悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

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その感情に、背を向けて

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「あれ?もしかしてレイアお嬢さん、寝ちゃった?」

「そう…みたいだな。リーダー、どうしますか?」

 先程まで俺の胸の中で泣いていたはずなんだが。静かになったと思ったら寝てしまったのか。

「…はあ。俺が運ぶから、それを頼む」

 レイアの顔が見えないようにマントを巻きつける。
 泣き疲れて、スゥスゥと寝息を立てて寝る姿は、いくつか幼く見える。目元は赤くなり、睫毛や頬はまだ涙で濡れている。
 レイアを優しく抱き上げると、ウィリアムが小声で俺に話しかける。

「リーダー、そんなことするんですね。他人にも自分にも厳しい人だし、リーダーがこんなに優しいの初めて見ました」

「実の両親が自分を殺そうとしたんだ。その時の絶望は、俺らには到底分からない」

「まぁそうですけど。でも、最初からリーダーのマントをレイアお嬢さん羽織ってましたよね。あれ、リーダー自身から渡したんじゃないんですか?他人から頼まれても絶対渡さないでしょ」

 俺を何だと思っているんだ、コイツは。
 しかし、事実だ。マントが欲しいと言われても、以前の俺なら絶対に貸さなかった。
 いや、今も貸さないだろう。レイアだけだ、自分から貸すのは。

「何でマントなんか貸したんですか?」

「…俺のマントを貸せば、コイツに手を出す輩は居ないだろ」

「そうですけど、それならリーダー自身が近くにいるし大丈夫じゃないですか」

「五月蝿い。俺が近くにいない場合もあるだろう」

 何故、マントを貸したのか。
 さっき言った通りだ。それ以下でも、それ以上でもない。

「ふーん。なんか、自分の獲物に他の奴が手を出さないようにしてるみたいですね。威嚇というか、マーキング?」

 俺はグッと喉を鳴らす。それを見た2人は驚きの目をする。

「え?リーダー、ま、マジすか…?」

「違う。断じて違う」

「まぁ、、そうですよね、あのリーダーが…」

 レイアを抱いていなかったら、今すぐにでもコイツをどついていただろう。それが出来ないのがむず痒い。

「とっとと上に報告しろ。レイアは俺が連れ帰る」

「え、いや、駄目ですよ。レイアお嬢さんはこの件が済むまで、ここで保護ってことになったじゃないですか」

「チッ、そうだった…」

 ここで保護すれば、確実にレイアの安全は守られる。
 しかし、多くの人の目につくのが玉に瑕だ。レイアはなるべく、人の目に触れさせたくない。

「リーダー、気づいてます?自分が今どんな顔してるか」

「あ?」

「怖いー!今威嚇してる猛獣の顔してます!」

「おい、音量を下げろ、リリー嬢が起きてしまう」

「ご、ごめん」

 パッとアルフィーが手鏡を俺の前に差し出す。
 そこには、眉間に皺が寄りに寄って、眉と目を吊り上げている俺の顔があった。

「リーダー。お言葉ですが、かなり怖い顔をしていますよ」

「お前まで…」

 グリグリと眉間をほぐしていると、その振動からかレイアがモゾリと動く。

「んん…、」

「レイア、すまん…」

「え…えゔぇれっと、さま…?」

「レイア…?」

「んふふ、えゔぇれっとさま」

 舌足らずの口で俺の名前を呼び、グリグリと胸に頭を押し付ける。まだ寝ぼけているみたいだ。俺が頭を撫でてやると、レイアの口元がふわりと柔らかくなる。

「リーダー。そんな顔するんだ…」

「黙れ…」

 俺は力無く答える。とにかく、今はレイアを指定の部屋に連れて行かなくては。

 俺は2人と別れると、レイアの部屋となる指定の場所に行く。施錠されていなかったため、足で蹴って開ける。
 ベッドに降ろそうとすると、レイアは俺の首に手を回して離さない。

「レイアッ、離…」

「ん…や…。寒い…」

 俺は大きな溜息をついて、ベッドに座る。レイアも抱いたままだ。

 
   ー威嚇というか、マーキング?ー


 ウィリアムの言葉が脳裏をよぎる。

 俺のマントを貸したのは、2人に言った通りだ。その通りなのだが…。


 レイアを、人に見せたくない。


 今日は黒色の服だった。昨日の白とは打って変わり、一気に大人びた印象だった。
 くるりと回って足は見えるし。タイツを履いているとは言え、いや、むしろそれが駄目なのだ。
 あまりにも綺麗で、誰にも見せたくなかった。だから、俺の大きいマントを羽織らせた。誰も、そんな目で見ないように。そんな目を、向けないように。

 マントを少し退けると、レイアの顔が見える。

「この顔も、俺だけが…」

 この場にいる、俺だけが知っている。

 優越感が背中を駆け上がる。もっと、もっと知りたい。レイアのことを。俺だけが知りたい。


 認めてしまったら楽なのだろう。しかし、今はまだ、認めたくない。
 もう少しだけ、この感情から背を向けさせてくれ。

 その思いから、俺も目を閉じた。
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