44 / 129
幼少期
44 帰還と家族会議
しおりを挟む
「あー、やっと帰ってこれましたね」
「……ああ……やっとだ」
エルメライヒ公爵と会談をして、その翌日には逃げるように王都を後にしたのだが、帰りはまた馬車での旅のため、帰ってくるのにもそれなりの時間がかかった。
父上の護衛の騎士団長に加えて、俺の護衛の副団長も合流しているから護衛の面では万全なのだが、かといって行程が短くなるわけではないので、王都での疲れも相まって疲労もピークだ。
疲労回復のためにちょっと良い宿に泊まったりもしたのだが、宿泊施設の面でも食事の面でも伯爵邸にかなうものではなく、望郷の念が強まるだけだった。
「お帰りなさい、あなた。それにマックス」
「お帰りなさいませ、マックス様。それにお義父様」
「出迎えご苦労。本当に疲れたよ、ペトラ……って聞いたか? マックス! お義父様って呼ばれてしまったぞ!」
「ただいま、レナ。……父上もそれくらいで喜ばないでください。アンナもお父様と呼んでいるではないですか」
伯爵邸に着くと母上とレナが出迎えてくれた。
父上と俺の両者が王都にいたことで、王都とゲルハルディ伯爵領の情報交換も滞っていたから2人も心配していたのだろう。
というか、父上の反応がうざいな。ま、アンナもようやくお父様と舌足らずながらも呼べるようになったばかりだし、俺も父上と呼ぶようになってしまったから気持ちはわかるが。
「では、クラウス、マックス。王都で何があったのかは応接室で聞かせてもらいましょう」
「わかっている。だが、旅の汚れくらいは落とさせてくれ」
「わかっておりますわ。クラウスは大浴場、マックスには浴場を用意していますから、先にそちらに。昼食もまだでしょう? その間に料理長たちに準備させておきますわ」
「流石ペトラだな。いつも助かるよ」
というわけで、俺は普通の浴場に、父上は客人が大勢来た時にしか使わない大浴場に行くことになった。
え? 親子なんだから一緒に入ればいいって? お互いに旅で疲れているのに風呂まで一緒とか絶対お断りだね。
「で、一体全体どうなったのか教えていただけるかしら?」
「わかっている。まずは王都での話だな……いつも通り陛下や宰相と情報交換していた時にマックスのダンジョン攻略の報せが届いたのが始まりだ」
といって、父上は王都であったことを一通り話しているが、勇者の称号を断ったこと、緊急時面会権を得たことには喜んでいた母上だったが、エルメライヒ公爵の話になると一転して表情を曇らせた。
どうも、エルメライヒ公爵と母上の実家は敵対関係にあったらしく、公爵令嬢と友人になるというくだりでは激怒していた。
「ペトラ、マックスはよくやってくれた。交渉が得意ではない私に代わり、好条件を引き出してくれた」
「…………確かにそうですわね。よくやりました、マックス」
「ありがとうございます。ですが、もう少しやりようはあったかもと思っております」
「いいえ、そもそも派閥違いの伯爵家に事前の根回しもなしに、そのような相談を持ち掛ける公爵家がおかしいのです。貴族同士の交渉事では根回し8割、それを怠っていたのにこちらにツケを支払わせるようにしたエルメライヒ公爵が悪いのです」
母上の言い分もわかる話だ。前世でも交渉事は1回こっきりの話し合いで決まることはほとんどなく、事前根回しや持ち帰っての検討、粘り強い交渉が必要だった。
だが、今回は王都近郊と辺境という情報交換も容易ではない距離、通信手段が前世ほど発達していないことから、早急な判断が求められていたからな。
「マックス様、エルメライヒ公爵令嬢とお会いになるのですか?」
「ああ、レナも貴族学園で友人が出来れば心強いだろう? 俺は領主経営科でレナは家政科、放課後はともかく授業間で顔を合わせることは難しくなるだろうからね」
結局のところエルメライヒ公爵令嬢に会おうと思ったのは、レナのためだ。
ゲームのシナリオではメインヒロイン、ラスボス悪役令嬢、そしてサブヒロインの中でレナだけが家政科に通っていた。
シナリオはだいぶ崩壊しているが、それでも家政科の面子がそろう可能性は十分にあり得る。
そうなった時の保険として、ラスボス悪役令嬢であるエルメライヒ公爵令嬢と知己を得ておきたいと思ったのだ。
「公爵の話では家政科に進むかはわからんと言ってなかったか?」
「そうですが、公爵家を継いで女伯爵になるにせよ、辺境伯家に嫁ぐにせよ、家政科に進むのが現実的でしょう」
女性でも領主経営科に進めなくはないが、領主経営科は騎士科と合同で剣術の稽古や、実地訓練が課される。
領主になるという気概にあふれていたり、男に負けたくないという思いがあれば別だが、普通の貴族令嬢ならば、そう言ったことは伴侶に任せて家政科に進むだろう。
「でも、別に学園は仲良しこよしの場ではないわ。確かに人脈形成は大事だけど、レナは辺境の人間と交流するのを優先すべきでは?」
「交流はそうです。ですが、ミネッティ伯爵令嬢、アレがどう動くかわかりません」
「……マックスとの見合いを断った」
「そうです。エルメライヒ公爵令嬢と知己を得られるかはわかりませんが、エルメライヒ公爵の後ろ盾があった方が何かあった時に良いでしょう」
「……ああ……やっとだ」
エルメライヒ公爵と会談をして、その翌日には逃げるように王都を後にしたのだが、帰りはまた馬車での旅のため、帰ってくるのにもそれなりの時間がかかった。
父上の護衛の騎士団長に加えて、俺の護衛の副団長も合流しているから護衛の面では万全なのだが、かといって行程が短くなるわけではないので、王都での疲れも相まって疲労もピークだ。
疲労回復のためにちょっと良い宿に泊まったりもしたのだが、宿泊施設の面でも食事の面でも伯爵邸にかなうものではなく、望郷の念が強まるだけだった。
「お帰りなさい、あなた。それにマックス」
「お帰りなさいませ、マックス様。それにお義父様」
「出迎えご苦労。本当に疲れたよ、ペトラ……って聞いたか? マックス! お義父様って呼ばれてしまったぞ!」
「ただいま、レナ。……父上もそれくらいで喜ばないでください。アンナもお父様と呼んでいるではないですか」
伯爵邸に着くと母上とレナが出迎えてくれた。
父上と俺の両者が王都にいたことで、王都とゲルハルディ伯爵領の情報交換も滞っていたから2人も心配していたのだろう。
というか、父上の反応がうざいな。ま、アンナもようやくお父様と舌足らずながらも呼べるようになったばかりだし、俺も父上と呼ぶようになってしまったから気持ちはわかるが。
「では、クラウス、マックス。王都で何があったのかは応接室で聞かせてもらいましょう」
「わかっている。だが、旅の汚れくらいは落とさせてくれ」
「わかっておりますわ。クラウスは大浴場、マックスには浴場を用意していますから、先にそちらに。昼食もまだでしょう? その間に料理長たちに準備させておきますわ」
「流石ペトラだな。いつも助かるよ」
というわけで、俺は普通の浴場に、父上は客人が大勢来た時にしか使わない大浴場に行くことになった。
え? 親子なんだから一緒に入ればいいって? お互いに旅で疲れているのに風呂まで一緒とか絶対お断りだね。
「で、一体全体どうなったのか教えていただけるかしら?」
「わかっている。まずは王都での話だな……いつも通り陛下や宰相と情報交換していた時にマックスのダンジョン攻略の報せが届いたのが始まりだ」
といって、父上は王都であったことを一通り話しているが、勇者の称号を断ったこと、緊急時面会権を得たことには喜んでいた母上だったが、エルメライヒ公爵の話になると一転して表情を曇らせた。
どうも、エルメライヒ公爵と母上の実家は敵対関係にあったらしく、公爵令嬢と友人になるというくだりでは激怒していた。
「ペトラ、マックスはよくやってくれた。交渉が得意ではない私に代わり、好条件を引き出してくれた」
「…………確かにそうですわね。よくやりました、マックス」
「ありがとうございます。ですが、もう少しやりようはあったかもと思っております」
「いいえ、そもそも派閥違いの伯爵家に事前の根回しもなしに、そのような相談を持ち掛ける公爵家がおかしいのです。貴族同士の交渉事では根回し8割、それを怠っていたのにこちらにツケを支払わせるようにしたエルメライヒ公爵が悪いのです」
母上の言い分もわかる話だ。前世でも交渉事は1回こっきりの話し合いで決まることはほとんどなく、事前根回しや持ち帰っての検討、粘り強い交渉が必要だった。
だが、今回は王都近郊と辺境という情報交換も容易ではない距離、通信手段が前世ほど発達していないことから、早急な判断が求められていたからな。
「マックス様、エルメライヒ公爵令嬢とお会いになるのですか?」
「ああ、レナも貴族学園で友人が出来れば心強いだろう? 俺は領主経営科でレナは家政科、放課後はともかく授業間で顔を合わせることは難しくなるだろうからね」
結局のところエルメライヒ公爵令嬢に会おうと思ったのは、レナのためだ。
ゲームのシナリオではメインヒロイン、ラスボス悪役令嬢、そしてサブヒロインの中でレナだけが家政科に通っていた。
シナリオはだいぶ崩壊しているが、それでも家政科の面子がそろう可能性は十分にあり得る。
そうなった時の保険として、ラスボス悪役令嬢であるエルメライヒ公爵令嬢と知己を得ておきたいと思ったのだ。
「公爵の話では家政科に進むかはわからんと言ってなかったか?」
「そうですが、公爵家を継いで女伯爵になるにせよ、辺境伯家に嫁ぐにせよ、家政科に進むのが現実的でしょう」
女性でも領主経営科に進めなくはないが、領主経営科は騎士科と合同で剣術の稽古や、実地訓練が課される。
領主になるという気概にあふれていたり、男に負けたくないという思いがあれば別だが、普通の貴族令嬢ならば、そう言ったことは伴侶に任せて家政科に進むだろう。
「でも、別に学園は仲良しこよしの場ではないわ。確かに人脈形成は大事だけど、レナは辺境の人間と交流するのを優先すべきでは?」
「交流はそうです。ですが、ミネッティ伯爵令嬢、アレがどう動くかわかりません」
「……マックスとの見合いを断った」
「そうです。エルメライヒ公爵令嬢と知己を得られるかはわかりませんが、エルメライヒ公爵の後ろ盾があった方が何かあった時に良いでしょう」
128
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。


魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。

落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる