67 / 76
いつの日か
しおりを挟む
そこから数日が経ったが、何も変わらずじまいだった。
騎士団本拠地で、4人で集まり話す。
両親はそれぞれ別のところで殺されたらしく、父は物置の奥で、母は奥の庭園で殺されたことがわかった。
両親の遺体に付いていたであろう指紋や手形は全て水で洗い流され、何も痕跡が残っていないと言う。かなりの手練れだと聞くが、なら何故浴槽に移動させたのか。殺されたところから浴槽はかなりの距離があるし、運ぶのも大変だ。その観点から、複数人のグループで間違いないだろうと踏んでいる。
リリー家の使用人に連絡を取ったところ、使用人は私が殺される予定だったその日に皆家に帰るようにと言われたらしい。
急なことで皆慌てていたが、次の日の早朝には皆帰ったと。
両親の寝室をよく調べると、まとめられた荷物があり、逃亡する予定だったということも発覚した。重なった札束を見る限り、これで検問を潜り抜ける予定だったのだろう。
「さて、ここまで話したが何か質問は?」
「その札束も、金目の物も、何も取られていなかった。ならば、泥棒が入ってそれを見られて口封じに殺された線は消えますね」
ユニコーンが言う。あくまで、両親を殺すために家に入ったと。
「こんな、何の形跡も無いなんて、あり得るのですか?」
「………事例が無い、ということではない。力不足だが、未解決事件は歴史を振り返れば幾つとある」
私が聞くと、エヴェレットは苦々しく言う。
「それでも、俺らは犯人を見つけ出さなくてはならない」
「やはり、私1人で登下校した方がよろしいのでは?」
「やめろ。それをやったら俺は暴れるぞ」
「リーダーが暴れたらマジで手が付かなくなるのでやめましょう」
ペガサスが急いで言う。そんなになのか。
「ああー!もー!犯人もう雲隠れしたんじゃないんですか?」
「その可能性も大いにあるが、何しろリリー夫妻に恨みを募りに募らせた犯人だ。一人娘のレイアだけを逃すのも考えずらい」
「ま、愉快犯の犯行じゃなければの話ですけどね、それ」
どの可能性も捨てきれず、何も絞れない。
結局、この日は情報共有だけで終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「エリー?」
「………」
エリーに呼びかけても反応しないなんて珍しい。私が肩を叩くと、エリーはビクッと反応する。
「すっ、すみません!レイ、何か?」
「いえ、ただ、少し珍しいと思いまして。何を見ていたのですか?」
「いっいえ!そんな、」
エリーが視線を送っていた方を見ると、そこには黒髪の青年が立っている。
この人物は…
「あの方が、エリーの好きな人ですか?」
私が聞くと、恥ずかしそうに目を伏せてコクリと頷く。やはりそうか。
彼はゲームでも立ち絵があったから直ぐにわかった。誰にでも優しく、情が厚い人物で、ゲーム内ではエリーの心の支えとなっていた。
「かっこいい人ですね」
「ええ!とてもカッコよくて、見惚れてしまいます」
そう言って、エリーはまた彼に視線を移す。彼はこちらに気づくと、気さくな笑顔でハラハラと手を振る。
エリーは少し顔を赤らめながらも笑顔で振り返すと、彼の笑顔がもっと綻ぶ。
ああ、2人はもうこの時から両思いだったんだ。それを、ゲーム内でのレイアは取ろうと邪魔していたのか。自分の立場を弁えないのにも程があるぞ。
「ふふ、お似合いですね」
「もう、レイったら!」
ぷくりと頬を膨らますエリーが可愛くて余計に笑ってしまう。エリーは私の背中を軽く叩く。
「何だか、とても友人らしい会話でわたくし嬉しいです!」
「そうですね!」
私とエリーは笑い合う。この学園にいるときだけは、エリーといるときだけは、ただの女の子として、エリーの友人としていたい。
前を向くと、そこには最近見た人物が。
「あっ…」
「?、エリー?」
前には、エミリアがいた。エミリアはこちらに気付くと、にっこりと笑って去っていく。
「いえ、何でもありません。あの、エリー」
「はい?」
「エリーには、婚約者や許婚は居ないのですよね?」
「ええ、私にはいません。しかし、貴族の子供…、特に、長男はつける家が多いですね。というか、殆どそうですね」
そうか。エヴェレットもノア家の長男だ。ならば婚約者がいて当然だ。将来騎士団団長にもなる者として、早めに身を固めたいのも現状だろう。
「レイ?」
「……いえ、私にも、婚約者や許婚はいないもので」
「そうなのですね!わたくしと一緒です。共に愛する人を見つけましょう!」
「ふふっ、エリーはもう見つけていますから、私が追いつかないとですね」
私は何事もなく笑い合うが、胸の中は少し重い。
私なんかに、そんな人はできるのだろうか。恋さえしたことがない、愛されたことがない私に、そんな人ができて、愛せる日が、愛される日が来るのだろうか。
気分が沈むのを悟られないよう、私は必死に口角を上げた。
騎士団本拠地で、4人で集まり話す。
両親はそれぞれ別のところで殺されたらしく、父は物置の奥で、母は奥の庭園で殺されたことがわかった。
両親の遺体に付いていたであろう指紋や手形は全て水で洗い流され、何も痕跡が残っていないと言う。かなりの手練れだと聞くが、なら何故浴槽に移動させたのか。殺されたところから浴槽はかなりの距離があるし、運ぶのも大変だ。その観点から、複数人のグループで間違いないだろうと踏んでいる。
リリー家の使用人に連絡を取ったところ、使用人は私が殺される予定だったその日に皆家に帰るようにと言われたらしい。
急なことで皆慌てていたが、次の日の早朝には皆帰ったと。
両親の寝室をよく調べると、まとめられた荷物があり、逃亡する予定だったということも発覚した。重なった札束を見る限り、これで検問を潜り抜ける予定だったのだろう。
「さて、ここまで話したが何か質問は?」
「その札束も、金目の物も、何も取られていなかった。ならば、泥棒が入ってそれを見られて口封じに殺された線は消えますね」
ユニコーンが言う。あくまで、両親を殺すために家に入ったと。
「こんな、何の形跡も無いなんて、あり得るのですか?」
「………事例が無い、ということではない。力不足だが、未解決事件は歴史を振り返れば幾つとある」
私が聞くと、エヴェレットは苦々しく言う。
「それでも、俺らは犯人を見つけ出さなくてはならない」
「やはり、私1人で登下校した方がよろしいのでは?」
「やめろ。それをやったら俺は暴れるぞ」
「リーダーが暴れたらマジで手が付かなくなるのでやめましょう」
ペガサスが急いで言う。そんなになのか。
「ああー!もー!犯人もう雲隠れしたんじゃないんですか?」
「その可能性も大いにあるが、何しろリリー夫妻に恨みを募りに募らせた犯人だ。一人娘のレイアだけを逃すのも考えずらい」
「ま、愉快犯の犯行じゃなければの話ですけどね、それ」
どの可能性も捨てきれず、何も絞れない。
結局、この日は情報共有だけで終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「エリー?」
「………」
エリーに呼びかけても反応しないなんて珍しい。私が肩を叩くと、エリーはビクッと反応する。
「すっ、すみません!レイ、何か?」
「いえ、ただ、少し珍しいと思いまして。何を見ていたのですか?」
「いっいえ!そんな、」
エリーが視線を送っていた方を見ると、そこには黒髪の青年が立っている。
この人物は…
「あの方が、エリーの好きな人ですか?」
私が聞くと、恥ずかしそうに目を伏せてコクリと頷く。やはりそうか。
彼はゲームでも立ち絵があったから直ぐにわかった。誰にでも優しく、情が厚い人物で、ゲーム内ではエリーの心の支えとなっていた。
「かっこいい人ですね」
「ええ!とてもカッコよくて、見惚れてしまいます」
そう言って、エリーはまた彼に視線を移す。彼はこちらに気づくと、気さくな笑顔でハラハラと手を振る。
エリーは少し顔を赤らめながらも笑顔で振り返すと、彼の笑顔がもっと綻ぶ。
ああ、2人はもうこの時から両思いだったんだ。それを、ゲーム内でのレイアは取ろうと邪魔していたのか。自分の立場を弁えないのにも程があるぞ。
「ふふ、お似合いですね」
「もう、レイったら!」
ぷくりと頬を膨らますエリーが可愛くて余計に笑ってしまう。エリーは私の背中を軽く叩く。
「何だか、とても友人らしい会話でわたくし嬉しいです!」
「そうですね!」
私とエリーは笑い合う。この学園にいるときだけは、エリーといるときだけは、ただの女の子として、エリーの友人としていたい。
前を向くと、そこには最近見た人物が。
「あっ…」
「?、エリー?」
前には、エミリアがいた。エミリアはこちらに気付くと、にっこりと笑って去っていく。
「いえ、何でもありません。あの、エリー」
「はい?」
「エリーには、婚約者や許婚は居ないのですよね?」
「ええ、私にはいません。しかし、貴族の子供…、特に、長男はつける家が多いですね。というか、殆どそうですね」
そうか。エヴェレットもノア家の長男だ。ならば婚約者がいて当然だ。将来騎士団団長にもなる者として、早めに身を固めたいのも現状だろう。
「レイ?」
「……いえ、私にも、婚約者や許婚はいないもので」
「そうなのですね!わたくしと一緒です。共に愛する人を見つけましょう!」
「ふふっ、エリーはもう見つけていますから、私が追いつかないとですね」
私は何事もなく笑い合うが、胸の中は少し重い。
私なんかに、そんな人はできるのだろうか。恋さえしたことがない、愛されたことがない私に、そんな人ができて、愛せる日が、愛される日が来るのだろうか。
気分が沈むのを悟られないよう、私は必死に口角を上げた。
341
お気に入りに追加
1,617
あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です!
【2025年1月3日追記】
ストーリーの見直しにあたり、137話からのくだり、特に138話をかなり手直ししております。このあたりは割と二人にとって大事な場面となりますので、よろしければお暇なときにでも読み返していただけると幸いです(#^^#)
なろうさんにも同作品を投稿中です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?
狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?!
悪役令嬢だったらどうしよう〜!!
……あっ、ただのモブですか。
いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。
じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら
乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

精霊に転生した少女は周りに溺愛される
紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。
それを見た神様は新たな人生を与える
親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。
果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️
初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる