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閑話
113 辺境伯会議・後編
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「おおっ! このウイスキーボンボンってのは単純にチョコレートの中に酒が入ってるだけかと思ったら、妙に美味いな!」
「一応、今回持ってきたのは陛下が好きな種類にしたから、お酒自体が良いのかも……ま、私は未成年なので酒の良し悪しは分からんが」
「ちょっと! カレーもウチの方で出回っているのと全然味が違うんだけどっ! こんなに鮮烈じゃないわよ!」
「ああ、唐辛子……虫除けの実と呼ばれていたもので辛味を足して、香辛料の組み合わせも考えたものなので」
「ふむ、ウイスキーボンボンはともかく、カレーは儂には辛すぎかの」
「僕はカレーは好きだけどね。ウイスキーボンボンは中身をワインにしてほしいかな~」
やはりというかなんというか、ノルベルト北東辺境伯とクラウディア南辺境伯の食いつきが良いな。
北東辺境伯は雪深いというか、敵国が攻めてくるのが常に雪に覆われている山なので、ウイスキーやチョコレートなどの遭難時に有用な非常食には興味があるのだろう。
南辺境伯は南大陸から香辛料や、それを使った料理が流れてくるので、カレーも知っていたらしい。
ま、南大陸のカレーは香辛料を使っただけの薬膳スープのようなもので、大して美味くないけどな。
「味は分かってもらったと思うんで、ここからは商談といきましょうか」
「ほう? 商談?」
「ノルベルトはウイスキーボンボン、クラウディアはカレーに興味がある」
「ああ、そうだな」
「興味っていうか、ウチのカレーとの違いが気になるわね」
「というわけで、ノルベルト……というか北東辺境伯領にはウイスキーボンボンの優先販売権を、クラウディアにはカレーのレシピをプレゼントしたい」
俺が提案した瞬間は「何言ってるんだこいつ」みたいな顔をしていた2人だが、徐々に事態を飲み込めたのか喜色を浮かべる。
「マックス! 優先販売権ということは、ウイスキーボンボンを欲しいだけ仕入れて良いってことか!?」
「こっちの生産力もあるから無限にとはいかないけど、概ねそうだね」
「……陛下が怒らないか?」
「そっちは根回し済み。卸値は10個入りでこのくらいだから、考えて発注してね」
「マックス、カレーのレシピって、このカレーよね?」
「そう。だけど、タダで渡すわけじゃないよ」
「……わかってるわよ。何が望み?」
「南辺境伯領での香辛料の増産」
「それだけ?」
「ゲルハルディ領じゃ、香辛料の栽培が上手くいかなくてね。こっちが南大陸からの侵略を撃退したことで、そっちを攻めてる国が縮小したんでしょ?」
俺がバルディ領で撃退した南大陸の侵略者は、南辺境伯領からヴァイセンベルク王国を攻めていた国と同じだったらしく、勝手に海上から侵略を行ったことで南大陸から総スカンを食らったらしい。
ヴァイセンベルク王国にとって交易品が重要なのと同じように、南大陸でもヴァイセンベルク王国からの交易品は重要。
陸路で攻めるならともかく、海路を使って攻め込むとこれからの交易に差し障るということで、周辺国から攻め込まれたらしい。
しかも、俺が捕虜にしたのはその国の第二王子だったらしく、責任として王家の交代、領土の縮小が行われ、南辺境伯領と陸路で接することもできなくなったらしい。
「よく知ってるわね。ま、こっちも友好国が隣国になったから内政を充実させようとしてたとこだからね。それくらいで、レシピが貰えるならいいわよ」
「じゃ、ウチはゲルハルディ周辺の分を賄うから、それ以外は南辺境伯領の担当ってことで」
「え!? 多くない!?」
「多くない多くない。南辺境伯領のほうが南大陸に気候が似てるんだから、育てやすいはずだって」
ま、根拠はないがな。
とはいえ、香辛料は1年を通してある程度の気温がないと育ちにくかったはずだから、1年中暑いというか、雪の降らない南辺境伯領の方が適してるだろう。
「儂らは蚊帳の外じゃの」
「まあ、仕方がないっすよ」
「2人にも一応あるよ。じつはウイスキーボンボンはエーリッヒが要望してたように、ウイスキー以外でも作れるんだよね」
「ほう」
「えっ! じゃあ、ワイン入り……とか要望できるってこと?」
「そうそう。で、陛下は王領のウイスキーで頼んできたけど、これからお酒の消費量が跳ね上がると思うんだよね」
「ふむ、儂の北西辺境伯領も、エーリッヒの治める西辺境伯領もワインやウイスキーが有名」
「ってことは、今の内からワインやウイスキーの生産量を上げておけば」
「良いのが出来たら、ウイスキーボンボンに使うし、そうでなくても減った分の補填になれば収入が増えるんじゃない?」
「ほうほう」
「それは良いこと聞いたっすね」
「まあ、チョコレートは南大陸からの輸入に頼ってるから、ウイスキーボンボンの生産量には限界があるけどね。それもクラウディアが南辺境伯領で栽培を成功させてくれれば」
「おっ、クラウディアの責任が重くなったな」
「ちょっと、マックス。ゲルハルディ領でも生産しなさいよ!」
「いや~、試してみたけど、全然無理で。ま、栽培が無理でも南辺境伯領の方がカカオの輸入はしやすいでしょ?」
「む、確かにカカオは内陸からの輸入だから、ウチの方が交易しやすいけど」
とりあえず、最初の辺境伯会議はうまくいったかな。
北東辺境伯との商談はフィッシャー商会とアンドレ商会に任せるとして、南辺境伯領に向かわせる香辛料の農業指南者も選定しておかないとな。
「一応、今回持ってきたのは陛下が好きな種類にしたから、お酒自体が良いのかも……ま、私は未成年なので酒の良し悪しは分からんが」
「ちょっと! カレーもウチの方で出回っているのと全然味が違うんだけどっ! こんなに鮮烈じゃないわよ!」
「ああ、唐辛子……虫除けの実と呼ばれていたもので辛味を足して、香辛料の組み合わせも考えたものなので」
「ふむ、ウイスキーボンボンはともかく、カレーは儂には辛すぎかの」
「僕はカレーは好きだけどね。ウイスキーボンボンは中身をワインにしてほしいかな~」
やはりというかなんというか、ノルベルト北東辺境伯とクラウディア南辺境伯の食いつきが良いな。
北東辺境伯は雪深いというか、敵国が攻めてくるのが常に雪に覆われている山なので、ウイスキーやチョコレートなどの遭難時に有用な非常食には興味があるのだろう。
南辺境伯は南大陸から香辛料や、それを使った料理が流れてくるので、カレーも知っていたらしい。
ま、南大陸のカレーは香辛料を使っただけの薬膳スープのようなもので、大して美味くないけどな。
「味は分かってもらったと思うんで、ここからは商談といきましょうか」
「ほう? 商談?」
「ノルベルトはウイスキーボンボン、クラウディアはカレーに興味がある」
「ああ、そうだな」
「興味っていうか、ウチのカレーとの違いが気になるわね」
「というわけで、ノルベルト……というか北東辺境伯領にはウイスキーボンボンの優先販売権を、クラウディアにはカレーのレシピをプレゼントしたい」
俺が提案した瞬間は「何言ってるんだこいつ」みたいな顔をしていた2人だが、徐々に事態を飲み込めたのか喜色を浮かべる。
「マックス! 優先販売権ということは、ウイスキーボンボンを欲しいだけ仕入れて良いってことか!?」
「こっちの生産力もあるから無限にとはいかないけど、概ねそうだね」
「……陛下が怒らないか?」
「そっちは根回し済み。卸値は10個入りでこのくらいだから、考えて発注してね」
「マックス、カレーのレシピって、このカレーよね?」
「そう。だけど、タダで渡すわけじゃないよ」
「……わかってるわよ。何が望み?」
「南辺境伯領での香辛料の増産」
「それだけ?」
「ゲルハルディ領じゃ、香辛料の栽培が上手くいかなくてね。こっちが南大陸からの侵略を撃退したことで、そっちを攻めてる国が縮小したんでしょ?」
俺がバルディ領で撃退した南大陸の侵略者は、南辺境伯領からヴァイセンベルク王国を攻めていた国と同じだったらしく、勝手に海上から侵略を行ったことで南大陸から総スカンを食らったらしい。
ヴァイセンベルク王国にとって交易品が重要なのと同じように、南大陸でもヴァイセンベルク王国からの交易品は重要。
陸路で攻めるならともかく、海路を使って攻め込むとこれからの交易に差し障るということで、周辺国から攻め込まれたらしい。
しかも、俺が捕虜にしたのはその国の第二王子だったらしく、責任として王家の交代、領土の縮小が行われ、南辺境伯領と陸路で接することもできなくなったらしい。
「よく知ってるわね。ま、こっちも友好国が隣国になったから内政を充実させようとしてたとこだからね。それくらいで、レシピが貰えるならいいわよ」
「じゃ、ウチはゲルハルディ周辺の分を賄うから、それ以外は南辺境伯領の担当ってことで」
「え!? 多くない!?」
「多くない多くない。南辺境伯領のほうが南大陸に気候が似てるんだから、育てやすいはずだって」
ま、根拠はないがな。
とはいえ、香辛料は1年を通してある程度の気温がないと育ちにくかったはずだから、1年中暑いというか、雪の降らない南辺境伯領の方が適してるだろう。
「儂らは蚊帳の外じゃの」
「まあ、仕方がないっすよ」
「2人にも一応あるよ。じつはウイスキーボンボンはエーリッヒが要望してたように、ウイスキー以外でも作れるんだよね」
「ほう」
「えっ! じゃあ、ワイン入り……とか要望できるってこと?」
「そうそう。で、陛下は王領のウイスキーで頼んできたけど、これからお酒の消費量が跳ね上がると思うんだよね」
「ふむ、儂の北西辺境伯領も、エーリッヒの治める西辺境伯領もワインやウイスキーが有名」
「ってことは、今の内からワインやウイスキーの生産量を上げておけば」
「良いのが出来たら、ウイスキーボンボンに使うし、そうでなくても減った分の補填になれば収入が増えるんじゃない?」
「ほうほう」
「それは良いこと聞いたっすね」
「まあ、チョコレートは南大陸からの輸入に頼ってるから、ウイスキーボンボンの生産量には限界があるけどね。それもクラウディアが南辺境伯領で栽培を成功させてくれれば」
「おっ、クラウディアの責任が重くなったな」
「ちょっと、マックス。ゲルハルディ領でも生産しなさいよ!」
「いや~、試してみたけど、全然無理で。ま、栽培が無理でも南辺境伯領の方がカカオの輸入はしやすいでしょ?」
「む、確かにカカオは内陸からの輸入だから、ウチの方が交易しやすいけど」
とりあえず、最初の辺境伯会議はうまくいったかな。
北東辺境伯との商談はフィッシャー商会とアンドレ商会に任せるとして、南辺境伯領に向かわせる香辛料の農業指南者も選定しておかないとな。
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