悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

触れる

　「はい」と、私が言う前にエヴェレットはまた声を重ねる。

「とは言っても、もう夜は遅い。早く寝ろ」

「え、あ、あの、良いのですか？聞かなくて…」

「言いたくないだろう。どうせ、事情聴取で話すことになる。だから今は休め」

　ぶっきらぼうだが、それが彼なりの優しさということを知っている。私を怖がらせないように、今はただ側にいるだけなのだ。

「寝れないか？」

「…‥少し、怖くて。眠く、ありません」

「何かして欲しいことはあるか？飯を食いたいとか」

「………え、と、」

　して欲しいことはある。が、これを言うと本当に幼子の様で、年甲斐も無いと思われてしまうだろう。口篭っている私を見て痺れを切らしたのか、「さっさと言え」と急かされる。私は覚悟を決めて口を開いた。

「………さ、3秒だけ、抱き締めて、くれませんか？」

「3秒で良いのか？」

「…は、はい、」

　本当はもっとして欲しいのだが、3秒だけでも気持ちは落ち着くだろう。逆だ、3秒で落ち着かせなければならない。

　エヴェレットが両腕を広げて私を抱きしめる。体格差があるから私の腕はエヴェレットの背中にギリギリ回るくらいだ。
　一方、エヴェレットは簡単に私の背中に腕を回して抱きしめる。
　おそらく3秒が経ち、私は離れようとするが体が動かない。ガッチリとエヴェレットにホールドされている。動こうとすればするほど力は強まるばかりだ。

「エ、エヴェレット様っ」

「お前は何で正直に言わないんだ」

　バレていたらしい。でも、エヴェレットにも明日は学園がある。もうそろそろ本当に寝ないといけない。

「エヴェレット様、明日も学園があるので、」

「は？お前、こんな状況でも学園に行くのか？馬鹿か？アホか？イカれてやがるのか？」

　一瞬にしてとてつもない暴言の嵐を喰らう。まぁ、それはそうなのだけれど…。

「明日は休みだ。俺もな」

「え？」

「明日から本格的に調べる。だから俺もお前も、それに参加しなければならない」

　私のせいでエヴェレットまで巻き込まれてしまった。申し訳ない。その思いが伝わったのか、エヴェレットは「はあ」と溜息をついてから話し出す。

「以前にも、このような事件は多々あった。悲しいことだが、お前が初めてじゃない。だから気にするな」

　抱きしめながら、私に責任を感じさせない様に言ってくれる。

「…‥ありがとうございます、エヴェレット様」

「俺は何もしてないが」

　ようやく腕から解放される。少しの名残惜しさがあるが、そうも言ってられない。私が離れると、次は頭を撫でてくれる。その手が心地よくて、猫の様にエヴェレットの手に頭を押しつける。

「好きなのか、撫でられるの」

「安心、します」

「そうか」

　エヴェレットは薄く笑ってずっと撫でてくれる。
　すると、私の顎の下に空いている片手を持ってきてスルリと撫でる。それがくすぐったくて、思わず声を上げる。

「んっ、」

「はっ、本当に猫みたいだな」

　スルリと顔付近の線をなぞられる。くすぐったいが、エヴェレットの指から伝わってくる熱が暖かい。私は安心しきったのか、急に眠気が襲ってくる。

「眠いか、」

　答える気力もなくこくりと頷く。すると、エヴェレットは私の背中をグッと支えて、ベッドにゆっくりと横たわせる。

「ここは安全だから。何があっても、俺が守ってやる」

「…エヴェレット様、」

「何だ？」

「…‥手を、握ってくれませんか？」

「ようやく素直になったな」

　エヴェレットは嫌な顔せず私の手を握ってくれる。大きな手が私の手を包み込む。誰かが側にいること。それはこんなにも安心することなのだと知った。

　私は、その温かさに身を任せて目を閉じた。