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「もっと俺を呼べ、蓮……」
「あ……あっ、かしまさ……ん……憲吾さん……っ」
「……もっとだ。もっと、俺の名を口にしろ……」
低い声が耳に響いて、再び唇が重なった。
愛しいひとと身体を繋げても、悲しくて、辛いだけだった以前とは違う。
溶けてしまいそうなほどに熱くて、身体の奥底から、愉悦が込みあげてくる。
幾度も傷付いてきた心が、今、満たされている。
蓮は至福に包まれながら嘉島の広い背へ両腕を回し、きつく絡める。
薄暗い室内で何度も肌を重ね合わせる二人を、水槽の青白い光が、淡く、照らし続けていた――。
夜明け前に目を覚ました蓮は、静かに上体を起こした。
隣では、嘉島が規則正しい寝息をたてて眠っている。
嘉島と想いが通じ合って一週間が過ぎても、蓮はずっと幸福感に包まれていた。
この幸せが、出来ることなら長く続いて欲しいと、もう何度も思っている。
嘉島の寝顔を暫し眺めた後、蓮は視線を移し、真新しい窓を見遣った。
数日前、窓が欲しいと呟いたら、嘉島は本当に業者を呼んで設置してくれたのだ。
これから先、景色を毎日眺められるようになった事も嬉しいが、何よりも、嘉島が嫌な顔一つせずに願いを聞き入れてくれたことの方が、嬉しかった。
蓮は物音を立てぬよう、ベッドから抜け出して窓へ近付く。
窓紗を開け、硝子越しに外を眺めた蓮は、目に映った景色にはっと息を呑んだ。
夜明け前や日没後に見れる現象によって外は、深い青色に染まっている。
樹木も建物も、街すべてが同じ色に染められていて、蓮は陶酔するように吐息を零した。
「すごい……まるで水底に……ああ……水槽の中にいるみたい、」
「面白い捉え方をするな。俺には、ただ青いとしか思えねぇ」
不意に背後から声が掛かったが、蓮は振り向かず、くすりと笑った。
「憲吾さんらしいです」
「蓮、笑うならその顔を俺に見せろ」
声が掛かったと同時に、蓮は強引に振り向かされる。
思ったよりも嘉島の顔が近くにあった事で、どきりとし、硬直した。
その様子に眉を上げた嘉島は、薄く笑う。
「笑い顔だけじゃなく、色んな顔を俺に見せろ。これから先も、ずっとだ。いいな……」
相変わらずの傲慢な物言いだが、蓮はそれを重荷には感じなかった。
窓の外では陽が姿を見せ、空が徐々に明るくなり始めている。薄明だ。
青く染まっていた街並みに、光が降り注ぎだす。
窓越しの光を浴びて、嘉島は眩げに双眸を細めた。
その隙を狙った蓮が顔を近付け、嘉島の言葉に頷くかわりに、自ら唇を重ねた。
嘉島は一瞬だけ驚いたが、すぐに身を屈め、蓮の顎を固定して深く口付ける。
お互いの温もりを確かめるように、何度も身体に触れる。
隙間を埋め尽くし、離れまいとするように二人は強く、強く、抱き締めあった。
終。
「あ……あっ、かしまさ……ん……憲吾さん……っ」
「……もっとだ。もっと、俺の名を口にしろ……」
低い声が耳に響いて、再び唇が重なった。
愛しいひとと身体を繋げても、悲しくて、辛いだけだった以前とは違う。
溶けてしまいそうなほどに熱くて、身体の奥底から、愉悦が込みあげてくる。
幾度も傷付いてきた心が、今、満たされている。
蓮は至福に包まれながら嘉島の広い背へ両腕を回し、きつく絡める。
薄暗い室内で何度も肌を重ね合わせる二人を、水槽の青白い光が、淡く、照らし続けていた――。
夜明け前に目を覚ました蓮は、静かに上体を起こした。
隣では、嘉島が規則正しい寝息をたてて眠っている。
嘉島と想いが通じ合って一週間が過ぎても、蓮はずっと幸福感に包まれていた。
この幸せが、出来ることなら長く続いて欲しいと、もう何度も思っている。
嘉島の寝顔を暫し眺めた後、蓮は視線を移し、真新しい窓を見遣った。
数日前、窓が欲しいと呟いたら、嘉島は本当に業者を呼んで設置してくれたのだ。
これから先、景色を毎日眺められるようになった事も嬉しいが、何よりも、嘉島が嫌な顔一つせずに願いを聞き入れてくれたことの方が、嬉しかった。
蓮は物音を立てぬよう、ベッドから抜け出して窓へ近付く。
窓紗を開け、硝子越しに外を眺めた蓮は、目に映った景色にはっと息を呑んだ。
夜明け前や日没後に見れる現象によって外は、深い青色に染まっている。
樹木も建物も、街すべてが同じ色に染められていて、蓮は陶酔するように吐息を零した。
「すごい……まるで水底に……ああ……水槽の中にいるみたい、」
「面白い捉え方をするな。俺には、ただ青いとしか思えねぇ」
不意に背後から声が掛かったが、蓮は振り向かず、くすりと笑った。
「憲吾さんらしいです」
「蓮、笑うならその顔を俺に見せろ」
声が掛かったと同時に、蓮は強引に振り向かされる。
思ったよりも嘉島の顔が近くにあった事で、どきりとし、硬直した。
その様子に眉を上げた嘉島は、薄く笑う。
「笑い顔だけじゃなく、色んな顔を俺に見せろ。これから先も、ずっとだ。いいな……」
相変わらずの傲慢な物言いだが、蓮はそれを重荷には感じなかった。
窓の外では陽が姿を見せ、空が徐々に明るくなり始めている。薄明だ。
青く染まっていた街並みに、光が降り注ぎだす。
窓越しの光を浴びて、嘉島は眩げに双眸を細めた。
その隙を狙った蓮が顔を近付け、嘉島の言葉に頷くかわりに、自ら唇を重ねた。
嘉島は一瞬だけ驚いたが、すぐに身を屈め、蓮の顎を固定して深く口付ける。
お互いの温もりを確かめるように、何度も身体に触れる。
隙間を埋め尽くし、離れまいとするように二人は強く、強く、抱き締めあった。
終。
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