気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

文字の大きさ
上 下
79 / 123
幼少期

79 カレンベルク領の視察

しおりを挟む
 旅の最初の目的地はカレンベルク、ローズマリー嬢にも褒められたお茶の名産地で、バルディ領を除けばゲルハルディ領の稼ぎ頭といっても過言ではない。
 ちなみに、最近ではスパイスの栽培も始めているが、こちらは俺の趣味を全開に反映させた試験栽培なので名産になるほどの規模ではない。

「ようこそいらっしゃいました」

「ああ、短い間だが世話になる」

 挨拶の相手はシュテファン・フォン・カレンベルク……カレンベルク領の領主で現役の男爵だ。
 俺が伯爵位を継いだら俺の方が爵位が高くなるが、現在の俺は無位無官であるので、挨拶はカレンベルク男爵が先に行い、俺がそれに合わせて挨拶するという形だ。
 とはいえ、俺の方が将来爵位が高くなるのは確実なので、カレンベルク男爵の方が遜った態度を取り、俺の方が上役として挨拶をする……うん、この辺も貴族あるあるだな。

「ちょうどよい時期に訪問していただいたのか、そうではないのか……ちょうど我が領では茶摘みの季節で……」

「ああ、大丈夫大丈夫。その辺は分かってるからさ。こっちはお披露目ついでに各領を周ってるだけだからさ。スパイスの試験栽培の調子と、茶摘みも体験させてくれたらうれしいかな」

「次期伯爵様が茶摘みをなさるのですか?」

「子供が邪魔するようで悪いけど、付き合ってもらえるかな?」

「子供なんてそんなそんな。ゲルハルディ領の次期領主といえば、我が領に新たな産業をもたらしてくれたお方。いくらでも付き合いますよ」

 カレンベルクはお茶の名産地ではあるものの、これまではゲルハルディ領の近領や辺境伯領の一部など、卸先は限られていた。
 これは王領にもお茶の名産地があり、王都周辺を含む中央で人気で、王領のお茶を飲むのが一種のステータスとなっていた。
 だからこそ、名産がありながらカレンベルクは裕福といえるほどではなく、細々と暮らしてきていた。

 それを改革してしまったのが記憶が戻る前の俺が提案した、王国内で輸入品のスパイスの生産を始める、というものだ。
 日照時間、気候、秘匿性なんかを考慮してカレンベルクとヒッペが試験栽培の地として選ばれ、カレンベルクでは試験栽培が成功した。
 未だ少量生産ではあるものの、王国内でも希少なスパイスが販売されているということで、王城から納品の依頼がひっきりなしに来ることになった。

 ……まあ、俺としてはスパイスが自由に使いたかっただけなんだが、そのせいでカレンベルクでは俺の評判が最高らしい。
 それこそカレンベルク夫妻に娘がいれば俺に嫁がせたい位だったらしいが、カレンベルク夫妻にとっては残念なことに……俺にとっては幸いだが……夫妻には息子しかいなかった。

「次期領主なんて呼ぶのは面倒だろう。こちらが年下なのだし、気軽にマックスと呼んでくれ。代わりにシュテファンと呼んでも?」

「もちろんですよ、マックス様」

 うーん、こちらは無位無官だし、年下だから呼び捨てで構わないんだが、この様子だと訂正しても呼びなおしてはくれなさそう……このまま通すか。

「シュテファン卿、試験栽培は順調か?」

「ええ、そこそこに……といったところでしょうか。いくつかのスパイスはやはり寒さに弱いようで、冬の間は温度管理に手間がかかりますが」

「だが、少量でも収穫は出来ているのだろう?」

「ええ、試行錯誤の末ですが」

「ふむ、気温ばかりは人間の手にはどうにもできないからなぁ」

「南辺境伯の方ではどうなのでしょう? あちらの方が気温は高いはずですが……」

「あちらはあちらで、敵対国が近いからな。のんきに農業ばかりに勤しんではいられないと返答が来たらしい。ま、それならそれで、ウチが稼ぐチャンスと思おう」

「そうですな」

 南辺境伯領は領地の南側に砂漠を有し、その砂漠の先で南大陸とつながっているのだが、そこが我が国と敵対している。
 バルディ領で我が国と交易しているのは、その敵対国とは別ということで、南大陸も一枚岩ではないことがうかがえるな。

 ま、要するに南辺境伯が南大陸と交易するのは難しい……不可能ではないし一部の商品は入ってきている……し、外敵がいる以上、農業に専心するわけにもいかないということだ。
 まあ、ノウハウのある麦や野菜は普通に作られているが、カレンベルクのように試験栽培をして産物を増やすというのは難しいらしい。
 そのうち、ノウハウの共有が国主導で求められるだろうが、それまでの間にカレンベルクの名産料理とかも考えておかないとなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

悪役令息の三下取り巻きに転生したけれど、チートがすごすぎて三下になりきれませんでした

あいま
ファンタジー
悪役令息の取り巻き三下モブに転生した俺、ドコニ・デモイル。10歳。 貴族という序列に厳しい世界で公爵家の令息であるモラハ・ラスゴイの側近選別と噂される公爵家主催のパーティーへ強制的に行く羽目になった。 そこでモラハ・ラスゴイに殴られ、前世の記憶と女神さまから言われた言葉を思い出す。 この世界は前世で知ったくそ小説「貴族学園らぶみーどぅー」という学園を舞台にした剣と魔法の世界であることがわかった。 しかも、モラハ・ラスゴイが成長し学園に入学した暁には、もれなく主人公へ行った悪事がばれて死ぬ運命にある。 さらには、モラハ・ラスゴイと俺は一心同体で、命が繋がる呪いがオプションとしてついている。なぜなら女神様は貴腐人らしく女同士、男同士の恋の発展を望んでいるらしい。女神様は神なのにこの世界を崩壊させるつもりなのだろうか? とにかく、モラハが死ぬということは、命が繋がる呪いにかかっている俺も当然死ぬということだ。 学園には並々ならぬ執着を見せるモラハが危険に満ち溢れた学園に通わないという選択肢はない。 仕方がなく俺は、モラハ・ラスゴイの根性を叩きなおしながら、時には、殺気を向けてくるメイドを懐柔し、時には、命を狙ってくる自称美少女暗殺者を撃退し、時には、魔物を一掃して魔王を返り討ちにしたりと、女神さまかもらった微妙な恩恵ジョブ変更チート無限を使い、なんとかモラハ・ラスゴイを更生させて生き残ろうとする物語である。 ーーーーー お読みくださりありがとうございます<(_ _)>

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...