悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛

文字の大きさ
上 下
45 / 76

犬のような馬

しおりを挟む
 馬車に揺られること数十分。何か大きな建物が見えてきた。
 外見は白色で統一されており、金色の装飾が上品にその建物を彩っている。

「着いたぞ」

 エヴェレットが先に降り、私に手を差し出す。その手を取って私が降りたことを確認すると、馬車の扉が閉じられる。

 結局私は、エヴェレットのマントを半分に折ったものを羽織っている。
 馬車に揺られている間、私はエヴェレットにマントを返そうとしたが、エヴェレットは頑なに譲らなかった。その圧に私は押し負けた。

 建物は綺麗な庭園に囲まれていて、草木や花が太陽に照らされて誇り咲いている。
 建物に続く道を歩いていくと、大きな門が目の前に見える。前には2人の騎士らしき人が。
 
 エヴェレットの姿を見つけると、2人は敬礼をした後、門を開ける。

「お疲れ様です、リーダー」

「ああ」

 リーダーと言われたエヴェレットは、素っ気ない返事をした後、スタスタと進んでいく。私もそれに着いていくと、建物の入口のような扉が見えてきた。

「あっ!リーダー!」

 誰かが声を上げ、こちらに走ってくる。まるで飼い主を見かけた犬みたいだ。
 目の前に来てピタリと止まったかと思うと、先程の可愛らしい印象では想像付かない圧のある敬礼を決めた後、また犬のような人懐っこい表情に戻る。

「おはようございます、リーダー!あれ?マントはどうしたんですか……あっ」

 言いかけた疑問が終わらないまま、結論に辿り着いたみたいだ。彼は私を見て、ニカッと太陽のように笑う。

「初めまして!お嬢さん!」

「は、はじめまして、」

「リーダー。このお嬢さんは?何でリーダーのマントを?あれ?この人どこかで…」

「質問は一つずつにしろ。そして、まずは自己紹介が先だ」

 エヴェレットが言うと、彼は「あっ!」と思い出したように表情を変える。コロコロと表情が変わって見ているだけで暖かい気持ちになる。

「初めまして!騎士団に所属している、ウィリアム・ウヴェーリ・ペガサスです!よろしくお願いします、お嬢さん!」

 元気な声で挨拶をされた後、手を差し出される。私もその手を取り、挨拶をする。

「初めまして。私は、レイア・ルーナマリア・リリーと申します。よろしくお願い致します、ペガサス様」

 私の名を名乗ると、ペガサスは眉を顰めて私の顔をじっと見つめる。そして、目を見開く。

「あれ!?リリー家の娘さん!?だから何か見覚えあったんだ!じゃあ!この人が今回の……」

 そこまで喋り、エヴェレットはペガサスに強烈な鉄槌を入れる。ぐはっと重い声を出した後、彼は身を屈めて数歩下がる。
 
「ここは外だ。これ以上機密情報を漏らすな」

「すんません…」

 彼は怒られて、しゅんと項垂れる。何だか大型犬が怒られているみたいだ。耳や尻尾が生えていたら、絶対に下に下がっていただろう。

「さあ、早く中へ行くぞ」

 エヴェレットが私の手を取り、歩いていく。エヴェレットと並んで歩いていたペガサスは、タタッと走り出すと、入口らしきドアを開ける。

 中に入ると、そこは立派なところだった。
 床は大理石出来ており、天井も高いため歩くたびに靴の音が綺麗に響く。
 天井には悪魔らしきものと騎士らしき人物が戦っている様子が描かれていた。

「こっちだ」

 エヴェレットが右に歩き出そうとした時、怒りに満ちた大きな声が響く。

「ペガサスゥゥゥウウ!!」


 ビックリして声のした方向を向くと、そこにはメガネを掛けた人物が、鬼の形相で立っていた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です! 【2025年1月3日追記】 ストーリーの見直しにあたり、137話からのくだり、特に138話をかなり手直ししております。このあたりは割と二人にとって大事な場面となりますので、よろしければお暇なときにでも読み返していただけると幸いです(#^^#) なろうさんにも同作品を投稿中です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...