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1章 名もなき村

23 裏庭畑

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「さあて、まずは解体をしようかね、レイジは手伝って、ミーナは保管棚の整理をお願いできるか?」

 案の定、保管棚は収穫したものが適当に放り込まれたような状態になっている。
 既に整理済みの斑芋は整理した状態で保管されていることから、新規で放り込んだものは適当に、すでにあるものはその近くに保管されるのだろう。
 食堂を展開するだけの広い土地があるときは、新規のものがあるときはレベル3、既存のものだけの時はレベル1で展開して収納するのがいいのだろうな。
 ぐちゃぐちゃとまでは言わないが、白根の上に龍グルミが乗っていたり、ドラゴンマッシュルームがレモンライムに埋もれていたりするから、柔らかい物と重い物を同時に入れるような事態になったら下手をしたら、柔らかいものがつぶされてる事態もあり得る。

 ホーンラビット、というからにはウサギ型の魔獣なのだが、似ているのは外見だけで内部構造はまるで違う。
 いや、外見も大型犬サイズだったり、額に角が生えていたりするのはウサギとは言えないのだが、すでに捌いて捨てた腸や胃なんかの消化器官が明らかに肉食のソレで、今見えている口の中も前歯から奥歯までのほとんどが犬歯のようにギザギザになっており、明らかに肉を噛み切る構造になっている。

 正直、解体自体はレイジに手伝ってもらえば瞬く間に終わってしまう。
 食堂の包丁を使えば、俺でさえほとんど力を入れずとも肉も骨もすいすい切れるのに、それを剣士の天職持ちのレイジがやるのだ。
 最初から肉が骨から外れていたんじゃないか? と、錯覚するくらいすいすいと解体していく。
 俺はと言えば、そんなレイジの手伝い程度しかできていない。
 解体する部位をおさえたり、解体した部位をパーツごとに選別したりするくらいだ。
 我が事ながら情けなさすぎる。

「マサト兄ちゃん、終わったよ?」

「いやあ、流石レイジだな。ナイフを扱わせれば右に出るものがいないっていうか、俺なんかじゃあ足元にも及ばないくらいうまいな。ありがとう、レイジ」

「マサトさん、ミーナだってきれいに分けられたんだよ?」

「ははっ、ミーナもありがとう。でも、ミーナにはこれから料理のほうを手伝ってもらうんだから、そんなに焦らなくても料理を手伝ってくれた時に褒めるぞ?」

「べ、別にミーナは褒められたくて報告したわけじゃないですよ、マサトさん。ただ、終わったから終わったよって声をかけただけです」

 そうは言うものの、ミーナの焦り具合と顔が若干赤いことから褒めてほしかったのは本当だろう。
 まだまだ子供なのだから、褒められたいって言っても恥ずかしくはないと思うのだが、こればっかりは早く大人になりたい子供心なのだろう。

「さて、肉のほうは冷蔵庫に保管しておくとして白根をいくつか畑に植え替えてみるか」

「畑? 斑芋の畑に植えるのか? 流石に村長に怒られると思うよ」

「違う違う。この食堂の裏手に畑があるからそこに植えてみようと思ってな。種も食べられるみたいだから、育てて種も収穫したいんだ」

「食堂の裏? 確か、裏って大きな木の板で囲ってあったよね?」

 そう、食堂の裏手には二メートルくらいの高さの板塀が張り巡らされているのだ。
 最初は何のためにこんな板塀がくっついているのかと思っていたが、食堂の勝手口から出た瞬間にその理由は氷解した。
 ああ、この畑を守るためか、と。

「二人も見てみるか? 少しだけど、斑芋を植えてみてるんだ」

 食堂の勝手口から出れば、目の前には畑。
 まあ、森で取り出したシャベルだとかが入っている物置小屋もあるにはあるが、まず目につくのは畑だろう。
 斑芋を植えてはあるが、まだ若芽が出たくらいの成長速度なのでよく見なければただ、土が広がっているだけにも見えるだろう。

「すごい、斑芋の畑よりも立派だよ。村長の畑みたい」

「マサトさん、これって斑芋しか植えていないの? 緑菜は植えないの?」

「緑菜はなあ、植えたいのはやまやまなんだけど種が手に入ってないからな。レイジとミーナに渡される緑菜も収穫したものだからそのまま植えても花は咲かないだろうしな」

 前の世界でも農業系には手を出してはいなかったみたいで、その辺の知識はかなり曖昧だ。
 せいぜい、畝を作るだとか、肥料を上げたほうがいい野菜と肥料を揚げないほうがいい野菜があるだとか(それぞれの種類の区別はできない)、水のあげ方だとか、収穫の仕方だとかだ。
 まあ、この辺の知識もあっているのかどうかもわからないので、これから実践していくことになるのだろうが、正直不安だ。
 あとで、異界のレシピで調べておくか。

「マサト兄ちゃん、白根も植えていいのか?」

「ミーナたちも手伝いますよ」

「そうか? じゃあ、手前の畝の左側には斑芋が植えてあるから、念のため奥側の右側に植えてくれるか? 俺は物置からシャベルを持ってくるよ」

 白根は三十センチから五十センチほどあるから、道具なしで植え替えも難しいだろう。

「そういえば、村ではシャベルとかは使ってるのか?」

「マサト兄ちゃんが森で使ってた道具? 村では見たことないよ。村では鍬とか鋤しか使ってないよ」

「あとは、収穫用の鎌とかハサミは使ってたけど、穴を掘るような道具はミーナも見たことないよ」

 ああ、なるほど、そういえば村ではそもそも根菜類を育ててないからシャベルも必要ないのか。
 井戸を掘るときに必要な気もするが、それは入植時の作業だからレイジやミーナが知らなくても当然か。

「そっかそっか、じゃあこれがシャベル。多分だけど大きくて足をかけるところがあるのがシャベルで、小さくて片手で使えのがスコップかな?」

「「ふーん」」

 そうですか、あんまり興味はないですか。

「じゃあ、俺が穴を掘っていくから白根を埋めていってくれよ。」

 シャベルで適当に穴を掘っていくとレイジとミーナがそこに白根を埋めてくれる。
 根は傷つけていないから、これでダメだったら森にある白根が種を作るまで待ってから収穫しないとダメだな。
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