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1章 名もなき村

10 それぞれの天職

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 それからの数日は同じことの繰り返しだった。
 朝、レイジとミーナに起こされて三人でパンを食べる、これには調味料として常備されているバターを載せて食べたりそのまま食べたりした。
 そのあと、二人と一緒に村長のところに挨拶に行って斑芋を採り、森の近くにばらまく。
 フライラットやデビルボアなんかの肉を三人で解体してから昼食として斑芋と肉を調理して食べる。
 昼の後は二人の仕事を手伝って、夕食の準備をしてから夕方の斑芋撒きを三人でやって夕食を三人で食べる。

 この生活を続けたことでレイジはお兄さんではなくマサト兄ちゃんと呼ぶようになり、ミーナはマサトさんと呼ぶようになった。
 レイジは長男だから兄という存在に憧れていたから兄ちゃん呼びでミーナはレイジという兄がいるから俺のことを兄と呼ぶのに違和感を覚えて名前呼びにしている。

 そして、ステータスの読みは当たっていたようであれから二人の力の数値は4にまで上がっている。
 さらに斑芋のほうでもステータスが上がるらしく、二人とも素早さの数値が3に上がった。
 二桁に達したステータスは上がりづらいのか緑菜も毎日食べているが、器用は今日までに変動なしだ。

 料理の面では二人には肉の解体とパン焼き、肉と緑菜の炒め物や鍋物など味付けが簡単で初歩のレシピを手伝ってもらったり二人だけで作ってもらったりしている。

 やはり天職での補正が強いのか肉の解体や緑菜や肉を切るのはレイジがうまい。
 ミーナももちろん俺以上にうまくできるのだが、やはり刃物を使った時のスピードはレイジがダントツだ。

 逆にパン作りにおいてはミーナは誰よりも上手にできる。
 ミーナの作ったパン生地は中の気泡が細かくかつ均一になっており触感が抜群なのだ。
 正直、ミーナの作ったパンを食べてしまうと俺の作ったパンはガサガサでスープに浸さなければ食べたくないほどだ。

「ねえマサト兄ちゃん、僕たちの天職って何か教えてもらえる?」

 そういえば、二人には天職があると教えていたが農家の天職ではないことを告げると興味をなくしていたから天職の内容までは話していなかったな。

「レイジは剣士の天職で、ミーナは料理人の天職だよ。ただ、レイジの天職は剣士の中でも二刀流と呼ばれる剣を二本使うものだから少し変わってるかもな」

 ちなみにレイジたちはこんな田舎の村に天職持ちはいないと出会った当初言っていたが、天職というものはこの世界の人間ならだれにでも与えられるものらしい。
 村長や自分で畑を持っている人はみな農家の天職を持っていたし、村長の畑で手伝っているいわゆるあとから村に定住した人たちは商人や格闘家、剣士なんかの天職を持っている人たちが多かった。
 そして、この村の中でも料理人の天職を持っているのはミーナだけだったのだ。

 本当に最初に出会ったのがレイジとミーナでよかったと心の底から思う。
 そうじゃなかったら、ここまで料理に関心を抱いてくれなかっただろうし手伝ってもらってもこんなに手際がいいということはないだろう。

 実際、村長や近所の後から定住した人たちに斑芋や肉と緑菜のスープを持って行ったことはあるのだが、食事が増えることには素直に喜びはしても手順ややり方を説明するとめんどくさそうな顔を隠しもしないのだ。

 本人たちとしては緑菜とポーションで生きていくのには事足りているので手間暇をかけてまで斑芋や肉に手を出すメリットが少ないのだろう。

 特に最初からこの村に住んでいて自分の畑を持っている人たちは緑菜以外にも冬瓜のような大きな野菜やナスのような形の瑞々しい野菜なんかも食べられるので緑菜を一日に半個などという貧しい食卓ではないようだし。

 ちなみにこの二つの野菜は斑芋とスープを持って行ったときに村長に物々交換ということで少し分けてもらったものだ。
 それぞれ食材鑑定してみた結果としては冬瓜のようなものが

『名前:水瓜 可食部:果実 年齢:百五十日 食用:可 果実が熟す前に収穫されたもの。果実の中はほとんどが水分であり種も柔らかく未成熟。熟すと果実の中の水分が極端になくなるがその分固くなるので人間が食用にするのは難しくなる。味はキュウリに似ているがキュウリ以上に水分が多いので火を通すよりは生で食べるほうが良い』

 と、なっておりナスのほうは

『名前:紫トマト 可食部:果実 年齢:六十日 食用:可 熟しきった果実を収穫したもの。果実の中には適度に水分があり食べやすい。熟すほどに皮が柔らかくなるので未成熟の状態で収穫すると食用に向かない。味はトマトに似ているが甘味が少なく酸味が強い』

 だった。

 村長含む畑を持つ村人のステータスを確認すれば器用と知力が二桁で、特に器用のほうが高いステータスだったことからどちらかの野菜が知力を上げる野菜なのだろう。
 二つとも知力を上げるのなら知力のほうが高くなるはずだしな。

 畑を持たない村人たちは斑芋や肉に興味を示しはしても火を使わないと調理ができないことから諦めたようだ。

 やはり誰にでも火を扱える状態を作り出さないとこの世界での料理技術の向上は難しいのかもしれない。

「ねえ、マサト兄ちゃん。じゃあ僕が剣を練習したら立派な剣士になれるってこと?」

「マサトさん、ミーナもマサトさんみたいにいろんなお料理を作れるようになるの?」

 おっと思考が横道にそれてしまったが二人に天職について聞かれたところだった。

「そうだな、レイジは二本の剣を使わなきゃいけないから他の人より努力が必要だけど練習していけば今よりもずっと強くなれるだろう。ミーナは俺なんかよりもすごい料理を作れるようになるさ、作り方自体は俺が教えるからね」

 実際、ミーナはまだまだ知らないことがたくさんあるが教えたことに関しては俺以上に熟している。

 レシピや調理法を学べば、世界一の料理人なるのも夢ではないだろう。

 ……まあ、この世界に料理人と呼べる存在が他にもいればだが。

 そして、レイジのほうはこのままの食事を続けていけば他の人よりも高いステータスを得ることにより同じ天職持ちの人の中でも群を抜く存在となるだろう。

 しかし、この村の現状ではこれ以上料理のレパートリーを増やすのは難しいだろう。
 この村で日常的に収穫されいるのは緑菜、水瓜、紫トマト、フライラット、デビルボア、斑芋しかないのだから。
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