灰色に夕焼けを

柊 来飛

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止められない想い

見る目がない

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「烏坂、どうした?まだ具合が悪いのか?」

「え?………あー、」

 夕飯を食べていると、先生に言われた。どうしよう、言おうかな。でも、言ったらそれは、先生も傷つくことになるし…。

「何か学校であったんだな。言いたくなかったらいい」

「………今日、告白、されたんです」

 すると、先生の手から箸がスルリと抜け落ちた。カチャンと音を立てて箸は床に転がり落ちる。

「あ、先生。箸落ちましたよ」

「いや良い。そのまま続けてくれ」

 先生は箸を拾うと、箸を手に持ったまま僕の話を聞く姿勢でいる。じっと見つめられて、何だか凄く居た堪れないが、僕は続きを話す。

「まぁ、罰ゲームだったんですけど。それで、僕、断ったんです。罰ゲームって分かって」

「罰ゲーム…」

 ミシリと箸が鳴る。先生、強く箸持ちすぎじゃないか?そんなに僕の話が気になるのか。

「そしたら、向こうは断られるって思っていなかったらしくって。確かに、サッカー部で女子から人気のかっこいい男の子なんですけど…」

「罰ゲームで告白だろ?何がかっこいいんだよ、それ」

「まぁ、それで…。僕が断ったら、色々言われちゃって。施設育ちのくせにとか、可愛げが無いとか。顔と体は良いって言われたけど、」

 そこまで話すと、先生の箸がボキッと折れる。
 あれ、その箸プラスチック製とかじゃ無いし、かなり太めのちゃんとした箸なのだが。それ、折れるのか…?折れること、あるのか…?
 そんな疑問をよそに、折れた箸は机にコロコロと転がっていく。

「せ、、先生…?」

「…………すまん。で、どうなったんだ?言い返したのか?」

「いえ。ここで言い返したら、また面倒なことになりそうだったし。それに、事実も入ってたから」

「事実?」

「いつもそうやって事実から目を背けるんだねって。僕、心当たりがありすぎて。可愛げが無いとか、施設育ちとかも事実ではあるんですけど。特に、それが…凄い残ってて、」

 すると、先生が席を立って僕の隣に来たかと思えば、強い力で僕を抱きしめる。身動き一つ取れない。全身の血流が、息が、鼓動までが止まってしまいそうだ。
 
「そんなこと無い。そいつは烏坂のことを何にも知らない奴だ。気にするな」

「ぅ、うぐ、せ、、せんせ、き、きつ、」

「で、誰だ?」

 パッと体を離され、先生が問いかける。

「え?」

「誰が言ったんだ、そんなこと。何処の馬の骨だ。サッカー部って言ったな」

「いや、あの、先生?」

「罰ゲームで告白して、失敗したら相手を貶すのか。チッ、俺が嫌いなタイプだ。お前、よくその場で耐えたな。俺だったぶん殴ってるぞ」

「や、先生が殴ったら彼、死んじゃいます…」

「それで構わないが」

「だ、駄目ですよ!」

 何でこうも発想が物騒なんだろう。元不良のところが垣間見えたところで、僕は先生の胸に頭を寄せる。

「ふふ、先生。僕のために怒ってくれてありがとうございます」

「…お前が馬鹿にされるのは、我慢できん」

「僕も、あの場で先生のことなんか言われてたら、食いかかってましたよ」

 そう言って僕は先生から離れる。先生は僕の頬を撫で、呟く。


    「こんなに、可愛のにな」

 
 その言葉に僕は顔を真っ赤にさせる。僕が、可愛いなんて。そんなの、言わないでほしい。勘違いしてしまうではないか。

「ソイツは見る目がないな」

 そう言って、先生は折れた箸を片付けて代わりの箸で料理を食べ始める。


ー先生。先生も、見る目ないですよ。
 こんな僕を、可愛いだなんて。
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