料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
上 下
99 / 150
4章 聖王国

01 聖王国

しおりを挟む
 王国を旅立って早一年ほどが経とうとしている。
 これまでとは違って徒歩での旅になったから聖王国に入るまでも結構苦労したのだが、気心の知れた三人での旅、なぜか追手がかからなかったことも含めて気楽に楽しめたように思える。
 多分追手がかからなかった理由はランドールさんが国王とかを止めてくれたんだろうなぁ……なんて適当に考えてるけど近からず遠からずだとは思う。

「マサト兄ちゃーん、みんなに配り終えたよー」

「おー、食堂にレイジの分も用意してあるから適当に食べるんだぞー」

 今、俺たちは聖王国の端の方の村に逗留している。
 聖王国は王国とはかなり違い、貴族や平民というくくりはないらしい。
 唯一神を崇める宗教国家である聖王国では、団体の幹部と信徒で形成されていて、位の高い信徒や幹部は聖王国の王都に、一般信徒は各地に散らばって生活している。
 とはいえ、ポーション抜きに生活が成り立たないのは王国と同様なので、巡礼者と呼ばれる調合師が各地を放浪しつつ各村にポーションを与えているらしい。

 この巡礼者は聖王国でも地位の高い人間で信徒数の把握や経典の読み聞かせなど、ポーション配り以外にもいろいろと仕事を任されているようだ。
 つまり、王国の貴族に喧嘩を売られて聖王国の上層部にも出会いたくない俺たちにとっては、出会いたくない人間ということだ。

 聖王国の食糧事情は王国同様……いや、はっきり言って王国以下だ。
 王国のように農家の天職持ちが農村に集められて農作物を大量に作っているということもなく、村では日がな一日、神に祈るか何をするでもなく村人が過ごしている。
 高位の信徒になろうとしている人間は慣れない手つきで農業をやって、農作物を巡礼者に納めるらしい。
 巡礼者からの心証がよくなると王都に行ける可能性が上がるのだとか……。

 そんなわけでこの国では調合師以外の天職持ちは、ほとんど把握されていない。
 戦時中は戦闘系の天職持ちを把握するために各地で天職の確認をしていたらしいが、魔獣の動きが沈静化してからはそういうこともやめたらしい。
 王国は山や森が多いのに比べて、聖王国では国土のほとんどが平原なのも原因の一つだろう。
 王国にいた時にウィリアムさんに聞いた話だと、魔獣は山や森といった獣が多く人間が踏み入れない土地に多く生息し、見晴らしのいい平原にはあまりいないらしい。

 とりあえずは訪れている村で爆弾米や黒麦など、この土地でも根付きそうな作物の種を分け与えながら旅をしているが育つまで時間がかかるのと、訪れた場所には農家の天職持ちが少ないことから肉料理が中心となっている。
 魔獣が少ない分、獣は大量にいるらしく牛に似たグリーンバッファローや小松菜やほうれん草に似たグリーンリーフでの料理が多くなっているがポーションしか口にしていない聖王国民は感動しながら食べている。

 俺としてはグリーンバッファローから牛乳がとれないかと考えたのだが、鑑定の結果、搾乳可能時期には気性が荒くなるらしく、レイジに頼んでみたものの暴れて手が付けられなく搾乳どころじゃなかった。
 グリーンリーフのほうは毒ありの植物だが、熱を通せば食用可になることからバター炒めや肉野菜炒めなんかで大活躍している。

「マサトさん、また考え事ですか?」

「ああ、ミーナ。悪い悪い。これまでにあったことを思い出してたんだよ」

「……イーリスさんのこととかですか?」

「ん? イーリスのことは思い出してないけどイーリスなら領都でパンの普及に努めてるんじゃないか?」

 領都で弟子というか料理を教えたイーリス・シェリルバイトは王国でお世話になったシェリルバイト家の娘だ。
 パン職人とか言う奇妙な天職持ちで、料理の中でもパンに特化している天職を持っていた。
 ミーナの次に料理を教える対象になったから、教え方も試行錯誤って感じだったが、領主一家で実の兄が領主なのだからサポートも万全だろう。

「イーリスさんじゃなかったから何を思いだしてたんですか?」

「これまでの道中が大変だったなあ……とか、グリーンバッファローのミルクは諦めきれないなぁ……とか」

「ああ、マサトさんが見つけた途端突撃しようとしたあの獣のことですか……。お兄ちゃんも言っていましたけど多分あれはわたしたちの手には負えませんよ」

「だよなあ。ミルクがあればパンももっと柔らかくなるし、スープや菓子なんかにも使えるから料理の幅が広がるんだけどなぁ」

 聖王国の人間は王国の人間以上に食事に頓着していないから口の力がかなり衰えている。
 だから王国で作っていたパンでは噛み切れない人も多くて、ほとんどがスープに浸して柔らかくしたり、爆弾米のほうが好まれているくらいだ。
 牛乳が手に入ればパンももう少し柔らかくできるんだが、あの暴れようでは専用の天職持ちでもいない限り難しいだろう。

 というわけで、この国での目標は牛乳を定期的に手に入れるようになる、そのために獣を飼いならせる天職持ちを見つけるの二つだ。
 天職持ちが放置されているので農家の天職持ちや火魔法を使える天職持ちもその辺にゴロゴロしているから、料理自体は問題ない。
 料理人の天職持ちは相変わらず少ないが各村に一人、二人程度はいるし天職がなくても簡単な料理は失敗しつつも普通の人間でも可能なので料理を広めることに関しては問題ない。

 だからこの国では新しい食材の発掘、俺の欲しい食材の入手を優先に考えることにしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...