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24 追放サイド:没落への道(その7)

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 俺様は全てを失った。帝国小隊長の役職を失い、部下を失い、竜化までも失った。もう何もない。何もない。

「何も、ない」

 そんな時だった。雪に埋もれる奇妙な物体を見つけたのは。

 そいつは赤黒くうねうねと蠢いている。まるで人間の心臓のようだった。気味が悪い。俺様は気分が悪くなり、その場を去ろうと踵を返す。

「ま、待て」

 声がした。それは耳というよりも、頭の中に直接響いてくるような声だった。周囲を見渡すが、夜の闇に雪がこんこんと振り続けているだけである。気のせいか?

「こ、ここだ」

 また聞こえる。どうやら気のせいではないらしいな。再び辺りを探ると、先程の心臓らしき物体に視線が止まる。まさか、こいつか?

「そうだ……おぬ、し。ラウダ、だな」

 な、なんだ! こいつは! 俺様は慌てて駆け出そうとする。

「ジン・カミクラに復讐したくはないか」

 その言葉にぴたりと足が止まる。なんだと? ジン、ジン・カミクラだと。俺様はぬらぬらと蠢く物体に向けて口を開いた。

「何故、俺様の名前を知っている? それにジン・カミクラのことも」

 気味の悪い物体は小刻みに震えながら、俺様の頭に直接、語り続けた。

「簡単さ。我もジン・カミクラに恨みを持つもの」

「お前、も? お前、何者なんだ……?」

 心臓のような物体はぬらぬらと揺れてから、人間程度の大きさまで膨れていく。実に悍ましい……。人の頭の位置に、ギョロリと白い瞳孔のない目が現れた。

「我は、テンガイ。魔王テンガイなり」

 ま、魔王? 魔王、テンガイ? 

 徐々に恐怖が忍び寄り、俺様は腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。

「ま、ま、魔王!? ま、魔王が、俺様に、何のようがあるんだよ……」

 あまりの恐ろしさに語尾が尻窄みになってしまう。何故なんだ。ジン・カミクラを追い出しただけで、次々と悪いことが起こる。地位も名誉も竜さえも失った俺様に、今度は魔王が襲いかかろうとしているのだ。

「ラウダよ、勘違いするな、我らは同士となるのだ」

「ど、同士?」

「ジン・カミクラに倒される直前、我は自分の細胞を転移させた。我と同じくジン・カミクラに恨みがあるものの場所へと。以前は力だけで全てを統べることができたが、今はそうはいかん。今回は叡智の魔王となり、復活を遂げるのだ」

 倒される直前? ジンが、魔王を? 倒した? 嘘だ。そんな馬鹿な。あんなFランク以下の男が魔王を倒せるはずがない!

「ラウダよ。我を使ってジン・カミクラを討て」

「魔王を使う? 俺様、が?」

「そうだ。魔王化するのだラウダよ」

 魔王化? 竜化みたいなものか……? い、いや! そんなはずはない! きっとこいつは俺様を乗っ取るつもりなのだ! だまされるものか!

「ふむ。疑い深い奴だ。だが、そこがいい。安心しろ、そんなことはない。お主の恨みは我にとっても強い力となる」

「う、うそだあっ! 俺様は騙されないぞ!」

「やれやれ。本当だというのに……では、仕方がない。我の言葉に偽りがないことを知るがいい」

 そう言うと、魔王は俺様の同意を得ることを放棄し、大きく広がり俺様を包み込んだ。いやだ! いや、うああああああああああああああああああああっ!

 ――どうだ。魔王化した気分は? ラウダよ。

 意思があった。俺様自身がそこにあった。テンガイの声が自分の中から聞こえる。俺様は魔王と一体化したことにより、瞬時に全てを理解した。これが魔王化……くくく。

「あははははははっ! これはいい! これはいいぞテンガイ!!」

 ライトニングとの竜化など取るにも足らない力が溢れてくる。これならばライトニングどころか、隻眼の銀狼でさえ討ち滅ぼせるであろう!!

 ラウダよ。我とともに、憎きジン・カミクラを討つのだ。

「ああ! 無論だあ! ライトニングも、グラインも、ジン・カミクラも、俺様が倒してやる! あーははははははははっははははっ!」

 さあ首を洗って待っていろ、ジン・カミクラアアアアアアッ!!


 ――だが俺様はやはり知らなかった。

 ジン・カミクラは魔王化の上を行く――超弩級SSSS竜神化への道を進んでいくということを。
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