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2章 領都

23 新食材

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「おお、マサト君。よく来てくれたね」

 領主の執務室についた俺とライアンさんを出迎えてくれたのは領主であるジョシュアさんと、ジョシュアさんの警護をしているのかウィリアムさんだった。
 俺との話し合いということで執務の手伝いをしていた、執事? 侍従? の人たちはいったん部屋の外へと出された形だ。

「領主様からのお呼び出しと聞きましたので。……話とはイーリスのことでしょうか、彼女はミーナとは違う才能の持ち主でしたが、料理人として確かな腕を持っていますよ」

「イーリスのことも気にはなっているが、今日はそれではない。領地内で集めていた植物が一通りそろったからマサト君にみてもらおうと思ってな」

 なるほど、そういえばウィリアムさんも領主様が領地内で食材になりそうなものを探しているとか言っていたな。

「どのようなものが集まったのですか?」

「私にはよくわからないが領内に自生している植物を中心に集めてもらったよ。毒鑑定スキル持ちに毒とそうでないものに分けてもらったが、マサト君が言うにはあの斑芋も毒なのに食用なのだろう?」

「ええ、そうですね。私の持っている食材鑑定なら食用のものなら毒抜きの方法もわかりましたので」

「ふむ、ではやはり一通り全部見てもらおうかな」

 そう言って、ジョシュアさんはウィリアムさんを先頭にして部屋を出ていく。
 領内に米があれば大歓迎だが、せめてネギ類とか人参みたいなものが見つかることを祈ろう。

「そういえば、獣や魔獣は手付かずなのですか?」

「そうですね。領都中心なら騎士団に討伐させるのですが、他の地域だと村人任せなのでなかなか……」

 そういやそうか、それにこの世界の輸送技術だと領都に運んでくる間にダメになる確率のほうが高いか。

 食材になるかもしれない植物は領主館の中でも領主の執務室からは離れている部屋に運び込まれていたようで、ウィリアムさんの先導でかなり歩いた場所にあった。
 まあ、部屋に近づいたら分かったのだが結構匂いの強い植物も混ざっているみたいで、土臭さやハーブのような独特のにおいが漂っているから誰かが気を利かせたんだろうな。

「これはたまらんな……。本当に食べられるものなのかね」

「食材鑑定をしてみなければわかりませんが、匂いの強い植物は肉の臭みなどを消したりもするので、一概に食用不可とは言えないんですよ」

 部屋の中には植物が所狭しと並べられていたが、一応有毒と無毒で分けられているのか、八割がたは奥に、二割程度が扉側に分けられていた。
 パット食材鑑定をかけてみたところ、扉側のほうが無毒で奥側が有毒植物のようだ。
 しかし、領内に有毒植物が多すぎないか……。

 有毒のほうはほとんどダメだな、四十種類ほどが置いてあるけど五種類くらいしか食用のものがない。
 逆に無毒の五種類は食用だから、まあそれで我慢するしかないか。

『名前:サウザンドオニオン 可食部:球根・茎 年齢:百五十日 食用:可 栄養を球根に蓄えて育つ植物。花を咲かせる際にはため込んだ栄養を使うため、球根がなくなる。球根は玉ねぎに、茎は長ネギに似た味がする』

『名前:ペッパーミント 可食部:葉・種 年齢:三十日 食用:可 繁殖力が強く、日の光が当たっていれば簡単に繁殖してしまう。葉は清涼感のある味でミントに似ている。種は乾燥させることで食用可能となり、ブラックペッパーに似た味がする』

『名前:砂芋 可食部:芋 年齢:三年 食用:可 砂地に自生する芋。硬いものにぶつかると成長を止めてしまう習性があるので土壌で栽培する際には石を完全に除去して土も徹底的に柔らかくする必要がある。甘味が強くサツマイモに似た味がする』

『名前:ラージキャロット 可食部:根 年齢:二年 食用:可 根が成人女性の太ももほどの大きさまで成長する植物。葉は食用には向かないが毒はない。根はほのかに甘味があり人参のような味がする』

『名前:爆弾米 可食部:種 年齢:三十日 食用:可 百日ほどで成熟し種を周囲にばらまく植物。種は食用可能で短粒種のコメに似た味がする。そのまま種を土壌に植えるだけで成長する』

『名前:紫菜 可食部:葉 年齢:四十日 食用:可 葉や茎には毒性があり生物が口にすると手足にしびれが出る。毒性は熱に弱いので熱を通すことで食用可能になる。毒性が抜けると鮮やかな赤色になる』

『名前:タイガージンジャー 可食部:根 年齢:六十日 食用:可 葉や茎には毒性があり生物が口にすると嘔吐と痙攣の症状が出る。根には毒がなく味は生姜に似ている』

『名前:黒麦 可食部:種 年齢:百二十日 食用:可 種には毒性があり生物が口にすると下痢の症状を引き起こす。一昼夜水につけておくと毒性が水に溶け黒色から白色へと変化し食用可能となる。味は小麦に似ている』

『名前:スターオニオン 可食部:球根 年齢:二十日 食用:可 葉や茎には毒性があり生物が口にすると高熱が出る。球根には毒がなく味はニンニクに似ている』

『名前:ダークアップル 可食部:果実 年齢:九十日 食用:可 果実には毒性があり生物が口にすると心臓麻痺を引き起こす。毒は熱を通すと水に溶けるので一時間ほど煮込むと食用に適する。毒性が抜けた後は果実は緑色に変化する』

 すごい……すごすぎる。
 この食材でこの領の食事事情が一気に解消するじゃないか。
 サウザンドオニオン、ラージキャロット、タイガージンジャーがあればコンソメを作るのも夢じゃないし、主食問題は砂芋とスターオニオンで解決だ。

 それになにより、爆弾米。
 夢にまで見たコメがやっと手に入る!

 ……とはいっても、ここに運び込まれているのは未成熟のものらしいから今すぐにどうこうはできなそうだけれど。

「どうかね、マサト君」

「ええ、ジョシュアさん。これはすごいですよ。ほとんどのものは食用に向いていませんが十種類は食用可能な植物です。しかも、その内三種類はパンを作る材料や斑芋に代わる材料になりますよ」

「おお……それは素晴らしい。どれがそうか教えてもらってもいいかね」

 ジョシュアさんとウィリアムさんに食用可能な植物について教える。
 ここにはサンプルとして一株ずつくらいしかないから、協力してもらって数をそろえてもらわなければならない。

「特にこの爆弾米が欲しいんです。私の故郷ではこれを毎日のように食していたのでパンよりもなじみがあるんですよ」

 記憶はないが知識としては知っている。
 それに異界のレシピでは米に関するものやそのおかずになるものが多いから何としても爆弾米は大量に欲しい。

「ふむ、それか。……おい、これはどこで採取してきたものだ?」

「領主様。そちらは王都側の村で採取してきたものです。村では子供の遊び道具として認識されていました。成熟すると種が飛び散るそうで、投げ合って遊ぶのだとか」

 もったいないっ!
 いや、でも調理方法を知らなければそんなものかもしれない。
 前の世界でも植物を利用して子供たちが遊ぶのなんて当たり前だったみたいだし。

「ふむ、そういえば王都近辺でも同じような植物を見かけたことがありますな」

 ウィリアムさん曰く、シェリルバイト領よりも王都近辺のほうが爆弾米は大量に生息しているようだ。
 というよりも、この領の爆弾米は王都から流れ着いたものかもしれない。

 ということは、次に行く先が決まったな。
 この領の問題が片付いたら次に行くのは王都だ。
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