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幼少期
44 帰還と家族会議
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「あー、やっと帰ってこれましたね」
「……ああ……やっとだ」
エルメライヒ公爵と会談をして、その翌日には逃げるように王都を後にしたのだが、帰りはまた馬車での旅のため、帰ってくるのにもそれなりの時間がかかった。
父上の護衛の騎士団長に加えて、俺の護衛の副団長も合流しているから護衛の面では万全なのだが、かといって行程が短くなるわけではないので、王都での疲れも相まって疲労もピークだ。
疲労回復のためにちょっと良い宿に泊まったりもしたのだが、宿泊施設の面でも食事の面でも伯爵邸にかなうものではなく、望郷の念が強まるだけだった。
「お帰りなさい、あなた。それにマックス」
「お帰りなさいませ、マックス様。それにお義父様」
「出迎えご苦労。本当に疲れたよ、ペトラ……って聞いたか? マックス! お義父様って呼ばれてしまったぞ!」
「ただいま、レナ。……父上もそれくらいで喜ばないでください。アンナもお父様と呼んでいるではないですか」
伯爵邸に着くと母上とレナが出迎えてくれた。
父上と俺の両者が王都にいたことで、王都とゲルハルディ伯爵領の情報交換も滞っていたから2人も心配していたのだろう。
というか、父上の反応がうざいな。ま、アンナもようやくお父様と舌足らずながらも呼べるようになったばかりだし、俺も父上と呼ぶようになってしまったから気持ちはわかるが。
「では、クラウス、マックス。王都で何があったのかは応接室で聞かせてもらいましょう」
「わかっている。だが、旅の汚れくらいは落とさせてくれ」
「わかっておりますわ。クラウスは大浴場、マックスには浴場を用意していますから、先にそちらに。昼食もまだでしょう? その間に料理長たちに準備させておきますわ」
「流石ペトラだな。いつも助かるよ」
というわけで、俺は普通の浴場に、父上は客人が大勢来た時にしか使わない大浴場に行くことになった。
え? 親子なんだから一緒に入ればいいって? お互いに旅で疲れているのに風呂まで一緒とか絶対お断りだね。
「で、一体全体どうなったのか教えていただけるかしら?」
「わかっている。まずは王都での話だな……いつも通り陛下や宰相と情報交換していた時にマックスのダンジョン攻略の報せが届いたのが始まりだ」
といって、父上は王都であったことを一通り話しているが、勇者の称号を断ったこと、緊急時面会権を得たことには喜んでいた母上だったが、エルメライヒ公爵の話になると一転して表情を曇らせた。
どうも、エルメライヒ公爵と母上の実家は敵対関係にあったらしく、公爵令嬢と友人になるというくだりでは激怒していた。
「ペトラ、マックスはよくやってくれた。交渉が得意ではない私に代わり、好条件を引き出してくれた」
「…………確かにそうですわね。よくやりました、マックス」
「ありがとうございます。ですが、もう少しやりようはあったかもと思っております」
「いいえ、そもそも派閥違いの伯爵家に事前の根回しもなしに、そのような相談を持ち掛ける公爵家がおかしいのです。貴族同士の交渉事では根回し8割、それを怠っていたのにこちらにツケを支払わせるようにしたエルメライヒ公爵が悪いのです」
母上の言い分もわかる話だ。前世でも交渉事は1回こっきりの話し合いで決まることはほとんどなく、事前根回しや持ち帰っての検討、粘り強い交渉が必要だった。
だが、今回は王都近郊と辺境という情報交換も容易ではない距離、通信手段が前世ほど発達していないことから、早急な判断が求められていたからな。
「マックス様、エルメライヒ公爵令嬢とお会いになるのですか?」
「ああ、レナも貴族学園で友人が出来れば心強いだろう? 俺は領主経営科でレナは家政科、放課後はともかく授業間で顔を合わせることは難しくなるだろうからね」
結局のところエルメライヒ公爵令嬢に会おうと思ったのは、レナのためだ。
ゲームのシナリオではメインヒロイン、ラスボス悪役令嬢、そしてサブヒロインの中でレナだけが家政科に通っていた。
シナリオはだいぶ崩壊しているが、それでも家政科の面子がそろう可能性は十分にあり得る。
そうなった時の保険として、ラスボス悪役令嬢であるエルメライヒ公爵令嬢と知己を得ておきたいと思ったのだ。
「公爵の話では家政科に進むかはわからんと言ってなかったか?」
「そうですが、公爵家を継いで女伯爵になるにせよ、辺境伯家に嫁ぐにせよ、家政科に進むのが現実的でしょう」
女性でも領主経営科に進めなくはないが、領主経営科は騎士科と合同で剣術の稽古や、実地訓練が課される。
領主になるという気概にあふれていたり、男に負けたくないという思いがあれば別だが、普通の貴族令嬢ならば、そう言ったことは伴侶に任せて家政科に進むだろう。
「でも、別に学園は仲良しこよしの場ではないわ。確かに人脈形成は大事だけど、レナは辺境の人間と交流するのを優先すべきでは?」
「交流はそうです。ですが、ミネッティ伯爵令嬢、アレがどう動くかわかりません」
「……マックスとの見合いを断った」
「そうです。エルメライヒ公爵令嬢と知己を得られるかはわかりませんが、エルメライヒ公爵の後ろ盾があった方が何かあった時に良いでしょう」
「……ああ……やっとだ」
エルメライヒ公爵と会談をして、その翌日には逃げるように王都を後にしたのだが、帰りはまた馬車での旅のため、帰ってくるのにもそれなりの時間がかかった。
父上の護衛の騎士団長に加えて、俺の護衛の副団長も合流しているから護衛の面では万全なのだが、かといって行程が短くなるわけではないので、王都での疲れも相まって疲労もピークだ。
疲労回復のためにちょっと良い宿に泊まったりもしたのだが、宿泊施設の面でも食事の面でも伯爵邸にかなうものではなく、望郷の念が強まるだけだった。
「お帰りなさい、あなた。それにマックス」
「お帰りなさいませ、マックス様。それにお義父様」
「出迎えご苦労。本当に疲れたよ、ペトラ……って聞いたか? マックス! お義父様って呼ばれてしまったぞ!」
「ただいま、レナ。……父上もそれくらいで喜ばないでください。アンナもお父様と呼んでいるではないですか」
伯爵邸に着くと母上とレナが出迎えてくれた。
父上と俺の両者が王都にいたことで、王都とゲルハルディ伯爵領の情報交換も滞っていたから2人も心配していたのだろう。
というか、父上の反応がうざいな。ま、アンナもようやくお父様と舌足らずながらも呼べるようになったばかりだし、俺も父上と呼ぶようになってしまったから気持ちはわかるが。
「では、クラウス、マックス。王都で何があったのかは応接室で聞かせてもらいましょう」
「わかっている。だが、旅の汚れくらいは落とさせてくれ」
「わかっておりますわ。クラウスは大浴場、マックスには浴場を用意していますから、先にそちらに。昼食もまだでしょう? その間に料理長たちに準備させておきますわ」
「流石ペトラだな。いつも助かるよ」
というわけで、俺は普通の浴場に、父上は客人が大勢来た時にしか使わない大浴場に行くことになった。
え? 親子なんだから一緒に入ればいいって? お互いに旅で疲れているのに風呂まで一緒とか絶対お断りだね。
「で、一体全体どうなったのか教えていただけるかしら?」
「わかっている。まずは王都での話だな……いつも通り陛下や宰相と情報交換していた時にマックスのダンジョン攻略の報せが届いたのが始まりだ」
といって、父上は王都であったことを一通り話しているが、勇者の称号を断ったこと、緊急時面会権を得たことには喜んでいた母上だったが、エルメライヒ公爵の話になると一転して表情を曇らせた。
どうも、エルメライヒ公爵と母上の実家は敵対関係にあったらしく、公爵令嬢と友人になるというくだりでは激怒していた。
「ペトラ、マックスはよくやってくれた。交渉が得意ではない私に代わり、好条件を引き出してくれた」
「…………確かにそうですわね。よくやりました、マックス」
「ありがとうございます。ですが、もう少しやりようはあったかもと思っております」
「いいえ、そもそも派閥違いの伯爵家に事前の根回しもなしに、そのような相談を持ち掛ける公爵家がおかしいのです。貴族同士の交渉事では根回し8割、それを怠っていたのにこちらにツケを支払わせるようにしたエルメライヒ公爵が悪いのです」
母上の言い分もわかる話だ。前世でも交渉事は1回こっきりの話し合いで決まることはほとんどなく、事前根回しや持ち帰っての検討、粘り強い交渉が必要だった。
だが、今回は王都近郊と辺境という情報交換も容易ではない距離、通信手段が前世ほど発達していないことから、早急な判断が求められていたからな。
「マックス様、エルメライヒ公爵令嬢とお会いになるのですか?」
「ああ、レナも貴族学園で友人が出来れば心強いだろう? 俺は領主経営科でレナは家政科、放課後はともかく授業間で顔を合わせることは難しくなるだろうからね」
結局のところエルメライヒ公爵令嬢に会おうと思ったのは、レナのためだ。
ゲームのシナリオではメインヒロイン、ラスボス悪役令嬢、そしてサブヒロインの中でレナだけが家政科に通っていた。
シナリオはだいぶ崩壊しているが、それでも家政科の面子がそろう可能性は十分にあり得る。
そうなった時の保険として、ラスボス悪役令嬢であるエルメライヒ公爵令嬢と知己を得ておきたいと思ったのだ。
「公爵の話では家政科に進むかはわからんと言ってなかったか?」
「そうですが、公爵家を継いで女伯爵になるにせよ、辺境伯家に嫁ぐにせよ、家政科に進むのが現実的でしょう」
女性でも領主経営科に進めなくはないが、領主経営科は騎士科と合同で剣術の稽古や、実地訓練が課される。
領主になるという気概にあふれていたり、男に負けたくないという思いがあれば別だが、普通の貴族令嬢ならば、そう言ったことは伴侶に任せて家政科に進むだろう。
「でも、別に学園は仲良しこよしの場ではないわ。確かに人脈形成は大事だけど、レナは辺境の人間と交流するのを優先すべきでは?」
「交流はそうです。ですが、ミネッティ伯爵令嬢、アレがどう動くかわかりません」
「……マックスとの見合いを断った」
「そうです。エルメライヒ公爵令嬢と知己を得られるかはわかりませんが、エルメライヒ公爵の後ろ盾があった方が何かあった時に良いでしょう」
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