料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

28 くるみパン

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 とりあえず、調合師は適当にいなして食堂に帰ってきたわけだが、これからどうするかな。
 いや、今日の予定としては龍グルミでクルミパンを作ることになっているのでその面での予定は決まっているのだが。

 村長にはかまどの作成、鍋の到着予定は伝えて、明日から動かせる人員を何人か紹介してもらったから、明日からはレイジと一緒に森に入って食料になる植物の説明と注意事項をすることになるのだが。
 ……昼飯をどうしよう。

 そう、結局はそこに行きつく。
 村人たちは基本的に朝飯と夜飯の二食しかとらないからそれに合わせれば問題ないといえば問題ないのだが、森歩きをした後に俺の腹が持つのかというのが問題だ。

 かと言って、村人たちの前で気軽にホイホイ食堂を展開するのも嫌な感じがする。

「そんなに悩まなくても、マサト兄ちゃんが食べたいなら食堂を作って何か食べればいいと思うけど」

「ミーナも、現地で食料の味を教えてあげるのも大切だと思うよ」

 確かに、これが食べられるって言っても味がわからないようじゃ真剣には話も聞かないだろう。

「でもなあ、俺たちはこれからこの村から旅立つわけだろ? その時にこんな便利なものがあるならこれからもこの村にいてくれって言われたときに断りづらいだろ?」

 レイジとミーナがこの村の出身じゃなければ、あるいは俺一人での旅ならば、そんなこと知るかっ、で済んだかもしれないが、この村は二人の生まれ故郷だ。
 いい思い出が少ないとはいえ少しはあるだろう。
 両親と過ごしたこの村を簡単に見捨てて旅に出られるとは思えないし、表面上はなんてことない風に装っていても心の内は分からない。

「んー、じゃあ今日作ったかまどみたいに外で火を使えるような道具はないの?」

「そうですよ。それを一日のうちに少しの間しか使えない、とか言っておけばみんなもそれほど興味はひかれないんじゃないですか」

 なるほど、食堂なら探せば鍋物用のカセットコンロの一つもありそうだし探してみるかな。

「いいな、それ。何かないか探してみるよ」

 ちなみに二人は龍グルミを割ってくれている。
 龍グルミも畑に植えるつもりではいるが、異界のレシピで調べてみれば一冬程度、湿気を与えてからじゃないと発芽しないとか、土中で他の作物に対して有毒な物質を生成するとか出てきていたので畑に植えるのはいったん保留して一部以外はパンに使ってしまうことにする。

「マサト兄ちゃん、本当にここにあるのは全部割っちゃっていいのか?」

「そうですよ、マサトさんも一つくらい割りませんか?」

「いいんだよ。二人が帰った後にやってみたけど割れる気がしなかったから」

 流石は龍グルミ、俺ごときの力では割るどころかひびの一つも入らなかった。

 さて、二人が気の毒そうな目で俺のことを見ているけれど気にしないでカセットコンロを探すかな。
 あとは、持ちやすい大きさの鍋と水を入れた水筒、適当な木匙と緑菜でも持っていけばいいかな。

 お、よしよし、おあつらえ向きに一人鍋用のカセットコンロとアルミ鍋が置いてあるな。
 あとは、持ち帰り用の竹筒水筒に竹の皮で作ってあるおにぎり用の包み紙か。
 包み紙は使い道はないが、そのほかのものは使えそうだな。
 いや、手伝いに来てくれる村人は四人だったから一人用のアルミ鍋じゃあ、味見程度にしても小さいか。
 やっぱり、食堂から小鍋を持っていくのが一番かな。

「マサト兄ちゃん、龍グルミは全部割ったよ」

「マサトさん、これからどうするんですか?」

「じゃあ、これをパンに混ぜるか。半分くらいは炒めて塩を振って村人に食べてもらおう」

 水と塩は手に入るから塩味のローストしたくるみは作成可能だろう。

「パンに龍グルミを混ぜるのか、甘くなるのかな?」

「熱が通るから生の時よりは甘みは減るだろうな、でも、硬くなるからパンの柔らかさとクルミの硬さで食感は面白くなるぞ」

 まあ、その食感の違いで好き嫌いも結構わかれるパンだとは思うが。
 牛乳が手に入ればその分甘味は増すんだろうけど、ないものねだりをしても仕方がないしな。

「生のくるみを混ぜるのは具合が悪いみたいだから、あらかじめ龍グルミはオーブンでローストすることにしよう。天板にクッキングシートを敷くから重ならないように並べてくれるか?」

 オーブン自体はパン焼きでいつも使っているので二人にとっては慣れた作業だ。
 二人に出すだけなら、パンもいろいろな種類が作れるのだが、村人に見られる可能性がある以上この村で手に入らない素材はなるべく使わないほうが無難なんだろうな。

「十分くらいで焼きあがるから、先に生地を作っておくか。生地ができたら醗酵する前にクルミを混ぜてよく捏ねたら醗酵だ。何かを混ぜると捏ね方が不十分になることがあるからよく捏ねてくれよ」

 最近は、レイジとミーナに任せっぱなしにして申し訳ない気持ちもあるのだが、二人に任せた方が美味しいものができるのと二人がやりたいと言ってくるので甘えてしまう。
 まあ、俺は俺で龍グルミをローストして塩味でもつけておこうかな。

「マサトさん、龍グルミでパンを作る場合の注意点って他にはないんですか?」

「そうだな、あんまり入れすぎるとパンが膨らまなくなるっていうのと、クルミやドライフルーツなんかは熱いうちに生地に入れるのはダメってくらいかな。あとは、パンを焼く前に切れ込みを入れておくのも重要みたいだ」

「切れ込み……ですか?」

「外見をクルミの形に似せるためとも、中まできちんと火が通るためとも言われているな。何も入っていないパンと比べればクルミの分、パン生地への熱の入り方が不均一になるから見た目にこだわらなくても切れ込みは入れたほうがいいんだろう」

 まあ、見た目からしても普通のパンと見分けるために形を変えておくのは大事なことだとも思うが。

「マサト兄ちゃん、切れ込みはナイフで入れるのか?」

「ナイフでもいいし、キッチン専用のハサミで切ってもいいぞ。パン生地を分けるときに使ってるスケッパーで切っても全然かまわないし」

 小鍋、カセットコンロ、水筒、木匙、あとは緑菜を持っていくつもりだが入れ物がないと持ち歩くのはつらいだろうな。
 村長あたりに籠を借りるか、それとも二階の押し入れの中にリュックかなんか入っていないかな?
 まあ、その辺は夜にでも考えるとして今はクルミのローストを作るかな、明日の荷物に入れたいし。

 生のくるみに味をつける方法は割と簡単だ。
 塩だけなら水と塩をフライパンに入れてよく混ぜた後に水分を蒸発させて細かい粉状の塩を作る。
 あとはローストしたクルミにまぶせば完成だ。

 塩以外、胡椒や香辛料を混ぜる場合にはローストしたクルミにオリーブオイルを混ぜて胡椒や香辛料をまぶす。
 あとはフライパンで焦がさないように熱を通して、冷ませば完成だ。

 今回は塩味だけなのと、村ではオリーブオイルが手に入らないので粉末状の塩を作ってフライパンで乾煎りしたクルミにまぶす形をとろう。

「マサトさん、もしかしてミーナたちがパンを作ってる間に何か新しい料理を作るつもりですか?」

 おっと、ミーナの圧のある言葉が聞こえてきてしまった。

「いやいや、龍グルミをフライパンで言って塩を振るだけだから料理とも呼ばないよ」

 種類としては卵かけごはんやインスタント食品にお湯を入れるようなものだろう。
 焦がさないようにする火加減やフライパンをゆすり続けるなど、コツみたいなものはあるだろうがやるべきことは単純だ。
 特に料理の天職持ちであるミーナなら言葉で説明するだけでも簡単にこなせてしまうだろう。

「本当にそうなんですか?」

「……まあ、そこまで言うなら二人がパンを作り終わったら作り始めるよ」

「いや、そうするならマサト兄ちゃんも一緒にパンを作ろうよ。切れ込みもどう入れれば龍グルミみたいな形になるのかもよくわからないし」

「そうですよ、一緒に作りましょう」

 二人に諭される形でパン作りを一緒にすることになった。
 まあ、パン作り自体が嫌いなわけではないからいいんだが、ミーナが作ったのと比べると明らかに質が落ちるから一人になった時に見ると落ち込むんだよな。
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