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2章 領都

18 四人でのパン作り

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 キラーバードの卵を使ったオムレツはうまく行ったと思う。
 いや、なんていうか俺としてはうまくできたと思うのだが、あとから作った二人が初めてにもかかわらず俺とほとんど同じ出来のオムレツを作っているのだからあんまり自信をもってうまくできたとは宣言しにくいのだ。

 もうこれからはオムレツは二人に作ってもらおう。
 俺は揚げ物とか炒め物とか誤魔化しが効くものだけ作っていきたいなあ……。
 なんて思ってみたところで、初めて作る料理は俺が見本を見せないとどうしようもないのも事実なんだよな。

「これが……あの、害獣として忌み嫌われていたキラーバードの卵……なんてふわふわしていて、それでいてほのかな甘さが口の中に広がる。……どうして、私たちはこれをゴミのように扱っていたのでしょう」

「レイジとミーナに出会った村でもみんなそう言ってたな、どうしてって。でも料理という概念がなかったんだから仕方がないさ。これからは食材として認識して無駄にしないようにすればいいんじゃないかな」

 とはいえ、領都に料理ができる施設ができないとこれからも使い道のない食材ではあるのだが。
 生食可能とはいえ、流石に生卵をそのまま食えとは言えないしな。

「なあ、マサト兄ちゃん。このオムレツはおいしいけど騎士の人たちに作るには手間がかかりすぎるよね?」

「そうだな。焼き始めてしまえばすぐにできるけど、騎士の人たちは一斉に来るから作り置きできないオムレツは騎士団向きではないかな」

 あの人たちも時間をずらして小分けに来てくれればいいんだが、なぜか全員一斉に来るんだよなぁ。

「じゃあ、マサトさんキラーバードのお肉を使うんですか?」

「そうだな、ウィリアムさんにも唐揚げを出すって約束したから、今日の夜はキラーバードのから揚げをメインにして、あとは緑菜と白根を使ったコンソメスープでいいかな。領主様たちに出す方はコンソメスープに紫トマトを使って少し豪勢にするのと緑菜と水瓜のサラダもつけておこうか」

「じゃあ、パンも焼かないといけないね。僕はもう少しでキラーバードの解体が終わるからそうしたらパン作りも手伝うよ」

「そうだな、イーリスにもパンの作り方も教えておきたいしな。料理の天職持ちなら何回か作ったら感覚で作れるようになるだろうし」

「は、はい。頑張ります」

 あとは、今ある材料だとパウンドケーキくらいなら作れるから甘味として領主様には献上してもいいかもな。
 もしかしたら女性陣には普通のパンよりもこっちのほうが好評かもしれないし。

「じゃあ、一番最初にマサトさんに教えてもらった基本のパンを作りますね。それを覚えたら、あとは中身を変えたりするだけですし」

「そうだな、とりあえずはそれでいいか。酵母菌の作り方とか砂糖の入手方法とかいろいろ考えないとこの世界じゃあ再現できないから、他の作り方も考えておくけど」

 なんにしてもこの世界は食材が少なすぎるんだよな。
 火を通さなくても食べられるものだけが食材として認識されているから仕方がないっちゃ仕方がないんだが。

「お父様やウィリアムもいろいろ植物や獣を集める方策を練っているのでもう少しお待ちいただければ……」

「ああ、わかってるよ、イーリス。なにせ俺たちが到着してからまだ一日しかたっていないからね」

 正確には昨日の夕方近くになってから到着したからまだ一日もたっていないんだよな。
 しかし、いくら唐揚げが食べたいからって一日もたたずにキラーバードを獲ってくるウィリアムさんたちって……。

「じゃあ、ミーナはパン作りの材料を持ってきますね。イーリスさん、これも教えますから一緒に来てくださいね」

「わかりました、ミーナさん」

 ふむふむ、イーリスとミーナはそこそこ良好な関係を築けそうだな。
 俺は今のうちにパウンドケーキのレシピを調べておくか。
 ……うーむ、昔はすべての材料を一ポンドずつ使うからパウンドケーキなんて呼ばれていたらしいが、異界のレシピではそれぞれ量が微妙に違うんだな。
 まあ、グラニュー糖とかベーキングパウダーのなかった時代だからレシピが違うのかな。
 とりあえずは異界のレシピ通りに作っていくか、お菓子はレシピの分量を守らないとあっという間に失敗するっていうし。

「マサトさん、もしかしてまた新しい料理を作ろうとしてます?」

「いやいや、ミーナ。これは料理の準備だけだから。それに材料とか作り方はパンとほとんど同じだからパンみたいなものだって」

 単に、グラニュー糖を入れるときに何回かに分けたり、卵を更に分けて入れたり、小麦粉を入れるときにはよく篩って入れたりするだけで……。
 いや、全然違うな、これ。
 まあ、でも工程自体は卵を入れる以外はショートブレッドとそう違わないしいっしょみたいなものだろう。

「ミーナも手伝いますから、ちゃんと教えてくださいね」

「……わかったよ。パン作りのほうが終わったらみんなで作ろうか」

 なんというか、ミーナにすごまれると了承の返事しか出せないんだよな。
 とはいえ、料理人の天職持ちの二人にも工程を見せておくのも重要だからな。

「マサトさんもこっちで一緒にパンを作りましょう?」

「そうだな、最近はレイジとミーナに任せていたけど久々に一緒に作るか」

 村にいたころは三人で作っていたんだが、村を出てからは翌日の仕込みなんかをしなきゃいけなかったから二人に任せきりだったんだよな。
 ……決して、俺が作るパンよりも二人が作る方が美味しく仕上がるから任せていたとかじゃあないんだ。

「マサト兄ちゃん、こっちも一段落したから僕も手伝うよ」

「そうだな、四人で作ろうか」

 いつもは解体後の骨やなんかは裏庭畑にある生ごみ処理機に入れるんだが、今回のキラーバードは鶏ガラスープを作るためにも残しておこう。
 根菜やハーブなんかが見つかればブイヨンに挑戦してもいいんだが、見つかるかどうかわからないからな。
 とりあえず、この領の基本は緑菜と白根と斑芋を具材にした鶏ガラのスープに白根の種から作ったパン、あとはデビルボアとかキラーバードなんかのその地で獲れる獣の肉って感じになるのが一番か。

 レイジとミーナはパン作りも手慣れたもので捏ねる直前まではほとんど二人だけでやってしまう。
 ミーナはイーリスに分量とか混ぜるときの注意点とかを説明してるからレイジよりは遅くなっているが、それでも俺が作っているのより早いのは軽く涙が出てくるな。

「よし、あとは捏ねるだけだから、ここからはイーリスもやってみようか」

「は、はい。がんばります」

「じゃあ、イーリスさんにはミーナの生地を半分任せますね」

「はい。……わわっ、なんか不思議な感触ですね」

「そっか、イーリスは貴族だからこういうものに触れたことがないのか。レイジとミーナは農村で生活してたからか、あんまりそういうことは言わなかったからなあ」

「そうだね、畑の土いじりとかで慣れてたからあんまり不思議には感じなかったかな」

「ミーナもですね。毎日、畑で作業してたので日常的な感触でしたね」

「まあ、料理は手とか身体が汚れることもよくあるけど、食堂には風呂もあるから帰り際に入っていくと良いよ」

「……お風呂? ですか?」

 やっぱりこの世界では貴族の間でも風呂はないのか。
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