悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

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作戦

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 「レイアお嬢、単刀直入に聞くが、犯人をご存知で?」

「いえ、目星もありません」

「…嘘、ではないでしょうね」 

「団長、」

 エヴェレットが少し怒った声で団長を咎める。
 しかし、団長が言いたいことだってわかる。急すぎるし、私が両親に怒って刺客を送った可能性だってあるのだから。
 まあ、私はすぐに保護されたから刺客を送る時間もなかったし、アリバイはあるのだが。
 
「失礼。しかし、ちゃんと確認しないとな。エヴェレットも分かっているだろう」

「……レイアは、そんな人ではありません」

 エヴェレットが私を抱きしめる力が強まる。やけに信用してくれているみたいだ。今はそれがありがたい。一人ではないと、そう思わせてくれる。

「犯人の目星も無いと…。何か、リリー夫妻と仲が悪かった人は?」

「……それは、」

「別に言っていい。俺の両親です。団長もご存知の通り、ノア家とリリー家は仲が悪い。そのせいで、レイアが襲われる事件が起きた」

 エヴェレットは淡々と話す。しかし、あんなに優しそうな人が私の両親を殺すとは思えない。
 何よりノア家はこちらをライバル視していない。むしろ、良好な関係を築こうとしているのにこんなことをするはずがない。

「しかし、ノア夫妻はこちらの家にも良心的でした。そんな方がこんなことするはずありません」

 私が言うと、団長も唸る。団長もその可能性は無いと思っているのだろう。中々犯人が絞れない。

「さて…、誰だかさっぱりですな」

 団長は頭を抱える。こちらに聞くと言うことは、そちらの調査でも行き詰まっているのだろう。

「あの…、やはり、私の両親は殺されたのですね」

 私が静かに言う。エヴェレットからは、その可能性が非常に高いとだけ言われていた。だから、この質疑で完全に確定してしまった。

「……すまない、レイアお嬢」

 団長が立って頭を下げる。私は慌てて弁解する。

「いっいえ!そんなことなさらないでください。どうか頭を上げてください」

 そう言うと、団長は目を伏せたまま椅子に座り直す。

「あの、質問をしても?」

「勿論ですよ」

「その、どうやって、私の両親は亡くなっていたのですか?浴槽で、二人を見つけたとは聞いたのですが…」

「死因はナイフでの刺し傷からの失血死です。何箇所も刺されて、傷が浅いところもあれば、深いところもあり、特に首と太腿からの出血が多いと。心臓部分にも大きな傷があり、相当深い恨みを持った犯人がやったと思われます」

「そう……なのですね…」

 こんなにも、両親に恨みを持った犯人。もしも、私がその家に居たら、私も殺されていたのだろうか。

「現場の調査で、犯人は二人を別の場所で殺した後、浴槽に移動させたと思われます」

「な、何故…浴槽に移動したのでしょう…。どこか移動させるのなら、普通はもっとバレないところに移動すると思いますが…」

 もしも、人目がつくところで殺してしまったとしよう。それを隠蔽するには人目がつかないところに隠すのが一般的だ。なのに、家の浴槽なんて、誰がどう考えても人目につく。

「まるで、見てほしいと言ってほしいような…」

 私が言うと、団長とエヴェレットも眉を顰める。

「愉快犯の可能性も捨て切れないが…。やすやすと貴族の敷地に入れるものでは無い。入れるとしたら、同じ貴族の者だ。いかにも、レイアのように敷地の外で襲われてなければの話だが」 

「ここ数日、リリー夫妻は家に篭りっきりだったらしい。外でリリー夫妻を見たものが誰一人いないからな。それに、外出した形跡が無い。まあ、自分の娘が帰ってこないのにのうのうと外出したら周りに怪しまれるからな」

 二人は今を取り巻く状況から推理を進める。私はそれをただ聞いているだけだ。何か、私にも出来ないだろうか。

「その、私を襲った犯人の仲間が両親を襲った…ことでは無いのですか?」

「貴女を襲った犯人の仲間はあれで全員です。少人数グループだったらしい。そうですね…貴女と同じようなケースで、誰かが依頼した可能性もある。そうすると、かなり難しいことになる」

 依頼者と、実行者。その関係性や人物を調べなくてはならないのだ。手間がかかるのは当たり前だ。

「レイアお嬢」

「はい」

「貴女に、協力してもらいたいことが」

「何をすればいいのでしょうか?」

「おい、何も聞いてないのにすぐやろうとするな!まずは聞け!」

 エヴェレットからお叱りが入る。しかし、私に出来ることなら何でもしたい。

「これまで通り、学園に通ってほしいのです」

「それだけ…でいいのですか?」

「かなり危険ですよ。学園の登下校中に被害に遭う可能性だってあるのです」

「構いません、それで犯人がわかるのなら」

「お前…これがどれだけ危険なのか分かっているのか…?」

 エヴェレットが低い声で尋ねる。分かっている、いつ殺されても文句を言えないのだ。でも、

「分かっています、エヴェレット様。しかし、私以上の適任は存在しません」

 そう言うと、エヴェレットは口を結ぶ。エヴェレットも分かっているのだ。ただ、事実はそうでも、感情で納得出来ない。

「では、エヴェレットを護衛に付けましょうか」

「エヴェレット様が?」

「ええ。これも、エヴェレット以上の適任者はいないし、何より本人が誰にも譲らないでしょうしね」

「当たり前です。これは、誰にも譲らない」

 団長がエヴェレットに目配りをすると、エヴェレットは私を強く抱きしめる。腕に赤い跡が付いてしまいそうだ。

「しかし、登下校中に護衛をつけると犯人は中々来ないのでは?」

「ええ。ですから、エヴェレットには少し距離を離れて護衛についてもらいます。そして、昼休みになったら二人で集まって今日誰か怪しい行動をしていなかったか情報を共有して欲しい」

「わかりました。エヴェレット様、よろしくお願いします」

「……何かあったら、すぐに言えよ」


 こうして、犯人を炙り出す作戦が始まった。


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