40 / 42
40 追放サイド:没落への道(その13)
しおりを挟む
漆黒のオーラを纏ったジン・カミクラはライトニングの――首を左手に持っていた。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
俺様は尻もちをついたまま、後ずさる。黒いジンが持っているライトニングの首からはぼたぼたと鮮血が流れ続けている。かつての竜化パートナーであった少年の目が淀み窪んでいる。
ジン・カミクラがぽいと首を、俺様に放ってきた。
「ぎゃああああああっ!!」
俺様をさらに後退し、恐怖に震える。なんだ! なんでこんな目にあっているのだ! お、俺様が、何をしたというのだ!
「お前が、ジン・カミクラを追放したからだろうが」
目の前のジン・カミクラがそう告げる。こいつ、やはり違う! こいつはジン・カミクラではない!! こ、こんな禍々しいオーラを持った男ではなかったはずだ。
「ふん。俺はもう一人のジン・カミクラだよ。いや、違う? 違わない?」
黒い男は首を傾げて、何か思案を始めた。今だ。逃げるのは今しかない! 俺様は後ろ手に縛られたまま、どうにか走り出した。
「どこへ行く?」
はっとした。目の前に黒いジンが立っていた。まるで瞬間移動だ。
「あ、あああああああああああ」
だめだ。だめだ。だめだ。こいつからは逃げられない!
俺様は再び崩れ落ち、尻もちをつく。気がつけば、失禁していた。だが、何の羞恥も感じない。あるのは絶望だけだった。
黒いジンがしゃがみこんで、俺様の顎をくいと人差し指で上げた。その指にはべっとりとライトニングの血がついている。生温い、ぬめっとした感触が伝わってきた。
「ほう。おまえ、魔王を飼っているのか」
どきん、と心臓が跳ねる。こいつ、俺様の中の魔王テンガイを感じ取ったのか。しかし、今のテンガイは戦えない。魔力と体力が回復するまでは役に立たないのだ。こんな肝心な時に寝ているとは、ただの寄生虫ではないか!
そう思った時だった。
「寄生虫とは心外だな。時は満ちた。魔界から新たな力を得て、我はここに顕現する。魔王化するのだ、ラウダよ!!」
おお! おおお! よくぞいったテンガイよ!!! なんというタイミング! なんという僥倖!
「ふはははははははははははっ!!」
俺様は黒いジンを蹴飛ばし、立ち上がる。テンガイの力で後ろ手に縛られた縄を焼き切った。ふはははっ! いいぞ、いいぞおおおおおお!
「おい! 黒きジンよ! 貴様がジン・カミクラか、そうではないのかなど、もはやどうでもいい! 俺様に舐めた口をきいたことを後悔するがいい!!」
さあ――行くぞ! 《魔王反魂 イリーガル・フュージョン》
漆黒の闇と蒼い炎が広がり、俺様を包み込む。刹那。テンガイと融合した俺様は黒のスーツに、真紅のマント。髪は紫紺となり、腰までゆるりと伸びていた。両手には、純黒のショートソードを逆手で持っている。さらに空中にも同じ短刀が無数に浮遊していた。
「はははははははははっ!! どうだ! どうだああっ! これが魔王化した俺様、ラウダ・ゴードン様だあああああああああああああああっ!」
「そうか。では、少しは楽しませてくれるんだろうな。《竜魂隷属 ドラグ・オヴィディエンス》」
黒いジンが呟いた直後、雪が激しく振り始め、地面にはバキバキと氷が貼っていく。冷気が広がりジン・カミクラの姿が見えなくなる。その直後、轟音とともに白い霧が晴れ、敵の姿が現れる。
俺様とは反対に、青と白の姿。白く長い頭髪に、ドラゴンの手甲、青い戦闘靴に外套。そして長く伸びた聖槍――グングニル。
「さあ。舞踏会の始まりだ」
青くなったジンもどきは、俺様に向かって、ニヤリと笑ってみせた。いちいち癇に障る野郎だあ! 後悔させてやろうおおおおおおおおっ!
「喰らええええっ! 《魔巣剣舞 ブレード・ラッシュ》!!!!」
俺様は浮遊している黒剣たちへとオーラを伝達。紫の魔力を帯びた短剣たちが、我先にと青いジンへと降り注ぐ。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!
凄まじい雪煙を上げて、剣たち舞い踊る。刃が刃に重なり、敵の姿が黒に染まっていく。
「ククク……あはははははははははっ!! 死ねえい! 偽物のジン・カミクラよ!!!」
「随分、楽しそうだな」
「へっ!?」
敵の声が聞こえた。馬鹿な。あれだけの剣を浴びて、無事なわけがない。そんなことあっていいはずがない!!
徐々に雪煙が消え、ジン・カミクラの姿が再び、しんと現れた。
「そ、そんな……」
俺様が放った短剣たちは、すべて青いジンの周囲を漂い、その切っ先をこちらへと向けていた。
馬鹿な……。俺様の剣たちを乗っ取ったのか? そ、そんなこと、できるはずがない!!
「では、今度はこちらの番だな」
ジン・カミクラの瞳が蒼く輝き、きゅっと細くなった。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
俺様は尻もちをついたまま、後ずさる。黒いジンが持っているライトニングの首からはぼたぼたと鮮血が流れ続けている。かつての竜化パートナーであった少年の目が淀み窪んでいる。
ジン・カミクラがぽいと首を、俺様に放ってきた。
「ぎゃああああああっ!!」
俺様をさらに後退し、恐怖に震える。なんだ! なんでこんな目にあっているのだ! お、俺様が、何をしたというのだ!
「お前が、ジン・カミクラを追放したからだろうが」
目の前のジン・カミクラがそう告げる。こいつ、やはり違う! こいつはジン・カミクラではない!! こ、こんな禍々しいオーラを持った男ではなかったはずだ。
「ふん。俺はもう一人のジン・カミクラだよ。いや、違う? 違わない?」
黒い男は首を傾げて、何か思案を始めた。今だ。逃げるのは今しかない! 俺様は後ろ手に縛られたまま、どうにか走り出した。
「どこへ行く?」
はっとした。目の前に黒いジンが立っていた。まるで瞬間移動だ。
「あ、あああああああああああ」
だめだ。だめだ。だめだ。こいつからは逃げられない!
俺様は再び崩れ落ち、尻もちをつく。気がつけば、失禁していた。だが、何の羞恥も感じない。あるのは絶望だけだった。
黒いジンがしゃがみこんで、俺様の顎をくいと人差し指で上げた。その指にはべっとりとライトニングの血がついている。生温い、ぬめっとした感触が伝わってきた。
「ほう。おまえ、魔王を飼っているのか」
どきん、と心臓が跳ねる。こいつ、俺様の中の魔王テンガイを感じ取ったのか。しかし、今のテンガイは戦えない。魔力と体力が回復するまでは役に立たないのだ。こんな肝心な時に寝ているとは、ただの寄生虫ではないか!
そう思った時だった。
「寄生虫とは心外だな。時は満ちた。魔界から新たな力を得て、我はここに顕現する。魔王化するのだ、ラウダよ!!」
おお! おおお! よくぞいったテンガイよ!!! なんというタイミング! なんという僥倖!
「ふはははははははははははっ!!」
俺様は黒いジンを蹴飛ばし、立ち上がる。テンガイの力で後ろ手に縛られた縄を焼き切った。ふはははっ! いいぞ、いいぞおおおおおお!
「おい! 黒きジンよ! 貴様がジン・カミクラか、そうではないのかなど、もはやどうでもいい! 俺様に舐めた口をきいたことを後悔するがいい!!」
さあ――行くぞ! 《魔王反魂 イリーガル・フュージョン》
漆黒の闇と蒼い炎が広がり、俺様を包み込む。刹那。テンガイと融合した俺様は黒のスーツに、真紅のマント。髪は紫紺となり、腰までゆるりと伸びていた。両手には、純黒のショートソードを逆手で持っている。さらに空中にも同じ短刀が無数に浮遊していた。
「はははははははははっ!! どうだ! どうだああっ! これが魔王化した俺様、ラウダ・ゴードン様だあああああああああああああああっ!」
「そうか。では、少しは楽しませてくれるんだろうな。《竜魂隷属 ドラグ・オヴィディエンス》」
黒いジンが呟いた直後、雪が激しく振り始め、地面にはバキバキと氷が貼っていく。冷気が広がりジン・カミクラの姿が見えなくなる。その直後、轟音とともに白い霧が晴れ、敵の姿が現れる。
俺様とは反対に、青と白の姿。白く長い頭髪に、ドラゴンの手甲、青い戦闘靴に外套。そして長く伸びた聖槍――グングニル。
「さあ。舞踏会の始まりだ」
青くなったジンもどきは、俺様に向かって、ニヤリと笑ってみせた。いちいち癇に障る野郎だあ! 後悔させてやろうおおおおおおおおっ!
「喰らええええっ! 《魔巣剣舞 ブレード・ラッシュ》!!!!」
俺様は浮遊している黒剣たちへとオーラを伝達。紫の魔力を帯びた短剣たちが、我先にと青いジンへと降り注ぐ。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!
凄まじい雪煙を上げて、剣たち舞い踊る。刃が刃に重なり、敵の姿が黒に染まっていく。
「ククク……あはははははははははっ!! 死ねえい! 偽物のジン・カミクラよ!!!」
「随分、楽しそうだな」
「へっ!?」
敵の声が聞こえた。馬鹿な。あれだけの剣を浴びて、無事なわけがない。そんなことあっていいはずがない!!
徐々に雪煙が消え、ジン・カミクラの姿が再び、しんと現れた。
「そ、そんな……」
俺様が放った短剣たちは、すべて青いジンの周囲を漂い、その切っ先をこちらへと向けていた。
馬鹿な……。俺様の剣たちを乗っ取ったのか? そ、そんなこと、できるはずがない!!
「では、今度はこちらの番だな」
ジン・カミクラの瞳が蒼く輝き、きゅっと細くなった。
0
お気に入りに追加
1,187
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「ただの通訳なんて宮廷にはいらない」と追放された【言語術師】。追放された瞬間、竜も機械も使えなくなって女王様が土下座してきたけどもう遅い。
アメカワ・リーチ
ファンタジー
「ただの通訳など、我が国にはいらない」
言語術師として、宮廷に仕えていたフェイ。
しかし、新女王の即位とともに、未開の地への追放を言い渡される。
「私がいないと、ドラゴンや機械に指示を出せなくなりますよ……?」
「そんなわけないでしょう! 今だって何も困ってないわ!」
有無を言わさず追放されるフェイ。
しかし、フェイは、得意の“言術”によって未開の地を開拓していく。
機械語によって、機械の兵隊軍団を作り、
神々の言葉で神獣を創造し、
古代語でドラゴンたちと同盟を結ぶ。
ドラゴン、猫耳美女、エルフ、某国の将軍と様々な人間にご主人様と慕われながら、
こうして未開の地をどんどん発展させていき、やがて大陸一の国になる。
一方、繁栄していくフェイの国とは違い、王国はどんどん没落していく。
女王はフェイのことを無能だと罵ったが、王国の繁栄を支えていたのはフェイの言術スキルだった。
“自動通訳”のおかげで、王国の人々は古代語を話すドラゴンと意思疎通をはかり、機械をプログラミングして自由に操ることができていたが、フェイがいなくなったことでそれができなくなり王国は機能不全に陥る。
フェイを追放した女王は、ようやくフェイを追放したのが間違いだと気がつくがすでに時遅しであった。
王都にモンスターが溢れ、敵国が攻め行ってきて、女王は死にかける。
女王は、フェイに王国へ戻ってきてほしいと、土下座して懇願するが、未開の地での充実した日々を送っているフェイは全く取り合わない。
やがて王国では反乱が起き、女王は奴隷の身分に落ちていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる