悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

文字の大きさ
上 下
61 / 76

恐怖

しおりを挟む
 レイアは夜明けまで酷い状態だった。

 両親が殺され、その事実を受け入れられなかった。ようやくそれを受け入れ、寝静まったと思っても魘されて起きてしまう。
 その度に俺はレイアを抱きしめる。レイアは毎回涙を流しながら俺にしがみつく。何か、縋るものを見つけるように。

「エヴェ、エヴェレット様、」

「大丈夫だレイア。だからゆっくり息をしろ」

「ヒュー、ヒュー、」

 レイアは浅い呼吸を繰り返す。顔は蒼白で、握る手は氷のように冷たい。自分で分かっていても、呼吸が整えられないのだろう。ずっと辛そうにしている。
 
「ゆめ、夢を、」

「夢?」

「寝ても、目を閉じていても、出てくるのです、両親が」

「リリー夫妻が?」

「血だらけで、私の方に手を伸ばすのです。私の手を取ろうと、その手が、怖くて、」

「俺がいる。レイアの手は俺が取る」

「エヴェレット様…」

 レイアは俺の胸に顔を埋める。俺が代わってやれたらどれだけいいだろうか。しかし、それが出来ない。

「エヴェレット様、寒い」

 レイアはずっとカタカタと震えている。今の時期はそれほど寒くない。半袖を着ている奴もいるほどだ。それなのに、レイアは寒いと言う。毛布もかけているのにも関わらず。

「なら、もっと近寄ろうか」

 俺はもっとレイアを抱き寄せる。いつもはレイアの方が体温が高いのに、今は俺の方が高い。

「落ち着くまで、手を、握っていて欲しいです、」

「最初からそのつもりだ」

 指を絡めてギチリと音が鳴るほど強く握る。その小さく白い手に、赤く痕がついてしまうかもしれない。それ程、強い力だった。

「離さないで」

「離すものか」

 リリー夫妻の怨霊にレイアを連れて行かれるなんて、そんなの真っ平ごめんだ。
 レイアを抱きしめる腕に力が入る。ギシリと骨が鈍い音を立てそうなほど、強く抱きしめる。
 
「ぅぐ、え、えゔぇれっと、さま、」

「離さないからな。絶対に、離さない」

 離したら、取られてしまう。連れて行かれてしまう。

「私は、駄目ですね。覚悟を決めたはずなのに、こんなことになって」

「お前のせいじゃない。お前は、1人で抱え込みすぎだ。頼れ、俺を。そんなに、俺は頼りないか?」

「そんな、ことではないのです。ただ、、迷惑になって、しまうから」

「迷惑などではない。俺は、お前が傷つく方が迷惑だ。もっと、頼ってくれ、」

 あわよくば、俺の手を取って、その手に溺れて、俺なしでは生きていけない体になってほしい。そうすれば、お前は俺から離れて行かないだろう。

「……エヴェレット様、」

「何だ?」

「キス、して」

「はっ?、」

「前の、おまじない」

「………ああ、」
 
 俺は前と同じようにレイアの額にキスを落とす。本当にこれだけでいいのだろうか。もっと、何かしてあげたい。しかし、何も思いつかない。
 レイアは先程よりも顔つきが柔らかくなる。

「……また、起きた時、そばにいて下さい」

「ああ。ずっと、ずっとそばにいる。だから、今は安心して眠れ」

「…はい」

 レイアはゆっくり目を閉じる。しばらくして、寝息が聞こえてくる。ふと窓を見ると、もう陽が登りそうだ。

 かなり長い時間、苦しんでいた。

 やはり、まだ言わない方が良かっただろうか。しかし、何日も両親の死を隠し続けられた方が辛いだろう。

「レイア…」

 俺は小声でその名を呼ぶ。本人は何も反応しない。手は冷たい。今、レイアが生きていると感じられるのはこの小さな鼓動だけだ。

 俺も寝てしまおうか。いや、出来ないな。もしも俺が眠ってしまって、その間にレイアが消えてしまったりしたら。

 そんなの考えたくもない。

 俺はその恐怖に怯え、一睡も出来なかった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です! 【2025年1月3日追記】 ストーリーの見直しにあたり、137話からのくだり、特に138話をかなり手直ししております。このあたりは割と二人にとって大事な場面となりますので、よろしければお暇なときにでも読み返していただけると幸いです(#^^#) なろうさんにも同作品を投稿中です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...