上 下
124 / 150
5章 帝国

09 ピザ

しおりを挟む
「材料は小麦粉、紫トマト、キラーバード、ベーコン、あとはカマンベールチーズかな」


「パンと一緒ならドライイーストとかお塩もですか?」

「そうそう、ただ最近作ってるようなパンとは違って、ミルクとかバターは入れないな。その代わりにオリーブオイルと使う」

「具材はこれじゃなきゃダメなの?」

「いや、割となに乗せてもいいんだけど、材料が少ないからな」

 キラーバードの肉は食いきれなくて冷凍されてるものが結構残ってるからそれで、紫トマトはトマトソースを作る用と具材用だな。
 ナスとかピーマンとかがあればもうちょっと色合いが出せるんだけど、ないしなぁ……それに魚介系も手に入ってないからシーフードってわけにもいかんし。

「とりあえず、ピザ生地はパンと同じで寝かせる時間が必要だから、先に作って寝かせてる間にトマトソースと具材を用意しようか」

「時間がかかるのか?」

「出来上がるのに二時間くらいはかかるから、今から作り始めるけど出来上がるのは夕方過ぎだぞ」

 料理について何の知識もないリヒトは分からないかもしれないが、料理っていうのは時間がかかるものなんだ。

「流石にそれだけの時間、ここで遊んでるわけにはいかねーな」

「ですから、皇帝陛下は執務に戻ってください」

「だからお父様と呼べと……まあいい、じゃあミレーヌはマサトを手伝ってやれ」

「……なぜわたくしが」

「皇帝としてマサト達を歓待しろと命じたろ」

 言うだけ言って、リヒトは食堂から出ていった。

「まあ、リヒトの言うことじゃないけどミレーヌにも手伝ってもらえればありがたいな。初めての料理ってこともあるけど、普通に七十人前は多い」

「……はあー、わかりましたわ」

 一枚で二人前としても三十五枚は作らなきゃいけないからな、一人でも人手は多い方がありがたい。
 もちろん料理人の天職持ちの兵士たちにも手伝ってもらうことになってる……まあ、さっきまでリヒトがいたから今は食堂の外にいるけど、リヒトが居なくなった以上入ってもらわないとな。

「レイジ、外にいる料理人の天職持ちの兵士の人たちを呼んできてもらっていいか?」

「はーい」

「マサト様は……陛下と仲が良くなったですね?」

「仲……よくなったのか? お互いに面倒だから堅苦しい話し方をやめただけだぞ」

「でも、陛下はわたくしたち家族にはあのようにお話しされません」

 うーん、さっきはミレーヌ相手にも結構気安い話し方してたけどなー。

「まあ、皇帝としての立場もあるし、俺に対してはそうしなきゃ俺が嫌がると思ったんじゃないのか?」

「マサトさん、王国でもかしこまった話し方するの嫌がっていましたもんね」

 そうなんだよな~、やろうと思えばできないこともないんだけど、やっぱり適当に話してる方が気が楽だしな~。

「それに、リヒトは人質外交として各国の有力者の娘と結婚してるんだろ? 多分、誰かに肩入れしてると思われると面倒事が増えるんじゃないのか?」

「……面倒事」

「俺は家族に対する記憶がないからよくわからんが、リヒトが家族のことをないがしろにしてるってことはないんじゃないかな」

 皇位を誰が継ぐかに気をもんでたり……多分ここに来たのも食堂を見たかったのもあるだろうけど、ミレーヌの様子を見に来たんじゃないのかな。
 俺といれば皇帝としての立場じゃなくて、ただのリヒトとして接することができる……まあ、これは俺の想像、っていうか妄想かな。

「マサト兄ちゃん、みんなを連れてきたよ」

「よし、じゃあまずはパン生地作りからだな。十人いるから目標は一人四枚分だぞ」

 リヒトの考えはリヒトにしかわからない、わからないものを考え続けるよりも手を動かした方が気がまぎれることもある。
 だから、まあ俺がミレーヌのためにしてやれるのはいろんな料理を教えてやるくらいだな。

「つ……疲れました」

「だろうねえ、でも今回は料理人の天職持ちが多くて助かったよ」

 王国にいた時はこれよりも少人数でもっと大量の料理を作ってたしな。

「でも、作れば作るほどに慣れていくというか……どうすれば上手にできるかが頭に入ってくる感じがしました」

「ああ、多分それは天職のおかげだろうな。ミレーヌは特に発酵職人で、パン生地は発酵を使うからボーナス的な何かがあったんじゃないか?」

 王国のイーリスもパンに関する料理だけ異様に上手かったからな。

「……発酵……マサト様が見せてくれた醤油や味噌以外にもあるんですね」

「ピザに使ったチーズもそうだし、結構いろんなものがあるぞ」

 何だっけ? 微生物を使って通常とは違う状態になること? 食用に耐えられたら発酵でだめだったら腐ったってことでいいのか?

「チーズ……ピザにのせていた黄色いやつですよね」

「聖王国でミルクと発酵に必要な植物が手に入ったから見よう見まねというか、聞きかじりの知識で作ってみたけど、まあなんとか形になったっていうレベルのな」

「これもわたくしが手伝うのですか?」

「手伝ってくれればこのピザももっと、美味くなると思うんだよな~。……ってわけで、ここにいるメンバーで先に試食をしておくか」

「いいのですか? 皇帝陛下よりも先に食べてしまって?」

「いやいや、これはきちんと出来てるかの確認だから」

 そう、試食っていうのは料理のクォリティを確かめる行為で、つまみ食いとは違うからな。

「味付けはテリヤキチキンと、ベーコンと紫トマトの二種類だから、みんなそれぞれ食べてみてくれよ」

 テリヤキチキンはキラーバードの肉を薄く切って軽く焼いてから照り焼きのたれに絡めてある。
 こっちの方にはマヨネーズを回しかけてあるから、こってり系の味付けが好きな人が好みそうだな。

 ベーコンのほうは基本的に生で食べても大丈夫なものしか乗せてないから、そのまま食べやすい大きさに切ってから焼いてある。
 こっちは塩コショウだけの味付けでマヨネーズなんかを使うのはやめた。
 バジルがあればもっとさっぱりできたけどないものは仕方がないから諦めた形だな。

「わたし、こっちの紫トマトを使った方が酸っぱくて好きです」

「僕はこっちのテリヤキチキンのほうがいいかな」

 まあ、好みに差が出るよな。

「マサト様、ピザというのはこれ以外にも種類があるのですか?」

「俺が知ってるだけでも、魚介を乗せたシーフードとか果物を乗せたトロピカル、肉も牛肉や豚肉を使ったり、野菜もいろいろだな」

 とにもかくにも材料が足りないからな、今回は在庫が多めの材料で作ったけど本当はもう少しバランスのいいトッピングにもしたかったんだよな。

「魚介?」

「海とか川にいる獣や魔獣のこと……でいいのか?」

「村にもいたけどマサト兄ちゃんが食用にできないって嘆いてたやつだよね」

 そうなんだよな~、村の中には洗濯用に使ってた川があって、そこには小魚が泳いでたんだけど食用不可だったんだよな。
 それからも領都とか王都で川や湖を覗いてみても魚がいないか食用にできないのしかいなくてな~。

「海……マサト様、帝国の北側には海があるのですよ」

「おおっ、マジ?」

 魚介が手に入ったら、ピザと言わずにスープにしてもメインにしても幅がかなり広がるんだよな~。
 それに醤油関係も大豆から醤油を作るよりも、魚から作る魚醤のほうが簡単に作れるしな。

「北の方はわたくしではなく、一番上のお兄様の管轄ですので詳しく聞いてみないと生き物が居るかどうかはわかりませんが……」

「いやいや、情報があるだけで助かるって。集めた獣の鑑定をするときにでもリヒトに他の食材探しもお願いしないとな」

「帝国としても食材になるものが増えるのはうれしいことですから、皇帝陛下も快く承諾してくれると思いますよ」

 まあ、そうなら助かるんだけどな。
 もし、集めるのがダメって言われるとここから離れて食材探しに行かないといけなくなるしな~。

「まあ、とりあえずこのピザは成功……みたいだな、みんないい笑顔で食ってくれてるし」

「マサトさん的にはどうだったんですか?」

「うーん、四十点くらい?」

 やっぱりというかチーズの熟成が足りてないのと、そもそもピザ用に作ったチーズじゃないのもあるんだが、味に深みがないんだよな。
 それに、ピザって言うと何種類かのチーズを混ぜて作るのがセオリーなんだけど、これは一種類だから結構味がべたってなってるんだよな。

「厳しいですね」

「まあ、ミレーヌが手伝ってくれたらもっとおいしくなるってことで」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

嵌められ勇者のRedo LifeⅡ

綾部 響
ファンタジー
守銭奴な仲間の思惑によって、「上級冒険者」であり「元勇者」であったアレックスは本人さえ忘れていた「記録」の奇跡により15年前まで飛ばされてしまう。 その不遇とそれまでの功績を加味して、女神フェスティーナはそんな彼にそれまで使用していた「魔法袋」と「スキル ファクルタース」を与えた。 若干15歳の駆け出し冒険者まで戻ってしまったアレックスは、与えられた「スキル ファクルタース」を使って仲間を探そうと考えるも、彼に付与されたのは実は「スキル ファタリテート」であった。 他人の「宿命」や「運命」を覗き見れてしまうこのスキルのために、アレックスは図らずも出会った少女たちの「運命」を見てしまい、結果として助ける事となる。 更には以前の仲間たちと戦う事となったり、前世でも知り得なかった「魔神族」との戦いに巻き込まれたりと、アレックスは以前とと全く違う人生を歩む羽目になった。 自分の「運命」すらままならず、他人の「宿命」に振り回される「元勇者」アレックスのやり直し人生を、是非ご覧ください! ※この物語には、キャッキャウフフにイヤーンな展開はありません。……多分。 ※この作品はカクヨム、エブリスタ、ノベルアッププラス、小説家になろうにも掲載しております。 ※コンテストの応募等で、作品の公開を取り下げる可能性があります。ご了承ください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生領主の領地開拓 -現代の日本の知識は最強でした。-

俺は俺だ
ファンタジー
 今年二十歳を迎えた信楽彩生《しんらくかやせ》は突如死んでしまった。  彼は初めての就職にドキドキし過ぎて、横断歩道が赤なことに気がつかず横断歩道を渡ってしまった。  そんな彼を可哀想に思ったのか、創造神は彩生をアルマタナの世界へと転生させた。  彼は、第二の人生を楽しむと心に決めてアルマタナの世界へと旅だった。  ※横読み推奨 コメントは読ませてもらっていますが、基本返信はしません。(間が空くと、読めないことがあり、返信が遅れてしまうため。)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

処理中です...