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菅田を捕らえたとの知らせが、僅か二日後に嘉島の元に届いた。
待ち侘びた知らせに会心の笑みを浮かべ、電話を切ると寝室へ急ぎ足で向かう。
「蓮、起きろ。出かけるぞ」
ベッドの上で熟睡していた蓮の肩を掴み、軽く揺すりながら声を掛ける。
蓮が目を覚ますと素早く離れ、クローゼットを開いて服を取り、ベッド上へ無造作に投げ出した。
半身を起こした蓮は、傍らへ放り出された服を手にし、小さな欠伸を零す。
こんな夜更けに一体何処へ行くのかと疑問を抱きながらも、毛布を退け、裸体を曝け出した。
滑らかで美しい肌には不釣合いな、無数の傷痕が、嘉島の目に映る。
色の違う、少し盛り上がった痕が所々に刻まれている身体を前にして、嘉島は双眸を細めた。
蓮の身体に傷痕を残した菅田を想うと、どす黒い感情が腹の奥で渦巻く。
――蓮の目の前で、菅田をなぶり殺してやろう。
気が狂うほど痛めつけて……決して、楽には死なせない。
暗い考えを胸中に抱くと、無意識に口元が緩む。
「早くしろ。良いものを見せてやる……」
上衣に袖を通し始めていた蓮は、嘉島に目を向けた瞬間、ぴたりと手を止めた。
相手の雰囲気があまりにも冷たすぎて怯え、微かに身体を震わせるが、嘉島は気にした素振りも見せない。
今の嘉島には菅田を苦しめることしか頭に無く……蓮を気遣う余裕すら、皆無に等しかった。
蓮を助手席に乗せた嘉島は、菅田の身柄を留置した場所へ向けて車を走らせていた。
早く菅田を痛めつけてやりたいと思うが、蓮を乗せていては雑な運転は出来ず、逸る気を抑えて一定の速度を保ち続ける。
緩やかなカーブを曲がり、山道に入り出すと、蓮は重い瞼を何度か瞬かせた。
嘉島に抱かれた後、疲れ切って熟睡していた所を起こされたのだから、眠気は強く残っている。
普段なら熟睡中の自分を無理に起こす事などしない嘉島の行動に、少し、戸惑いすら覚えていた。
窺うように運転席へ目を向けると、口元を緩めながらハンドルを握っている嘉島の姿が、視界に入る。
明らかに上機嫌な嘉島のその様子に、眠気すら薄れるほど、驚いた。
いつもは無表情か不機嫌な顔をしているかの、どちらかだと云うのに……よほど、いい事が有ったのだろうか。
半ば物珍しげに、蓮は嘉島を観察しだす。
鼻梁の高い精悍な顔立ちは全く隙が無く、切れ長の双眸は鋭さを滲ませ、全身に険悪で野性的な雰囲気を纏っている。
口元を引き締め直すこともせず、正面を向いたままの横顔は魅力的で、相手には一生困らなさそうなほど格好がいいと、蓮は心から思う。
暫く観察していたが、口元を緩めている嘉島の表情を見ていると、徐々に気は落ち始めてゆく。
……こんな顔をさせるなんて、僕には出来無いことだ。
蓮は目を伏せ、きつく歯を咬む。
一番好きなひとには、笑っていて欲しい。
そして、そうさせるのは、いつも自分でありたい。
そんな願いを抱いてしまう自分を、浅ましく感じ、嘉島を喜ばすことが出来るものに、羨望すら抱く。
待ち侘びた知らせに会心の笑みを浮かべ、電話を切ると寝室へ急ぎ足で向かう。
「蓮、起きろ。出かけるぞ」
ベッドの上で熟睡していた蓮の肩を掴み、軽く揺すりながら声を掛ける。
蓮が目を覚ますと素早く離れ、クローゼットを開いて服を取り、ベッド上へ無造作に投げ出した。
半身を起こした蓮は、傍らへ放り出された服を手にし、小さな欠伸を零す。
こんな夜更けに一体何処へ行くのかと疑問を抱きながらも、毛布を退け、裸体を曝け出した。
滑らかで美しい肌には不釣合いな、無数の傷痕が、嘉島の目に映る。
色の違う、少し盛り上がった痕が所々に刻まれている身体を前にして、嘉島は双眸を細めた。
蓮の身体に傷痕を残した菅田を想うと、どす黒い感情が腹の奥で渦巻く。
――蓮の目の前で、菅田をなぶり殺してやろう。
気が狂うほど痛めつけて……決して、楽には死なせない。
暗い考えを胸中に抱くと、無意識に口元が緩む。
「早くしろ。良いものを見せてやる……」
上衣に袖を通し始めていた蓮は、嘉島に目を向けた瞬間、ぴたりと手を止めた。
相手の雰囲気があまりにも冷たすぎて怯え、微かに身体を震わせるが、嘉島は気にした素振りも見せない。
今の嘉島には菅田を苦しめることしか頭に無く……蓮を気遣う余裕すら、皆無に等しかった。
蓮を助手席に乗せた嘉島は、菅田の身柄を留置した場所へ向けて車を走らせていた。
早く菅田を痛めつけてやりたいと思うが、蓮を乗せていては雑な運転は出来ず、逸る気を抑えて一定の速度を保ち続ける。
緩やかなカーブを曲がり、山道に入り出すと、蓮は重い瞼を何度か瞬かせた。
嘉島に抱かれた後、疲れ切って熟睡していた所を起こされたのだから、眠気は強く残っている。
普段なら熟睡中の自分を無理に起こす事などしない嘉島の行動に、少し、戸惑いすら覚えていた。
窺うように運転席へ目を向けると、口元を緩めながらハンドルを握っている嘉島の姿が、視界に入る。
明らかに上機嫌な嘉島のその様子に、眠気すら薄れるほど、驚いた。
いつもは無表情か不機嫌な顔をしているかの、どちらかだと云うのに……よほど、いい事が有ったのだろうか。
半ば物珍しげに、蓮は嘉島を観察しだす。
鼻梁の高い精悍な顔立ちは全く隙が無く、切れ長の双眸は鋭さを滲ませ、全身に険悪で野性的な雰囲気を纏っている。
口元を引き締め直すこともせず、正面を向いたままの横顔は魅力的で、相手には一生困らなさそうなほど格好がいいと、蓮は心から思う。
暫く観察していたが、口元を緩めている嘉島の表情を見ていると、徐々に気は落ち始めてゆく。
……こんな顔をさせるなんて、僕には出来無いことだ。
蓮は目を伏せ、きつく歯を咬む。
一番好きなひとには、笑っていて欲しい。
そして、そうさせるのは、いつも自分でありたい。
そんな願いを抱いてしまう自分を、浅ましく感じ、嘉島を喜ばすことが出来るものに、羨望すら抱く。
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