灰色に夕焼けを

柊 来飛

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自覚

相談

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 先生と過ごす日々の中で、その感情を恋と自覚したその日から、その気持ちは収まるどころかどんどん膨れていった。

 いつの日か、先生が言った言葉を思い出す

 
 
 ー「叶わない。そう分かっているのに、諦めきれない恋だ」ー

 

 今ならその気持ちが痛いほどわかる。先生が僕を恋愛対象として見る日なんて、来るはずないのに。そう、分かってるのに。
 

   僕は、先生を諦めきれない。


 先生のことを考えると、苦しくて泣きたくなる。それでいて、嬉しくて温かい気持ちになる。


 ー恋とは、こんなに苦しいものなのかー

 
 だったら僕は、知りたくなかった。こんなに苦しい思いをずっと背負っていくのだ。
 聞いたことがある。初恋は叶わないと。
 それを身を持って体験した。

 授業中、ずっとその事が頭から離れず、集中出来ていなかった。

「ーか、ー坂、ー烏坂!」

「ーえ?」

「大丈夫か?ボーっとして」

「す、すみません」

「珍しいな、授業に集中出来てないなんて。保健室行った方が良いんじゃないか?」

「いえ、それ程でもー」

「何かあったら大変だろ。えーと、月輪!仲良いだろ、連れてってやれ」

「分かりました。夕、行くよ」

 僕に拒否権は無いらしい。すみませんと一言言ってから、僕は彩葉に連れられて保健室まで来た。

「失礼します。夕の具合が悪くて…」

「あらあらあら、大丈夫?こっちおいで」

 蝶先生は僕の心配をしてくれている。ほんとに、私情でこんなことになっているなんて情けない。

 彩葉は授業に戻り、僕は蝶先生と2人きりになる。
 軽い問診を終え、僕はずっと黙っている。

「ー何かあったの?」

 蝶先生が聞いてくる。僕は少しの沈黙の末、口を開いた。

「ー少し、ありました」

「鷹翔には言った?」

 フルフルと首を振る。そうすると、蝶先生は僕と隣に来て話出す。

「私に話せるなら、話してみて」

 あくまでも無理強いはしない、蝶先生らしい言葉だ。僕はポツポツと話し出す。

「ー恋を、したんです」

 蝶先生は黙って聞いている。

「でも、それは、叶わない恋で、わかってるんです。分かってるけど、諦めきれなくて」

 僕はギュッと手を握る。何だか言っていたら涙が滲んでくる。ユラユラと視界が揺れ出す。なんで、何でこんなことで泣くんだろう。僕は本当は、もっと強かったはずなのに。

「それが辛くて、苦くて、悲しくて、寂しくて、」

 涙がポロポロと溢れる。僕はその涙を拭いながら涙声で話し続ける。

「僕、どうすれば良いか分からなくて…!こんな気持ちになるなら、恋なんて、知りたくなかった…!!」

「ー違うよ、夕ちゃん」

 黙っていた蝶先生が口を開いた。

「恋なんて知りたくないなんて言ったら、その人との出会いまで否定することになっちゃうよ。夕ちゃんは、それでも良いの?」

 先生との出会いを、否定することになる。
 それは、それだけは嫌だ。先生が僕の人生から消えてしまうなんて、そんなの耐えられない。

「や、嫌、です。それだけは、嫌です…!」

「その人に想いは伝えたの?」

「いえ、伝えてません。どうせ叶わないし、伝えたら、気まずくなっちゃうし、」

「そうだねぇ、気持ちを伝えるって、怖いし、勇気のいることなんだよ」

 先生は遠い目をする。その瞳には色々な感情が浮かんでいる。

「その気持ちを伝えるかどうかは、夕ちゃん次第だよ。その気持ちは夕ちゃんだけのもので、誰のものでもない。だから、私がとやかく言う資格なんてない」

 でもね、と蝶先生は真っ直ぐな瞳を向けて言う。

「その気持ちは、大切にしてほしいな」

 僕の、先生が好きと言う気持ち。これは僕の人生の中で、一生引きずるものであるだろう。
 でも、無かったことにしたくない。相手からの想いがなくても、自分の想いさえあれば、それで良いのだ。

「ありがとうございます、蝶先生。少し、楽になりました」

蝶先生はフワリと笑って僕を送り届けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「叶わない恋、…か。夕ちゃんは、少し決心がついたみたいだよ」


    
    ー君はどうなの、鷹翔







 
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