料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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3.5章 閑話

03 あんちゃん 村長視点

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 わしは名前も特にない村で村長をやっている。
 村では国から指定された作物を育てている……まあ、いわゆる農村ってやつだな。
 こんな村は国の中には結構な数があって、別段珍しいもんでもない。
 村人は国から認められた農家の天職を持ってる家系の人間か、よそから流れ着いてきたもんが半々くらいの割合で住んでおる。

 だから、怪しい人間や経歴不明な人間を見るのも別に珍しいことでも何でもない。
 だが、あんちゃんはマサトと名乗ったあの若者は他のやつとは全く異質な存在じゃった。

 あんちゃんはレイジとミーナが連れてきた。
 とはいってもレイジやミーナ、または亡くなっちまった坊主たちの両親の知り合いっちゅーわけでもなく、たまたま偶然出会ったらしい。
 レイジが言うには気づいたら餌場の畑の前にぼーっと突っ立ってたんだとか。
 ああ、餌場の畑っちゅーんは村の畑に害獣を寄せ付けないように森のそばで育ててる奇妙な植物を育ててる区域のことじゃ。
 もともとはこの村を作ったわしのじーさんたちが森の中から持ってきた植物らしくて、食べると死んじまうほどの強烈な毒物だっちゅーのに害獣どもはこれにいいように食いつく。
 だからこそ、じーさんたちは森のそばでコレを育てて害獣退治をすることにしたらしい。

 まあ、農家の天職持ちじゃなくてもほっとけば育つから、よそから来た人間に任せているし詳しいことはわしは分からんがな。
 ともかく、そんな普通の人間なら興味もわかないような場所にぼーっと突っ立っててあんちゃんは言動から行動から何から何までわしの出会ってきた人間とは違った。

 まずあんちゃんが言い出したのは、害獣どもの死体が欲しいというものだった。
 毛皮は服や敷物にすることはあるから譲れんが、あんちゃんが欲しいのは残った肉らしい。
 何に使うのかはわからんが、穴を掘って埋めるのも一苦労な品物なのだから、よそ者が使っても問題はない。
 深くは考えずにあんちゃんに了承の返事をだしたことだけは覚えちょる。

 まあ、別に村のもんに迷惑をかけなきゃ何をしてもらっても構わんっちゅーのがその時のワシの心情じゃった。
 村に来る旅商人やら領都の騎士様やらは村に来ると、作物の融通をねだってきたりもするが、ここで作られているのは領主様への納税品とわしらが細々と食っていく程度のものしかない。
 だから、作物には手を出すなと警告だけはして、あんちゃんがどこから来たのかすら深くは聞かなかった。
 こういう村に来るようなやつは大体、脛に傷があるようなやつらだから、深く聞いても仕方がないという思いがあったのも確かじゃ。

 あんちゃんには餌場の畑のものなら自由にしていいとも許可を出していたな。
 まあ、あれは半分以上は冗談で坊主どもがあんちゃんのそばにいたから、下手に手を出せば死ぬことを説明しろと暗に指摘したものじゃったはずなんだがな。

 そんなあんちゃんが坊主どもと一緒にいるのにも慣れてきたある日、あんちゃんはわしに食い物ができたから食べてみてくれないかと言ってきおった。
 この村で食べられるもんは村の畑で採れた作物以外には、森の中に自生している植物くらい。
 その自生している植物も食べられるもんかどうかは特殊なスキルでも持ってない限りは判別不能。
 だから、最初はあんちゃんが持ってきたもんに口を付ける気なぞ、さらさらなかった。

 だが、坊主が……レイジがどうしても食べてほしいというから、あんちゃんがもってきたもんを見るくらいはしてやろ言うという気になった。
 あんちゃんが言うにはあの害獣どもの肉を食べられるように加工したもんで、あんちゃんはステーキとか呼んどったな。
 あとはじいさんの代から毒だと伝えられてきたあの餌場の餌を加工したもんで、これまたあんちゃんはフライドポテトとか呼んどった。

 最初は馬鹿にするなと思ったが、毒味と称してあんちゃんと坊主どもが一口ずつ食べるのを見て気が変わった。
 嗅いだこともないような奇妙な匂いがしていたのも気が変わった一因と言えるが、それ以上に村の人口が増えてきすぎて食料を増やさない限りは餓死者がいつ出てもおかしくない状況だったのが主因じゃろう。
 
 あんちゃんや坊主どもの手前、勢いよく食べたよう見えたじゃろうが、内心は冷や冷やもんじゃった。
 わしにはじいさんみたいに毒物を鑑定するような特別なスキルはないからな。
 だが、口に運んだ瞬間に異変に気が付いた。
 口に運んだ食べもんが妙に温かったんじゃ。

 村で食べる緑菜や水瓜、紫トマトなんかも日の当たっとるところに置いておけば生暖かくなることはあるが、それ以上に口の中で存在を主張するように熱を感じる。
 正直な話、30年以上生きてきて初めての感触じゃった。
 じゃが、それ以上に複雑な味が口の中ではじけ飛ぶ。
 紫トマトのような酸っぱさのような、村で作られておる果物のように甘いような、なんとも不思議な味じゃった。
 フライドポテトとかいうのも熱を持っておったが、こちらの味は普段村で使ってる塩で味付けしてあるらしく、温かさ以外は割と馴染んだ味じゃった。

 あんちゃんに聞けば火を扱えれば、村のもんでもこれと同じようなものが作れるのだとか。
 正直わしは悩んだ。
 火っちゅーんは魔法を扱う天職持ちのもんしか使えんもんで、村の中では領主様から派遣されてきておる調合師しか使えんからじゃ。
 わし自身や村の古参連中が使えれば一も二もなくあんちゃんに教えを乞うて作り方を聞いたじゃろうが、調合師はわしの一存で村のために酷使するわけにもいかん。

 悩んだ末に交渉はあんちゃんに頼むことにした。
 あんちゃん自身もどうしてもこの害獣……いや獣の肉で作られた新しい食事を村に流行らせたいみたいじゃったしな。
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