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背後で、部屋の扉が物音も立てずに、そっと開く。
丁寧に扉を開けた男は、蓮の言葉を耳にして一瞬瞠目したが、声を掛ける事はしなかった。
開け放した扉に寄りかかりながら、男は暫くの間、蓮の頼りない背中を眺める。
蓮は背後の人物に気付くことも無く、肩を震わせて同じ名を呼び、想いを口にする。
「おい、蓮。その言葉は嬉しいんだが……口にするなら俺の傍で云え」
暫く黙って様子を見守っていたが、男は唐突に、言葉を挟んだ。
蓮は肩をびくりと跳ねさせたのち、恐る恐る振り向く。
「か、しまさん……?」
濡れた瞳を大きく見開いて震えた声を零す蓮から、目が離せない。
先刻の告白を思い出すと、自然に口元が緩む。
「どうした、今日退院すると田岡から聞かなかったのか、」
「な、何も……」
浮かんだ笑みも消さずに、嘉島は足を進める。
かぶりを振った蓮のもとへ歩み寄り、床に片膝を付いた。
瞬間、蓮は手を伸ばし、縋り付くように抱きついて来た。
嘉島は一瞬だけ驚いたが、慎重に蓮を抱き上げてベッド上へ乗せてやる。
「か、嘉島さんは……な、亡くなったって……」
まるで何処にも行かせまいとするかのように、蓮の手が、嘉島の服を掴む。
無意識なのか定かでは無いが、素直に縋りついて来る蓮の姿は、嘉島にとってあまりにも愛しすぎる。
「おまえ……田岡の野郎に一杯食わせられたな、」
喉奥で笑いながら、涙の跡が残る蓮の頬を静かに指でなぞった。
息を呑むほどに整った美しいこの顔も、指先に馴染む柔らかい髪も、惹き付けて離さない、魅力的な瞳すら――すべて、自分のものだ。
そして、何よりも欲しかった蓮の心が、今、ようやく手に入った。
「ほら、もう一度云ってみろ。一言も聞き逃さねぇからな」
肩を軽く押しただけで蓮の身体は、シーツに沈んだ。
華奢な身体を組み敷き、唇が触れそうな距離まで顔を近付けて囁くと、蓮の顔は恥ずかしそうに赤らむ。
「嘉、島さ……」
躊躇いの色を浮かばせている蓮に、嘉島は焦れたように舌打ちを零した。
態度とは裏腹に手付きは丁寧で、蓮の服を慎重な動きで脱がしてゆく。
「蓮……早く云わねぇと、犯すぞ」
白い肌へ唇を滑らせながら、喉奥で低く笑う。
揶揄と分かるほど口ぶりは軽かったが、蓮は首を横に振り、両手を動かした。
まるでしがみつくように嘉島の頭を抱き、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「して、ください。夢じゃないって……嘉島さんの手で、教えてください……」
頬を染めて告げる姿に、嘉島は危うく理性を飛ばしかけた。
ただでさえ魅力的な蓮が、恥じらいながらも誘ってくる姿は――堪らなく、そそる。
「全く……おまえは俺を口説くのが上手いな」
微苦笑し、嘉島は顔を上げて蓮の瞳を真っ直ぐに見据えた。
あの時、言葉にならなかった想いが、胸の底から込み上げてくる。
嘉島の唇が、ゆっくりと開いた。
「……好き、だ」
初めて口にしてみて、歯切れが悪いなと思案した嘉島は、僅かに視線を逸らした。
そんな言葉を口にすること自体、柄では無い為、云い慣れていないのだ。
居心地悪げに眉を顰めた嘉島だったが、蓮の反応が無いことを訝る。
視線を戻せば、蓮は双眸を見開いたまま口をぽかんとあけていた。
あまりにも間の抜けた表情に嘉島は堪え切れず、笑みを見せる。
「おまえ……何だその、まぬけな面は、」
唐突な告白があまりにも衝撃的すぎて呆然としていたが、蓮は慌てて唇を閉ざす。
可笑しそうに笑う嘉島の姿を前にして、胸の奥が甘く痺れた。
丁寧に扉を開けた男は、蓮の言葉を耳にして一瞬瞠目したが、声を掛ける事はしなかった。
開け放した扉に寄りかかりながら、男は暫くの間、蓮の頼りない背中を眺める。
蓮は背後の人物に気付くことも無く、肩を震わせて同じ名を呼び、想いを口にする。
「おい、蓮。その言葉は嬉しいんだが……口にするなら俺の傍で云え」
暫く黙って様子を見守っていたが、男は唐突に、言葉を挟んだ。
蓮は肩をびくりと跳ねさせたのち、恐る恐る振り向く。
「か、しまさん……?」
濡れた瞳を大きく見開いて震えた声を零す蓮から、目が離せない。
先刻の告白を思い出すと、自然に口元が緩む。
「どうした、今日退院すると田岡から聞かなかったのか、」
「な、何も……」
浮かんだ笑みも消さずに、嘉島は足を進める。
かぶりを振った蓮のもとへ歩み寄り、床に片膝を付いた。
瞬間、蓮は手を伸ばし、縋り付くように抱きついて来た。
嘉島は一瞬だけ驚いたが、慎重に蓮を抱き上げてベッド上へ乗せてやる。
「か、嘉島さんは……な、亡くなったって……」
まるで何処にも行かせまいとするかのように、蓮の手が、嘉島の服を掴む。
無意識なのか定かでは無いが、素直に縋りついて来る蓮の姿は、嘉島にとってあまりにも愛しすぎる。
「おまえ……田岡の野郎に一杯食わせられたな、」
喉奥で笑いながら、涙の跡が残る蓮の頬を静かに指でなぞった。
息を呑むほどに整った美しいこの顔も、指先に馴染む柔らかい髪も、惹き付けて離さない、魅力的な瞳すら――すべて、自分のものだ。
そして、何よりも欲しかった蓮の心が、今、ようやく手に入った。
「ほら、もう一度云ってみろ。一言も聞き逃さねぇからな」
肩を軽く押しただけで蓮の身体は、シーツに沈んだ。
華奢な身体を組み敷き、唇が触れそうな距離まで顔を近付けて囁くと、蓮の顔は恥ずかしそうに赤らむ。
「嘉、島さ……」
躊躇いの色を浮かばせている蓮に、嘉島は焦れたように舌打ちを零した。
態度とは裏腹に手付きは丁寧で、蓮の服を慎重な動きで脱がしてゆく。
「蓮……早く云わねぇと、犯すぞ」
白い肌へ唇を滑らせながら、喉奥で低く笑う。
揶揄と分かるほど口ぶりは軽かったが、蓮は首を横に振り、両手を動かした。
まるでしがみつくように嘉島の頭を抱き、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「して、ください。夢じゃないって……嘉島さんの手で、教えてください……」
頬を染めて告げる姿に、嘉島は危うく理性を飛ばしかけた。
ただでさえ魅力的な蓮が、恥じらいながらも誘ってくる姿は――堪らなく、そそる。
「全く……おまえは俺を口説くのが上手いな」
微苦笑し、嘉島は顔を上げて蓮の瞳を真っ直ぐに見据えた。
あの時、言葉にならなかった想いが、胸の底から込み上げてくる。
嘉島の唇が、ゆっくりと開いた。
「……好き、だ」
初めて口にしてみて、歯切れが悪いなと思案した嘉島は、僅かに視線を逸らした。
そんな言葉を口にすること自体、柄では無い為、云い慣れていないのだ。
居心地悪げに眉を顰めた嘉島だったが、蓮の反応が無いことを訝る。
視線を戻せば、蓮は双眸を見開いたまま口をぽかんとあけていた。
あまりにも間の抜けた表情に嘉島は堪え切れず、笑みを見せる。
「おまえ……何だその、まぬけな面は、」
唐突な告白があまりにも衝撃的すぎて呆然としていたが、蓮は慌てて唇を閉ざす。
可笑しそうに笑う嘉島の姿を前にして、胸の奥が甘く痺れた。
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