灰色に夕焼けを

柊 来飛

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芽生え

愛してくれる人がいるということ

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 古さんたちが帰ったところで、僕は先生をチラリと見る。

「俺は独り身だぞ」

「ま、まだ何も言ってません」 
 
「彼女もいない。完全フリーだ」

 ひらりと左手を見せる先生。そこには指輪は一つもなかった。
 どうやら僕が先生に思っていたことは筒抜けだったようだ。

「でも意外です。先生、ぜったいモテると思ったから」

「どこがだ」

「身長も高いし、顔もカッコいいし、筋肉もあって頭いいとか。本当に居ないんですか?」

「居ない。好意を寄せてくる奴はいるが、馬が合わん」  

「彼女とか居たことないんですか?」

「昔は居た。ただ付き合って欲しいと何回も言われたから付き合っただけだが」

 先生は表情を変えずに言った。僕は深入りせずに、話を変えるために先生に違う質問をした。

「先生、古さんとか蝶先生は結婚してるのになんで苗字が違うんですか?」 

古さんの夫は皇さん、蝶先生の夫は鬼神さん。しかし、どちらとも違う苗字を名乗っていた。

「籍を入れていても、旧姓を名乗って問題はない。職場とかで苗字が変わると面倒だから旧姓を名乗ってる人も多いぞ」

 そうゆうものなのか。確かに、やり取りするのに苗字が変わるとその分説明する手間が増えてしまう。

「姉貴と兄貴はどっちも自衛隊員なんだが、そこら辺が面倒くさくて旧姓名乗ってる感じだな。ちなみに、あの夫婦は兄貴が婿入りに来た」

「そうだったんですね!」

 古さんも皇さんもしっかりとした体つきだと思ったが、まさか自衛隊員だったとは。

「レイはただ単純に自分の苗字が気に入ってることと、鬼神なんて名乗ったら怖がれるだろ」

「ま、まあ確かに。蝶先生の印象にはだいぶかけ離れてますね」

 まぁ鬼神さんもそのイメージからは程遠い優しそうな印象を受けたが。

「御代一のこと、優しそうって思っただろ」

「え、はい、お、思いました」

「あいつ、警察官でフツーに怖いぞ」

 先生は手元でヒョヒョイとスマホを操作して、写真を見せてくれた。警官の制服を着て、笑っている鬼神さんが写っている。 
 これだけではあまり怖いと思わないが。 
 しかし、これが本命ではないらしく、次に一つの動画を見せてくれた。

「実はレイが犯罪に巻き込まれたことがあってな。俺は一応動画を撮っておいたんだが、それがこれだ」

 そう言って再生された動画に映るのは、蝶先生をつかんで大声をあげる男性。手には何か刃物のような物が握られている。
 周りがザワザワと騒ぎ立てる中、そこに怯む様子もなく近づいて行って何かの格闘技の技を繰り出す鬼神さんの姿があった。
 相手を薙ぎ倒した後、鬼神さんは怯えている蝶先生さんを抱きしめる。
 地面に伏せたままの男性は、何かまた蝶先生に言って足を掴もうとするが、鬼神さんが容赦無くその人の足を踏みつけグッと力を入れる。
 痛みに悶えるその人を、冷たい目で見下ろしている鬼神さんは、低い声で一言、

「これ以上彼女に手を出すなら、俺は容赦しない」

 そこで動画はプツリと終わった。

「この後あいつがまだ抵抗しようとしたから流石に止めに入った。御代一、レイのことになると見境が無くなるんだ」

 はぁと大きなため息を吐く先生。この様子だと、何回か本当に手に負えないことがあったのだろう。

「確かに、怖かったです」

「だろ」

「でも、それくらい鬼神さんは蝶先生を愛しているだなって、思いました」

 周りはたまったものじゃないが、こんなにも愛してくれる人がいるなんてとても幸せなことだと僕は思う。
 
 思いを馳せる僕を、先生はただ黙って見ているだけだった。


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