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だが、この展開は諒真たちにとっても望むところ。作戦通りに敵の能力を封じられるのならば多少のリスクは負う価値がある。
知らず知らずのうちに諒真と咲良は目線で合図する。この両手剣を砕いた瞬間が勝負だとお互いに認識する。
勝負の時は次の瞬間にやってくる。
大上段から迫ってくる敵の両手剣。
迎え撃つ諒真は右腕を迎撃に充てる。
二人の能力がぶつかった瞬間に両手剣は砕け散り、諒真の身体にはいくつかの切り傷が出来上がる。
両手剣の刀身を砕いたとは言え、柄に近い部分は壊しきれずにその勢いのまま諒真の腹部を切り裂く。
また、砕いた刀身の一部は塵に変わる前に諒真のほほを切り裂く。
ある程度の傷を負ったとは言え、これで敵の手の中から武器は消え失せた。
そして、諒真と敵がぶつかる瞬間に咲良はスプリンクラーのスイッチを押す。
瞬時に地面から複数のスプリンクラーが跳ね上がり周囲に水をまき散らす。
「……ッ!!」
散水を目の当たりにした瞬間、男は驚愕と焦りを表情に浮かべる。
ダメージを負い瞬時に攻撃に移れない諒真にかわり、咲良が男との距離を詰める。
その右手には能力で作られた水の刃が、周囲には氷でできた槍がいくつも浮かんでいる。
男の首を刎ねようと剣の射程距離に入った瞬間、咲良は不吉な予感を覚える。
ニヤリ、と。確かに男の表情が焦りのソレから愉悦にかわる瞬間を咲良は目撃する。
まずいと思ったその時にはすべてが遅かった。
男が懐に手を入れた次の瞬間には咲良の腹部は小ぶりな刃で貫かれた後だった。
「ガッ……」
「ククク、ハーッハッハッハ」
痛みをこらえる咲良の声と哄笑する男の声が重なる。
「良い判断だった、良い判断だったぞ。俺の能力が水に弱いと看破し、武器を作り出す暇を与えずに周囲を水浸しにするとはな」
諒真と咲良が地に伏す傍らで男は上機嫌で語り続ける。
「だが作戦に頼りすぎたな。明らかに戦いに慣れていない小僧が防戦一方なのに小娘が助けに入ってこない時点で怪しすぎる。何か企んでいるのがバレバレだったぞ」
男の講釈を聞き流し、立ち上がれるまでに回復した諒真と咲良は男から距離をとる。
浅いとは言い切れ無い傷だが、咲良の能力によって二人の傷口は氷で止血されている。
「まさか黒コートの中に武器を隠し持っているとは思いもしなかったよ」
「想像力の欠如だな。俺が能力で武器を生成しているとわかった奴らはみんな俺の両手にばかり注目する」
「ですけど、隠し持っている武器もそれで打ち止めですよね。複数持ち歩けばそれだけ他の人に気づかれる危険性も大きくなるでしょうし」
「ああ、そうさ。俺の奥の手はこれ一本きり、この水が降り注いでいる間は能力で武器の補充もできないしこいつを壊されたら万事休すだ」
明らかに自分に不利になる情報を愉悦まじりに答える。
諒真はその事に猜疑的になるも理由はあっさりと男の口から発せられる。
「だが、だからこそ生きているという実感がわくというものだろう。俺は一方的な殺人を犯したいわけではない。自分が高みに登れるような素晴らしい殺し合いがしたいのさ。そのためには俺が殺されるくらいがちょうどいい」
常人には到底理解しえないようなことを真顔でのたまう。もちろん、既に一度死に蘇りを果たしている諒真と咲良にしても男の言っていることは一ミリも共感できない。
「要するに俺たちに殺されてくれるってことか?」
「殺せるのならそれでもいい。殺すか殺されるか、そのギリギリ感を楽しめれば俺はそれいいのさ」
「でしたら、全力で殺させてもらいます。今度こそ小細工なしの真っ向勝負で」
男を殺せなかったのは計算外だが、男の能力を封じた時点で二人の作戦は成功している。
傷ついているとはいえ能力を十分使える二人と、いまだ無傷ながらも能力は使えず武器は一振りの剣だけの男。
どちらが有利とは一概には言えないが、お互いに長期戦は避けたいのだろう。
自然と得物を構えた三人は前傾姿勢へとなってゆく。
できれば一撃で、そうでなくても数合のうちに勝負は決するのだろう。
計ったように三人は同時に地を蹴る。
初撃を繰り出したのは周囲に能力の材料がふんだんにある咲良、能力で作り出した巨大なハンマーを男めがけて繰り出す。
男の方は先ほどまでの戦い方とは違い、それを真正面から受けることはせず、右手に握りしめた小ぶりな刃で受け流す。
二撃目を繰り出したのは諒真、異形の右腕で今までと同じように男の得物を砕こうと迫る。
しかし、これもまた男に避けられすれ違いざまに左腕を斬り付けられる。
すんでのところで咲良の能力により諒真の左腕は守られるが男のこれまでの戦い方との違いにより二人は困惑する。
今までの男の戦い方は力任せ、能力任せに斬りつけてくるだけでそこには技術というものが見えなかった。
だが、今は違う。握りしめた刃をまるで自分の腕のように振るい、少しでも傷つけられそうになれば相手の攻撃を迷わずに避ける。
「さっきまでとは違って随分と慎重だな」
困惑からか諒真の口から思わず言葉が漏れる。
「クックック、こいつを壊されるのは困るのでね」
「先程のあなたの言葉をそのままお返ししますよ。あなたの武器を壊さなきゃいけないわけじゃありません」
「俺を殺せればそれでいい……か。いいな、いいな、その殺気、その心意気。それでこそ乗り越えがいがある」
男の言葉と同時に諒真と咲良は走り出す。既にこの男と言葉を交わす意味はないと判断したのだろう。
余裕たっぷりに構えている男は襲い掛かってくる諒真に向かって足元の泥をけり上げる。
勢いよく跳ね上がった泥水は諒真の顔面へと吸い込まれるようにぶつかり諒真の視界をふさぐ。
「シッ」
咲良が放った複数の氷柱を躱しながら、男は咲良に向かって右手の得物を振り下ろす。
「……グッ、アアアアア」
その刃が咲良の左肩に埋まると同時に咲良は自身の能力でその左肩ごと相手の武器を氷漬けにする。
最後に残った得物を壊されたら困ると思ったのか、今までとは違い男は氷漬けにされた得物を離さずにギョっとした表情を作る。
「諒真さん、今です」
視力がほとんど回復していない諒真ではあったが、咲良の声からアタリをつけて右腕を思いっきり振りかぶる。
運がいいのか悪いのか、振り回した右腕は男の左肩へと直撃し男の肩をえぐり取る。
「グアアアアッ」
自身に襲い掛かった強烈な痛みから思わず男は得物から手を放し、左肩を抑える。
男が初めて見せる明確な隙。これを見逃す咲良ではない。次の瞬間には右手に握った水の刃が男の首を胴から見事に切り離していた。
「諒真さんの敵……取らせていただきました」
咲良の宣言通り、男は絶命し二度と立ち上がることはなかった。
「これで、終わった……んだよ……ね?」
目の前には明らかに死んでいる男の姿があるものの諒真はなかなか警戒を解くことはできなかった。
諒真に戦闘経験がほとんどないことも原因の一つだが、それ以上に化け物のような男のことだ、たとえ胴と頭が切り離されても立ち上がってきそうな雰囲気がある。
「大丈夫、ですよ。確かに死亡しています」
知らず知らずのうちに諒真と咲良は目線で合図する。この両手剣を砕いた瞬間が勝負だとお互いに認識する。
勝負の時は次の瞬間にやってくる。
大上段から迫ってくる敵の両手剣。
迎え撃つ諒真は右腕を迎撃に充てる。
二人の能力がぶつかった瞬間に両手剣は砕け散り、諒真の身体にはいくつかの切り傷が出来上がる。
両手剣の刀身を砕いたとは言え、柄に近い部分は壊しきれずにその勢いのまま諒真の腹部を切り裂く。
また、砕いた刀身の一部は塵に変わる前に諒真のほほを切り裂く。
ある程度の傷を負ったとは言え、これで敵の手の中から武器は消え失せた。
そして、諒真と敵がぶつかる瞬間に咲良はスプリンクラーのスイッチを押す。
瞬時に地面から複数のスプリンクラーが跳ね上がり周囲に水をまき散らす。
「……ッ!!」
散水を目の当たりにした瞬間、男は驚愕と焦りを表情に浮かべる。
ダメージを負い瞬時に攻撃に移れない諒真にかわり、咲良が男との距離を詰める。
その右手には能力で作られた水の刃が、周囲には氷でできた槍がいくつも浮かんでいる。
男の首を刎ねようと剣の射程距離に入った瞬間、咲良は不吉な予感を覚える。
ニヤリ、と。確かに男の表情が焦りのソレから愉悦にかわる瞬間を咲良は目撃する。
まずいと思ったその時にはすべてが遅かった。
男が懐に手を入れた次の瞬間には咲良の腹部は小ぶりな刃で貫かれた後だった。
「ガッ……」
「ククク、ハーッハッハッハ」
痛みをこらえる咲良の声と哄笑する男の声が重なる。
「良い判断だった、良い判断だったぞ。俺の能力が水に弱いと看破し、武器を作り出す暇を与えずに周囲を水浸しにするとはな」
諒真と咲良が地に伏す傍らで男は上機嫌で語り続ける。
「だが作戦に頼りすぎたな。明らかに戦いに慣れていない小僧が防戦一方なのに小娘が助けに入ってこない時点で怪しすぎる。何か企んでいるのがバレバレだったぞ」
男の講釈を聞き流し、立ち上がれるまでに回復した諒真と咲良は男から距離をとる。
浅いとは言い切れ無い傷だが、咲良の能力によって二人の傷口は氷で止血されている。
「まさか黒コートの中に武器を隠し持っているとは思いもしなかったよ」
「想像力の欠如だな。俺が能力で武器を生成しているとわかった奴らはみんな俺の両手にばかり注目する」
「ですけど、隠し持っている武器もそれで打ち止めですよね。複数持ち歩けばそれだけ他の人に気づかれる危険性も大きくなるでしょうし」
「ああ、そうさ。俺の奥の手はこれ一本きり、この水が降り注いでいる間は能力で武器の補充もできないしこいつを壊されたら万事休すだ」
明らかに自分に不利になる情報を愉悦まじりに答える。
諒真はその事に猜疑的になるも理由はあっさりと男の口から発せられる。
「だが、だからこそ生きているという実感がわくというものだろう。俺は一方的な殺人を犯したいわけではない。自分が高みに登れるような素晴らしい殺し合いがしたいのさ。そのためには俺が殺されるくらいがちょうどいい」
常人には到底理解しえないようなことを真顔でのたまう。もちろん、既に一度死に蘇りを果たしている諒真と咲良にしても男の言っていることは一ミリも共感できない。
「要するに俺たちに殺されてくれるってことか?」
「殺せるのならそれでもいい。殺すか殺されるか、そのギリギリ感を楽しめれば俺はそれいいのさ」
「でしたら、全力で殺させてもらいます。今度こそ小細工なしの真っ向勝負で」
男を殺せなかったのは計算外だが、男の能力を封じた時点で二人の作戦は成功している。
傷ついているとはいえ能力を十分使える二人と、いまだ無傷ながらも能力は使えず武器は一振りの剣だけの男。
どちらが有利とは一概には言えないが、お互いに長期戦は避けたいのだろう。
自然と得物を構えた三人は前傾姿勢へとなってゆく。
できれば一撃で、そうでなくても数合のうちに勝負は決するのだろう。
計ったように三人は同時に地を蹴る。
初撃を繰り出したのは周囲に能力の材料がふんだんにある咲良、能力で作り出した巨大なハンマーを男めがけて繰り出す。
男の方は先ほどまでの戦い方とは違い、それを真正面から受けることはせず、右手に握りしめた小ぶりな刃で受け流す。
二撃目を繰り出したのは諒真、異形の右腕で今までと同じように男の得物を砕こうと迫る。
しかし、これもまた男に避けられすれ違いざまに左腕を斬り付けられる。
すんでのところで咲良の能力により諒真の左腕は守られるが男のこれまでの戦い方との違いにより二人は困惑する。
今までの男の戦い方は力任せ、能力任せに斬りつけてくるだけでそこには技術というものが見えなかった。
だが、今は違う。握りしめた刃をまるで自分の腕のように振るい、少しでも傷つけられそうになれば相手の攻撃を迷わずに避ける。
「さっきまでとは違って随分と慎重だな」
困惑からか諒真の口から思わず言葉が漏れる。
「クックック、こいつを壊されるのは困るのでね」
「先程のあなたの言葉をそのままお返ししますよ。あなたの武器を壊さなきゃいけないわけじゃありません」
「俺を殺せればそれでいい……か。いいな、いいな、その殺気、その心意気。それでこそ乗り越えがいがある」
男の言葉と同時に諒真と咲良は走り出す。既にこの男と言葉を交わす意味はないと判断したのだろう。
余裕たっぷりに構えている男は襲い掛かってくる諒真に向かって足元の泥をけり上げる。
勢いよく跳ね上がった泥水は諒真の顔面へと吸い込まれるようにぶつかり諒真の視界をふさぐ。
「シッ」
咲良が放った複数の氷柱を躱しながら、男は咲良に向かって右手の得物を振り下ろす。
「……グッ、アアアアア」
その刃が咲良の左肩に埋まると同時に咲良は自身の能力でその左肩ごと相手の武器を氷漬けにする。
最後に残った得物を壊されたら困ると思ったのか、今までとは違い男は氷漬けにされた得物を離さずにギョっとした表情を作る。
「諒真さん、今です」
視力がほとんど回復していない諒真ではあったが、咲良の声からアタリをつけて右腕を思いっきり振りかぶる。
運がいいのか悪いのか、振り回した右腕は男の左肩へと直撃し男の肩をえぐり取る。
「グアアアアッ」
自身に襲い掛かった強烈な痛みから思わず男は得物から手を放し、左肩を抑える。
男が初めて見せる明確な隙。これを見逃す咲良ではない。次の瞬間には右手に握った水の刃が男の首を胴から見事に切り離していた。
「諒真さんの敵……取らせていただきました」
咲良の宣言通り、男は絶命し二度と立ち上がることはなかった。
「これで、終わった……んだよ……ね?」
目の前には明らかに死んでいる男の姿があるものの諒真はなかなか警戒を解くことはできなかった。
諒真に戦闘経験がほとんどないことも原因の一つだが、それ以上に化け物のような男のことだ、たとえ胴と頭が切り離されても立ち上がってきそうな雰囲気がある。
「大丈夫、ですよ。確かに死亡しています」
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