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4章 聖王国

05 興亡

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 聖王国に来てから結構な月日が経った。
 そこそこ多くの村を周ってきたけど、どこも現状は変わらない。
 この国では国民は祈ることが大事で農業や料理に関する情熱は薄い。
 王国のように農家が保護されているわけでもなければ、魔獣や獣討伐のために騎士団が作られているわけでもない。

 だけど、だからこそ俺たちがもたらす農業の知識と料理の知識は歓迎されているようだ。
 どの村でも暇を持て余している人は多く、何かをしたくても何をしたらいいのかわからない……そんな人が多くいた。

 とはいえ、こっちの目標はまったくもって達成できていない。
 どの村に行っても牛型の獣や獣使いの天職を持っている人が高確率でいるのだが、結局、獣から乳を採れるような人間は終ぞ現れなかった。

「マサト兄ちゃーん、まだ落ち込んでるの?」

「だってさー、牛乳があれば料理の幅が広がるんだぜ?」

 そう、牛乳が手に入ればシチューだってグラタンだって作れるのだ。
 というか、グラタンのためにマカロニまで作ったのだから是が非でも牛乳を手に入れたいと思うのが人情だろう。

「今までの料理だってこの国の人たちは喜んでくれてますよ?」

「って言ってもな、結局この国で手に入ったのはグリーンバッファローとグリーンリーフくらいなんだぞ?」

 そう、結構な数の植物や獣を鑑定しているのだが、この国では育ちが悪いのか何なのか、食用に適しているものがほとんど見つからない。
 正確には特殊なスパイスや発酵作用を促す成分を保有する植物などは見つかっているのだが、この国特有の料理を作るのには不十分なのだ。
 これまで通ってきた村ではグリーンバッファローのスパイス焼きやグリーンリーフの塩炒めなんかが中心になってきている。
 一応、どの村でも爆弾米や黒麦、斑芋をある程度渡しているから将来的には主食と肉、野菜というバランスのいい食事はできるだろうけど、結局グリーンバッファロー以外は王国でも食べられるしなあ…という現状だ。

「別にいいんじゃない? 僕たちが渡した種と苗で食べられるものは増えるだろうし」

「んー、まあそうか」

 神様から頼まれてる以上、きちんと食事をとって発展してほしいとは思うんだけど、この国は上層部の人間が国民のことを考えてないように見えるから難しいかな。

「……このままだとこの国は早晩なくなりそうだけど、まあいいか」

「え!?」

「マサト兄ちゃん、どういうこと?」

「いやー、この国の王様? 代表的な人間たちは国民のことを考えてなさそうだから、王国とか……まだ見てないけど帝国とかが領土を広げようと思ったらこの国はなくなるんだろうなーって」

 ジョシュアさんが王国の南と西には行かないほうがいいと言ってたから、そっち方面は危険が多いかあまり旨味のない土地なんだろう。
 で、東は迷宮都市につながっているけど、魔獣や獣が強くて普通の人間が目指すのは難しいと聞いている。
 まあ、料理でステータスが上がれば行ける人間は増えるだろうけど、それでも無駄なリスクを負う必要はないだろう。
 というわけで、王国が領土を広げるなら北側……つまりは聖王国方面に手を伸ばすだろう。

「要するにこのままだとこの国の人間のステータスは偏ったまま。それで王国や帝国と戦いになっても勝てはしないし、そもそも守ってもくれない上層部に国民が付いてこないだろうって話」

「……牛乳がとれれば話は変わるんですか?」

「まあ、この国の特産というか、この国の人間にしかできないことがあれば変わるかもねって話。上層部が国民のことを考えてなければ国自体がなくなることは変わらないだろうけど、それでもこの国の文化というか、優位性は確保できるかなって」

「はー、色々考えてるんだねー」

「まあ、神様に頼まれている以上は、ね。この世界の人間自体が減ってるってことだし、上の人間がどうしようもなくても、国民には罪はないしな」

「……でも、マサトさんが考えてるのってそれだけじゃないですよね?」

「まあ、俺たちがいた世界の人間って結構、牛乳を飲むんだよね。それに牛乳を使った料理も多いし、だから次にこの世界に来た人たちが気軽に牛乳が飲めるようになればいいなってのはあるよ」

 洋菓子とか洋風料理は牛乳を使った料理が多いし、何といっても牛乳があればチーズやヨーグルト、バターや生クリームも作れるだろうし、料理の幅が広がるんだよな。

「は~、じゃあこの国では獣を手懐けられる人を探すってことですね?」

「まあ、はい」

「よーし、じゃあ次の村に向かって歩こうか」

「……そうだな、もうちょっと休憩したかったけど次の村にはどうにかして乳を採れる人間がいることを祈って進みますか」
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