16 / 21
16
しおりを挟む
「オヤジ、後は俺らにやらしてくださいっ」
菅田の態度に我慢出来ず、それまで黙って見守っていた組員達が業を煮やしたかのように声を荒げた。
嘉島は何も答えずに、蓮を抱き支えるようにして立たせてやる。
無言を了承と取った組員達はそれぞれ、服の上着を脱ぎ捨て、匕首を抜き、木刀を勢い良く振り回し始めた。
「組長、お送り致します」
駆け寄って来た田岡が蓮に一瞬だけ視線を向け、申し出る。
嘉島は冷めた視線を向けただけで何も言わず、蓮を連れて進み出した。
「くそがっ! 嘉島ぁ……てめぇの抱き人形、ズタズタにしとくんだったぜ。くそっ、くそ……! 犯しちまえば、てめぇの惨めな面……見る事が出来たかもしれねぇのによぉッ」
ふらつきながらも何とか歩く蓮を支え、歩き進んでいた嘉島の足が、不意に静止した。
怒号を上げて菅田を甚振っていた男達の手も止まり、蓮を除いた、その場にいる者全ての視線が嘉島へ注がれる。
「俺の惨めな面が見てぇだと? ……笑わせてくれるじゃねぇか」
肩越しに振り向いた嘉島は、ぞっとするような冷笑を浮かべた。
鋭い狂気を漂わせている嘉島の迫力に菅田は身体を震わせ、組員達すら怯えの色を見せる。
「……そのゴミ、さっさと殺して埋めろ」
嘉島は冷淡に吐き捨てただけで、それ以上は構わず、蓮を連れて再び進みだす。
興味が失せたかのように全く振り返らず、先へ進んでゆく嘉島を追って、田岡もその場を立ち去った。
上手く歩けない蓮に焦れ、嘉島は蓮の身体を肩に担ぎ、そのまま車を停めた場所まで戻る。
蓮はあれからずっと黙ったままで何も言わず、嘉島もまた無言だった。
後部座席の扉を開け、車内に蓮を降ろしてから嘉島は一度、外へ出た。
懐から煙草を取り出すと、後を追って来た田岡がすかさず、ジッポライターで火を点ける。
山奥で菅田が嬲り殺されているとは思えないほど、周囲はひどく静まり返っていた。
「田岡、ご苦労だったな」
美味そうに煙を吸い、深々と紫煙を吐き出した後、嘉島は言葉を放つ。
菅田の居所を一刻も早く探し当てようとしたのだろう。田岡の目元には隈が有る上、顔色も少し悪い。
「いえ……組長、蓮さんの記憶は戻ったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、そうだろうな。」
忌々しげに紫煙を吐き捨てる嘉島へ、蓮の視線が、硝子越しに向けられる。
車窓に片手を付き、蓮はぼんやりとした表情で嘉島を見上げていた。
……全部、思い出した。
拉致された後、菅田の組員に幾度も殴られ、刺され、泣き叫ぶ程の苦痛を受けた。
最後までされる事は無かったが服を剥ぎ取られて、触られたくない箇所に触られたことも有った。
思い出しただけで身体が震え出し、蓮は車窓から手を離すと、両手で目元を覆い隠した。
脳裏に菅田の声や下卑た笑い顔が浮かんで、吐き気すら込み上げて来た瞬間、扉が開く音が耳に入る。
「蓮、」
穏やかな声音で名を呼ばれると、蓮は手を退け、たどたどしく顔を向けた。
眉を顰めて此方を窺っている嘉島が、不意に手を伸ばし、頭を優しく撫でて来る。
「おまえはもう、何も心配しなくていい」
この男のものとは思えないほど優し過ぎる言動に、胸の奥がじわりと熱くなった。
視界がぼやけて、堪え切れずに、涙が零れる。
溢れ出して来る想いが、抑えられない。
好きだと口にして、すべて、曝け出してしまいたい。
菅田の態度に我慢出来ず、それまで黙って見守っていた組員達が業を煮やしたかのように声を荒げた。
嘉島は何も答えずに、蓮を抱き支えるようにして立たせてやる。
無言を了承と取った組員達はそれぞれ、服の上着を脱ぎ捨て、匕首を抜き、木刀を勢い良く振り回し始めた。
「組長、お送り致します」
駆け寄って来た田岡が蓮に一瞬だけ視線を向け、申し出る。
嘉島は冷めた視線を向けただけで何も言わず、蓮を連れて進み出した。
「くそがっ! 嘉島ぁ……てめぇの抱き人形、ズタズタにしとくんだったぜ。くそっ、くそ……! 犯しちまえば、てめぇの惨めな面……見る事が出来たかもしれねぇのによぉッ」
ふらつきながらも何とか歩く蓮を支え、歩き進んでいた嘉島の足が、不意に静止した。
怒号を上げて菅田を甚振っていた男達の手も止まり、蓮を除いた、その場にいる者全ての視線が嘉島へ注がれる。
「俺の惨めな面が見てぇだと? ……笑わせてくれるじゃねぇか」
肩越しに振り向いた嘉島は、ぞっとするような冷笑を浮かべた。
鋭い狂気を漂わせている嘉島の迫力に菅田は身体を震わせ、組員達すら怯えの色を見せる。
「……そのゴミ、さっさと殺して埋めろ」
嘉島は冷淡に吐き捨てただけで、それ以上は構わず、蓮を連れて再び進みだす。
興味が失せたかのように全く振り返らず、先へ進んでゆく嘉島を追って、田岡もその場を立ち去った。
上手く歩けない蓮に焦れ、嘉島は蓮の身体を肩に担ぎ、そのまま車を停めた場所まで戻る。
蓮はあれからずっと黙ったままで何も言わず、嘉島もまた無言だった。
後部座席の扉を開け、車内に蓮を降ろしてから嘉島は一度、外へ出た。
懐から煙草を取り出すと、後を追って来た田岡がすかさず、ジッポライターで火を点ける。
山奥で菅田が嬲り殺されているとは思えないほど、周囲はひどく静まり返っていた。
「田岡、ご苦労だったな」
美味そうに煙を吸い、深々と紫煙を吐き出した後、嘉島は言葉を放つ。
菅田の居所を一刻も早く探し当てようとしたのだろう。田岡の目元には隈が有る上、顔色も少し悪い。
「いえ……組長、蓮さんの記憶は戻ったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、そうだろうな。」
忌々しげに紫煙を吐き捨てる嘉島へ、蓮の視線が、硝子越しに向けられる。
車窓に片手を付き、蓮はぼんやりとした表情で嘉島を見上げていた。
……全部、思い出した。
拉致された後、菅田の組員に幾度も殴られ、刺され、泣き叫ぶ程の苦痛を受けた。
最後までされる事は無かったが服を剥ぎ取られて、触られたくない箇所に触られたことも有った。
思い出しただけで身体が震え出し、蓮は車窓から手を離すと、両手で目元を覆い隠した。
脳裏に菅田の声や下卑た笑い顔が浮かんで、吐き気すら込み上げて来た瞬間、扉が開く音が耳に入る。
「蓮、」
穏やかな声音で名を呼ばれると、蓮は手を退け、たどたどしく顔を向けた。
眉を顰めて此方を窺っている嘉島が、不意に手を伸ばし、頭を優しく撫でて来る。
「おまえはもう、何も心配しなくていい」
この男のものとは思えないほど優し過ぎる言動に、胸の奥がじわりと熱くなった。
視界がぼやけて、堪え切れずに、涙が零れる。
溢れ出して来る想いが、抑えられない。
好きだと口にして、すべて、曝け出してしまいたい。
23
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる