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第三部 世田高の預言者たち
第68話 取り戻した平和
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この日は絶好のピクニック日和であった。
春の日がうららかに世田谷公園を照らしていた。春休みの時期ということもあって、公園内には明人たちだけでなく家族連れも多くいた。
「この辺でいいんじゃない?」
とピクニックバスケットを手に持った千星が明人に言った。
落ち着いたロングワンピースに春色のジャケットを羽織るその姿は、どこまでも艶やかだ。
そこに彼女がいる、ただそれだけで、あたりが華やいでいた。
「いいと思う。ゆっきーとサラは?」
と明人は一緒に来ている幸人とサラに聞いた。
今日は四人で公園ピクニックだ。三界の死闘をくぐり抜けた皆で集まって、平和とランチを満喫しようというわけだ。
「ええよー」
「オレもいい。じゃ、シート敷くぞ」
そう言って、幸十がリュックから取り出したレジャーシートをさっそく芝生の上に広げた。
広げられたシートの上に、今度は千星とサラがそれぞれ持っていたピクニックバスケットを置いた。
「よーし。ねえサラ、せーので一緒に開けよ?」
「ちょっと待ってね……。うん、ええで」
「じゃ、せーの!」
千星のかけ声とともに、二つのバスケットの中身が披露された。
「おおー……!」
明人は、幸十と一緒に感嘆の声をあげた。
中に入っていたのは、見るからに美味しそうな色とりどりのサンドイッチだ。
どれも宝石のように煌めいて見えた。
どちらも千星とサラの手作りである。
千星のサンドイッチはハムサンド、野菜サンド、ツナサンド。かなり頑張ったらしきトンカツサンドまであった。だいぶ肉食よりであるが、おそらく明人にあわせてくれたのだろう。
サラのサンドイッチも負けていない。パストラミサンド、チキンサンド、トマトサンド、サーモンサンド。こちらも申し分なしである。
「すっげえ」
「うん。生きてて良かった」
今にもよだれをたらしそうな幸十に、明人も心底から同意した。
世界一のサンドイッチだ。
ちなみにこうなった発端は千星の競争好きにある。
もともと四人でピクニックに行こうと相談していたのだが、なにがどうしたのか、女子同士の料理対決が含まれることになったのだ。
もっとも、さすがに点数をつけるのは千星以外の全員に却下された。採点は各自の心の中で、というわけだ。
「ふふっ」
「えへへー」
千星とサラが嬉しそうにほほえんだ。
男たちの反応はお気に召すものであったらしい。
他の世田高男子がそばにいなかったのは幸いだ。
このような素晴らしいイベントが催されていると、もし知られたら、彼らは万難を排《はい》して乱入してきたに違いない。
◇ ◇ ◇
「いただきまーす」
四人の声がちょうどそろった。
たまたまそばにいた二羽の白ハトがちらりと四人のほうを向いた。
「ん、おいしい。パンもいいね、これ」
さっそく明人はハムサンドをパクついて、その美味にジンとした。
千星の手作りというだけで感無量なのだが、実際においしくもあった。コンビニのサンドイッチとは次元が違った。
「でしょ? お気に入りのお店のパンなんだよ。はい、お茶もどうぞ」
千星がご機嫌にそう言って、水筒から紙コップに注いだお茶を明人のそばにおいた。
明人にとって、この世にこれ以上のもてなしはないだろう。
「ありがと」
三界で諦めなくてよかった、と明人はつくづく思った。
「サラ、このパストラミビーフ、まさか自作? すっげぇ美味ぇ」
「そやよー。家に代々伝わるレシピなんやわ。口に合うて良かった」
「すげえ。手作りのパストラミサンドなんてオレ初めて食うわ」
こちらはこちらで感動しているらしき幸十に、サラがドヤ顔をした。
簡単に言っているが、かなりがんばったに違いない。パストラミビーフを自作する女子高生が世の中に何人いるだろうか。
「へえ、すごい。あ、わたしもチキンサンド貰っていい?」
「どうぞどうぞ。私もそっちの野菜サンドちょうだい」
「いいよ」
明人と幸十がもしゃもしゃ夢中で食べている間に、千星とサラがお互いの代表選手をトレードした。
「あ、本当だ。おいしい」
「おおきに。千星ちゃんのもええ味しているよ」
二人がたがいに賞賛しあった。
ある種のスポーツマンシップであろうか。
「このチキンサンド、普通のハムを入れてもおいしいんじゃない?」
「あー、それね。昔からのしきたりで、家は豚肉を食べんのよ。もう気にせんでええんとちゃう、って家族とは言いやるんやけどね。いっつも結局よう踏みきらんのやわ」
「へえ、そうなんだ」
千星は意外そうにしたが、幸十はどうもそのことを知っていたらしい。
というのは、お茶をすすりながらも、お預けを食らった犬のようにトンカツサンドをチラチラ見ているからだ。
トンカツは幸十の大好物である。
しかしサラの手前、食べづらいのだろう。
だから、明人は自分が手に取って、代わりにほおばってあげた。
「……」
幸十は一瞬悲しそうな目をしたが、トンカツサンドがなくなったことで諦めがついたのか、サーモンサンドを手に取ってかじりついた。それはそれで美味しかったらしい。嬉しそうな表情が戻った。満足すべきであろう。
そのかじった分を飲みこんだ後、幸十はお茶をまたすすり、
「そういやあっきー、知ってるか? 例のキキコープロダクションな。解散するらしいぞ」
と言った。
キキコープロダクション。貪食界で明人が戦った、あのキキコーの鬼婆の会社である。
彼女の訃報は三界が消滅してからほどなくして、そっと公開された。他界した日付は貪食界で彼女が死んだ日と一致していた。死因は公開されていなかったが、真実は誰にもわからなかっただろう。現代医学の範疇の外だ。
「いや、今聞いた。そうなんだ」
「おう。誰も後を継ごうとしなかったらしいわ。ま、あの事務所は訴訟やトラブルを抱えまくってたって言うからな。へたに継げんわな」
と言って、幸十はサーモンサンドの残りを一気に放りこみ、飲みこんだ。
乱暴に食べたものだから、ソースがほおについていた。
「三界の事件はあんまり騒ぎにならなかったけど、影響はけっこう残ったね」
「本当にな。オレがやってたオンラインゲームにも巻きこまれたのが結構いたらしくてよ。あれ以来、骨のあるプレイヤーとマッチングしなくなった気がするわ」
と残念そうに幸十が言った。
「あ、ゆーちゃん。ほっぺにソースがついたぁるで。ちょっと動かんといてえよ」
サラがポケットティッシュを取り出して、幸十のほおにつきっぱなしだったソースを拭きとった。
だいたいこういう場合、この偏屈な友は『自分でやる』と言うのだが、今回は大人しくされるがままになっていた。なんだか顔も赤い。
(実は嬉しかったりするのかな)
などと思いながら、その様子を見るでもなく見ていると、千星が何を思ったのか、いたずらっぽい笑顔を明人に向けた。
「私も食べさせてあげよっか? 『はい、あーん』って」
と『はい、あーん』の部分をことさら甘い声でのたまった。
サラと幸十がいちゃついているのを、明人がうらやましがっていると思ったらしい。
せっかくなので、
「お願い。二人きりの時にね」
と返した。
冗談であるが、やってくれるならやって欲しい気持ち、なきにしもあらずである。
「ふぇっ!?」
千星が顔を赤くして可愛い唇をひきむすんだ。
この返しは想定外だったらしい。
幸十が梅干を食べたような顔をした。
「二人きりだったらやんのかよ、それ。ベタ甘だな、お前ら」
「や、やんないし! したことないからね!?」
「えー、ホンマ? まあ今はホンマなんかもしらんけど、千星ちゃんっていつかやりそうだよね」
「やりそうだよな」
「……!」
イジる二人に言い返そうとして、しかしうまく言葉がでてこなかったらしく、千星は赤い顔で口をもごつかせていた。
貴重な光景である。
(良い天気だなあ)
と明人は自分がまぜっかえしたことを都合良く忘れ、自分の茶をすすった。
なにげなく広場の真ん中に視線を移すと、幼い子どもが母親と楽しそうにはしゃいでいるのが見えた。
たぶん男の子だろう。ろれつの回っていない可愛い声でなにかを言いながら、噴水そばに止まっていた二羽の白いハトを何度も指差しては、母親の首をかしげさせていた。
平和だ。
幸十にも言ったとおり、三界の出来事は意外なほど騒ぎにならなかった。
あれほど多くの人間を巻きこんで、その爪痕を残したというのにだ。
いちおう、手のひらに数字が見えた者は死ぬ、という都市伝説はネットの片隅に残った。
だが、その程度だ。
死んだ者は自身に起きたことを話せない。
死ななかった者は、自身になにも起きなかったのだから、話さない。
明人たちが心優しい神々とともに命がけで事件を解決したことも、知るのは当人ばかり、というわけだ。
寂しいことに、報奨金のようなものもなかった。
ふと気がつけば、サンドイッチがちょうど食べ尽くされたところだった。
トリを務めたのは幸十だ。
「はーっ、うまかった! ごちそうさん!」
と最後の一口を飲みこんだ幸十が、両手を合わせてありがたやと拝んだ。
「ごちそうさまでした。ありがとね、ちーちゃん、サラ。美味しかったよ」
明人も幸十に続いて二人に礼を言った。
「どういたしまして」
「よろしおあがり」
二人の美少女は、あでやかに微笑んで応えた。
その笑顔はとても華やかで明るくて、明人はただそばで見るだけで幸せに感じられた。
(ま、これがご褒美かな。うん……十分だ)
そう考えた。
もし三界の悪辣な罠を切り抜けられなかったら、この最高のランチも、彼女たちの笑顔も、なかったのだ。
これで十分とするのも、けっして過大評価などではないだろう。
今日のこのランチタイムは、きっと明人の人生における、最良のイベントの一つだったのだから。
春の日がうららかに世田谷公園を照らしていた。春休みの時期ということもあって、公園内には明人たちだけでなく家族連れも多くいた。
「この辺でいいんじゃない?」
とピクニックバスケットを手に持った千星が明人に言った。
落ち着いたロングワンピースに春色のジャケットを羽織るその姿は、どこまでも艶やかだ。
そこに彼女がいる、ただそれだけで、あたりが華やいでいた。
「いいと思う。ゆっきーとサラは?」
と明人は一緒に来ている幸人とサラに聞いた。
今日は四人で公園ピクニックだ。三界の死闘をくぐり抜けた皆で集まって、平和とランチを満喫しようというわけだ。
「ええよー」
「オレもいい。じゃ、シート敷くぞ」
そう言って、幸十がリュックから取り出したレジャーシートをさっそく芝生の上に広げた。
広げられたシートの上に、今度は千星とサラがそれぞれ持っていたピクニックバスケットを置いた。
「よーし。ねえサラ、せーので一緒に開けよ?」
「ちょっと待ってね……。うん、ええで」
「じゃ、せーの!」
千星のかけ声とともに、二つのバスケットの中身が披露された。
「おおー……!」
明人は、幸十と一緒に感嘆の声をあげた。
中に入っていたのは、見るからに美味しそうな色とりどりのサンドイッチだ。
どれも宝石のように煌めいて見えた。
どちらも千星とサラの手作りである。
千星のサンドイッチはハムサンド、野菜サンド、ツナサンド。かなり頑張ったらしきトンカツサンドまであった。だいぶ肉食よりであるが、おそらく明人にあわせてくれたのだろう。
サラのサンドイッチも負けていない。パストラミサンド、チキンサンド、トマトサンド、サーモンサンド。こちらも申し分なしである。
「すっげえ」
「うん。生きてて良かった」
今にもよだれをたらしそうな幸十に、明人も心底から同意した。
世界一のサンドイッチだ。
ちなみにこうなった発端は千星の競争好きにある。
もともと四人でピクニックに行こうと相談していたのだが、なにがどうしたのか、女子同士の料理対決が含まれることになったのだ。
もっとも、さすがに点数をつけるのは千星以外の全員に却下された。採点は各自の心の中で、というわけだ。
「ふふっ」
「えへへー」
千星とサラが嬉しそうにほほえんだ。
男たちの反応はお気に召すものであったらしい。
他の世田高男子がそばにいなかったのは幸いだ。
このような素晴らしいイベントが催されていると、もし知られたら、彼らは万難を排《はい》して乱入してきたに違いない。
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四人の声がちょうどそろった。
たまたまそばにいた二羽の白ハトがちらりと四人のほうを向いた。
「ん、おいしい。パンもいいね、これ」
さっそく明人はハムサンドをパクついて、その美味にジンとした。
千星の手作りというだけで感無量なのだが、実際においしくもあった。コンビニのサンドイッチとは次元が違った。
「でしょ? お気に入りのお店のパンなんだよ。はい、お茶もどうぞ」
千星がご機嫌にそう言って、水筒から紙コップに注いだお茶を明人のそばにおいた。
明人にとって、この世にこれ以上のもてなしはないだろう。
「ありがと」
三界で諦めなくてよかった、と明人はつくづく思った。
「サラ、このパストラミビーフ、まさか自作? すっげぇ美味ぇ」
「そやよー。家に代々伝わるレシピなんやわ。口に合うて良かった」
「すげえ。手作りのパストラミサンドなんてオレ初めて食うわ」
こちらはこちらで感動しているらしき幸十に、サラがドヤ顔をした。
簡単に言っているが、かなりがんばったに違いない。パストラミビーフを自作する女子高生が世の中に何人いるだろうか。
「へえ、すごい。あ、わたしもチキンサンド貰っていい?」
「どうぞどうぞ。私もそっちの野菜サンドちょうだい」
「いいよ」
明人と幸十がもしゃもしゃ夢中で食べている間に、千星とサラがお互いの代表選手をトレードした。
「あ、本当だ。おいしい」
「おおきに。千星ちゃんのもええ味しているよ」
二人がたがいに賞賛しあった。
ある種のスポーツマンシップであろうか。
「このチキンサンド、普通のハムを入れてもおいしいんじゃない?」
「あー、それね。昔からのしきたりで、家は豚肉を食べんのよ。もう気にせんでええんとちゃう、って家族とは言いやるんやけどね。いっつも結局よう踏みきらんのやわ」
「へえ、そうなんだ」
千星は意外そうにしたが、幸十はどうもそのことを知っていたらしい。
というのは、お茶をすすりながらも、お預けを食らった犬のようにトンカツサンドをチラチラ見ているからだ。
トンカツは幸十の大好物である。
しかしサラの手前、食べづらいのだろう。
だから、明人は自分が手に取って、代わりにほおばってあげた。
「……」
幸十は一瞬悲しそうな目をしたが、トンカツサンドがなくなったことで諦めがついたのか、サーモンサンドを手に取ってかじりついた。それはそれで美味しかったらしい。嬉しそうな表情が戻った。満足すべきであろう。
そのかじった分を飲みこんだ後、幸十はお茶をまたすすり、
「そういやあっきー、知ってるか? 例のキキコープロダクションな。解散するらしいぞ」
と言った。
キキコープロダクション。貪食界で明人が戦った、あのキキコーの鬼婆の会社である。
彼女の訃報は三界が消滅してからほどなくして、そっと公開された。他界した日付は貪食界で彼女が死んだ日と一致していた。死因は公開されていなかったが、真実は誰にもわからなかっただろう。現代医学の範疇の外だ。
「いや、今聞いた。そうなんだ」
「おう。誰も後を継ごうとしなかったらしいわ。ま、あの事務所は訴訟やトラブルを抱えまくってたって言うからな。へたに継げんわな」
と言って、幸十はサーモンサンドの残りを一気に放りこみ、飲みこんだ。
乱暴に食べたものだから、ソースがほおについていた。
「三界の事件はあんまり騒ぎにならなかったけど、影響はけっこう残ったね」
「本当にな。オレがやってたオンラインゲームにも巻きこまれたのが結構いたらしくてよ。あれ以来、骨のあるプレイヤーとマッチングしなくなった気がするわ」
と残念そうに幸十が言った。
「あ、ゆーちゃん。ほっぺにソースがついたぁるで。ちょっと動かんといてえよ」
サラがポケットティッシュを取り出して、幸十のほおにつきっぱなしだったソースを拭きとった。
だいたいこういう場合、この偏屈な友は『自分でやる』と言うのだが、今回は大人しくされるがままになっていた。なんだか顔も赤い。
(実は嬉しかったりするのかな)
などと思いながら、その様子を見るでもなく見ていると、千星が何を思ったのか、いたずらっぽい笑顔を明人に向けた。
「私も食べさせてあげよっか? 『はい、あーん』って」
と『はい、あーん』の部分をことさら甘い声でのたまった。
サラと幸十がいちゃついているのを、明人がうらやましがっていると思ったらしい。
せっかくなので、
「お願い。二人きりの時にね」
と返した。
冗談であるが、やってくれるならやって欲しい気持ち、なきにしもあらずである。
「ふぇっ!?」
千星が顔を赤くして可愛い唇をひきむすんだ。
この返しは想定外だったらしい。
幸十が梅干を食べたような顔をした。
「二人きりだったらやんのかよ、それ。ベタ甘だな、お前ら」
「や、やんないし! したことないからね!?」
「えー、ホンマ? まあ今はホンマなんかもしらんけど、千星ちゃんっていつかやりそうだよね」
「やりそうだよな」
「……!」
イジる二人に言い返そうとして、しかしうまく言葉がでてこなかったらしく、千星は赤い顔で口をもごつかせていた。
貴重な光景である。
(良い天気だなあ)
と明人は自分がまぜっかえしたことを都合良く忘れ、自分の茶をすすった。
なにげなく広場の真ん中に視線を移すと、幼い子どもが母親と楽しそうにはしゃいでいるのが見えた。
たぶん男の子だろう。ろれつの回っていない可愛い声でなにかを言いながら、噴水そばに止まっていた二羽の白いハトを何度も指差しては、母親の首をかしげさせていた。
平和だ。
幸十にも言ったとおり、三界の出来事は意外なほど騒ぎにならなかった。
あれほど多くの人間を巻きこんで、その爪痕を残したというのにだ。
いちおう、手のひらに数字が見えた者は死ぬ、という都市伝説はネットの片隅に残った。
だが、その程度だ。
死んだ者は自身に起きたことを話せない。
死ななかった者は、自身になにも起きなかったのだから、話さない。
明人たちが心優しい神々とともに命がけで事件を解決したことも、知るのは当人ばかり、というわけだ。
寂しいことに、報奨金のようなものもなかった。
ふと気がつけば、サンドイッチがちょうど食べ尽くされたところだった。
トリを務めたのは幸十だ。
「はーっ、うまかった! ごちそうさん!」
と最後の一口を飲みこんだ幸十が、両手を合わせてありがたやと拝んだ。
「ごちそうさまでした。ありがとね、ちーちゃん、サラ。美味しかったよ」
明人も幸十に続いて二人に礼を言った。
「どういたしまして」
「よろしおあがり」
二人の美少女は、あでやかに微笑んで応えた。
その笑顔はとても華やかで明るくて、明人はただそばで見るだけで幸せに感じられた。
(ま、これがご褒美かな。うん……十分だ)
そう考えた。
もし三界の悪辣な罠を切り抜けられなかったら、この最高のランチも、彼女たちの笑顔も、なかったのだ。
これで十分とするのも、けっして過大評価などではないだろう。
今日のこのランチタイムは、きっと明人の人生における、最良のイベントの一つだったのだから。
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