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幼少期
59 エルメライヒ公爵令嬢の来訪報せ
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合成魔法が問題なく利用できることがわかって、とりあえず当座の目標は達成できたかな。
あとは、ダンジョンの攻略が残っているけど、そっちは俺の強化というよりも主人公たちの弱体化につながるものだから優先度はそこまで高くない。
とりあえずは訓練を続けつつ、領主としての勉強に励むとしますか。
……なんて、思ってたんだよ。問題が起こるまではさ。
「伯爵閣下、お目通り感謝いたします」
「ああ、急とはいえ公爵家の家紋を見せられたら断れないしね」
そう、屋敷でそれぞれの仕事をしていた……いや、父上は見回りを兼ねて領内にいたけど、直ぐに報せを聞いて戻ってきた……俺たちの前には公爵家の使いを名乗る人物がいる。
派閥違いの使者など追い返すべき、という武断の家もあるにはあるが、基本的に家紋を用いることが出来る公式な使者は丁重にもてなすのが貴族としての常識だ。
「閣下、こちらが公爵家からの手紙となります」
「ああ、確かに受け取ったよ……うん? これは?」
「父上、どういたしましたか?」
使者の前で声をかけるのは失礼に当たるのだが、手紙を読んで渋い顔をした父上に対して、苦い顔をしつつ顔を伏せる使者という構図は放っておくわけにもいかない。
「ああ、マックス。読んでみろ」
「はい……は? 父上……ここにエルメライヒ公爵令嬢がゲルハルディ領に向かったと書かれているのですが?」
「やはり、読み間違えではないか」
「先触れはありませんでしたよね?」
「ないな」
前の世界でもそうだったけど、社長や会長なんかの上位になればなるほどスケジュールは過密になり、アポイントメントを取らなければ親会社でも会えないなんてことはざらだ。
まあ、本当に必要な付き合いなら不作法と心の中で罵りつつも無理やりスケジュールを空けて会うのだが、エルメライヒ公爵家は他派閥でありアポなしでやってくるなど有り得ない。
この使者がアポだと思うかもしれないが、アポってのは会いたいという手紙があって、それに諾と返して初めて成立する。
つまり、これから行くからはもちろん、もうそっちに向かっているからなんてのはアポイントメントにはならないんだ。
「公爵家の総意か?」
「使者の身でお答えする無礼をお許しください。決して……決して公爵家の総意ではありません」
キツイ目で使者を詰問する父上に対して、苦汁を飲んだ表情で受け答えする使者。
公爵家の使者を任されるくらいだから、爵位持ちなんだろうけど、辺境の伯爵に相対できる身分ではないし、相当キツイだろうな。
「エルメライヒ公爵令嬢の独断……か」
「はっ!」
「ふむ、こちらにお着きになるのは如何ほどかわかるだろうか?」
「数日前に追い抜きましたので、あと2日ほどで着くかと……」
「……2日。……はあ、一応説得はして頂けたのでしょうな?」
「不徳の致すところです」
つまり、エルメライヒ公爵令嬢は公爵の許可なくゲルハルディ領に向かい、それに気づいた公爵は使者に説得、説得できなければゲルハルディ領に手紙を届けるように命令した、と。
説得は失敗し、こちらまで手紙を届けに来たわけだけど、この使者が無能ってわけじゃなくてエルメライヒ公爵令嬢が我儘なんだろうな。
ゲーム内でも公爵夫妻に溺愛されていて、あらゆる我儘を肯定されていた……だからこそ孤児だった主人公を救い上げ自身の婚約者にしたわけだけど。
「ふむ、しかし急に言われてもこちらも仕事があるしな」
「……わかっております」
うーん、使者がこっちを見てるんだが、俺だって次期領主として色々仕事してるんだよ?
「……マックス。すまないが頼めるか?」
「父上、私にも次期領主としての仕事がありますが」
「マックス。そちらは私が受け持つわ。父と母を助けると思って頼まれてくれないかしら?」
「……はぁ、そこまで言われては仕方がありませんね。……ですが、レナも同席するのが条件です。婚約者のいる身で公爵令嬢と2人きりになるつもりはありません」
「わかっている……使者殿、というわけでゲルハルディ伯爵としては歓待できませんが、息子が世話をします。その旨、きちんとエルメライヒ公爵令嬢にお伝え願えますかな?」
「はっ! 確かにお伝えさせていただきます」
まあ、説得できなかった使者だからどこまで正確に伝わるかはわからないが、信じるしかないよな。
っていうか、公爵令嬢1人で来てるわけじゃないだろうし、お付きの人間は諫めたりはしなかったのだろうか?
「マックス、レナ、ぼやぼやしている暇はないぞ! 客間の清掃や食材の仕入れはこちらで指示しておくから、お前たちは公爵令嬢に会っても失礼ではない服装などを準備せよ」
「レナはこれから髪を整えてもらうのよ! 身だしなみが済んだらマナーの最終チェックもするからね!」
ああ、派閥違いとは言え上位者が来るのだ、不具合があれば軽んじられたと思われるし、それはゲルハルディ領全体の失態につながる。
だからこそ、貴族同士が会う際にはアポイントメントが必須なんだ。
これは、会ったらきちんとくぎを刺しておかないとな。
あとは、ダンジョンの攻略が残っているけど、そっちは俺の強化というよりも主人公たちの弱体化につながるものだから優先度はそこまで高くない。
とりあえずは訓練を続けつつ、領主としての勉強に励むとしますか。
……なんて、思ってたんだよ。問題が起こるまではさ。
「伯爵閣下、お目通り感謝いたします」
「ああ、急とはいえ公爵家の家紋を見せられたら断れないしね」
そう、屋敷でそれぞれの仕事をしていた……いや、父上は見回りを兼ねて領内にいたけど、直ぐに報せを聞いて戻ってきた……俺たちの前には公爵家の使いを名乗る人物がいる。
派閥違いの使者など追い返すべき、という武断の家もあるにはあるが、基本的に家紋を用いることが出来る公式な使者は丁重にもてなすのが貴族としての常識だ。
「閣下、こちらが公爵家からの手紙となります」
「ああ、確かに受け取ったよ……うん? これは?」
「父上、どういたしましたか?」
使者の前で声をかけるのは失礼に当たるのだが、手紙を読んで渋い顔をした父上に対して、苦い顔をしつつ顔を伏せる使者という構図は放っておくわけにもいかない。
「ああ、マックス。読んでみろ」
「はい……は? 父上……ここにエルメライヒ公爵令嬢がゲルハルディ領に向かったと書かれているのですが?」
「やはり、読み間違えではないか」
「先触れはありませんでしたよね?」
「ないな」
前の世界でもそうだったけど、社長や会長なんかの上位になればなるほどスケジュールは過密になり、アポイントメントを取らなければ親会社でも会えないなんてことはざらだ。
まあ、本当に必要な付き合いなら不作法と心の中で罵りつつも無理やりスケジュールを空けて会うのだが、エルメライヒ公爵家は他派閥でありアポなしでやってくるなど有り得ない。
この使者がアポだと思うかもしれないが、アポってのは会いたいという手紙があって、それに諾と返して初めて成立する。
つまり、これから行くからはもちろん、もうそっちに向かっているからなんてのはアポイントメントにはならないんだ。
「公爵家の総意か?」
「使者の身でお答えする無礼をお許しください。決して……決して公爵家の総意ではありません」
キツイ目で使者を詰問する父上に対して、苦汁を飲んだ表情で受け答えする使者。
公爵家の使者を任されるくらいだから、爵位持ちなんだろうけど、辺境の伯爵に相対できる身分ではないし、相当キツイだろうな。
「エルメライヒ公爵令嬢の独断……か」
「はっ!」
「ふむ、こちらにお着きになるのは如何ほどかわかるだろうか?」
「数日前に追い抜きましたので、あと2日ほどで着くかと……」
「……2日。……はあ、一応説得はして頂けたのでしょうな?」
「不徳の致すところです」
つまり、エルメライヒ公爵令嬢は公爵の許可なくゲルハルディ領に向かい、それに気づいた公爵は使者に説得、説得できなければゲルハルディ領に手紙を届けるように命令した、と。
説得は失敗し、こちらまで手紙を届けに来たわけだけど、この使者が無能ってわけじゃなくてエルメライヒ公爵令嬢が我儘なんだろうな。
ゲーム内でも公爵夫妻に溺愛されていて、あらゆる我儘を肯定されていた……だからこそ孤児だった主人公を救い上げ自身の婚約者にしたわけだけど。
「ふむ、しかし急に言われてもこちらも仕事があるしな」
「……わかっております」
うーん、使者がこっちを見てるんだが、俺だって次期領主として色々仕事してるんだよ?
「……マックス。すまないが頼めるか?」
「父上、私にも次期領主としての仕事がありますが」
「マックス。そちらは私が受け持つわ。父と母を助けると思って頼まれてくれないかしら?」
「……はぁ、そこまで言われては仕方がありませんね。……ですが、レナも同席するのが条件です。婚約者のいる身で公爵令嬢と2人きりになるつもりはありません」
「わかっている……使者殿、というわけでゲルハルディ伯爵としては歓待できませんが、息子が世話をします。その旨、きちんとエルメライヒ公爵令嬢にお伝え願えますかな?」
「はっ! 確かにお伝えさせていただきます」
まあ、説得できなかった使者だからどこまで正確に伝わるかはわからないが、信じるしかないよな。
っていうか、公爵令嬢1人で来てるわけじゃないだろうし、お付きの人間は諫めたりはしなかったのだろうか?
「マックス、レナ、ぼやぼやしている暇はないぞ! 客間の清掃や食材の仕入れはこちらで指示しておくから、お前たちは公爵令嬢に会っても失礼ではない服装などを準備せよ」
「レナはこれから髪を整えてもらうのよ! 身だしなみが済んだらマナーの最終チェックもするからね!」
ああ、派閥違いとは言え上位者が来るのだ、不具合があれば軽んじられたと思われるし、それはゲルハルディ領全体の失態につながる。
だからこそ、貴族同士が会う際にはアポイントメントが必須なんだ。
これは、会ったらきちんとくぎを刺しておかないとな。
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