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4章 聖王国
01 聖王国
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王国を旅立って早一年ほどが経とうとしている。
これまでとは違って徒歩での旅になったから聖王国に入るまでも結構苦労したのだが、気心の知れた三人での旅、なぜか追手がかからなかったことも含めて気楽に楽しめたように思える。
多分追手がかからなかった理由はランドールさんが国王とかを止めてくれたんだろうなぁ……なんて適当に考えてるけど近からず遠からずだとは思う。
「マサト兄ちゃーん、みんなに配り終えたよー」
「おー、食堂にレイジの分も用意してあるから適当に食べるんだぞー」
今、俺たちは聖王国の端の方の村に逗留している。
聖王国は王国とはかなり違い、貴族や平民というくくりはないらしい。
唯一神を崇める宗教国家である聖王国では、団体の幹部と信徒で形成されていて、位の高い信徒や幹部は聖王国の王都に、一般信徒は各地に散らばって生活している。
とはいえ、ポーション抜きに生活が成り立たないのは王国と同様なので、巡礼者と呼ばれる調合師が各地を放浪しつつ各村にポーションを与えているらしい。
この巡礼者は聖王国でも地位の高い人間で信徒数の把握や経典の読み聞かせなど、ポーション配り以外にもいろいろと仕事を任されているようだ。
つまり、王国の貴族に喧嘩を売られて聖王国の上層部にも出会いたくない俺たちにとっては、出会いたくない人間ということだ。
聖王国の食糧事情は王国同様……いや、はっきり言って王国以下だ。
王国のように農家の天職持ちが農村に集められて農作物を大量に作っているということもなく、村では日がな一日、神に祈るか何をするでもなく村人が過ごしている。
高位の信徒になろうとしている人間は慣れない手つきで農業をやって、農作物を巡礼者に納めるらしい。
巡礼者からの心証がよくなると王都に行ける可能性が上がるのだとか……。
そんなわけでこの国では調合師以外の天職持ちは、ほとんど把握されていない。
戦時中は戦闘系の天職持ちを把握するために各地で天職の確認をしていたらしいが、魔獣の動きが沈静化してからはそういうこともやめたらしい。
王国は山や森が多いのに比べて、聖王国では国土のほとんどが平原なのも原因の一つだろう。
王国にいた時にウィリアムさんに聞いた話だと、魔獣は山や森といった獣が多く人間が踏み入れない土地に多く生息し、見晴らしのいい平原にはあまりいないらしい。
とりあえずは訪れている村で爆弾米や黒麦など、この土地でも根付きそうな作物の種を分け与えながら旅をしているが育つまで時間がかかるのと、訪れた場所には農家の天職持ちが少ないことから肉料理が中心となっている。
魔獣が少ない分、獣は大量にいるらしく牛に似たグリーンバッファローや小松菜やほうれん草に似たグリーンリーフでの料理が多くなっているがポーションしか口にしていない聖王国民は感動しながら食べている。
俺としてはグリーンバッファローから牛乳がとれないかと考えたのだが、鑑定の結果、搾乳可能時期には気性が荒くなるらしく、レイジに頼んでみたものの暴れて手が付けられなく搾乳どころじゃなかった。
グリーンリーフのほうは毒ありの植物だが、熱を通せば食用可になることからバター炒めや肉野菜炒めなんかで大活躍している。
「マサトさん、また考え事ですか?」
「ああ、ミーナ。悪い悪い。これまでにあったことを思い出してたんだよ」
「……イーリスさんのこととかですか?」
「ん? イーリスのことは思い出してないけどイーリスなら領都でパンの普及に努めてるんじゃないか?」
領都で弟子というか料理を教えたイーリス・シェリルバイトは王国でお世話になったシェリルバイト家の娘だ。
パン職人とか言う奇妙な天職持ちで、料理の中でもパンに特化している天職を持っていた。
ミーナの次に料理を教える対象になったから、教え方も試行錯誤って感じだったが、領主一家で実の兄が領主なのだからサポートも万全だろう。
「イーリスさんじゃなかったから何を思いだしてたんですか?」
「これまでの道中が大変だったなあ……とか、グリーンバッファローのミルクは諦めきれないなぁ……とか」
「ああ、マサトさんが見つけた途端突撃しようとしたあの獣のことですか……。お兄ちゃんも言っていましたけど多分あれはわたしたちの手には負えませんよ」
「だよなあ。ミルクがあればパンももっと柔らかくなるし、スープや菓子なんかにも使えるから料理の幅が広がるんだけどなぁ」
聖王国の人間は王国の人間以上に食事に頓着していないから口の力がかなり衰えている。
だから王国で作っていたパンでは噛み切れない人も多くて、ほとんどがスープに浸して柔らかくしたり、爆弾米のほうが好まれているくらいだ。
牛乳が手に入ればパンももう少し柔らかくできるんだが、あの暴れようでは専用の天職持ちでもいない限り難しいだろう。
というわけで、この国での目標は牛乳を定期的に手に入れるようになる、そのために獣を飼いならせる天職持ちを見つけるの二つだ。
天職持ちが放置されているので農家の天職持ちや火魔法を使える天職持ちもその辺にゴロゴロしているから、料理自体は問題ない。
料理人の天職持ちは相変わらず少ないが各村に一人、二人程度はいるし天職がなくても簡単な料理は失敗しつつも普通の人間でも可能なので料理を広めることに関しては問題ない。
だからこの国では新しい食材の発掘、俺の欲しい食材の入手を優先に考えることにしよう。
これまでとは違って徒歩での旅になったから聖王国に入るまでも結構苦労したのだが、気心の知れた三人での旅、なぜか追手がかからなかったことも含めて気楽に楽しめたように思える。
多分追手がかからなかった理由はランドールさんが国王とかを止めてくれたんだろうなぁ……なんて適当に考えてるけど近からず遠からずだとは思う。
「マサト兄ちゃーん、みんなに配り終えたよー」
「おー、食堂にレイジの分も用意してあるから適当に食べるんだぞー」
今、俺たちは聖王国の端の方の村に逗留している。
聖王国は王国とはかなり違い、貴族や平民というくくりはないらしい。
唯一神を崇める宗教国家である聖王国では、団体の幹部と信徒で形成されていて、位の高い信徒や幹部は聖王国の王都に、一般信徒は各地に散らばって生活している。
とはいえ、ポーション抜きに生活が成り立たないのは王国と同様なので、巡礼者と呼ばれる調合師が各地を放浪しつつ各村にポーションを与えているらしい。
この巡礼者は聖王国でも地位の高い人間で信徒数の把握や経典の読み聞かせなど、ポーション配り以外にもいろいろと仕事を任されているようだ。
つまり、王国の貴族に喧嘩を売られて聖王国の上層部にも出会いたくない俺たちにとっては、出会いたくない人間ということだ。
聖王国の食糧事情は王国同様……いや、はっきり言って王国以下だ。
王国のように農家の天職持ちが農村に集められて農作物を大量に作っているということもなく、村では日がな一日、神に祈るか何をするでもなく村人が過ごしている。
高位の信徒になろうとしている人間は慣れない手つきで農業をやって、農作物を巡礼者に納めるらしい。
巡礼者からの心証がよくなると王都に行ける可能性が上がるのだとか……。
そんなわけでこの国では調合師以外の天職持ちは、ほとんど把握されていない。
戦時中は戦闘系の天職持ちを把握するために各地で天職の確認をしていたらしいが、魔獣の動きが沈静化してからはそういうこともやめたらしい。
王国は山や森が多いのに比べて、聖王国では国土のほとんどが平原なのも原因の一つだろう。
王国にいた時にウィリアムさんに聞いた話だと、魔獣は山や森といった獣が多く人間が踏み入れない土地に多く生息し、見晴らしのいい平原にはあまりいないらしい。
とりあえずは訪れている村で爆弾米や黒麦など、この土地でも根付きそうな作物の種を分け与えながら旅をしているが育つまで時間がかかるのと、訪れた場所には農家の天職持ちが少ないことから肉料理が中心となっている。
魔獣が少ない分、獣は大量にいるらしく牛に似たグリーンバッファローや小松菜やほうれん草に似たグリーンリーフでの料理が多くなっているがポーションしか口にしていない聖王国民は感動しながら食べている。
俺としてはグリーンバッファローから牛乳がとれないかと考えたのだが、鑑定の結果、搾乳可能時期には気性が荒くなるらしく、レイジに頼んでみたものの暴れて手が付けられなく搾乳どころじゃなかった。
グリーンリーフのほうは毒ありの植物だが、熱を通せば食用可になることからバター炒めや肉野菜炒めなんかで大活躍している。
「マサトさん、また考え事ですか?」
「ああ、ミーナ。悪い悪い。これまでにあったことを思い出してたんだよ」
「……イーリスさんのこととかですか?」
「ん? イーリスのことは思い出してないけどイーリスなら領都でパンの普及に努めてるんじゃないか?」
領都で弟子というか料理を教えたイーリス・シェリルバイトは王国でお世話になったシェリルバイト家の娘だ。
パン職人とか言う奇妙な天職持ちで、料理の中でもパンに特化している天職を持っていた。
ミーナの次に料理を教える対象になったから、教え方も試行錯誤って感じだったが、領主一家で実の兄が領主なのだからサポートも万全だろう。
「イーリスさんじゃなかったから何を思いだしてたんですか?」
「これまでの道中が大変だったなあ……とか、グリーンバッファローのミルクは諦めきれないなぁ……とか」
「ああ、マサトさんが見つけた途端突撃しようとしたあの獣のことですか……。お兄ちゃんも言っていましたけど多分あれはわたしたちの手には負えませんよ」
「だよなあ。ミルクがあればパンももっと柔らかくなるし、スープや菓子なんかにも使えるから料理の幅が広がるんだけどなぁ」
聖王国の人間は王国の人間以上に食事に頓着していないから口の力がかなり衰えている。
だから王国で作っていたパンでは噛み切れない人も多くて、ほとんどがスープに浸して柔らかくしたり、爆弾米のほうが好まれているくらいだ。
牛乳が手に入ればパンももう少し柔らかくできるんだが、あの暴れようでは専用の天職持ちでもいない限り難しいだろう。
というわけで、この国での目標は牛乳を定期的に手に入れるようになる、そのために獣を飼いならせる天職持ちを見つけるの二つだ。
天職持ちが放置されているので農家の天職持ちや火魔法を使える天職持ちもその辺にゴロゴロしているから、料理自体は問題ない。
料理人の天職持ちは相変わらず少ないが各村に一人、二人程度はいるし天職がなくても簡単な料理は失敗しつつも普通の人間でも可能なので料理を広めることに関しては問題ない。
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