悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

謝罪

「な、何でしょうか…？」

「……その、すまなかった」

　エヴェレットは両膝をついて謝罪する。

「……え？」

「お前を、何にも知らないのに初めから否定して、苦しませた。俺が最初、あんな態度を取らなかったらお前は、首に傷を作らなくて済んだんだ」

「ち、違います！エヴェレット様！エヴェレット様が最初から認めていても、結果は変わりません。私の両親は、何も…」

　　　
　　　「私の両親は何も変わらない」
　
　
　そう言いかけて、口を紡ぐ。事実だが、口に出してしまったらもう、何も変わらない気がして。

「エリーにも、あんなに言われたのに。頑なに考えを変えようとしなかった。本当にすまなかった」

「違うのです、エヴェレット様。エヴェレット様は認めてくださりました。それだけで、私は報われるのです。それに、この傷の手当てもしてくれました」

　自責に苛まれるエヴェレットを見て、何も思わずにはいられない。全てはリリー家が悪いのに。エヴェレットは、私の首の傷は自分のせいだと思い込んでいる。

「エヴェレット様。私のこの首の傷は、私の勲章です」

「勲章…？」

「はい。私が体を張って両家の関係を変えようとした、その証です。ですから、この傷に深く責任を感じないでください」

　私は、エヴェレットの手に自分の手を重ねる。
　よく見ると、エヴェレットの手は細かい傷でいっぱいだ。沢山の努力をしているのだろう。それこそ、一言では語れないような努力を。

「……分かった。あまり謝られても、お前は困るだろうしな」

「はい、その方が私も助かります」

　エヴェレットは元の体制に戻ると、私の顔に手を伸ばす。

「エヴェレット様…？」

「まだ、顔を見ていないだろう」

「え！？顔、見るんですか！？」

「当たり前だろう」

　何だか元のペースに戻されている気がする。
　エヴェレットの顔がズイッと近くなる。それと同時に、私の顔も沸騰しそうなくらい熱くなる。
　こんな、美青年が、私の目の前にいるなんて耐えられない！
　
　思わず目を瞑ると、手は私の頬を掠め、耳に行く。
　目を瞑っているから、他の感覚が敏感になっている。耳を触られ、余計に体温が上がる。エヴェレットの吐息をすぐ近くで感じる。
　私は居た堪れなくなって、エヴェレットの胸を押す。
　しかし、鍛えられた肉体を私の細い腕で動かすことは出来ず、手からエヴェレットの心臓の鼓動が自分に伝わってくるだけだった。

「エ、エヴェレットさま。ち、近いです」

「…本当に、小さいな…」

「エヴェレット様、な、何言って…」

「お前、身長いくつだ」

「え、と…150ちょっとだった気がします…」

「…小さいな、俺と30センチ差くらいか…」

　30センチ！？いや、確かに大きいと思っていたが、そんなに差があるのか。
　確かエリーは160前後だった。しかし、エヴェレットは180あるってことか。
　私がいた現実世界の日本での男性平均身長は、確か172くらいだったから、大きい方になる。

「お、大きいですね…」

「…お前が小さいんじゃないか？全身細いし、ちゃんと食えよ」

「は、はい」

　素直に返事をしたところで、チャイムが鳴った。結局、私は授業に戻れなかった。

「ここまでか」

「こ、ここまで…？」

「時間だぞ、早く戻った方がいい」

　それはエヴェレットも同じなのでは？そう思ったが、私は急いでグラウンドに戻る。
　先生は急がなくていいと言って、次回の授業で残りの測定をするらしい。

　それにしても、さっきから心臓の鼓動が早い。身体中熱いし、溶けてしまいそうだ。
　走ったからだろうか。何だか、胸の奥が痛い。

　
　私はその原因を体力不足だと決めつけて、次の授業に臨んだ。