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3.泥と林檎と狩猟の女神
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しおりを挟むアテナ様が僕らに起こったこと、これからしようと思っていることを一通り説明する。すべてを聞き終えると、アルテミス様はそこまで興味なさそうに「ふーん」相槌を打った。
「なんか、RPG感あるね。ここはテバイの村だよ」
「ええ、武器と防具は装備しているから安心して。それでアルテミス、あなたも一緒にこの子たちを救うのに手を貸してくれないかしら」
「は?なんで? 今週イベ被ってるからあたし忙しいんだけど。めんどいからイヤよ」
アルテミス様は言葉通りのすっごいイヤそうな顔を浮かべ、よく分からない理由で助力を却下してしまった。
なんとも言えない悲しみが去来するが、そう簡単に神の助力が得られると考えてはいけない。
これが当然だと諦めていると――アテナ様がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「もし手伝ってくれるなら、10年くらい食費が浮くわよ」
ピクリ、とアルテミス様はその言葉に肩を揺らす。気だるげだった瞳が猫のように鋭い光を放ち、アテナ様を凝視した。
「kwsk」
「この子たち、助力の礼に村の小麦を提供してくれるらしいわ。無茶をさせる気はないけど、私たちが満足できる程度には奉納してくれるのよね?」
アテナ様の視線が急にこちらを向き、僕は半ば反射的に首を縦に振ってしまう。10年間、神様2人分と言われると少々恐ろしくもなるが、背に腹は代えられない。
「小麦ィ~? そんなんで、あのエロオヤジと戦わされんの~?」
「毎日好きなだけ、ふわふわもちもちパンよ。さくさくクッキーよ。なにより、この子の作る小麦は世界一美味しいらしいわ」
再び視線を向けられ、今度はこくこくと何度も頷く。それに関しては自信たっぷりだ。
「‥‥‥‥」
アルテミス様は口元を手で覆って視線を机の上に落とし、脈アリな様子で黙考。
やがて顔を上げると、人間離れした美しい赤い瞳が僕を捉えた。神々しさとでも呼ぶべき圧力を正面から受け、思わず後ずさりしそうになる。
「‥‥ねえ、人の子。あんたの村、珈琲豆は栽培してる?」
「い、いえ‥‥してないです」
「この子、豊穣神よ。作物に関しては融通が利くと思うわ」
アテナ様に推され、ソフィは胸の前でぐっと両拳を握る。アルテミス様は瞳だけを動かしてソフィを見、すぐに僕に視線が戻る。
「畜産は? 羊かヤギはいる?」
「いえ、ウチにはいないです‥‥」
「なに贅沢言ってるのよ。あなた、そんな上から交渉できる余裕があるの?」
アテナ様の突っ込みに、アルテミス様の顔がぐんにゃりと歪められた。
「‥‥確かに、今月は課金しすぎてご飯モヤシだけどさ‥‥」
よく分からない単語が飛び出すが、神語だと思ってスルーしよう。
「だから、仕方ないんだって! だって新しい限定衣装どちゃくそシコいのに、めっちゃ絞られてて全然出ないし! でも、推しの為なら身を削ってでもガチャに投資するのが栄えある課金兵団の努めでしょ!?」
「あなた、狙い撃ちは得意じゃなかったかしら?」
「物欲センサーナメんな! あいつは間違いなく神をも凌ぐ最強の敵だから!」
やはり良く分からないが、何かのっぴきならない事態なのだろう。スルーしよう。
「まあ、そうね。仕方ないと思うわ。だけど、ピンチなことには変わりないんでしょう?」
「うぐ‥‥」
「それに手を貸してくれれば、今のモヤシ代さえ全部ガチャに充てられるのよ?」
「――――天啓」
アルテミス様がハッとしてアテナ様を見つめ、その瞳からポロリと鱗が落ちる幻覚を得た。
「お前‥‥天才かよ‥‥」
「知の神だもの」
「だものー!」
アルテミス様は意気揚々とアテナ様の手を取り、ぶんぶんと上下に振ってからビシリと親指を立てて見せた。
「しょーがないわね、来月のガチャの為に、今月はメイン垢以外はランカーから身を引いてあげるわ。感謝しなさい人の子!」
そして突如不遜な態度に切り替わるが、なんか自慢げな子供みたいだったので怒りは湧かなかった。
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