悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

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おまじない

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 「他は何がやりたい?」

 そう言われても、ここに何があるかわからない。でも、せっかくやるなら私でも出来そうなやつがいい。
 少しの間見回した後、私はあるものを見つける。

「あっ!あれがいいです!」

 そう指さしたのは、温泉上がりの定番である卓球だ。この世界にもあったんだ。それを見たエヴェレットは頷く。

「分かった。しかしお前、あれできるのか?」

「やったことあります!」

 現実世界でだが。私は運動が苦手だが、その中でも球技は得意だ。球技なら人並みに出来る。

 卓球台につくと、私はラケットを手に取る。エヴェレットも手に取り、両者立ち位置につく。
 私が球を持ち、打ってみせるとエヴェレットはそれを返す。

「ん、本当に出来るんだな」

「ふふん、私を舐めないでくださああああ!!!」

 エヴェレットは私が言い終わる前に、スコンと速い球を入れる。

「ズルイですエヴェレット様!」

「油断する方が悪い」

「も、もう一回!」

 しかし、何回やっても結果は同じだった。エヴェレットの気まぐれで、何回かラリーは続いたが、急に速い球を打ち込まれると反応できない。

「人並みには出来るようだが、まだまだだな」

「ハァ、ハァ…、エヴェレット様には、遠慮という言葉は、無いんですか…」

「無い」

 スパリと言い切る潔さは認めよう。でも、こちらは何も訓練を受けていないのだ。

「ずるいー!俺もやりたいです!」

「じゃぁ、俺とレイアペアと、ウィリアムとアルフィーペアで勝負だ」

「よし来た!良いですよ!負けませんよ、リーダー!」

 エヴェレットは私の方に移動し、私たちは2人と向かい合う。私はエヴェレットに話しかける。

「あ、足を引っ張ってしまいます…が、出来るだけ頑張ります」

「普通に打てば良い。後は俺がフォローする」

 出来る人の言葉だ。私はラケットを構え、こちらに打たれる球を見る。
 ペガサスが打った球を私が返すと、すかさずアルフィーが打ち返す。エヴェレットはペガサスの方に向かって勢いよくスマッシュを決める。

「っだあ!こっっわ!!」

 ペガサスの横を球が豪速球で通り過ぎる。これ、私さっき凄い手加減されてたんだ。

 何回かやった後、私の体も慣れてきて段々と早く対応できるようになってきた。
 私がスコンと決めると、エヴェレットは感嘆の声をあげる。

「凄いな、上達してる」

「やりました!」

 私が笑ってみせると、エヴェレットも薄く笑う。
 結局、この試合は私たちのペアが勝った。ほぼエヴェレットが得点をとってくれた。

 お風呂に入った後だが、少し汗をかいた。服をパタパタとしていると、エヴェレットがこちらを見る。
 そして、何故か眉を顰めた後目を逸らす。

「エヴェレット様?」

「……暑いだろ、飲み物を持ってくる。何が良い?」

「待って!俺も行きます!ユニコーンはいつもの?」

「ああ、助かる。ありがとう」

「わ、私は冷たいものでお願いします」

「分かった」

 2人はすぐに戻ってきて、私に飲み物を渡す。私のはレモンソーダだった。冷たくサッパリしていて、運動した後の体に染みる。
 エヴェレットは無味の強炭酸で、ユニコーンはピーチ風味の炭酸水。ペガサスはオレンジジュースを飲んでいた。

「そろそろ戻らないといけませんね」

 ユニコーンが時計を見て言う。そんなに時間は経っていないが、随分と長い間遊んでいた気がする。

「そうだな。アルフィー、レイアは俺が送るから先に戻っておけ」

「了解です。リリー嬢、明日の朝、お迎えにあがります」

「分かりました、ユニコーン様」

「じゃあ、ユニコーンは俺が送ります」

「おい、別に私は…」

「いいからいいから」

 ペガサスはユニコーンをエスコートする。ユニコーンは恥ずかしそうに目を伏せてから、ペガサスと一緒に去っていった。

 エヴェレットが私を部屋まで送ってくれた時、エヴェレットは重っ苦しく口を開く。

「…明日の早朝、リリー夫妻を押さえる」

「……そう、なのですね」

 ついにか。今頃、私の両親はどうしているのだろうか。私の訃報が届かないことに疑問を抱いているか、はたまた普通に暮らしているか。まぁ、流石に前者な気がするが。

「エヴェレット様、お気を付けて下さい」

「レイア」

「?、何でしょうか?」

 エヴェレットは近づくと、私の前髪を上に上げる。
 そして、私の額に柔らかい感触が落ちる。

「なっ……!?」

 私は額を押さえて数歩後ろに下がる。バンと背中をドアにぶつけるが、痛さなんて感じない。

「おまじないだ」

「へっ…?」

「おやすみ、レイア」

「お、おやすみなさい……」

 エヴェレットは柔らかく笑った後、背中を向けて去っていく。
 エヴェレットの靴の音がやけに響く。
 私は何が起きたか分からずに呆気に取られる。

 きっ、キス、された…?私のおでこに…。
 
 空いた口が塞がらない。全身が熱くて心臓の音がうるさい。血液がありえない速度で身体中を駆け巡る。

 私は急いで部屋の中に入り、鍵をかけた後ベッドに埋まる。

「気にせず、寝ないと…、」

 布団に入ったはいいものの、さっきので目が冴えてしまった。


 おまじない、ただのおまじないだ。そう、言ってたじゃないか。


 私はそう言い聞かせて、無理やり目を閉じた。

 
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