悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

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混乱

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「………え?」

 今、何て言った?浴槽で、遺体が…。何を、言って、

「今は取り調べ中だ。ただ、状況からして…」

「まっ、待って下さい、」

 私は声を上げる。それを誰も咎めはしない。

「い、言っていることが、分かりません。意味が、分からないです」

「リリー夫妻は死んだ」

「……な、何を、」

「事実だ」

 エヴェレットは淡々と話す。その姿が言っていることと真逆のように感じて、私は余計に混乱する。

「わ、分かりません、わかりません。だって、両親は、そんな歳じゃない。病気もなかったはずです。な、何かの間違いでは、」

「俺が、この目で見た」

「……そ、、そんなこと、」

 私は震える体を自分で抱きしめる。意味が分からない。こんなの、タチが悪い冗談だ、そうに決まっている。だって、何で死んで、何で、何で。

 カタカタと震え出す私を端に、エヴェレットは続ける。

「レイア。信じてくれ」

「……まっ、そ、れは、違う、違います」

「レイア」

「違います!」

 私は悲鳴のような声を上げる。体の震えが止まらない。全身から汗が噴き出て血の気が引く。震える声で私は続ける。

「何か間違いに決まっています。きっと、エヴェレット様が見たのも、幻覚で、だって、私の両親は、」

「レイア、」

「エヴェレット様、タチが悪すぎますよ、こんな冗談…」

「冗談じゃない」

 エヴェレットはこんな嘘はつかない。私は知ってるはずだ。なのに、頭が、体が、それを拒否する。

「レイア。これが事実だ」

「…嘘、ですよね?」

「………」

「嘘と、仰って下さいよ、エヴェレット様、」

「俺が嘘と言えば、お前はそれで満足か?」

「何でそんなこと、」

「…レイア、俺にもよく分からないんだ」

「嘘、、嘘ですよ、」

「レイア」

「嘘です!!」

 私はエヴェレットの胸に飛び込む。エヴェレットはただそこに立っているだけだ。

「嘘です!嘘です!!こんなの、あり得ません!!だって、私の、両親は…、な、何で、」

「レイア」

「死んでなんかいません!きっと、きっと…!死んでなんか…!!」

「頼む、レイア、」

「どうしてそんなこと言うんですか!!エヴェレット様!エヴェレット様、エヴェレット様…」

 私はエヴェレットの胸を叩くが、エヴェレットはびくともしない。それが悔しくて、手に力を入れる。

「違います、嘘です、何で、何で……」

「レイア」

「私の両親は、どうなっていたのですか?浴槽で、亡くなって…」

「ああ。まだ確定ではないが、状況からして他殺の可能性が高い」

「他、殺…?」

「何者かに、殺された」

「そ、んな…」

 愛していない両親だ。しかし、私を産んでくれた。私を抱きしめてくれた。その両親を、殺されたのだ。

「だ、、誰が、」

「分からない。今、死亡解剖と現場調査で犯人の行方を追っている」  

 淡々と話される事実に私は付いていけない。死んで、殺されて。何が起こっているのだろうか。

「どうして、エヴェレット様はそんなに、冷静なのですか、」

「俺が冷静でなくてどうすると言うんだ」

「何で!何でそんな事を言えるのですか!死体を見て、それで、その事を娘である私に伝えて!なんで、何で……!!!」

 私はエヴェレットの胸をドンと強く叩く。エヴェレットは後ろにパタリとベッドの上に倒れ、私はエヴェレットの上に被さる。

「エヴェレット様…、」

「レイア」

 分かっている。これが事実で、認めなければならないと。エヴェレットだって、やりたくない事を自分からやってくれたのだ。実の娘に両親の訃報を伝えると言う行為を。
 それでも、この悲しみは、この怒りは、どこに向ければ良いのか分からず、エヴェレットに当たってしまう。

「う、ふっ、うぅう、」

 私はボロボロと涙をこぼす。その涙がエヴェレットの顔に落ちる。
 エヴェレットが冷静なのも、淡々と話すのも、私を余計に混乱させないためだ。分かっているのに、エヴェレットに当たってしまう。自分から覚悟を決めて話して欲しいと言ったのに、このザマだ。情けない、情けなすぎる。

「うう、うぁ、あああ、」

「レイア」

 エヴェレットは私の頬に手を当てる。その温かさが余計に痛くて、私はエヴェレットの胸を叩く。

「違います、違います、違う、違うのです。こんな事をしたいわけでは、無いのです、」

「ああ。知ってる」

「知っているなら、早く私を突き飛ばして、叱咤して下さい、」

「レイア」

 エヴェレットは私の頭に手を回し、私を抱きしめる。私の涙でエヴェレットの胸元が濡れていく。

「気が済むまで、俺に何をしても良いから」

「エヴェレット様、」

「俺が、いるから」

 エヴェレットは私に優しく言う。頭を撫でてくれている。
 私はその優しさに甘えてわがままを言う。

「今日は、ここで寝て下さい」

「ああ」

「私が泣いても、嫌な顔しないで抱きしめて」

「ああ」

 私がそこまで言うと、エヴェレットは2人に視線を向ける。

「今日はもういい。俺がいるから」

「……わかりました、ユニコーン、帰ろ」

「……了解、リーダー」

 2人は出ていくと、外から鍵をかけてくれる。

 エヴェレットは夜明けまで私の側にいてくれた。
 

 
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