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閑話

105 マックスの功績(国王視点)

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「陛下っ! 追加の情報が入りましたっ!」

「うむ、報告せよ」

 我がヴァイセンベルク王国の国王となってから、20年以上も経とうとするが、矢継ぎ早に今まで起こっていなかったことが報告されている。
 まず入ってきた一報は、ゲルハルディ領の東に存在するバルディ領の近海に見慣れぬ大型船がやってきたというものだった。
 現地のバルディ男爵の見解では、我が国と交易をおこなっているのとは別の国で侵略の可能性も考えられるので、増援と防衛の準備を行ってほしいというものだった。

 王都に近い貴族連中は外伐は辺境の仕事と言い出し増援を渋ったが、国王命令として増援の準備を始めさせた。
 だが、続いてやってきた情報ではゲルハルディ家の長男……ダンジョン攻略者のマックス・フォン・ゲルハルディがバルディ領の近くに滞在しており、外伐のために向かったというものだった。
 正直な話、正気を疑った。前伯爵でもあるヨアヒム殿や、現伯爵のクラウスならともかく、ダンジョンを攻略したとはいえ子供に何が出来るというのか。

「……陛下、どうやら危機は去ったようです」

「……そうか。ヨアヒム殿かクラウスが駆け付けたか」

「いいえ……信じられないことですが、南大陸の大型船を拿捕し、勢力の大半を行動不能にしたのはマックス殿のようです」

「……………………は?」

 聞き間違いか? マックスが敵対勢力を退けた?
 いやいや、ダンジョン攻略者とはいえ、マックスはまだまだ子供だぞ? モンスター相手ならともかく、騎士団の精鋭でも難しいという海戦で成果を上げた?

「ふむふむ……陛下、どうやらマックス殿はダンジョン攻略の報酬を使って敵船を足止めしたようです」

「ダンジョン攻略報酬だと?」

「はい、使い切り型のアーティファクトで、使用者の指定した範囲の行動を阻害するもののようです」

「そんなものがあるなど聞いていないぞ」

「どうも、使用者がダンジョン攻略者に限定されるものだったので、報告されなかったようですね」

 ふむ……我の知らない情報があったのは不快だが、ダンジョンに関する情報をどこまで開示するかは攻略者に一任されるからな、何かしらの思惑があって報告しなかったのだろう。

「……まあ、撃退方法はよい。しかし、それが本当ならゲルハルディ家を辺境伯に陞爵せねばならんぞ」

「あ~、クラウスは嫌がるでしょうね」

「まったくだ。ヨアヒム殿もクラウスも実績は十分だというのに辺境伯への陞爵は固辞しておったからな」

 ヨアヒム殿は辺境の海で大型モンスターを何体も屠っておるし、クラウスも大集団となった賊の撃退や、近領のスタンピードの撃退など功績は十分なのだがな。
 辺境伯になるものは外伐を成したもの、という古い法律を持ち出して辺境伯への陞爵は固辞し続けていた。
 そもそも、南辺境伯が南西に注力してからは、南東の辺境を守り続けていたのはゲルハルディ家なのだから、とっとと辺境伯に叙しておればよかったのだ。

「どういたしますか?」

「どうもこうも、まずは外伐が事実かどうかの確認を送れ。あと、クラウス宛に辺境伯への打診をしておく」

「クラウスなら断ってくると思いますが?」

「そしたら、マックスを辺境伯にする」

「は?」

「別に前例がないわけでもあるまい、幼少期に爵位を継ぐというのは?」

「それはそうですが……」

「ま、辺境伯という王家以外では最上位の爵位は珍しいことだが、マックスの成果なのだ。本人が受け取るのが筋というものだろう」

「……それは……」

 はっはっは、宰相が苦い顔をしておるわ。
 とはいえ、我も貴族学園に在籍していた時分に王位を継いだし、必要に迫られれば相応の身分を継ぐというのは貴族としての務めでもある。

「とりあえず、我はクラウスとマックスに宛てて私信を書く。宰相は王都の貴族を集めておいてくれ」

「王都貴族の承認も得るのですか?」

「どちらにせよ、王都の防衛も進めておったのだ。情報をすり合わせておかねばなるまい」

「わかりましたよ……あと、騎士団長から護衛の騎士を、文官から視察団を選抜しておくように指示しておきます」

「うむ。護衛の騎士は増援から集めるといい。辺境に行くための準備をしていたはずだからな」

「ですね……では、行ってまいります」

 さて、我も私信を綴るとするか。
 しかし、海外の勢力が攻めてきたとはいえ、マックスのやつはやらかしてくれたものだ。
 これは、王都貴族だけでなく中央貴族も黙ってはいないだろうな。
 ま、マックスが辺境伯となれば我も楽になるし、クラウスも王都にも来やすくなるだろうから、我にとっては良いことづくめだな。
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