倒された。
なにも、できなかった……。
見た感じすこし年上の若いの女性が、上から覗き込んで来た。
でも、種族がわからないから、見た目だけで年齢は判断できない。
最初の女とは声も気配もちがうので、彼女がククリなのだろう。
「あんた、どこの種族の人狼だ?」
「それは難しい問題だ」
「あんた、ルガルだよな?」
「うん。ルガルだよ」
「じゃぁ、なぜ種族を言えない?」
「君は、自分の種族を聞かれたらなんて答えるの?」
「おれは……元アルビオン・ルーノ族だ」
「えらいなー。元とはいえ追放された種族を名乗れるのは見上げたものだ」
「あんたも、追放された口か?」
「私は……、移籍させられた口かな」
「移籍?」
「うん、ガルダーガからルーノに移籍したんだ」
「ルーノ!」
「まーまー、怒らないで。大丈夫。こちらは君を敵ではないと思っている。味方かどうかは君が判断してね」
「移籍なんて聞いたことないぞ!」
「まー、特例中の特例だからね」
「どうせ、天下りで長老待遇とかなんだろ?」
「確かに長老の席にいるね」
「やっぱりか、ルーノのお偉いさんが俺になんのようだ?」
「とりあえず、起き上がろうか?」
上半身を起こすと、ベッドの前に男と女が1人ずつ立っていた。
こいつらはルガルじゃない……この感覚は……。
「誰かは知らんが、世界龍さまが二人も揃って、何の用だ?」
さすがに、こんな態度じゃ、即死かもな……。
「申し分けない」
「ごめんなさい」
「え?」
世界龍が、俺に頭を下げてる?
「ここまで酷い仕打ちをしたんだ、許してもらおうとはおもわない。でも、聞いて欲しい。これは、娘と君を守るために考えた末にとった手段だったんだ」
と男の世界龍が言った。
「わけがわからない。ちゃんと説明してくれ。それに娘ってだれだ?」
ククリが横から覗き込んで来た。
「とりあえず、敵意を抑えてもらえる? 今の君には何をはなしても伝わらないよ? 心の整理にしばらくかかりそうなら、時間をあけようか? こちらは、君への謝罪をしたいだけなのだから。君の都合に合わせるよ」
「俺への謝罪? なんであんたらが謝罪をするんだ? あんたらが黒幕ってことなのか?」
「それを話すために、いまみんながここにいる。気持ちの整理に、時間をあけるかい?」
おれは、自分の体をみた。
身体中に手当の跡が見られる。
切断されたはずの左腕も、問題なく動いている。
呪詛も完全に消えている。
体に痛みもない。
「……わかった、黙って聞くよ」
「よろしい」
ククリは、すべての警戒をといて、俺の隣に腰掛けた。
「この二人は、アイオニアン=ゼディーとリディアン=ルーテシア。ミクソリディアン=ティフォーニアの両親だ」
「……え?」
「まぁ、普通、世界龍の親は公表されないから、驚くのはしかたないね。二人は、君に関する事件にとても心を痛めている。娘さんのことだけじゃないよ? 君についてもだよ? この二人はそういう人柄の世界龍だ」
「結局、俺は何の罪を犯したんだ?」
「うーん。強いていうなら……世界龍の逆鱗に触れた?」
「全く記憶がないぞ! そもそも、ティフォーニア以外の世界龍にはあったことがない。なら、おれは、ティフォーニアを怒らせたってことか!?」
「ちがうよ、その逆」
「逆?」
ククリは、語りはじめた。
「とある小さな国に、お姫様が生まれました。
お姫様は、生まれて間も無く、大きな王国の女王さまに取り上げられてしまいます。大きな国の女王さまは、お姫様を、自分の考え方に従うように厳しく教育しました。
あるとき、新しい領地が増えました。
大きな国の女王さまは、そのお姫様にその国を与え、その国の女王にしました。
でも、小さな国のお姫様の従者は、すべて、大きな国の女王さまに従うように教育され、大きな国からの監視役もたくさん派遣されました。
そうです、小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまの操り人形にされたのです。
小さな国のお姫様は、なかなか結果を出せませんでした。小さな国のお姫様は、大きな国の女王さまに、いつも叱られてばかりいました。小さな国のお姫様は、夜な夜な月を見上げ泣いていました。
そんな時です! その国の平民の男の子と出会ったのは!
男の子は、従者見習いで、宮殿に住んでました。男の子は、木登りが大好きで、宮殿の大きな木に毎晩のぼって、月を眺めるのが日課でした。そんなある日、宮殿の窓辺で、悲しそうに泣いている、小さな国のお姫様を見かけたのです。
それが、二人の最初の出会いでした。
……で、いろいろあって、
小さな国のお姫様にとって、その男の子は、唯一の味方となり心の支えになりました。小さな国のお姫様が、男の子に、特別な好意と信頼をいだくようになるのには、それほど時間はかかりませんでした。
しかし、お姫様の心境の変化は、周囲に気づかれてしまいます。
そのことを知った大きな国の女王さまは、高貴な身分ではない、平民の男の子を疎ましくおもいました。
そのあとは、もうわかるよね?」
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