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幼少期

76 母上からの叱責

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「マックス、レナと喧嘩でもしましたか?」

 次期領主としての執務中に、執務室へとやってきた母上からいきなり話題を切り出された。
 確かにレナとはフィッシャー嬢の取り扱いに関して、平行線になったが、別に喧嘩をしたというわけではない。
 普通に会話もするし、イチャイチャもしているし、これまでと変わらない付き合いをしている。
 ま、流石に母親だけあって、母上にはバレているようだが……。

「喧嘩……というわけでもありませんが、少し言い合いを」

「ヨーゼフから少し聞いております。なんでもレナはマックスに第二夫人を娶ってほしいようですね」

 はあ、確かにヨーゼフには愚痴っぽく、ことの顛末を教えたが、普通に母上に報告をしたようだな。
 ま、執事であるヨーゼフはそれも仕事の内だから、責めるのはお門違いだし、別にそれは良いんだけど。

「私はレナと婚姻をしていないのに第二夫人は早いと。レナはどうあってもフィッシャー嬢を第二夫人にしてほしいと」

「確かに、マックスの言う通り正妻と婚姻をしていないのに第二夫人の心配は早いでしょう」

「ですよね!」

 そうなんだよ。いくら貴族とはいっても結婚もしてないのに第二夫人の心配とか早すぎなんだよ。

「ですが! レナの気持ちもわかります」

「は?」

「ゲルハルディ家は伯爵家とはいえ、他領の面倒も見ていて、とても多忙です」

 ま、次期領主である俺は当然として、前伯爵の爺様も駆り出されているくらいだから、暇ってことはないだろう。

「ですが、それは父上と母上が手伝ってくれれば問題はないでしょう?」

 暗に爺様のようにという意味を込める。

「それはそうです。私もクラウスもマックスに伯爵位を譲っても手伝いはするでしょう。……ですが、それで間に合うのは現状維持の場合のみです」

「?」

「はっきり言って、マックスが作ってしまった商品によって、ゲルハルディ家の仕事は増えています」

 ま、陛下や宰相閣下との繋がりは父上譲りだが、それは学院の同級生ってことが関係しているからな。
 本来なら俺には引き継がれず、関係が切れるところだったのをチョコレートボンボンなんかでつないでしまった感はある。
 それに、エルメライヒ公爵家もそうだし、いずれは北東辺境伯……あれ? 繋がりを作りすぎか?

「わかったようですね。貴族として繋がりを作ることは良いことです。ですが、雑務も増えるのは理解できるでしょう?」

「……確かに軽率でした。……ですが、それと第二夫人は別でしょう。協力者を募ればいい話ですし」

「協力者が本当に協力しているかはわからないものでしょう? 協力したくなるように婚姻は必要なことだとは思いませんか?」

「……」

 まあ、それはそうだ。前世でもそうだったが、怖いのはこちらを敵視してくる人間ではなく、笑顔で近づいて、こちらの利益をすべて持って行ってしまう人間だ。
 敵視していれば警戒できるが、一見協力者の振りをしてやってくる人間を完全に警戒することは難しい。

「それに、女性としての視点から言わせてもらえれば、どうせ第二夫人を娶るならこちらが目をかけている者にしてほしいものですよ……下手に他所で発散されると困ったことになりますしね」

「まさか、父上が!?」

「それこそまさかです。クラウスは私にぞっこんですからね」

 ま、そりゃそうだ。父上の頭の中には家族のことと、鍛錬のことしかないからな。
 父上ではなく、母上が俺にこの話を持ってきたのも、父上では男女の機微がわからないからだろう。

「ですよね」

「ぞっこんですが、もしもクラウスが第二夫人を娶ることになれば、その候補は私が見繕います」

「……は~、結局母上はレナの味方ってことですか」

「マックスの味方でもありますよ。本当に嫌ならそれはそれでよいでしょう。……ですが、交流もせずに一方的に切り捨てるのは時期尚早というものでしょう」

「む」

 いやまあ確かに。俺が知っているアイリーン・フィッシャーはあくまでもゲーム内のサブヒロインのアイリーン・フィッシャーであって、フィッシャー嬢ではない。
 フィッシャー嬢と碌に話もせず、相手の気持ちも考えずに一方的に切り捨てるのはおかしいだろう。

「大切なのは相手と向き合うこと。それは領主であっても、貴族であっても、平民であっても変わりません」

「そう……ですね。……確かに、私の態度はいただけないものでしたね」

「わかればよろしい」

 はあ、レナの気持ち、フィッシャー嬢の気持ち……何より、俺自身の気持ちに向き合っていかないといけないな。
 まずは、レナとフィッシャー嬢のお茶会に参加させてもらうところからかな……レナと話し合ってみるか。
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