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1章 名もなき村
32 ウィリアムとアイリーン
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俺に話しかけてきたのは俺に攻撃してきたリーダーっぽい男と同じような服装をした騎士のような男。
だが、その鎧の意匠は先ほどの男よりも装飾に凝っていて、個人的な考えだが槍ではなく剣を帯びているのも先ほどの男よりも階級が上の人物であることを示しているようだ。
「遅いわよっ、ウィリアム! 君が来ると思って待ってたのによくわからないあんな男が来ちゃってこんな騒ぎよ。どうしてくれるわけ?」
「いや、すまないというほかないな。だが、言い訳だけさせてもらえるならあの男が勝手に斥候だと言って夜のうちに自身の隊の人間を連れてこの村へと行ってしまったんだ。私が気づいたのは朝になってからだ」
「だとしても、君が悪い。自分の団の人間を管理できないのは団長としての職責を果たせていないってことだからね」
「それに関しては面目次第もないよ。アイリーン」
驚きだ、いや、急に現れた明らかに高貴な人間に対して調合師が同等の態度で接しているのもびっくりだが、調合師の名前がアイリーンだなんて高貴そうな名前なのにもびっくりだ。
「いや、君も失礼なこと考えて驚いてるでしょ」
なぜわかった、こいつまさか調合師とは名ばかりで超能力者か?
「別にあんたの名前を初めて聞いたなーっと思っただけだ。村の人間はあんたのことを調合師としか呼ばないからな」
「そうだっけ? ……ああ、確かにこの村だと名前ではあんまり呼ばれない、というか、村長以外にはあんまり会わないしね」
「アイリーン、彼のことを紹介してくれるか?」
「私が紹介するのも変な感じだけど、彼が手紙に書いた余所者。神様から頼まれたとか言ってたからどこかの教会が自分たちのことを神と称して送り込んできたのかと思ってたけど、さっきのことを含めて考えれば本当に神様に頼まれたみたい」
「そうか、私はウィリアム。この王国の騎士団に所属している騎士で、今はこの村を含むシェリルバイト領の騎士団長を拝命している」
「ああ、初めまして。私はマサトと言います。神様に頼まれて料理の技術を世界中に広める使命を帯びています。信じるかどうかはお任せしますが、先ほどの男性のようになりたくないのなら私に無暗に攻撃しないことをお勧めします」
結構挑発的な挨拶になってしまったような気もするが、本当のことしか言っていないのに襲ってきた男がいたので致し方ない。
「もちろん信じますよ。あの#男__バカ__#があなたに襲い掛かるところからは見ていましたからね。こちらこそ、凶行を止められず本当に申し訳ない」
ウィリアムはさっきの男や他の騎士とは違って、こちらの話を聞くだけの度量はあるみたいだ。
「いえいえ、こちらとしても話を信じて聞いてくださればいいんですよ。手荒なことはもう勘弁ですからね」
「騎士様、さっきの男の死体はこっちで適当に埋めちまっていいんですかね?」
とりあえず、先ほどの男とは違って敵対の意思がないことが確認できた途端に村長が話しかけてくる。
調合師の家の前という村とは少し離れたところとはいえ、ここはこれから食事を作る場所になるのだ、いつまでも死体を置きっぱなしというわけにもいかないだろう。
「ああ、村長。本来であれば我々が持ち帰って埋葬すべきだが、流石に魔獣に襲われる可能性を上げるわけにもいかないからな。村で埋葬していただけると助かる。埋葬方法はそちらに任せる故」
「そうかい。こっちとしてもあんちゃんを襲ってきたようなやつを埋葬するような義理はないが、このまま放置しといたら、いつ魔獣が森から出てくるかもわからんから森の近くに埋めさせてもらうよ」
森の近くって言うと、今はほとんど使われなくなった獣の死体を捨てていたゴミ捨て場のところか。
「マサト君、あなたがよそからこの村へとやってきてこの村の食料を増やしてくれた人物であるというのは事実だろうか?」
「んー、少し違いますね。この村には食料は十分以上にありました。それを誰も食料とは認識していなかっただけで。だから、俺がやったのは食べ方を教えたことだけで、それはまだ始めたばかりです」
そう、何もかもが始まったばかり。
何よりも調理器具が石板しかない現状では、斑芋の毒抜きもできやしない。
一度石板で斑芋に熱を入れてみたものの、全体に均等に熱が入らなければ毒は中心に来ないらしく切ってみれば中心に毒が集まってはいるものの全体に毒が斑状に入ったままでとてもではないが毒抜きできたとは言えない出来だった。
「というかさあ、挨拶もいいけど新しい鍋は持ってきてくれたの?」
「アイリーン、挨拶は大事なことだ。それと鍋だが直に着く本隊がきちんと運んでくるよ。あと、頼まれていた板金も持ってきているが、あれは何に使うんだい?」
「板金? あんたなんでそんなもん頼んだんだ?」
「その石板の代わりよ。浅底の鍋なんて頼んでも見たことも聞いたこともないようなものは鍛冶師も作ってくれないけど、材料の板金なら融通してくれると思ってね」
なるほど、板金。
確かに、石板を使うよりは熱伝導率もいいし効率がいいだろう。
まあ、鉄板代わりに使うなら縁に食材の転落防止が欲しいところだが贅沢は言えないだろう。
「あんちゃん、一回家に帰っちゃあどうだ? 怪我はないにしても変に絡まれて疲れたろう。鍋やなんかが届くまでもうちっとかかるみたいだし、ここの掃除にも時間がかかるしな」
「そうですね。では、また夕方にこっちに来ますよ。鍋が来たら斑芋の毒抜きも実践して見せたいですしね。あんたも夕方には火を付けに来てくれよな」
「わかってるわよ。それにこれから鍋やなんかが来るんだから私はここから離れられないの。騎士たちとの話し合いも私と村長の領分だしね」
なるほど、まあ外部の人間との話し合いや交渉なんかは責任者が行うのが当然だよな。
「マサトさん、一旦おうちに帰りましょう? 村長さん、お兄ちゃんがこっちに来たらおうちに来るように言ってもらってもいいですか?」
「ああ、ええぞ。こんな惨状子供に見せるもんじゃないからな。ミーナも家でゆっくりするとええ」
だが、その鎧の意匠は先ほどの男よりも装飾に凝っていて、個人的な考えだが槍ではなく剣を帯びているのも先ほどの男よりも階級が上の人物であることを示しているようだ。
「遅いわよっ、ウィリアム! 君が来ると思って待ってたのによくわからないあんな男が来ちゃってこんな騒ぎよ。どうしてくれるわけ?」
「いや、すまないというほかないな。だが、言い訳だけさせてもらえるならあの男が勝手に斥候だと言って夜のうちに自身の隊の人間を連れてこの村へと行ってしまったんだ。私が気づいたのは朝になってからだ」
「だとしても、君が悪い。自分の団の人間を管理できないのは団長としての職責を果たせていないってことだからね」
「それに関しては面目次第もないよ。アイリーン」
驚きだ、いや、急に現れた明らかに高貴な人間に対して調合師が同等の態度で接しているのもびっくりだが、調合師の名前がアイリーンだなんて高貴そうな名前なのにもびっくりだ。
「いや、君も失礼なこと考えて驚いてるでしょ」
なぜわかった、こいつまさか調合師とは名ばかりで超能力者か?
「別にあんたの名前を初めて聞いたなーっと思っただけだ。村の人間はあんたのことを調合師としか呼ばないからな」
「そうだっけ? ……ああ、確かにこの村だと名前ではあんまり呼ばれない、というか、村長以外にはあんまり会わないしね」
「アイリーン、彼のことを紹介してくれるか?」
「私が紹介するのも変な感じだけど、彼が手紙に書いた余所者。神様から頼まれたとか言ってたからどこかの教会が自分たちのことを神と称して送り込んできたのかと思ってたけど、さっきのことを含めて考えれば本当に神様に頼まれたみたい」
「そうか、私はウィリアム。この王国の騎士団に所属している騎士で、今はこの村を含むシェリルバイト領の騎士団長を拝命している」
「ああ、初めまして。私はマサトと言います。神様に頼まれて料理の技術を世界中に広める使命を帯びています。信じるかどうかはお任せしますが、先ほどの男性のようになりたくないのなら私に無暗に攻撃しないことをお勧めします」
結構挑発的な挨拶になってしまったような気もするが、本当のことしか言っていないのに襲ってきた男がいたので致し方ない。
「もちろん信じますよ。あの#男__バカ__#があなたに襲い掛かるところからは見ていましたからね。こちらこそ、凶行を止められず本当に申し訳ない」
ウィリアムはさっきの男や他の騎士とは違って、こちらの話を聞くだけの度量はあるみたいだ。
「いえいえ、こちらとしても話を信じて聞いてくださればいいんですよ。手荒なことはもう勘弁ですからね」
「騎士様、さっきの男の死体はこっちで適当に埋めちまっていいんですかね?」
とりあえず、先ほどの男とは違って敵対の意思がないことが確認できた途端に村長が話しかけてくる。
調合師の家の前という村とは少し離れたところとはいえ、ここはこれから食事を作る場所になるのだ、いつまでも死体を置きっぱなしというわけにもいかないだろう。
「ああ、村長。本来であれば我々が持ち帰って埋葬すべきだが、流石に魔獣に襲われる可能性を上げるわけにもいかないからな。村で埋葬していただけると助かる。埋葬方法はそちらに任せる故」
「そうかい。こっちとしてもあんちゃんを襲ってきたようなやつを埋葬するような義理はないが、このまま放置しといたら、いつ魔獣が森から出てくるかもわからんから森の近くに埋めさせてもらうよ」
森の近くって言うと、今はほとんど使われなくなった獣の死体を捨てていたゴミ捨て場のところか。
「マサト君、あなたがよそからこの村へとやってきてこの村の食料を増やしてくれた人物であるというのは事実だろうか?」
「んー、少し違いますね。この村には食料は十分以上にありました。それを誰も食料とは認識していなかっただけで。だから、俺がやったのは食べ方を教えたことだけで、それはまだ始めたばかりです」
そう、何もかもが始まったばかり。
何よりも調理器具が石板しかない現状では、斑芋の毒抜きもできやしない。
一度石板で斑芋に熱を入れてみたものの、全体に均等に熱が入らなければ毒は中心に来ないらしく切ってみれば中心に毒が集まってはいるものの全体に毒が斑状に入ったままでとてもではないが毒抜きできたとは言えない出来だった。
「というかさあ、挨拶もいいけど新しい鍋は持ってきてくれたの?」
「アイリーン、挨拶は大事なことだ。それと鍋だが直に着く本隊がきちんと運んでくるよ。あと、頼まれていた板金も持ってきているが、あれは何に使うんだい?」
「板金? あんたなんでそんなもん頼んだんだ?」
「その石板の代わりよ。浅底の鍋なんて頼んでも見たことも聞いたこともないようなものは鍛冶師も作ってくれないけど、材料の板金なら融通してくれると思ってね」
なるほど、板金。
確かに、石板を使うよりは熱伝導率もいいし効率がいいだろう。
まあ、鉄板代わりに使うなら縁に食材の転落防止が欲しいところだが贅沢は言えないだろう。
「あんちゃん、一回家に帰っちゃあどうだ? 怪我はないにしても変に絡まれて疲れたろう。鍋やなんかが届くまでもうちっとかかるみたいだし、ここの掃除にも時間がかかるしな」
「そうですね。では、また夕方にこっちに来ますよ。鍋が来たら斑芋の毒抜きも実践して見せたいですしね。あんたも夕方には火を付けに来てくれよな」
「わかってるわよ。それにこれから鍋やなんかが来るんだから私はここから離れられないの。騎士たちとの話し合いも私と村長の領分だしね」
なるほど、まあ外部の人間との話し合いや交渉なんかは責任者が行うのが当然だよな。
「マサトさん、一旦おうちに帰りましょう? 村長さん、お兄ちゃんがこっちに来たらおうちに来るように言ってもらってもいいですか?」
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