54 / 100
幼少期
54 串焼き屋のおばちゃんと平民の生活
しおりを挟む
「おー坊ちゃん、それにお嬢様も。よく来ましたね」
「おばちゃん、今日は妹のためにありがとね」
「良いんだよ。こっちはいつも旦那様たちにはお世話になってるんだからねぇ」
「ありがとうございます、おば様」
「あら~、やだよ~、おば様だなんて~」
アンドレ商会を出て、次の目的地は屋台の商店。
ゲルハルディ領では出店税も屋台か、店舗かで違うから意外にも美味しい店が屋台ってこともある。
ここもそんな美味しい店の一つで、父上たちや騎士団の連中も買い食いというか、見回りの帰り道に利用しているらしい。
「お、今日はちびちゃんが手伝ってるのか?」
「そうだよ、マックス兄ちゃん」
この店は俺も何度か利用したことがあるが、成人間近の子供から俺よりも年下の子供まで、おばちゃんの子供たちが手伝いに駆り出されている。
おばちゃんは食材の切り分けなんかを担当して、串に刺したり、焼いたりといった工程や呼び込みは子供たちの担当というわけだ。
「こんな子供も働いているんですの?」
「子供って、そっちの方が年下だろ?」
「バカ息子! お姫様になんて口の聞き方するんだい!」
「いってぇな~! …………って、お姫様ってマックス兄ちゃんの!?」
「妹だけど、そこまでかしこまらなくていいよ。お披露目もまだだし」
「そうはいかないよっ! こっちはご領主様の慈悲で生きていけてるんだからねっ!」
「……ご、ごめんなさい」
「だから、良いって。こっちは今はただの客なんだからさ。マックス兄ちゃんにアンナでいいよ。……で、アンナ。この子はおばちゃんの子供で1年前、つまりアンナの年から働いてるよ」
「……私と同じ年から!?」
「……うん、最初は失敗ばっかりだったけどね」
「そりゃあ、そうさ。子供が大人と同等の働きをみせられたらビックリしちまうよ。ま、失敗した分も近所の子供に割引価格で売ってるから大丈夫だしね」
「そうなんですのね」
「ま、ここは特別に美味いからね。少々の失敗で安くなるなら、むしろご褒美って感じでしょ」
「いやいや~、流石に騎士様たちに差し上げるわけにはいかない失敗作だから、家に帰ったら失敗した分だけ小言だよ」
「も~、かあちゃんの小言がホントに長くて」
「愛があるんだから、心して聞きゃあいいのさ」
「クックッ、その話……上の兄ちゃんたちからも同じ話を聞いたな」
「そうなの!?」
「まあ、ウチの伝統だからね。かく言うアタシだってアンタくらいの年のころには父ちゃんや母ちゃんから同じように叱られたもんさ」
「うそっ!? かあちゃんがっ!?」
「そりゃあそうさ。……おっと、坊ちゃんたちを待たせるのも悪いね。昔話は家に帰ってから」
「はーい……で、マックス兄ちゃん。ご注文は?」
「とりあえず護衛の分は良いから、串焼きを5人分で」
「あいよ」
流石に俺よりも年下だから、手つきが鮮やかってわけにはいかないが、それでも毎日手伝っているからか迷いのない手つきで串焼きを焼いていく。
アンナも食い入るように見つめているし、平民だからと遊んで暮らしているわけではないことを少しは分かってくれているだろうか。
「あいよ、マックス兄ちゃん。串焼き5人分おまち」
「サンキュ。じゃあ、少し歩きながら、食べようか。……おばちゃん、今日はありがとね」
「坊ちゃんとお姫様の役に立てたなら本望さ。また、ごひいきにね」
「ああ、父上や騎士団連中にも言っとくよ」
俺やレナ、ユリア叔母さんは買い食いなんて慣れたものだけど、アンナはもちろん、貴族であるアンナの先生も串焼きをそのまま食べるなんて初めてだからおっかなびっくりだ。
まあ、流石に歩きながらというのは難しいようだから、広場にあるベンチを使わせてもらっておばちゃんの串焼きを食べることにした。
「美味しいか、アンナ?」
「はいっ、お兄様! ……お兄様、あの子、私と同じくらいの年なのに立派に働いていましたわ」
「ああそうだな。それに気づいたか? あの子は俺たちと違って教育なんて受けていない。母親や兄たちから少しずつ教わりながら文字や数字を勉強してるんだ」
「平民は教育を受けられませんの?」
「アンドレ商会に勤められるような家系なら入れる学園もある。だが、ほとんどの領民は文字も数字も自分にかかわりのある範囲しかわからないだろうな」
ゲルハルディ領には平民が通える教会学校があるが、入学費用、授業料、その他もろもろを考えれば誰でも気軽に入れるというわけではない。
だからこそ、ほとんどの領民は親が子供に文字や数字を教えるのだが、教育用の物品が気軽に手に入るわけではないから、自分に必要な部分だけになる。
「そう……なんですのね」
「おばちゃん、今日は妹のためにありがとね」
「良いんだよ。こっちはいつも旦那様たちにはお世話になってるんだからねぇ」
「ありがとうございます、おば様」
「あら~、やだよ~、おば様だなんて~」
アンドレ商会を出て、次の目的地は屋台の商店。
ゲルハルディ領では出店税も屋台か、店舗かで違うから意外にも美味しい店が屋台ってこともある。
ここもそんな美味しい店の一つで、父上たちや騎士団の連中も買い食いというか、見回りの帰り道に利用しているらしい。
「お、今日はちびちゃんが手伝ってるのか?」
「そうだよ、マックス兄ちゃん」
この店は俺も何度か利用したことがあるが、成人間近の子供から俺よりも年下の子供まで、おばちゃんの子供たちが手伝いに駆り出されている。
おばちゃんは食材の切り分けなんかを担当して、串に刺したり、焼いたりといった工程や呼び込みは子供たちの担当というわけだ。
「こんな子供も働いているんですの?」
「子供って、そっちの方が年下だろ?」
「バカ息子! お姫様になんて口の聞き方するんだい!」
「いってぇな~! …………って、お姫様ってマックス兄ちゃんの!?」
「妹だけど、そこまでかしこまらなくていいよ。お披露目もまだだし」
「そうはいかないよっ! こっちはご領主様の慈悲で生きていけてるんだからねっ!」
「……ご、ごめんなさい」
「だから、良いって。こっちは今はただの客なんだからさ。マックス兄ちゃんにアンナでいいよ。……で、アンナ。この子はおばちゃんの子供で1年前、つまりアンナの年から働いてるよ」
「……私と同じ年から!?」
「……うん、最初は失敗ばっかりだったけどね」
「そりゃあ、そうさ。子供が大人と同等の働きをみせられたらビックリしちまうよ。ま、失敗した分も近所の子供に割引価格で売ってるから大丈夫だしね」
「そうなんですのね」
「ま、ここは特別に美味いからね。少々の失敗で安くなるなら、むしろご褒美って感じでしょ」
「いやいや~、流石に騎士様たちに差し上げるわけにはいかない失敗作だから、家に帰ったら失敗した分だけ小言だよ」
「も~、かあちゃんの小言がホントに長くて」
「愛があるんだから、心して聞きゃあいいのさ」
「クックッ、その話……上の兄ちゃんたちからも同じ話を聞いたな」
「そうなの!?」
「まあ、ウチの伝統だからね。かく言うアタシだってアンタくらいの年のころには父ちゃんや母ちゃんから同じように叱られたもんさ」
「うそっ!? かあちゃんがっ!?」
「そりゃあそうさ。……おっと、坊ちゃんたちを待たせるのも悪いね。昔話は家に帰ってから」
「はーい……で、マックス兄ちゃん。ご注文は?」
「とりあえず護衛の分は良いから、串焼きを5人分で」
「あいよ」
流石に俺よりも年下だから、手つきが鮮やかってわけにはいかないが、それでも毎日手伝っているからか迷いのない手つきで串焼きを焼いていく。
アンナも食い入るように見つめているし、平民だからと遊んで暮らしているわけではないことを少しは分かってくれているだろうか。
「あいよ、マックス兄ちゃん。串焼き5人分おまち」
「サンキュ。じゃあ、少し歩きながら、食べようか。……おばちゃん、今日はありがとね」
「坊ちゃんとお姫様の役に立てたなら本望さ。また、ごひいきにね」
「ああ、父上や騎士団連中にも言っとくよ」
俺やレナ、ユリア叔母さんは買い食いなんて慣れたものだけど、アンナはもちろん、貴族であるアンナの先生も串焼きをそのまま食べるなんて初めてだからおっかなびっくりだ。
まあ、流石に歩きながらというのは難しいようだから、広場にあるベンチを使わせてもらっておばちゃんの串焼きを食べることにした。
「美味しいか、アンナ?」
「はいっ、お兄様! ……お兄様、あの子、私と同じくらいの年なのに立派に働いていましたわ」
「ああそうだな。それに気づいたか? あの子は俺たちと違って教育なんて受けていない。母親や兄たちから少しずつ教わりながら文字や数字を勉強してるんだ」
「平民は教育を受けられませんの?」
「アンドレ商会に勤められるような家系なら入れる学園もある。だが、ほとんどの領民は文字も数字も自分にかかわりのある範囲しかわからないだろうな」
ゲルハルディ領には平民が通える教会学校があるが、入学費用、授業料、その他もろもろを考えれば誰でも気軽に入れるというわけではない。
だからこそ、ほとんどの領民は親が子供に文字や数字を教えるのだが、教育用の物品が気軽に手に入るわけではないから、自分に必要な部分だけになる。
「そう……なんですのね」
83
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします
猿喰 森繁
ファンタジー
青柳千智は、神様が趣味で作った乙女ゲームの主人公として、無理やり転生させられてしまう。
元の生活に戻るには、逆ハーレムエンドを迎えなくてはいけないと言われる。
そして、何度もループを繰り返すうちに、ついに千智の心は完全に折れてしまい、廃人一歩手前までいってしまった。
そこで、神様は今までループのたびにリセットしていたレベルの経験値を渡し、最強状態にするが、もうすでに心が折れている千智は、やる気がなかった。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる