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終章 迷宮都市

03 引っ張りだこ

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「マサト殿、伯爵閣下から事情は聞き及んでいます。是非にもこの土地に食堂を作ってください!」

「待て待て、こちらとて皇帝陛下に頼まれているんだ! マサト様、食堂はぜひこちらの土地にお願いします!」

 えー、現在、俺たちは迷宮都市内で屈強な男たちに取り囲まれています。
 どうやら、ランドールさんとリヒトが手を回していたらしく、迷宮都市に入ってどの場所に食堂を作ろうかと話していたら王国騎士団と帝国軍にぜひ我が国の占領地に食堂を! という話になった。
 なんでも、迷宮都市は各勢力ごとに占領している土地があるらしく、自由業の冒険者はともかく国に縛られている騎士や軍人はその境界からなるべく出ないように通達が出てるらしい。
 あ、一応迷宮都市は三か国共同での開発となっているが、聖王国からは騎士団は来ていないので冒険者のみ、つまりは占領地自体はあるもののまともに機能していない状態らしい。

「そちらはつい最近までマサト殿が訪れていたのだろう? 今度はこちらに譲るべきではないか?」

「そちらこそ、一番最初にマサト様に料理を教えてもらったとか……ならば料理に関しては一番長く触れているのだから、まだまだ発達していないこちらに譲るのが筋では?」

 あー、俺にとってはある程度料理に興味がある人がいれば食堂の立地についてはあんまりこだわりはないんだが、周囲はそうじゃないようだな。
 極力、占領地から出ないようにと通達がある以上、自分たちの占領地内に食堂を作ってもらわないと気軽に料理を食べに行けない、というのが争っている理由らしい。

「わかったわかった! じゃあ、食堂は三か国の占領地の中心に作る! これでいいな!」

 迷宮都市は迷宮の西側……要は三か国側に広がっているが、南が王国、西が聖王国、北が帝国の占領地になっている。
 迷宮の直近には迷宮攻略の拠点ができているから不可侵領域となっていて、三か国共同で出資した宿屋や、出土品の買取所、各国のギルドなんかがあるだけで好き勝手に土地は使えないらしい。
 ならば、三か国の中心、不可侵領域に入る手前の三か国の占領地が重なる場所に食堂を建てさせてもらうことにしよう。
 これなら、どこからも文句は言えまい!

「……騎士団や王国の人間が自由に出入りできるのなら」

「……確かに皇帝陛下からはマサト様の機嫌を損ねないようにとも言われておりますし」

「じゃあ、そういうことで、その場所まで案内してもらえるか?」

「「よろこんで!!」」

 ってなわけで、食堂の作成場所は三か国の占領地の中心……これなら迷宮からも近いからレイジが迷宮に行くのも楽になるだろう。
 植物だろうが、肉だろうが、食材を運ぶのも大変だからな、これで少しでもレイジが楽になるならいいだろう。

「中心というとこの辺りになりますね」

「境界線と言っても明確に線が引かれているわけではありませんので、正確ではないですが、この辺りなら三か国のどの人間がうろついていても問題はありません」

「不可侵領域には入っていないんだよな?」

「不可侵領域を決める際にまず初めに境界門を作ったので、その内側に入らなければ大丈夫ですよ」

 おお、あの迷宮の前に作られてる石造りの門か。
 何のためにあるのかと思ったら不可侵領域の、領域を示すためか。

「じゃあ、この辺に食堂を作るかね」

 占領地の中心ということで人の流れから自然と道のようなものが出来ているから、それを邪魔しないような場所に作らないとな。

「ぜひとも王国の近く!」

「いやいや、帝国の近くに!」

「ええい! 騎士も軍人も鍛えてるんだから子供みたいなことを言うんじゃない!」

 求められるのは悪い気はしないが、子供みたいな言い争いはうんざりだ。
 なるべく中心になる場所にとっとと食堂を建ててしまおう。
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