偽装結婚の成れの果て

如月美羽

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それは突然

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昔から、“お前はダメなやつだ”と言われて育ってきた。
貧乏な家ではなくて、地位だけで言えば、恵まれた生まれ。飢えることなんてなく、大体のものが手に入る。
そんな家に生まれ落ちたけれど、いいのは見た目だけで、蓋を開ければ、真っ黒な渦そのものだった。
勉強を出来る体。不器用でもない。
ただ、両親に求められていなかったらしい俺は、誰にも歓迎されなかった。
大した教育を受けさせてもらえず、自由に外へ出ることも出来ず、部屋の窓からただ広い外を眺めるだけ。
いつか婿に行けたら、なんて思っていたのは10年くらい前までで、今となってはもう、そんなことが無理なことは分かっていた。
このまま、歳をとって死ぬだけ。
俺の人生、なにもなかったな。

「…………」

このつまらない人生はいつ終わるんだろうかと想いを巡らせては今日も目を閉じた。
瞬間。突然大きな音が鳴り、扉が勢いよく開かれた。
ドタドタと、自室へ数年ぶりに人が入ってくる。

「今すぐ身支度を整えなさい」
「と、父さんっ?なに……っ?」

久々に会った。
父さんは俺の顔を一目見ると、そのまま背を向ける。

「顔だけはいいんだ。少しはこの家の役に立て」

それだけで、この後になにがあるのか、大体が分かった。
奴隷として、売られるのかも。
玩具として、貸し出されるのかも。
こわい、いやだ。
そんな感情は当たり前にあっても、拒否権は当然なくて、お手伝いさんにされるがまま身を整えられた。
今まで着たことなんて一度もない綺麗でしっかりとしたつくりの服。
こんな格好で、一体どこへ?
奴隷商ならわざわざこんな格好をする必要はない。
馬車に乗せられて、拳を握った。
最悪の事態を想定しよう。
何があっても、なにをされても、耐えられるように。
今までだって、そうだった。
大丈夫、大丈夫。
逃げ出すことは許されないから、せめて心の準備をして、ショックが小さくなるように。
40分ほどかけて着いた場所は、わずかに見覚えのある、大きな庭園だった。
ここで、なにを……

「お前は黙っていればいい」

父親に言われ、その後をついていく。
吸って、吐いて。
感情を、殺すんだ。


大広間に入ると、若い男が1人、突っ立っていた。
体躯が良く、顔立ちも良い。まるでどこかの王子に見えてもおかしくない立ち姿。

「いやあ、うちの愚息をお気に召していただけただなんて」
「いえいえ。こちらこそ助かりました。両親にも伝えてあるので、あとは任せてください」

父親に両肩を押され、男へ差し出される。
そのまま引き取られて、俺の父親は、さっさと帰っていった。
ど、どういう状況?

肩に回された手が離されて、距離ができる。
恐る恐る見上げると、碧く綺麗な瞳と目が合った。が、その顔は綺麗とは程遠い。

「お前の部屋はこっちだ。こい」

スタスタと歩いていく背中を慌てて追いかける。
ついさっきまで、あんなに爽やかな顔をしていたのに。

「あ、あの。部屋って……」
「同じ部屋なんか疲れるだろ。基本は自室で過ごせ。俺が呼んだ時だけ来ればいい」
「よ、呼んだ時……」

俺、ここの使用人になるの?どういうこと?
部屋に着いても訳が分からず必死になって考えていると、男がため息を吐いて、振り返った。

「聞いてないのか。お前は、大金と交換された。今日から俺の嫁だ。分かったな」
「よ、嫁……っ?」
「嫁って言っても形だけだ。俺には別の女がいるし、あくまでお前は都合の良い性処理係。相手さえしてくれれば良い」

は、はぁ?

「俺、そんなことっ」
「文句は言うな。黙って聞いていろ。拒否権がないから“売られて”きたんだろ。今日の夜から手伝いがここに来るから。ちゃんと、使えるようにしておけよ」

言うだけ言って、男はバタンと扉を閉めて出ていってしまった。

な、なにこれ……
俺が、まだ若い男なら理解が出来たかもしれない。
まさかこんな、いい歳して、嫁入りと夜のお相手とか……
“大金”とやらに釣り合うことができるか、怒られないか、満足させられるか、不安でしかなかった。
もし出来なかったら、今度こそ、捨てられるかもしれない。殺されるかもしれない。
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