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「例外……ですか」
「まず一つは生まれながらに能力を発現させている能力者だね。これは母体から出てくるときの強烈なストレスを死と認識して発現するらしい。その場合の能力は人それぞれで共通しているものではないんだ」
「生まれながらの能力者……。そんな人たちがいるんですね」
「はい、この研究所にも一人いますよ。戦闘に適した能力ではないので主に事務の仕事をしていますけど」
ブライアンの言っていることを実例を出して補足する咲良。
「そしてもう一つが強烈な欲望をもって蘇った者たち。死の原因よりも自身の欲望を優先させて進化した者たち」
「……欲望」
「あの男は間違いなくこれに当てはまります。人を殺すためだけに修めた能力。法を犯す能力者になる人のほとんどがこの人たちです」
「自身の欲望に正直な証だからね。手に入れた能力を存分に使おうとして暴れる輩が多いんだ」
ブライアンはため息まじりに説明をする。手に入れた能力を見せびらかしたい、自分の欲望の思うままに活用したい気持ちはわからないでもない。
それでも誰かの迷惑になる形で使うのは間違っているし、人を殺すためだけに使うなんてもってのほかだ。
「ということはブライアンさんが最初に説明してくれた捕獲すべき能力者っていうのは」
「そうだね、今回の相手は大いに当てはまるよ。諒真君を殺している時点で法を犯しているし、二人が来なかった場合には生徒を殺害するとまで宣言している。捕獲するのには十分すぎるほどの理由だ」
確かに確実に一人は殺していて、更には殺害予告までしているのだ。これで法を犯していないというのは無理があるだろう。
「それにあの男は私たちを殺すとまで言っていますからね。捕獲が難しい場合は殺しても許されるレベルです」
「そうだね、一番大事なことは自分の身を守ること。これは敵対している能力者との戦闘では絶対だ」
咲良とブライアンは直接的に今回の相手は殺しても大丈夫だと諒真に告げる。
「でも、殺してしまったら警察に追及されてしまうのでは?」
だからこそ諒真の頭の中には一つの考えが浮かぶ。自分が殺されそうになっているからと言って相手を殺してしまえばそれは過剰防衛だ。
「大丈夫だよ。犯罪能力者を相手にする場合、警察には介入されない。これは現行の警察組織では能力者を相手にすることができないからだ。国から支援を受けている以上、警察の上層部とも話はついているから安心してほしい」
「……警察……安心…………」
どうしてだろう、ブライアンが言うとまともなことでも簡単には信頼できないのは。
「大丈夫ですよ、諒真さん。確かに所長の言うことは信頼しにくいんですけど、警察との連携はしっかりとれていますから。……私たちが率先して法を犯さない限り逮捕されることはありません」
「そうとも、諒真君や咲良ちゃんはそんなことしないとわかっているからいう必要も感じていなかったけれどもねっ。基本的に犯罪能力者を相手にしている場合には法律を気にする必要はないよ」
「とはいえ、一般人に見られたら一大事ですからそこは気を付けなければなりません。あと、建物なんかの被害も後々研究所が賠償することになるので少ない方が喜ばれます」
「あくまで黙認されるのは犯罪能力者に直接関係する事だけってわけか」
ブライアンと咲良の説明に納得がいく諒真。つまりは、なるべく周りへの被害を出さずに暴れている能力者を捕獲するのが肝心。捕獲できない場合には殺害することも許可されているが、一般人に能力使用の瞬間を見られてはいけない。要するにそういうことだろう。
「じゃあ、次に今回の具体的な対策に移ろうか」
三人が現状の認識を共有できたことを確認してから、ブライアンは次に話し合うべき事柄に移る。
「そうですね、まず諒真さんはもう少しまともに戦えるようにならなくてはなりません」
「やっぱりこの間の訓練だけじゃ足りなかったかな?」
「いえ、これは私が悪いんです。あの男の能力は私の能力では歯が立ちません。奇襲が可能だったら手はあったんですが、真正面からの戦いでは立ち向かうすべがありません」
確かに咲良の能力は敵の能力を破壊することはもちろん、敵に傷をつけることもできなかった。
「なるほど、咲良ちゃんの能力はお世辞にも破壊力があるとは言い難いからね。相手が本物の刃物を作り出せるとしたらまともに戦うのは難しいだろうね」
「でも、諒真さんの能力は相手の武器を破壊していました。ですから、諒真さんには相手の足止めをお願いしたいんです」
「俺があの男を足止め……」
あの化け物のような男を相手に真正面から戦う。それは確かに一度は成功させたものの、次もまた同じようにできるとは限らない。
「諒真さんの負担が大きいのは百も承知です。でも、何とか相手の目を逸らしていただければ私が隙を見てあの男を殺します」
「隙を見てって……」
咲良は申し訳なさそうに諒真に頼むが、諒真の方はいまいち自信がない。咲良のためならば命を懸けるとまで言った諒真ではあったが、勝算もないのに安請け合いはしたくない。
「ふむ、なるほど。ということは敵の弱点を突かなくてはならないね」
「……弱点……ですか?」
「そうだよ。諒真君の能力がいくら的の能力を破壊できるとは言っても敵はいくらでも武器を作り出せる。だとしたら、イタチごっこになって結局隙なんてできないかもしれない」
「……所長の言う通りですね。これから諒真さんを鍛え上げてもたかが知れていますし、何らかの弱点を見つけないと厳しいかもしれませんね」
「二人は目の前で敵の能力を見ているわけだけど、何か気づいたことはないかね?」
ブライアンにとってはこちらの方が本領といったことなのだろう。研究者としての好奇心もあってかぐいぐいと二人に迫ってくる。
「何か……と言われても困ってしまうんですが、一度目は何もできずにただ殺されただけですし……」
「私の方は……そうですね。あの男は自分の武器の伸縮や形状を自在に変えているようでした。振り回すのに長すぎると感じた時に、持っていた長刀を二本の小太刀に変化させていました」
「ほう、それは興味深い話だね。……ちなみにそれは最初に持っていた武器を消してから新たに作り出した……という意味かい?」
「いいえ、文字通り長刀を小太刀に変換していました。持っていた武器を手放した気配はないのに、次の瞬間には得物は小太刀になっていました」
それは確かに諒真も見た光景だから間違いはない。
「あ、でも俺が武器を破壊した時にはそれを捨ててから新たに武器を作り出してましたよ」
「ふむ。壊れた武器は再利用ができないのか……それとも、ただ単に壊れてしまったものには興味がわかないのか……」
「でも、直ぐに新しい武器を手にしていたので特別隙になるってわけじゃなさそうですけどね」
「なるほど。次の武器を作るのに時間がかかるようならば諒真君に持っている武器を破壊させてから咲良ちゃんが倒すという手段が取れたんだがね」
「どうにかして新しく武器を作れない状況に持ち込めればそれが一番なんですけどね」
咲良は思案顔でそう提案する。
「確かに芦沢さんの言う通りだね。アイツは人を斬り慣れている感じだったけど、身体の動かし方は普通で武術をたしなんでいる風じゃなかった」
「ふむ、それならば諒真君でも太刀打ちできるかもしれないね。身体的な能力の上昇は諒真君の方が上のはずだし」
「どういうことですか?」
「蘇りの際の身体能力の向上には一定の法則があってね、能力の使用半径が広いほどその身体能力は蘇り前と変わらないというものなんだ」
「私の能力は自身が触れた水を半径十メートル内の空間で自由に操るというものです、諒真さんの能力は自分の右腕を変質させる能力。そして、あの男の能力はおそらく自身の腕の中に自在に刃物を出現させる能力」
「要するにこの三人の中では諒真君が一番身体能力が底上げされており、咲良ちゃんが蘇り前と一番変わらないということだね」
「加えて言えば、年齢の差もあると思います。見る限り二十代の後半から三十代の前半くらいのあの男と、成長期の真っただ中にいる諒真さんでは元々の体力が違います」
「……成長期、あんまり実感はないけどそんなに違うものかな?」
諒真にとっては一回り違うだけでそこまで体力に差が出るのかどうかはわからない。なにせ普段接している大人といえば教師か親くらいのもので、体力の比べあいなどしたこともないからだ。
「両方共と手を合わせた私が保証します。諒真さんの方が体力がありましたし力も強かったですよ」
不安そうな顔をしている諒真に対して咲良は安心するようにと、にっこりと微笑みかける。
「そういうことなら、なおさら相手の能力を無効化した方がよさそうだね。……どうだい諒真君、他に何か気づいたことはないかな?」
「……気づいたこと、ですか」
「…………そうだね、例えば相手の能力が消える瞬間を見たと言ったが君が破壊した相手の武器はその後どうなったんだい?」
「どうって、確か粉々に砕けて……塵みたいになって消えましたけど」
その時の状況を思い出しつつ、一言一言探るように発現する諒真。
「ほう、塵になって消えたのかい?」
「え、あ、はい。……たしか、そうです」
「それは興味深いよ諒真君。何かを生み出す能力者にはワタシも出会ったことがあるがね、彼らの生み出す能力というのは物理法則を超えて何もないところから現れて、何もなかったように消えていくんだ」
「……何もなかったように、ですか?」
「そうだよ。例えば火をおこすためには酸素と可燃物と火種が必要だ。だが、能力者はそこが真空だろうが水の中だろうが自在に火を生み出すことができる。それと同じように能力を消しさえすればその痕跡は一切残らない」
「まず一つは生まれながらに能力を発現させている能力者だね。これは母体から出てくるときの強烈なストレスを死と認識して発現するらしい。その場合の能力は人それぞれで共通しているものではないんだ」
「生まれながらの能力者……。そんな人たちがいるんですね」
「はい、この研究所にも一人いますよ。戦闘に適した能力ではないので主に事務の仕事をしていますけど」
ブライアンの言っていることを実例を出して補足する咲良。
「そしてもう一つが強烈な欲望をもって蘇った者たち。死の原因よりも自身の欲望を優先させて進化した者たち」
「……欲望」
「あの男は間違いなくこれに当てはまります。人を殺すためだけに修めた能力。法を犯す能力者になる人のほとんどがこの人たちです」
「自身の欲望に正直な証だからね。手に入れた能力を存分に使おうとして暴れる輩が多いんだ」
ブライアンはため息まじりに説明をする。手に入れた能力を見せびらかしたい、自分の欲望の思うままに活用したい気持ちはわからないでもない。
それでも誰かの迷惑になる形で使うのは間違っているし、人を殺すためだけに使うなんてもってのほかだ。
「ということはブライアンさんが最初に説明してくれた捕獲すべき能力者っていうのは」
「そうだね、今回の相手は大いに当てはまるよ。諒真君を殺している時点で法を犯しているし、二人が来なかった場合には生徒を殺害するとまで宣言している。捕獲するのには十分すぎるほどの理由だ」
確かに確実に一人は殺していて、更には殺害予告までしているのだ。これで法を犯していないというのは無理があるだろう。
「それにあの男は私たちを殺すとまで言っていますからね。捕獲が難しい場合は殺しても許されるレベルです」
「そうだね、一番大事なことは自分の身を守ること。これは敵対している能力者との戦闘では絶対だ」
咲良とブライアンは直接的に今回の相手は殺しても大丈夫だと諒真に告げる。
「でも、殺してしまったら警察に追及されてしまうのでは?」
だからこそ諒真の頭の中には一つの考えが浮かぶ。自分が殺されそうになっているからと言って相手を殺してしまえばそれは過剰防衛だ。
「大丈夫だよ。犯罪能力者を相手にする場合、警察には介入されない。これは現行の警察組織では能力者を相手にすることができないからだ。国から支援を受けている以上、警察の上層部とも話はついているから安心してほしい」
「……警察……安心…………」
どうしてだろう、ブライアンが言うとまともなことでも簡単には信頼できないのは。
「大丈夫ですよ、諒真さん。確かに所長の言うことは信頼しにくいんですけど、警察との連携はしっかりとれていますから。……私たちが率先して法を犯さない限り逮捕されることはありません」
「そうとも、諒真君や咲良ちゃんはそんなことしないとわかっているからいう必要も感じていなかったけれどもねっ。基本的に犯罪能力者を相手にしている場合には法律を気にする必要はないよ」
「とはいえ、一般人に見られたら一大事ですからそこは気を付けなければなりません。あと、建物なんかの被害も後々研究所が賠償することになるので少ない方が喜ばれます」
「あくまで黙認されるのは犯罪能力者に直接関係する事だけってわけか」
ブライアンと咲良の説明に納得がいく諒真。つまりは、なるべく周りへの被害を出さずに暴れている能力者を捕獲するのが肝心。捕獲できない場合には殺害することも許可されているが、一般人に能力使用の瞬間を見られてはいけない。要するにそういうことだろう。
「じゃあ、次に今回の具体的な対策に移ろうか」
三人が現状の認識を共有できたことを確認してから、ブライアンは次に話し合うべき事柄に移る。
「そうですね、まず諒真さんはもう少しまともに戦えるようにならなくてはなりません」
「やっぱりこの間の訓練だけじゃ足りなかったかな?」
「いえ、これは私が悪いんです。あの男の能力は私の能力では歯が立ちません。奇襲が可能だったら手はあったんですが、真正面からの戦いでは立ち向かうすべがありません」
確かに咲良の能力は敵の能力を破壊することはもちろん、敵に傷をつけることもできなかった。
「なるほど、咲良ちゃんの能力はお世辞にも破壊力があるとは言い難いからね。相手が本物の刃物を作り出せるとしたらまともに戦うのは難しいだろうね」
「でも、諒真さんの能力は相手の武器を破壊していました。ですから、諒真さんには相手の足止めをお願いしたいんです」
「俺があの男を足止め……」
あの化け物のような男を相手に真正面から戦う。それは確かに一度は成功させたものの、次もまた同じようにできるとは限らない。
「諒真さんの負担が大きいのは百も承知です。でも、何とか相手の目を逸らしていただければ私が隙を見てあの男を殺します」
「隙を見てって……」
咲良は申し訳なさそうに諒真に頼むが、諒真の方はいまいち自信がない。咲良のためならば命を懸けるとまで言った諒真ではあったが、勝算もないのに安請け合いはしたくない。
「ふむ、なるほど。ということは敵の弱点を突かなくてはならないね」
「……弱点……ですか?」
「そうだよ。諒真君の能力がいくら的の能力を破壊できるとは言っても敵はいくらでも武器を作り出せる。だとしたら、イタチごっこになって結局隙なんてできないかもしれない」
「……所長の言う通りですね。これから諒真さんを鍛え上げてもたかが知れていますし、何らかの弱点を見つけないと厳しいかもしれませんね」
「二人は目の前で敵の能力を見ているわけだけど、何か気づいたことはないかね?」
ブライアンにとってはこちらの方が本領といったことなのだろう。研究者としての好奇心もあってかぐいぐいと二人に迫ってくる。
「何か……と言われても困ってしまうんですが、一度目は何もできずにただ殺されただけですし……」
「私の方は……そうですね。あの男は自分の武器の伸縮や形状を自在に変えているようでした。振り回すのに長すぎると感じた時に、持っていた長刀を二本の小太刀に変化させていました」
「ほう、それは興味深い話だね。……ちなみにそれは最初に持っていた武器を消してから新たに作り出した……という意味かい?」
「いいえ、文字通り長刀を小太刀に変換していました。持っていた武器を手放した気配はないのに、次の瞬間には得物は小太刀になっていました」
それは確かに諒真も見た光景だから間違いはない。
「あ、でも俺が武器を破壊した時にはそれを捨ててから新たに武器を作り出してましたよ」
「ふむ。壊れた武器は再利用ができないのか……それとも、ただ単に壊れてしまったものには興味がわかないのか……」
「でも、直ぐに新しい武器を手にしていたので特別隙になるってわけじゃなさそうですけどね」
「なるほど。次の武器を作るのに時間がかかるようならば諒真君に持っている武器を破壊させてから咲良ちゃんが倒すという手段が取れたんだがね」
「どうにかして新しく武器を作れない状況に持ち込めればそれが一番なんですけどね」
咲良は思案顔でそう提案する。
「確かに芦沢さんの言う通りだね。アイツは人を斬り慣れている感じだったけど、身体の動かし方は普通で武術をたしなんでいる風じゃなかった」
「ふむ、それならば諒真君でも太刀打ちできるかもしれないね。身体的な能力の上昇は諒真君の方が上のはずだし」
「どういうことですか?」
「蘇りの際の身体能力の向上には一定の法則があってね、能力の使用半径が広いほどその身体能力は蘇り前と変わらないというものなんだ」
「私の能力は自身が触れた水を半径十メートル内の空間で自由に操るというものです、諒真さんの能力は自分の右腕を変質させる能力。そして、あの男の能力はおそらく自身の腕の中に自在に刃物を出現させる能力」
「要するにこの三人の中では諒真君が一番身体能力が底上げされており、咲良ちゃんが蘇り前と一番変わらないということだね」
「加えて言えば、年齢の差もあると思います。見る限り二十代の後半から三十代の前半くらいのあの男と、成長期の真っただ中にいる諒真さんでは元々の体力が違います」
「……成長期、あんまり実感はないけどそんなに違うものかな?」
諒真にとっては一回り違うだけでそこまで体力に差が出るのかどうかはわからない。なにせ普段接している大人といえば教師か親くらいのもので、体力の比べあいなどしたこともないからだ。
「両方共と手を合わせた私が保証します。諒真さんの方が体力がありましたし力も強かったですよ」
不安そうな顔をしている諒真に対して咲良は安心するようにと、にっこりと微笑みかける。
「そういうことなら、なおさら相手の能力を無効化した方がよさそうだね。……どうだい諒真君、他に何か気づいたことはないかな?」
「……気づいたこと、ですか」
「…………そうだね、例えば相手の能力が消える瞬間を見たと言ったが君が破壊した相手の武器はその後どうなったんだい?」
「どうって、確か粉々に砕けて……塵みたいになって消えましたけど」
その時の状況を思い出しつつ、一言一言探るように発現する諒真。
「ほう、塵になって消えたのかい?」
「え、あ、はい。……たしか、そうです」
「それは興味深いよ諒真君。何かを生み出す能力者にはワタシも出会ったことがあるがね、彼らの生み出す能力というのは物理法則を超えて何もないところから現れて、何もなかったように消えていくんだ」
「……何もなかったように、ですか?」
「そうだよ。例えば火をおこすためには酸素と可燃物と火種が必要だ。だが、能力者はそこが真空だろうが水の中だろうが自在に火を生み出すことができる。それと同じように能力を消しさえすればその痕跡は一切残らない」
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