41 / 116
幼少期
41 二日酔いのゲルハルディ伯爵
しおりを挟む
あー、しかし、昨日の陛下との謁見もつつがなく……うん、つつがなく終わって本当に良かった。
勇者の称号も受け取らず、勇者自体の廃止、それに緊急時面会権もきちんともらえた。
ま、これでゲームのシナリオ自体はこちらに有利な形で進められそうだな。
主人公が勇者にならなければ、ダンジョン攻略自体が難しくなるし、ダンジョンの攻略が出来なければゲームのクリアに重要な装備やアイテムの入手もできないからな。
中ボス悪役令息としては、これで安心して暮らせるってもんよ。
「……マックスか。……おはよう」
「おはようございます、父上。その御様子だと昨晩はかなり飲んだようですね」
「……ああ、陛下と宰相に会うといつもこれだ」
「楽しそうで何よりです。朝食にはフルーツジュースを付けてもらいましょうね。コーヒーは二日酔いが治ってからにしてください」
「……ああ、そうだな。とにかく水分を取らんとな」
「ま、母上には秘密にしておきますね。まだ授乳中で飲酒のできない母上に教えれば、どうなることやら」
「……ああ、それは心の底から頼む」
飲み過ぎていつもよりもぼーっとしていて、頭を押さえている父上と共に朝食をとることにした。
父上は二日酔いが相当ひどいのか、フルーツジュースをチビチビやりながら、パンを小さくちぎりながらチマチマと食べている。
いつもの豪快な食べっぷりからすると相当違和感のある光景だが、二日酔いの人間などこんなものだろう。
「父上、そういえばこれからの予定はどうなっているのですか?」
「ああ、今日は下準備をして、明日にはゲルハルディ領に帰ろうと思っている」
「もうですか? 流石に陛下との謁見のすぐ後に帰るのはマズいのでは?」
「辺境伯家がいれば会合なりがあるが、いないからな。それにエルメライヒ公爵から誘いを受ける前に帰りたい」
「ああ、ミネッティ伯爵の上司の。……そこまで面倒なのですか?」
「いや、会ったことがないから確実ではないが、あのミネッティ伯爵を任命した人物だからな。それに、同格のミネッティ伯爵ならばともかく公爵となればこちらから断ることもできんしな」
正確には断ることは可能だが、その後の関係や会うたびに嫌味をネチネチ言われる可能性を考えると得策ではない、だな。
エルメライヒ公爵は王家派で、ゲルハルディ伯爵家は国王派、派閥違いになるので爵位が上だからと言って必ずしも言うことを聞かなければならないわけではない。
一応、ゲルハルディ領から王都に輸入品を卸す際には大街道を押さえているエルメライヒ公爵領を通っているが、別に公爵領を通らなくても王都に品物を卸す手段はある。
エルメライヒ公爵家との直接のやり取りもないし、没交渉となってしまってもデメリットはそこまでない。
とはいえ、最初からけんか腰で関わるのも貴族としてあり得ないので、誘いを受けたら断ることは出来ないだろうな。
「ゲルハルディ伯爵様、その御子息マックス殿、エルメライヒ公爵様から面会のアポイントメントを求められていますが」
うん、やっぱりこの世界でもフラグってあるよね。
会いたくないなぁ、なんて話してたらその当人がアポを求めてくるとかあるあるだよ。
「……はぁ、わかりました。昼食後にお会いするとお伝えください」
「ありがとうございます」
一応、朝食後のティータイムを狙ってきたようだし、貴族としてのマナーは出来てるけど、それなら派閥違いの貴族に面会なんて求めないでほしかったな。
「……はあ、マックス、面倒だが公爵からの面会要請だ」
「父上、確かに面倒ですが、顔に出すのはどうかと思いますよ」
「だが、あのミネッティ伯爵の上役だぞ?」
「確かにミネッティ伯爵令嬢は貴族としてはあり得なく、令嬢を育てたミネッティ伯爵も糾弾されるべきですが、エルメライヒ公爵はエルメライヒ公爵です」
「……む」
「ミネッティ伯爵を伯爵に任命したのがエルメライヒ公爵ですが、子育てにまで口を出す権利はないでしょう。我が家の周辺領もレナはともかく、男爵家には貴族としての矜持のない子供もいるでしょう」
「……確かにな」
「それに、ミネッティ伯爵令嬢にしても当時は5歳ですよ。年齢で考えればアンナとそう変わりはありません。少しばかり傲慢な態度をしてもそう咎められるものでもないでしょう」
アンナはゲルハルディ家の長女、俺の3歳年下の妹で現在は4歳だ。
貴族としての教育も施しているが、嫁入りが前提になっているのでそこまで厳しい教育はしておらず、貴族としての自覚も薄い。
「む。アンナか。そう言われると弱いな」
「ユリア叔母さんに憧れているそうで、この前など商家に嫁入りしたいと言い出していましたよ」
「本当か?!」
「ええ。成人するまでは嫁入りはできない。商家に入るにしても文字の読み書きや算数は必要だと言って、貴族教育に戻しましたが」
「助かる。……はあ、どうしてああなってしまったのか」
「ま、勉強など面倒ですからね。同年代の子供たちが外で遊んでいると聞けば、自分もそうしたいというのは子供として当然かと」
「お前もか?」
「私ですか? まあ、思わないことはないですが、農民の子や商家の子が苦労をしていることも知っていますし、貴族としての自覚もありますから自分のできることをするだけですよ」
幼少期から勉強漬けにされる貴族の子供としては外で駆け回っている子供を見て羨む気持ちもわかるが、平民の子供は家の手伝いやら人脈形成やらで苦労するしな。
案外、アンナにもそういう現実を叩きつけることも必要なのかもな。
勇者の称号も受け取らず、勇者自体の廃止、それに緊急時面会権もきちんともらえた。
ま、これでゲームのシナリオ自体はこちらに有利な形で進められそうだな。
主人公が勇者にならなければ、ダンジョン攻略自体が難しくなるし、ダンジョンの攻略が出来なければゲームのクリアに重要な装備やアイテムの入手もできないからな。
中ボス悪役令息としては、これで安心して暮らせるってもんよ。
「……マックスか。……おはよう」
「おはようございます、父上。その御様子だと昨晩はかなり飲んだようですね」
「……ああ、陛下と宰相に会うといつもこれだ」
「楽しそうで何よりです。朝食にはフルーツジュースを付けてもらいましょうね。コーヒーは二日酔いが治ってからにしてください」
「……ああ、そうだな。とにかく水分を取らんとな」
「ま、母上には秘密にしておきますね。まだ授乳中で飲酒のできない母上に教えれば、どうなることやら」
「……ああ、それは心の底から頼む」
飲み過ぎていつもよりもぼーっとしていて、頭を押さえている父上と共に朝食をとることにした。
父上は二日酔いが相当ひどいのか、フルーツジュースをチビチビやりながら、パンを小さくちぎりながらチマチマと食べている。
いつもの豪快な食べっぷりからすると相当違和感のある光景だが、二日酔いの人間などこんなものだろう。
「父上、そういえばこれからの予定はどうなっているのですか?」
「ああ、今日は下準備をして、明日にはゲルハルディ領に帰ろうと思っている」
「もうですか? 流石に陛下との謁見のすぐ後に帰るのはマズいのでは?」
「辺境伯家がいれば会合なりがあるが、いないからな。それにエルメライヒ公爵から誘いを受ける前に帰りたい」
「ああ、ミネッティ伯爵の上司の。……そこまで面倒なのですか?」
「いや、会ったことがないから確実ではないが、あのミネッティ伯爵を任命した人物だからな。それに、同格のミネッティ伯爵ならばともかく公爵となればこちらから断ることもできんしな」
正確には断ることは可能だが、その後の関係や会うたびに嫌味をネチネチ言われる可能性を考えると得策ではない、だな。
エルメライヒ公爵は王家派で、ゲルハルディ伯爵家は国王派、派閥違いになるので爵位が上だからと言って必ずしも言うことを聞かなければならないわけではない。
一応、ゲルハルディ領から王都に輸入品を卸す際には大街道を押さえているエルメライヒ公爵領を通っているが、別に公爵領を通らなくても王都に品物を卸す手段はある。
エルメライヒ公爵家との直接のやり取りもないし、没交渉となってしまってもデメリットはそこまでない。
とはいえ、最初からけんか腰で関わるのも貴族としてあり得ないので、誘いを受けたら断ることは出来ないだろうな。
「ゲルハルディ伯爵様、その御子息マックス殿、エルメライヒ公爵様から面会のアポイントメントを求められていますが」
うん、やっぱりこの世界でもフラグってあるよね。
会いたくないなぁ、なんて話してたらその当人がアポを求めてくるとかあるあるだよ。
「……はぁ、わかりました。昼食後にお会いするとお伝えください」
「ありがとうございます」
一応、朝食後のティータイムを狙ってきたようだし、貴族としてのマナーは出来てるけど、それなら派閥違いの貴族に面会なんて求めないでほしかったな。
「……はあ、マックス、面倒だが公爵からの面会要請だ」
「父上、確かに面倒ですが、顔に出すのはどうかと思いますよ」
「だが、あのミネッティ伯爵の上役だぞ?」
「確かにミネッティ伯爵令嬢は貴族としてはあり得なく、令嬢を育てたミネッティ伯爵も糾弾されるべきですが、エルメライヒ公爵はエルメライヒ公爵です」
「……む」
「ミネッティ伯爵を伯爵に任命したのがエルメライヒ公爵ですが、子育てにまで口を出す権利はないでしょう。我が家の周辺領もレナはともかく、男爵家には貴族としての矜持のない子供もいるでしょう」
「……確かにな」
「それに、ミネッティ伯爵令嬢にしても当時は5歳ですよ。年齢で考えればアンナとそう変わりはありません。少しばかり傲慢な態度をしてもそう咎められるものでもないでしょう」
アンナはゲルハルディ家の長女、俺の3歳年下の妹で現在は4歳だ。
貴族としての教育も施しているが、嫁入りが前提になっているのでそこまで厳しい教育はしておらず、貴族としての自覚も薄い。
「む。アンナか。そう言われると弱いな」
「ユリア叔母さんに憧れているそうで、この前など商家に嫁入りしたいと言い出していましたよ」
「本当か?!」
「ええ。成人するまでは嫁入りはできない。商家に入るにしても文字の読み書きや算数は必要だと言って、貴族教育に戻しましたが」
「助かる。……はあ、どうしてああなってしまったのか」
「ま、勉強など面倒ですからね。同年代の子供たちが外で遊んでいると聞けば、自分もそうしたいというのは子供として当然かと」
「お前もか?」
「私ですか? まあ、思わないことはないですが、農民の子や商家の子が苦労をしていることも知っていますし、貴族としての自覚もありますから自分のできることをするだけですよ」
幼少期から勉強漬けにされる貴族の子供としては外で駆け回っている子供を見て羨む気持ちもわかるが、平民の子供は家の手伝いやら人脈形成やらで苦労するしな。
案外、アンナにもそういう現実を叩きつけることも必要なのかもな。
94
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
物語の悪役らしいが自由にします
名無シング
ファンタジー
5歳でギフトとしてスキルを得る世界
スキル付与の儀式の時に前世の記憶を思い出したケヴィン・ペントレーは『吸収』のスキルを与えられ、使い方が分からずにペントレー伯爵家から見放され、勇者に立ちはだかって散る物語の序盤中ボスとして終わる役割を当てられていた。
ーどうせ見放されるなら、好きにしますかー
スキルを授かって数年後、ケヴィンは継承を放棄して従者である男爵令嬢と共に体を鍛えながらスキルを極める形で自由に生きることにした。
※カクヨムにも投稿してます。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる