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1章 名もなき村

04 村長

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 野菜が食いたいっ!!

 いや、昨日は結局レイジとミーナが帰った後も適当にフライラットの肉を蒸したり焼いたりゆでたりして食べたんだけど……なんなら、今朝も同じのを食べたけどまったくもって野菜が足りない。


 まあ、食べたのが肉と塩胡椒くらいだから当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 今日の目標としては野菜を手に入れる、パンを作る、かな。

 まあ、パンのほうは調味料に小麦粉、砂糖、塩、ドライイーストがあるのは確認済みなのであとは異界のレシピ通りに作ればまあ食べられるものはできるだろう。
 もちろん小麦粉は薄力粉、中力粉、強力粉があるのは確認済みだ。

 あとは野菜の入手だが、昨日レイジに畑の野菜に手を出すのはヤバいと聞いているからそっち方面は無しにするとしても道端や山の中の植物を都度食材鑑定するしかないのか?
 いや、かなり面倒だぞ。

「お兄さん、起きてますか?」

「ますかー?」

 おやおや、二人のことを考えていたら当の本人たちがやってきたぞ。
 噂をすれば影ってわけでもないのだろうが。

「やあやあお二人さん、おはよう」

「おはよう、お兄さん。お兄さんはまだ村長に挨拶してないから挨拶しといたほうがいいと思って」

「おお、それは年下に気を使わせちゃったかな。まあ、挨拶は大事だからぜひお願いするよ」

 そういえば、昨日は肉を調理した段階で結構暗くなってたから二人以外の村人は見てないんだよな。


 二人に連れられて昨日初めてこの世界に降り立った場所——つまりは畑の前までやってきた。
 しかし、昼間に見ても木に生っている果物に心当たりがない。

「おう坊主ども、今日も早くからちゃんとやってきたな。ところで、一緒にいるあんちゃんは誰だ?」

「おはよう、村長。この人は真人お兄さん、流れの料理人なんだって」

「はじめまして、流れの料理人のマサトです。多分わからないと思うんで先に言っておきますが、料理とは野菜や獣の肉を使って美味しいものを作り出す職業のことです」

 なぜ急に丁寧語なのかというと、村長がガタイのいいおっさんだったからだ。
 いや、村長って言われたら普通はよぼよぼの爺さんを想像するだろう。
 少なくとも俺の知識の中では爺さん婆さんが村長のオーソドックススタイルと出ている。

「ふうん、獣はゴミだ。使いたきゃ勝手に使え。ただ、畑の作物に手を出せばただじゃおかないぞ。こいつは村人が唯一口にできる食べ物で領主様への納税物だ。納税が足りなければ見せしめに村人が殺されるかもしれないんだから納得しろ」

 言っていることには一理どころか百理くらいある。

 この世界では食料と言えば生食できる果物や野菜のみで、それをよそ者に振舞う義理はない。

「道理ですね。……ちなみに畑以外にある草や木ならば自由に採っても構いませんか?」

「畑以外のものなら構わん。畑かどうかは坊主たちに聞け。……レイジ、餌撒きが終わったらあんちゃんに村の案内してやんな」

「わかったよ村長」

「……ああそうだ、あんちゃん。餌なら勝手に食っても構わんぞ。……まあ、毒だがな」

 村長はついでとばかりに俺に向かって言う。

 まあ、皮肉というか、そこら辺のものを食っても構わないけど毒でも知らんぞ……的な忠告なのだろう。

「じゃあ、お兄さん行こうか。僕たちも仕事があるから、それが終わったら村の中を一通り案内するよ」

「そいつは助かるな。……ところで目の前の畑ではレイジと同じくらいの子供も作業してるけど二人は別の仕事なんだな」

 何気なく、そう本当に思ったことを口からポロっと出しただけだったのだがそれはレイジたちにとってのタブーだったらしい。

「うん、まあ僕たちはよそ者だから」

 明らかに二人に表情が陰ってしまった。

「あー、そうか。じゃあ二人は俺の仲間ってことだな。俺もこの村にとってはよそ者だからな」

 正直適当に言っただけだった。

「……そ、そうだね」

「……おんなじか」

 でも、二人にとってはその言葉も響いたらしい。
 明らかに二人の表情が明るくなる。

「お兄さんは僕たちの天職を知ってるんだろ? 変だとは思わなかった?」

 変と言われても、そもそも天職なんてものをこっちに来てから初めて知ったからな。

「ここでは農業しか仕事がないのに天職が農家じゃないなんて」

 まあまずこの村での職業が農家オンリーだとは思わなかったのが敗因なのだろうか。

「でも獣退治とかポーション作りとか他にも仕事はあるんだろう?」

「まあね、でも獣退治は餌を撒けば獣は倒れるからとどめを刺すだけだし、ポーションは家業で専門の天職がないとなれないからどっちみち僕たちには無理だよ」

 レイジは調合師の天職でもなかったんでしょ? と聞いてくるが確かに二人の天職は剣士と料理人だからそっちの道は無理なのだろう。

「ぼくたちの両親は旅商人だったんだけど、僕が生まれるときにこの村に定住させてもらうことになったんだ。でも、村の一員として畑をもらうには僕たちが村の誰かと結婚しなきゃダメってことになってるんだ」

「それまではよそ者ってこと?」

「そう。村にとっても土地は貴重だし、村人の畑を渡すわけにもいかないからそうなったみたい」

「それで村の子供たちとは違う仕事をやってるってわけか」

「まあね。でも両親も死んでるし、他の子たちとの接点もないから難しいかもね」

 親伝いでの交流もなければやっている仕事も違えば仕方のないことなのかもしれない。
 村長としても特別扱いして他の子供との交流を増やすのも村人からのヘイトを溜めかねないから難しいのだろう。

「ほらお兄さん、ここが僕たちの仕事場だよ。ここの畑には獣のための餌が植えてあって、これを適当に掘り出して僕たちの家の近くの森の前に撒いておくんだよ」

 目の前には蔓系の植物がびっしり茂っている畑が見える。

 おっとレイジとミーナが早速、蔓を引っ張って植物の収穫を始めている。
 流石にここまできて何もせず見ているだけなのは年上として失格だと思うので手伝うとしますか。

「レイジ、ミーナ、俺も手伝うよ」

「本当? じゃあ適当に引っ張ってもらえる? 一人当たり二、三本も持っていけば大丈夫だから」

 適当にその辺にある蔓を引っ張ってみるが土が緩いようで簡単に引き抜ける。
 蔓の先には鈴なりに芋が生っている。

「芋?」

「そう、この根っこが獣にとってごちそうみたいで適当に地面に置いておくと獣がよく食べるんだ」

「芋なのに村の人は食わないのか?」

「食わないのかって、だってそれ毒だもん。食べた獣が痺れるように倒れてるからそれにとどめを刺すんだよ」

 毒……ねえ、まあ食材鑑定してみますか。

『名前:斑芋 可食部:芋 年齢:三年 食用:可 葉や蔓はすべて毒性があり生物が口にすると呼吸中枢に麻痺が発生し呼吸困難に陥る。地下茎の一部は食用可能だが斑上に毒性がありそのままでは毒性の除去は難しい。また熱を通すと毒性が中心に集まる習性がありその際には毒性が黄緑色に変色する。味はジャガイモに近い。』

 なるほど、確かに毒はあるけど除去は可能。ただし食べられるのは芋のみで葉や蔓は食べられない……と。

「なあ、レイジ。村長も餌なら食っていいって言ってたし、これ少し持ち帰ってもいいかな?」

「お兄さん、そんなの食べる気? まあ、多めに採ってもすぐに増えてるから少しくらいなら全然かまわないけど」

 レイジは明らかにドン引きしてる表情でそう言う。

 まあ、確かに毒だって説明してる横で食べていいか、なんて聞くのはまともじゃない感じがするが芋なら活用方法が多いし持って帰らない選択肢はない。

 ジャガイモに近い味なら、カレーにシチュー、肉じゃが。
 まあ玉ねぎも人参も見つけてないから単独でできると言えば、こふき芋とかフライドポテトとかか。
 それに芋類なら主食にもなりうるから試してみるのに損はない。

「これも昨日のお肉みたいにおいしくなるの?」

 おお、久しぶりにミーナの声を聞いた気がする。
 本当にこの子は人見知りなうえに寡黙な質みたいでレイジが必要なことをしゃべってしまうとびっくりするくらい喋らないのだ。

「そうだね、昨日のフライラットとはまた違った味がするだろうけどこれもきちんと料理すれば美味しいものができるよ」

 まあ、昨日の肉は確かに食べられると言えば食べられるがただの塩味だし、肉としての質もおそらく前の世界の家畜の肉と比べれば甘みも旨味も足りないものだっただろう。
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