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4章 聖王国

02 グリーンバッファロー

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「何も返せませんがこんなに良くしてもらっていいのですかな?」

 俺の目の前の老人は疑問を顔に浮かべながら質問してきている。

「これからもこうやっていろんなものを料理しながら食べてもらえれば俺としてはそれだけで十分ですよ」

「はあ、それはそれは……我々としましてもポーション以外のものが口にできるのなら助かりますが」

「この村には料理人も農家も火魔法持ちもいますから、みんなで協力しながら生活してみてください」

「確かに日がな一日祈っているだけというのも大変ですからな。気晴らしがてらに畑仕事や料理をやってみてもいいかもしれないですな」

 本当にこの国の住人は祈り>その他のことって感じになってるから、食料集めも食事の用意も祈りの時間を妨げない程度にしかやってくれないんだよな。
 ステータスの中に信仰心とかがあれば、それを引き合いにしたり、食事によってステータスの向上だけでなく新しくスキルが生えたりすればまた違うんだろうけど。
 まあ、こういう国もあるよなって思わないとやってられないか。
 別に完全に食事を諦めているわけじゃないし、前の世界でも食事の時間を短くするために携帯栄養食とか、栄養素を補完する薬も開発されいたし。
 この辺はここの性質ってことで諦めるしかないかな。

「とはいえ、村の中でも獣を殺すのを嫌がるものもいるのであなた方が去ってしまえば、しばらくはポーション生活に逆戻りしますがな」

「獣を殺すのを嫌がる……? それは信仰と何か関係が?」

「いえいえ、我々の祈りや信仰とは全く関係がありませんよ。そもそも我々はこの世界を作った唯一神を崇めるもの、獣も人も神が作ったものならその命も平等。獣が人の命を奪うなら人が獣の命を奪うのも道理です」

 ああ、なるほど。この世界の全ての命は神様が作ったもので平等。だったら、人が獣を殺すのも獣が人を殺すのも容認しなければならない。
 まあ、道理ではあるかな。獣こそ至高とか、人間が摂っていいのはポーションのみとか言う教義だったら困ったものだけどそのくらいなら料理とも共存はできそうだな。

「では、その人たちはどうして嫌がっているのでしょうか?」

「どうも、獣の声がわかるとか。……いや、人間同士のように会話ができるわけではないそうなんですが、なんとなく気持ちが伝わってくるらしく、気持ちが通じる以上気乗りがしないというんですよ」

 獣の気持ちが……うーん、この俺の知識にはない不可思議な感じは天職関係かな……。
 前の世界でも他の人よりも飲み込みの早い人間を天才、なんて言っていたようだけどこの世界の天職もそれに相当する部分がある。
 料理人の天職持ちが他の人よりも料理に関しては呑み込みが早い、戦闘系の天職持ちは他の人よりも武器の扱いに長けている。

 だけど、それだけじゃ説明のつかない部分もあって俺が神様からもらった食材鑑定、これは料理人の天職持ちであるミーナにも発現している。
 まあ、能力自体は俺の食材鑑定ほど万能ではないようだけど、それにレイジも獲物鑑定という能力が発現していてこっちは獲物の弱点部位や食用可能か、相手との力量差がわかるらしい。
 こういった鑑定系の能力や、前の世界にはなかったポーションを作り出す調合師などは天才とかいう言葉では言い表せないんだよな。

「問題がなければその方と少しお話させてもらってもいいですか?」

「ええ、嫌がっているのを他の村人に知られるよりは、いずれいなくなるあなた方のほうがいいでしょう」

 獣の気持ちがわかる……もしかしたらこの天職が牛乳確保の突破口になるかもしれない。
 村のおさめ役……村長とかそういう役職はこの国にはないから、本人は無駄に年を取っただけという老人に話を聞くと、獣を殺すのを嫌がっているのは村の少女らしい。
 両親は獣の気持ちがわかるわけではないようだから、ミーナやイーリスと同じように親とは違う天職が発現したパターンかな。

 解決策自体は会ってみないと何とも言えないけど、グリーンバッファローにミルクを分けてもらえるように交渉してほしいからとりあえず会ってはみるかな。
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