気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

文字の大きさ
上 下
33 / 129
幼少期

33 レナとの再会

しおりを挟む
「あれ? 若様ですかい?」

「おー、みんな元気そうだな~」

「若様、帰ってきたの?」

「無事戻ったぞ~」

 ゲルハルディ領の中でも屋敷のある街の近くまでくると、流石に領主の息子である俺の顔を知っている領民も増えてくる。
 まあ、見回りって程じゃないけど、騎士たちと巡回に出たりはしていたからな。

「若様~、しばらく見なかったけどどこに行ってたの~?」

「ん~、領内を見回ってきたんだよ。俺も領主を継ぐためにいろいろやらなきゃならんからな~」

 領民はほぼ全員が平民ってことで、こういう話し方をしてくると不敬だって言ってくる貴族も多いらしいが、ゲルハルディ領ではそういうのはない。
 領主一族への敬意があれば、言葉遣いなんてどんなものでもいいし、そもそも辺境で敬語がどうのこうの言っても仕方ないからな。

「ぼく、領主邸に伝えに行ってくるよっ!」

「おいおい、もう目と鼻の先だから大丈夫だぞ?」

「やらせておきましょう、マックス様」

「クルト? 別に1時間もかからずにつくだろ?」

「だからこそですよ。旦那様も奥様もマックス様を出迎えるのに準備がいるでしょう」

「ん~??」

 いるか? 確かに1か月ぶりの我が家だが、国王陛下を迎えるわけでもないのに準備なんていらんだろ。
 あ~、でも温かい風呂とか準備されてた方が嬉しいか。

「マックス様、確かに帰還の手紙は出してはいますが、料理長たちも急にマックス様が戻られれば大変でしょう」

「あ~、確かに。昼はとってきたけど、屋敷に帰るころには夜飯も間近か」

 貴族の屋敷だから食料自体は余分に保管してるだろうけど、それでも急に人数が増えるのは料理人たちの負担だからな、クルトの言うことももっともか。
 その後も、街の人たちの歓迎を受けながら、俺たちは屋敷へと歩を進める。

「マックス様っ! とても……とても、心配しましたっ!」

「レナっ!」

 屋敷までつくとレナが待っていてくれていた。
 どうやら、俺たちの帰還を告げた住人の言葉を聞いてからずっと待っていてくれたらしい。
 本当にいじらしい娘だ。

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫だよ。レナも勉強が進んでいるようだね。旅に出る前よりもずっと所作がきれいになっているよ」

 レナは元々、メイドや影としては教育を受けていたけれど、貴族令嬢としてはそこそこの教育しか受けていなかった。
 だが、俺がいなかった1ヶ月の間、かなりの特訓を受けたようで、これなら伯爵家に嫁ぐ令嬢として恥ずかしくない程度になっている。

「いいえ、まだまだです。お義母様からは及第点はいただきましたが、合格点には程遠いのです」

「ふふ、嬉しいな。俺のことも若様じゃなくて、マックス様って呼んでくれているし。母上のことも奥様じゃなくてお義母様と呼んでくれているんだね」

「……それは、お義母様に厳しく言われましたので」

 使用人や部下の娘なら母上もそのままでいいと思っていたのだろうけど、レナは既に俺の婚約者となっているから、母上も厳しく教育したんだろうな。
 それにしても、自分の婚約者から名前で呼ばれるのがこれほどにうれしいとは……うん、レナのことを一層、守らなきゃと思うな。

「マ~ックス! 帰ってきて早々、門前で語らっている場合ではありません! 話がありますから、さっさと屋敷に入りなさい!」

 おっと、婚約者との逢瀬を楽しんでいたのに、鬼……もとい、母上に怒られてしまった。
 ま、クルトたちも早く解放してやらないとならないしな。

「みな、これまでの旅、ご苦労だった。明日から4日間は旅の間にとれなかった休暇、その後は騎士団のスケジュールに戻ってくれ。騎士団長への帰還の挨拶を忘れないように」

「「「「「はっ!」」」」」

 騎士団とはいえ、休暇の概念はあって、シフト制だから休日は人それぞれだが、まあ、1週間に1日はとれるようにしてある。
 4週間の旅だったから、クルトたちには4日間の休暇が与えられる手はずとなっている。

「「マックス様、お帰りなさいませ」」

「ああ、みなも息災のようだな」

 屋敷に中に入ると、執事、メイド長を筆頭に、見習いやメイドたちが俺に頭を下げてくる。
 うん、こういう光景を見ると自分が貴族だという実感がわくな。

「マックス、ようやく帰ってきましたねバカ息子」

「母上、皆がいる前でバカとはひどいですね。何をそんなにお怒りなのですか?」

 いろいろやらかした自覚はあるが、旅には母上も賛成していたよな?

「ダンジョン攻略のことです! 旅は許しましたが、流石に貴方の年齢でダンジョンに入るなど何を考えているのですかっ!?」

「母上、落ち着いてください。いろいろと事情があったのです。それについては、執務室でお話ししますので、ここでは」

 なるほど、確かにダンジョンの危険性は貴族なら知っていることだし、自分の息子がダンジョンに勝手に入っていたら親として叱るのは当然か。
 とはいえ、流石にダンジョン攻略、ダンジョンの情報についてはいくら使用人とは言え、他人のいる場所で話すことではない。
 プリプリと怒る母上をなだめながら、執務室へとさっさと行ってしまおう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

悪役令嬢に転生したので何もしません

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有りです。微々たるものですが。 小説家になろう様でも投稿しています。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

処理中です...