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幼少期

41 二日酔いのゲルハルディ伯爵

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 あー、しかし、昨日の陛下との謁見もつつがなく……うん、つつがなく終わって本当に良かった。
 勇者の称号も受け取らず、勇者自体の廃止、それに緊急時面会権もきちんともらえた。

 ま、これでゲームのシナリオ自体はこちらに有利な形で進められそうだな。
 主人公が勇者にならなければ、ダンジョン攻略自体が難しくなるし、ダンジョンの攻略が出来なければゲームのクリアに重要な装備やアイテムの入手もできないからな。
 中ボス悪役令息としては、これで安心して暮らせるってもんよ。

「……マックスか。……おはよう」

「おはようございます、父上。その御様子だと昨晩はかなり飲んだようですね」

「……ああ、陛下と宰相に会うといつもこれだ」

「楽しそうで何よりです。朝食にはフルーツジュースを付けてもらいましょうね。コーヒーは二日酔いが治ってからにしてください」

「……ああ、そうだな。とにかく水分を取らんとな」

「ま、母上には秘密にしておきますね。まだ授乳中で飲酒のできない母上に教えれば、どうなることやら」

「……ああ、それは心の底から頼む」

 飲み過ぎていつもよりもぼーっとしていて、頭を押さえている父上と共に朝食をとることにした。
 父上は二日酔いが相当ひどいのか、フルーツジュースをチビチビやりながら、パンを小さくちぎりながらチマチマと食べている。
 いつもの豪快な食べっぷりからすると相当違和感のある光景だが、二日酔いの人間などこんなものだろう。

「父上、そういえばこれからの予定はどうなっているのですか?」

「ああ、今日は下準備をして、明日にはゲルハルディ領に帰ろうと思っている」

「もうですか? 流石に陛下との謁見のすぐ後に帰るのはマズいのでは?」

「辺境伯家がいれば会合なりがあるが、いないからな。それにエルメライヒ公爵から誘いを受ける前に帰りたい」

「ああ、ミネッティ伯爵の上司の。……そこまで面倒なのですか?」

「いや、会ったことがないから確実ではないが、あのミネッティ伯爵を任命した人物だからな。それに、同格のミネッティ伯爵ならばともかく公爵となればこちらから断ることもできんしな」

 正確には断ることは可能だが、その後の関係や会うたびに嫌味をネチネチ言われる可能性を考えると得策ではない、だな。
 エルメライヒ公爵は王家派で、ゲルハルディ伯爵家は国王派、派閥違いになるので爵位が上だからと言って必ずしも言うことを聞かなければならないわけではない。

 一応、ゲルハルディ領から王都に輸入品を卸す際には大街道を押さえているエルメライヒ公爵領を通っているが、別に公爵領を通らなくても王都に品物を卸す手段はある。
 エルメライヒ公爵家との直接のやり取りもないし、没交渉となってしまってもデメリットはそこまでない。
 とはいえ、最初からけんか腰で関わるのも貴族としてあり得ないので、誘いを受けたら断ることは出来ないだろうな。

「ゲルハルディ伯爵様、その御子息マックス殿、エルメライヒ公爵様から面会のアポイントメントを求められていますが」

 うん、やっぱりこの世界でもフラグってあるよね。
 会いたくないなぁ、なんて話してたらその当人がアポを求めてくるとかあるあるだよ。

「……はぁ、わかりました。昼食後にお会いするとお伝えください」

「ありがとうございます」

 一応、朝食後のティータイムを狙ってきたようだし、貴族としてのマナーは出来てるけど、それなら派閥違いの貴族に面会なんて求めないでほしかったな。

「……はあ、マックス、面倒だが公爵からの面会要請だ」

「父上、確かに面倒ですが、顔に出すのはどうかと思いますよ」

「だが、あのミネッティ伯爵の上役だぞ?」

「確かにミネッティ伯爵令嬢は貴族としてはあり得なく、令嬢を育てたミネッティ伯爵も糾弾されるべきですが、エルメライヒ公爵はエルメライヒ公爵です」

「……む」

「ミネッティ伯爵を伯爵に任命したのがエルメライヒ公爵ですが、子育てにまで口を出す権利はないでしょう。我が家の周辺領もレナはともかく、男爵家には貴族としての矜持のない子供もいるでしょう」

「……確かにな」

「それに、ミネッティ伯爵令嬢にしても当時は5歳ですよ。年齢で考えればアンナとそう変わりはありません。少しばかり傲慢な態度をしてもそう咎められるものでもないでしょう」

 アンナはゲルハルディ家の長女、俺の3歳年下の妹で現在は4歳だ。
 貴族としての教育も施しているが、嫁入りが前提になっているのでそこまで厳しい教育はしておらず、貴族としての自覚も薄い。

「む。アンナか。そう言われると弱いな」

「ユリア叔母さんに憧れているそうで、この前など商家に嫁入りしたいと言い出していましたよ」

「本当か?!」

「ええ。成人するまでは嫁入りはできない。商家に入るにしても文字の読み書きや算数は必要だと言って、貴族教育に戻しましたが」

「助かる。……はあ、どうしてああなってしまったのか」

「ま、勉強など面倒ですからね。同年代の子供たちが外で遊んでいると聞けば、自分もそうしたいというのは子供として当然かと」

「お前もか?」

「私ですか? まあ、思わないことはないですが、農民の子や商家の子が苦労をしていることも知っていますし、貴族としての自覚もありますから自分のできることをするだけですよ」

 幼少期から勉強漬けにされる貴族の子供としては外で駆け回っている子供を見て羨む気持ちもわかるが、平民の子供は家の手伝いやら人脈形成やらで苦労するしな。
 案外、アンナにもそういう現実を叩きつけることも必要なのかもな。
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