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2章 領都

25 ロバートとボブ

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「やあやあ、マサト君。昨日話していた料理人を連れてきたよ」

 夜の営業がひと段落着いた頃にウィリアムさんが二人の青年を連れてやってきた。
 ライアンさんは夜営業が始まった直後に来たから、ライアンさんを避けてやってきたんだろうな。

「ウィリアムさん、よく来てくれましたね。今日の食事はステーキですので是非三人で食べてみてください」

「おや、ライアンから今日はハンバーグが出ていたと聞いたけど?」

「料理人の修業をする二人にはひとまず、基本となるステーキから味を見てほしいので三人にはステーキを食べてもらいたんですよ。……それに、ハンバーグとボアカツは人気で在庫が心もとないんですよ」

 ステーキはキラーバードでも出していたから味を知っている人も多い。
 それに比べて、ハンバーグは領都までの道のりで一緒だった見習いの人も一回くらいしか食べられていないし、ボアカツのほうは今日初めて出したものだから人気が集まってしまったのだ。

「むむ、私も久しぶりにハンバーグが食べられると思っていたのだが……」

「ウィリアムさんたちがまた、デビルボアを大量に狩ってきてくれれば出せますよ」

「まあ、ひとまずは自己紹介からだな。二人とも、こちらが二人に料理人の天職について教えてくれるマサト君だ。丁寧に接するように」

「はいっ、自分はロバートと申します。この度は領主様から雇用の条件としてこちらで天職について学ばせていただけいます」

「僕はボブと言います。ロバート同様、領主様からの命により、こちらで学ばせていただきます。よろしくお願いします」

 鑑定してみれば二人はともに十六歳で天職は料理人。
 イーリスみたいに特定の分野に特化したものではなくミーナ同様の普通の料理人のようだ。

「うん、まあ、そこまで硬くなる必要はないから気楽にね。俺は、マサト。呼び方は適当でいいし、教えるのは主に先に教えているイーリスとミーナになると思うけどよろしく。とりあえずはウィリアムさんと同じ食事を出すから自分たちがこれから何を作るのかを確認してくれ」

 とにもかくにも、料理っていうものがどういうものか知ってもらわないと始まらない。
 二人とも素直そうな感じだから、いろいろ教えるのもそれほど苦労しなさそうだし。

「「はいっ」」

 まあ、硬さがとれるかどうかはこれから次第かな。
 イーリスも最初は硬かったし……いや、イーリスは今でも少し硬いんだよな。
 貴族のお嬢様だから多少は仕方がないところもあるんだけど。

「そういえば、ウィリアムさん。二人は無理やり連れてきたとかそんなことはないんですよね? 正直、料理の重要性は俺もウィリアムさんもわかっているとは思いますが他の人にとっては未知のものですし……」

「ああ、その点は心配しないでくれたまえ。ロバートは商家の四男なのだが、上三人に加えてその伴侶も商人としての何らかの天職持ちだから家でも不遇の扱いを受けていたのだよ」

 なるほど、天職によっては差別というか扱いが変わるのはこの世界あるあるだな。
 貴族のイーリスでさえも外には出せないような感じの扱いを受けていたしな。

「ボブのほうは兵士や騎士を輩出している家の五男なのだが、こちらも似たような状況だな」

「騎士は分かりますけど、兵士はどんなことをしているんですか?」

「兵士は領都内の治安維持や騎士団への納品なんかの雑務だね。戦闘系の天職持ちは騎士団へ入るけど、それ以外の天職で有用なものは兵士になるんだよ」

「有用な天職ですか?」

「俊足や怪力、遠見や聞き耳なんかだね。戦闘系ではないから武器の扱いはうまくないけれど戦場では役に立つような天職持ちが兵士になると考えてくれればいいよ」

 なるほどなるほど、村にもいた計算の天職持ちとかみたいな職業の一部スキルが天職になっているような人のことか。

「お待たせしました、ステーキがメインの食事です。付け合わせは緑菜のスープとパンです。ステーキは一口サイズに切ってありますのでフォークとスプーンでお食べください」

 ウィリアムさんと天職についての会話をしているとイーリスが食事を運んできてくれた。
 最初は騎士の人たちも領主一族のイーリスが給仕をすることに困惑していたが今では慣れたのか割とスルーされている。
 まあ、イーリス自身はいろんなことをやるのが楽しいらしいから俺が止めるのもおかしい話だし、好きにやらせることにしている。

「さあ、二人とも食べようじゃないか。これを食べてしまったら元の食生活には戻れなくなるぞ」

「ウィリアムさん、あんまりおかしなことを吹き込まないでくださいよ。二人とも、ゆっくり食べてくれていいからな」

 二人のことはひとまずウィリアムさんに任せて俺はキッチンのほうに戻ることにする。
 今日の料理のことはイーリスとミーナに任せておけばいいんだけど、明日の仕込みもあるからな。
 小麦粉の供給が不安だったから食事のバリエーションを増やすのをためらっていたのだが、黒麦が領内で採れるのならばパスタなんかを作ってもいいかもしれない。

 白根の種でも小麦粉っぽいものができるらしいが、白根自体が結構有用だからどれほどの種が小麦粉用に使えるかわからなかったのと、魔素を吸収して育つ白根が村で育つかわからなかったが、通常の作物の黒麦があるのなら大丈夫だろう。
 毒抜きが必要だが、黒麦の毒抜きはそれほど難しいものじゃなかったしな。

 とりあえず明日の食事は紫トマトと緑菜を使ったパスタにして、キラーバードの肉を軽く炒めて入れてみよう。

 あとは、燻製肉の試作品にも手を出して、燻製の仕方も学んでおかないとな。
 燻製の仕方が広まれば領内での肉の供給にも目途が立つだろう。
 今の状態では、ある程度の鮮度を保てる野菜は各地から運べるけど鮮度が必要なものは運びづらいらしいしな。
 少量の果物ならば専属の魔法使いが鮮度を保つらしいけど、結構な重労働らしいから大量の肉を運ぶのは難しいってウィリアムさんからも聞かされているしな。

「マサト兄ちゃん、あの二人がさっき言ってた新しい人?」

「ああそうだよ。二人とも普通の料理人みたいだから、イーリスとは違って特化しない代わりにいろいろな料理を覚えてくれそうだ」

「ふーん、じゃあ、僕は食堂にはもう必要ないのかな?」

「……くく。レイジ、そんなこと気にしていたのか? あの二人にはまだまだ教えなきゃいけないことがたくさんあるから当分はレイジのほうが頼りになるぞ。それに、あの二人は騎士団の食堂にも言ってもらわないといけないからな。この食堂の従業員はしばらくは俺とミーナとレイジだけだよ」

 レイジが拗ねる様子……というか、軽く頬を膨らませつつそっぽを向く様子についつい笑いが漏れてしまった。
 イーリスもそうだが、この領に置いていく人材とは従業員契約を結びはするが預かっているだけで従業員として扱うつもりはない。
 三人には領都で食堂を経営しつつ、後任を育ててもらわないといけないから領都から離れるときについてこられると困るのだ。

「本当?」

「ああ、次にどこに行くかはまだ決まってないけど、連れていくのはレイジとミーナだけだよ。……ああ、だけど、レイジが剣の修業をしたかったり狩りに行きたいときは言ってくれればそっちに行ってもいいからな。ミーナは天職が料理人だからここにいるのが修行になるけどレイジはそうじゃないからな」

「うーん、そのうちそうすることもあるかもしれないけど、今はここで働くのがいいかな」

「そうか。まあ、レイジの好きにしていいよ。ただ、騎士団の人に戦い方を教わるのは旅に出た後だと難しいのは覚えておいてほしいな」

 レイジは天職が戦闘系だから、本来は食堂の手伝いよりも狩りに行く方が性に合っているのだろう。
 現に村にいた時は村人について森に入って狩りをしたり剣術の修業をしていたからな。
 まあ、それも含めてレイジの人生だから見守りながら好きにさせるかな。
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