気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

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幼少期

79 カレンベルク領の視察

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 旅の最初の目的地はカレンベルク、ローズマリー嬢にも褒められたお茶の名産地で、バルディ領を除けばゲルハルディ領の稼ぎ頭といっても過言ではない。
 ちなみに、最近ではスパイスの栽培も始めているが、こちらは俺の趣味を全開に反映させた試験栽培なので名産になるほどの規模ではない。

「ようこそいらっしゃいました」

「ああ、短い間だが世話になる」

 挨拶の相手はシュテファン・フォン・カレンベルク……カレンベルク領の領主で現役の男爵だ。
 俺が伯爵位を継いだら俺の方が爵位が高くなるが、現在の俺は無位無官であるので、挨拶はカレンベルク男爵が先に行い、俺がそれに合わせて挨拶するという形だ。
 とはいえ、俺の方が将来爵位が高くなるのは確実なので、カレンベルク男爵の方が遜った態度を取り、俺の方が上役として挨拶をする……うん、この辺も貴族あるあるだな。

「ちょうどよい時期に訪問していただいたのか、そうではないのか……ちょうど我が領では茶摘みの季節で……」

「ああ、大丈夫大丈夫。その辺は分かってるからさ。こっちはお披露目ついでに各領を周ってるだけだからさ。スパイスの試験栽培の調子と、茶摘みも体験させてくれたらうれしいかな」

「次期伯爵様が茶摘みをなさるのですか?」

「子供が邪魔するようで悪いけど、付き合ってもらえるかな?」

「子供なんてそんなそんな。ゲルハルディ領の次期領主といえば、我が領に新たな産業をもたらしてくれたお方。いくらでも付き合いますよ」

 カレンベルクはお茶の名産地ではあるものの、これまではゲルハルディ領の近領や辺境伯領の一部など、卸先は限られていた。
 これは王領にもお茶の名産地があり、王都周辺を含む中央で人気で、王領のお茶を飲むのが一種のステータスとなっていた。
 だからこそ、名産がありながらカレンベルクは裕福といえるほどではなく、細々と暮らしてきていた。

 それを改革してしまったのが記憶が戻る前の俺が提案した、王国内で輸入品のスパイスの生産を始める、というものだ。
 日照時間、気候、秘匿性なんかを考慮してカレンベルクとヒッペが試験栽培の地として選ばれ、カレンベルクでは試験栽培が成功した。
 未だ少量生産ではあるものの、王国内でも希少なスパイスが販売されているということで、王城から納品の依頼がひっきりなしに来ることになった。

 ……まあ、俺としてはスパイスが自由に使いたかっただけなんだが、そのせいでカレンベルクでは俺の評判が最高らしい。
 それこそカレンベルク夫妻に娘がいれば俺に嫁がせたい位だったらしいが、カレンベルク夫妻にとっては残念なことに……俺にとっては幸いだが……夫妻には息子しかいなかった。

「次期領主なんて呼ぶのは面倒だろう。こちらが年下なのだし、気軽にマックスと呼んでくれ。代わりにシュテファンと呼んでも?」

「もちろんですよ、マックス様」

 うーん、こちらは無位無官だし、年下だから呼び捨てで構わないんだが、この様子だと訂正しても呼びなおしてはくれなさそう……このまま通すか。

「シュテファン卿、試験栽培は順調か?」

「ええ、そこそこに……といったところでしょうか。いくつかのスパイスはやはり寒さに弱いようで、冬の間は温度管理に手間がかかりますが」

「だが、少量でも収穫は出来ているのだろう?」

「ええ、試行錯誤の末ですが」

「ふむ、気温ばかりは人間の手にはどうにもできないからなぁ」

「南辺境伯の方ではどうなのでしょう? あちらの方が気温は高いはずですが……」

「あちらはあちらで、敵対国が近いからな。のんきに農業ばかりに勤しんではいられないと返答が来たらしい。ま、それならそれで、ウチが稼ぐチャンスと思おう」

「そうですな」

 南辺境伯領は領地の南側に砂漠を有し、その砂漠の先で南大陸とつながっているのだが、そこが我が国と敵対している。
 バルディ領で我が国と交易しているのは、その敵対国とは別ということで、南大陸も一枚岩ではないことがうかがえるな。

 ま、要するに南辺境伯が南大陸と交易するのは難しい……不可能ではないし一部の商品は入ってきている……し、外敵がいる以上、農業に専心するわけにもいかないということだ。
 まあ、ノウハウのある麦や野菜は普通に作られているが、カレンベルクのように試験栽培をして産物を増やすというのは難しいらしい。
 そのうち、ノウハウの共有が国主導で求められるだろうが、それまでの間にカレンベルクの名産料理とかも考えておかないとなぁ。
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