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「オヤジ、後は俺らにやらしてくださいっ」
菅田の態度に我慢出来ず、それまで黙って見守っていた組員達が業を煮やしたかのように声を荒げた。
嘉島は何も答えずに、蓮を抱き支えるようにして立たせてやる。
無言を了承と取った組員達はそれぞれ、服の上着を脱ぎ捨て、匕首を抜き、木刀を勢い良く振り回し始めた。
「組長、お送り致します」
駆け寄って来た田岡が蓮に一瞬だけ視線を向け、申し出る。
嘉島は冷めた視線を向けただけで何も言わず、蓮を連れて進み出した。
「くそがっ! 嘉島ぁ……てめぇの抱き人形、ズタズタにしとくんだったぜ。くそっ、くそ……! 犯しちまえば、てめぇの惨めな面……見る事が出来たかもしれねぇのによぉッ」
ふらつきながらも何とか歩く蓮を支え、歩き進んでいた嘉島の足が、不意に静止した。
怒号を上げて菅田を甚振っていた男達の手も止まり、蓮を除いた、その場にいる者全ての視線が嘉島へ注がれる。
「俺の惨めな面が見てぇだと? ……笑わせてくれるじゃねぇか」
肩越しに振り向いた嘉島は、ぞっとするような冷笑を浮かべた。
鋭い狂気を漂わせている嘉島の迫力に菅田は身体を震わせ、組員達すら怯えの色を見せる。
「……そのゴミ、さっさと殺して埋めろ」
嘉島は冷淡に吐き捨てただけで、それ以上は構わず、蓮を連れて再び進みだす。
興味が失せたかのように全く振り返らず、先へ進んでゆく嘉島を追って、田岡もその場を立ち去った。
上手く歩けない蓮に焦れ、嘉島は蓮の身体を肩に担ぎ、そのまま車を停めた場所まで戻る。
蓮はあれからずっと黙ったままで何も言わず、嘉島もまた無言だった。
後部座席の扉を開け、車内に蓮を降ろしてから嘉島は一度、外へ出た。
懐から煙草を取り出すと、後を追って来た田岡がすかさず、ジッポライターで火を点ける。
山奥で菅田が嬲り殺されているとは思えないほど、周囲はひどく静まり返っていた。
「田岡、ご苦労だったな」
美味そうに煙を吸い、深々と紫煙を吐き出した後、嘉島は言葉を放つ。
菅田の居所を一刻も早く探し当てようとしたのだろう。田岡の目元には隈が有る上、顔色も少し悪い。
「いえ……組長、蓮さんの記憶は戻ったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、そうだろうな。」
忌々しげに紫煙を吐き捨てる嘉島へ、蓮の視線が、硝子越しに向けられる。
車窓に片手を付き、蓮はぼんやりとした表情で嘉島を見上げていた。
……全部、思い出した。
拉致された後、菅田の組員に幾度も殴られ、刺され、泣き叫ぶ程の苦痛を受けた。
最後までされる事は無かったが服を剥ぎ取られて、触られたくない箇所に触られたことも有った。
思い出しただけで身体が震え出し、蓮は車窓から手を離すと、両手で目元を覆い隠した。
脳裏に菅田の声や下卑た笑い顔が浮かんで、吐き気すら込み上げて来た瞬間、扉が開く音が耳に入る。
「蓮、」
穏やかな声音で名を呼ばれると、蓮は手を退け、たどたどしく顔を向けた。
眉を顰めて此方を窺っている嘉島が、不意に手を伸ばし、頭を優しく撫でて来る。
「おまえはもう、何も心配しなくていい」
この男のものとは思えないほど優し過ぎる言動に、胸の奥がじわりと熱くなった。
視界がぼやけて、堪え切れずに、涙が零れる。
溢れ出して来る想いが、抑えられない。
好きだと口にして、すべて、曝け出してしまいたい。
菅田の態度に我慢出来ず、それまで黙って見守っていた組員達が業を煮やしたかのように声を荒げた。
嘉島は何も答えずに、蓮を抱き支えるようにして立たせてやる。
無言を了承と取った組員達はそれぞれ、服の上着を脱ぎ捨て、匕首を抜き、木刀を勢い良く振り回し始めた。
「組長、お送り致します」
駆け寄って来た田岡が蓮に一瞬だけ視線を向け、申し出る。
嘉島は冷めた視線を向けただけで何も言わず、蓮を連れて進み出した。
「くそがっ! 嘉島ぁ……てめぇの抱き人形、ズタズタにしとくんだったぜ。くそっ、くそ……! 犯しちまえば、てめぇの惨めな面……見る事が出来たかもしれねぇのによぉッ」
ふらつきながらも何とか歩く蓮を支え、歩き進んでいた嘉島の足が、不意に静止した。
怒号を上げて菅田を甚振っていた男達の手も止まり、蓮を除いた、その場にいる者全ての視線が嘉島へ注がれる。
「俺の惨めな面が見てぇだと? ……笑わせてくれるじゃねぇか」
肩越しに振り向いた嘉島は、ぞっとするような冷笑を浮かべた。
鋭い狂気を漂わせている嘉島の迫力に菅田は身体を震わせ、組員達すら怯えの色を見せる。
「……そのゴミ、さっさと殺して埋めろ」
嘉島は冷淡に吐き捨てただけで、それ以上は構わず、蓮を連れて再び進みだす。
興味が失せたかのように全く振り返らず、先へ進んでゆく嘉島を追って、田岡もその場を立ち去った。
上手く歩けない蓮に焦れ、嘉島は蓮の身体を肩に担ぎ、そのまま車を停めた場所まで戻る。
蓮はあれからずっと黙ったままで何も言わず、嘉島もまた無言だった。
後部座席の扉を開け、車内に蓮を降ろしてから嘉島は一度、外へ出た。
懐から煙草を取り出すと、後を追って来た田岡がすかさず、ジッポライターで火を点ける。
山奥で菅田が嬲り殺されているとは思えないほど、周囲はひどく静まり返っていた。
「田岡、ご苦労だったな」
美味そうに煙を吸い、深々と紫煙を吐き出した後、嘉島は言葉を放つ。
菅田の居所を一刻も早く探し当てようとしたのだろう。田岡の目元には隈が有る上、顔色も少し悪い。
「いえ……組長、蓮さんの記憶は戻ったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、そうだろうな。」
忌々しげに紫煙を吐き捨てる嘉島へ、蓮の視線が、硝子越しに向けられる。
車窓に片手を付き、蓮はぼんやりとした表情で嘉島を見上げていた。
……全部、思い出した。
拉致された後、菅田の組員に幾度も殴られ、刺され、泣き叫ぶ程の苦痛を受けた。
最後までされる事は無かったが服を剥ぎ取られて、触られたくない箇所に触られたことも有った。
思い出しただけで身体が震え出し、蓮は車窓から手を離すと、両手で目元を覆い隠した。
脳裏に菅田の声や下卑た笑い顔が浮かんで、吐き気すら込み上げて来た瞬間、扉が開く音が耳に入る。
「蓮、」
穏やかな声音で名を呼ばれると、蓮は手を退け、たどたどしく顔を向けた。
眉を顰めて此方を窺っている嘉島が、不意に手を伸ばし、頭を優しく撫でて来る。
「おまえはもう、何も心配しなくていい」
この男のものとは思えないほど優し過ぎる言動に、胸の奥がじわりと熱くなった。
視界がぼやけて、堪え切れずに、涙が零れる。
溢れ出して来る想いが、抑えられない。
好きだと口にして、すべて、曝け出してしまいたい。
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